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6 最強生物ですよ



 ぷくぷくで。

 むっちりで。

 どっしり。



「つまりオルーは、今現在ころころしている状態なんですね」

「言葉を選ぶな。肥満体だ」


 グイドが容赦なく切り込む。


「ひまん……」


 ラウルは柔らかな敷物の上にころりと寝転がり心地良さそうに眠っているオルビーィスを、涙目で見つめた。


「でも、オルーのお母さんも、オルーが食べてるの見るのが幸せだって」


 グイドは何か言いたげに鋭い目を剥いたが、それを飲み込んだ。

 次に開いた口から出たのは、おそらく心の中で整理された言葉だ。


「この先、この体型できりふり山で生活していくのは危険が大きい。お前もあの旅で知っただろう。密猟者共も油断がならねえが、あの辺りには竜の巣さえ襲う魔獣もいる」


 オルビーィスがきりふり山の山頂から卵ごと麓へ転がり落ちた原因だ。

 あの時は母竜が魔獣の巣を一掃したが、そうした類の魔獣があれらだけではないだろうとは、ラウルにも容易に想像がついた。


 きりふり山もくらがり森も、ラウルが把握している範囲など地図上のほんの僅かな一部も一部だ。

 きりふり山を含むミストラ山脈は東へ、くらがり森は北へ、それぞれ果てが無いと思えるほど深く、人の踏破を拒む地。

 広大なその地に棲むものが何か、全容を知ることなどできない。


「痩せさせろ」


 床にあぐらをかき向かい合っていたグイドは、鋭い目でラウルをまっすぐ見た。


「このままじゃ動きが抑制されて最悪捕食されかねないし、いいとこ飛べなくなるぞ」

「まさかぁー、そんなことー」


 ラウルは両手を胸の前で交差させるように振った。


 竜ですよ?

 最強生物ですよ?

 生物的にとてもカッコいいんですよ?

 オルビーィスはいずれ伝説の竜になる子ですし?


「竜に幻想を抱きすぎだ」


 グイドさん、心を読んでますか?

 さすが狩人。


「顔に全部出てる」

「ハイ……」


 全く、と心の底からの一言を漏らし、グイドは立ち上がった。

 玄関扉の脇に立てかけていた白木の弓と矢筒を手に取り、一度それを複雑そうに見つめてから肩にかける。


「白竜にも伝えておけよ」

「えっ」


 グイドの鋭い双眸が、じろりとラウルへ落とされる。


「たまに来てるんだろう」

「エッ」


 どうして分かるのだろう。

 一言も言っていないのに。


 グイドはハァ、と息を吐いた。

 無茶苦茶呆れられている。


「まあいい。とにかく手っ取り早く痩せるなら、食料を持たず自給自足で数日森を歩いて強制的に身体を動かしゃいいが」

「ええ……倒れちゃいそうです……」

「なら俺の狩りにでも同行するか?」

「いえ! ご迷惑かけるので!」

「だったらまたきりふり山を登るか」

「二度としないと誓ってます!」


「――」


 あっ。

 何となく考えていることが読める目をしている。


 それもつかの間のことで、グイドは鋭い印象の面にふっと苦笑を浮かべた。


「まあ俺も何か考えておく」


 また来る、と言って、グイドは小屋を後にした。






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