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10 ゆらぎ(その2)


 霧が、そこだけ避けるように薄くなっていた。

 蛇怪の痕跡を追っていたラウル達は、視線の先に気付いて足を止めた。


「いた――」


 蹲る蛇の黒黒とした影。

 手にした剣を構え、ラウルは慎重に一歩、踏み出した。


「待て」


 グイドが制止する。

 同時に気がついた。


 蹲る蛇怪の前に誰か立っている。霧が身を取り巻いている。

 女だ。


 蛇怪の仲間かと思わず身を固くしたラウル達の目の前で、女は右手に掴んだ大剣を軽々と持ち上げ、振り下ろした。余りに自然で、何事もない仕草で。

 蛇怪が蹲ったまま、脳天から縦に断たれる。


 跳ねた尾がすぐに力を失い、蛇怪の身体は真っ二つに分かれ、血を撒き散らしながら地面に崩れた。


「な――」


 今、何が起きたのか。

 目にしたことが咄嗟には理解し難く、呆然としたままその動作を見つめていたラウルは、女の手にしている大剣に気付いて目を見開いた。


(え――)


 鉄の塊のようなそれ。


(あんなものを、持ち上げ――)


 ラウルは更に目を剥いた。


「えっ、あれ」

「シュディアール!」


 セレスティの反応が早かった。

 剣を鞘に納めたかと思うと女へと駆け寄る。

 女はいきなり駆け寄ってきたセレスティにも少し離れたところにいるラウル達にも、驚いた様子がない。


「失礼ながら――貴殿がお持ちのその剣は、ラウル殿が打った、シュディアールではありませんか」


 ずいと踏み込んだセレスティへ女が首を傾げる。


「剣に名前があるのかい? 知らなかったねぇ。ただ彼が打ったという剣には違いない。ちょいと使わせてもらってるよ」


 そう言いながらラウルへと微笑む。


「勝手に持ち出して、怒ってるかい?」

「い、いえ――」


 怒るも何も。

 いや、怒るという段階ではなく。

 いやいや、何でシュディアールを打った『ラウル』が自分だとわかったのか。


(……あ、怪しすぎる……)


 怪しさ満載だ。

 こんな山の中に、宮廷にでもいるような場違い感ありありの衣装を纏い、片手で軽々と、セレスティさえ持ち上げられなかったシュディアールを操る。

 絶対人間じゃない。


 と、見交わしたラウル達六人の目は、互いに同じ心の声があるのを確認した。


(怪しいー)


「いえ――ええと」


 ラウルは一つ、咳払いして女を改めて観察した。

 銀髪、銀の瞳が美しい。よく見れば瞳に青い虹彩が踊っている。

 上品でたおやかな女性だ。


 見れば見るほど――怪しい。


「ラウル、知り合いなの?」

「ううん」


 リズリーアの問いに首を振る。


「ああ、違うよ。会ったことはないよねぇ」


 女は平然と言ってのける。


(怪しいー)

(怪しいー)

(怪しいー)


 心の大合唱が止まらない。


「まあそう、紹介されたのさ」

「ボ、ボードガード親方から?」

「おい、そこは名前を出さず誰からと聞き返せよ」


 グイドに突っ込まれる。


「あっ」


 迂闊だった。


「そう、そのボートカァトさ」


 女は柔らかく微笑んだ。


 女の微笑みには蛇怪のような悍ましさは欠片も無く、はんなりと美しく――

 だが、恐い。

 どこがどうとは上手く言えないが。


 ともかく、女が適当過ぎてグイドも突っ込む気を失ったようだ。


「オルー、待って、危ないよ」


 リズリーアがラウルの横から手を伸ばす。

 何事かと振り返れば、オルビーィスはふわふわと女に近寄るところだった。


「オル……」


 オルビーィスは女の肩に、ストンと降りた。


(えっ)


 これには、心底驚いた。

 ラウル以外誰の肩にも――いや、食事を用意するセレスティは別だが――降りないオルビーィスが。


 オルビーィスは女の顔を不思議そうに覗き込み、女は瞳を細めて微笑み返した。


「可愛らしいねぇ」


 すぐに女の肩から離れ、オルビーィスはラウルの肩に降りた。

 ラウルに甘えるように首を擦りつける。


「ええと」


 何だろう。

 オルビーィスが竜だと、そんな説明をわざわざこの女にする必要はないと思うし女を警戒すべきだが、別の意味で『必要ない』と、そんなふうに思える。


 何故だか――これも上手く言えないが。


「あ、あの、色々後回しになってましたが」


 ラウルはまとまり切らない状況をまとめようと、女へと改めて向かい合った。


「その、蛇怪――を、倒し?て、いただき、ありがとうございます」





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