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11 出発(その2)


 リズリーアは急に顔を引き攣らせ、背筋を張った。


「ほ、ほ、本当だよ!」

「リズちゃあん……」


 ヴィルリーアがおろおろとリズリーアを見る。


「直接かな?」

「そそそ、そうだけどっ?」

「嘘だろ」


 グレスコーが横からずばりと放り込む。


「どっ、どどどっ、どうしてっ、うっううっ嘘とかっ」

「リズちゃあん……」


 ヴィルリーアはリズリーアにしがみついた。


(この双子、まるで嘘がつけないな……)


 微笑ましさを覚える。


「そりゃ、アーセンの奴がこの件を子供に依頼する訳ねえからなぁ」

「あたしたち子供じゃないもん!」

「子供だし、法術士としちゃ駆け出しだ」


 グレスコーは背を反らし、腕を組んだ。

 良く日焼けした肌と頬の傷が言葉の説得力を増している。


「イル・ノーのクリスタリア・トルム法術士は面識はねぇが、俺も名前は聞いてる。法術は王都仕込みだってことだから腕は確かだろう」

「そうなの!」


 状況を忘れ、リズリーアは飛び上がらんばかりに顔を跳ね上げた。嬉しさが満面に弾けている。


「母様の法術、すごいんだから」

「アーセンがこの件で依頼するなら、クリスタリア・トルム自身だろう。なんせ目的は竜だ」


 きりふり山のあるじ――まだ主がオルビーィスの親だと決まったわけではないが、竜である可能性は非常に高い。


 リズリーアは恨みがましい上目遣いになった。


「な……何、今さら、連れてかないとか言う? 昨日、みんなであんなに盛り上がったのにっ」

「リズ、ヴィリ」

「裏切り者ー!」

「リズ」


 と、ラウルはゆっくり呼んだ。


「竜がいるんだよ。オルビーィスの親だ、確実にいる」

「――知ってて来たよ」


 ラウルは微笑んだ。

 竜がいることは知っていても、竜そのものは知らないのだ。

 竜舎の者達であっても、見たことがある者は殆どいないという。


「――でも、法術士が必要なんでしょっ?」

「うん。必要だよ。だから今からでも、母君に」

「母様王都で学会だもん!」


 しーん。


「あと半月、帰ってこないから!」

「です……」


 ヴィルリーアが隣でコクコク頷いている。


「学会」

「ということは」


 セレスティがグレスコーとラウルを見る。


「高位の法術士は、いずれの方も軒並み王都ということですね、おそらく」

『ひよっ子しかいねぇってことだな、わははー』


 ヴァースが盛大に笑う。


「また君は。リズもヴィリも、君より年上だろ?」

『おれ様は形成されて三千万年だー!』

「えっ」


 全員の顔がヴァースへ向いた。

 三千万年。


『敬えー。崇めろー。奉れー』


「――頭がついてかなかったわ」


 グレスコーが視線を反らし、セレスティも頷いた。


「もはや何と言えばいいか……」

『敬えー。崇めろー。奉れー』

「すごい、父様が目の色変えそう」

「うん」


 双子は素直に目を輝かせている。

 ラウルはヴァースから視線を反らした。

 内心、そこまでの年月の重みが今こんな剽軽ひょうきんな結果になっていることにちょっと責任感じるな、などと思いつつ。


 双子へ視線を戻す。


「……その父君は、今」

「学会!」


 また学会ぃい……。


「王都――?」

「ううん。その近くの都市。北の公爵様が主催する学会に行ったの」


 ほぼ王都と同じだ。遠い。


 ラウルとセレスティとグレスコーは、また瞳を見交わした。

 セレスティが背筋を伸ばす。


「ラウル。貴方が二人を心配する気持ちは私も分かりもます。一方で彼らの気持ちも、私は分かります」


 五年前の戦いに何も貢献できなかった、とそう話した時のセレスティは、心の底から悔しそうだった。


「十六歳はもう、子供だと周囲が管理する年齢ではありません。自身で考え、行動し、様々な経験を積み重ねていく歳です。初めに彼らと約束したように、危険になりそうだと判断したら、その時点で戻ってもらうので良いでしょう」


 ラウルはセレスティを――彼の手が剣を振り続けて厚みを増している様を見た。

 もう一度、リズリーアとヴィルリーアを見つめる。


 二人の目は真剣そのものだ。ヴィルリーアは逃しそうになる視線を懸命に堪えてはいるが。


「――そう、ですね」

「置いてかれたって絶対、付いてくもん!」

「だよねぇ」


 こっそりついて来られる方が危ない。

 グレスコーを見たが、特に止める様子もない。

 セレスティは自分の胸に手を置いた。


「私が盾になりますし」

「そんな機会滅多にないし!」


 リズリーアが前のめりに拳を握る。


「ちゃんとあたし達が、法術でみんなを助けるから」


 ヴィルリーアと二人立ち上がり、お互いの右手と左手をぎゅっと繋ぐと、ラウルとセレスティとグレスコーを一人一人見つめた。


「あたしたち、旅の仲間なんでしょ?」

「まあそうだな」とグレスコーが言い、セレスティは「盾は任せてください」と言った。


 ラウルも立ち上がり、卓の上へ右手を差し出した。


「うん。よろしくお願いします」


 セレスティが手を重ね、リズリーアとヴィルリーアもその上に手を置く。


(おお)


 何か、ちょっとした物語のようだ。


「おじさん、おじさんも! ほら!」


 リズリーアはまだ加わっていないグレスコーを急かした。


「若いなぁ。小っ恥ずかしいんだよ、この歳になると」


 それでもリズリーアに目力一杯に促され、グレスコーも渋々と立ち上がり右手を重ねる。


「旅の成功を願って」


 セレスティが最初の一言を発する。


「みんなでがんばろー!」

「せ、成功させましょう……」

「気を抜くと大怪我するからな」

『おれ様とオルーがいるからよー、大船に乗ったつもりでいろよー』

「ぴい!」


 一巡した。

 手にかかる重みと手のひらの熱。

 ラウルはやや気恥ずかしく、そしてやや、気負いつつ、集まってくれた四人を見回した。


「一刻後。きりふり山に出発しましょう」






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