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  四人目/狩人、そして案内人(その2)


「セレスティ・ヨハン・バルシュミーデと申します。私の出身である北ゴースはここからかなり離れておりますので、お名前は寡聞ながら初めてお聞きしましたが、ラウルの反応を見るだけで、優れた技能をお持ちなのだろうと分かります。とても心強い」

「グイド・グレスコーだ。よろしく。アーセンから戦士が加わると聞いていたがあんたか。名前からするとどこぞの貴族の出か?」


 グレスコーも細かい傷が刻まれた手でセレスティと握手を交わした。

 大柄のセレスティと小柄なグイドは頭半分ほど身長差があるが、その差など感じさせない存在感がグレスコーにはあった。


「南方の、フェン・ロー地方のごく小規模な貧乏貴族です。私は四男で、爵位とは無縁で」

「なるほどね」


 グレスコーはセレスティと握手したまま手を持ち上げ、「手のひらが分厚いな」と笑った。


「剣の鍛錬を欠かしてないのがわかる。あんたに前衛を任せることになるな、頼んだぜ。どうやら戦闘力は俺とあんたと、二人か」

「はい。全力を尽くします」

「あとは法術士ってのがどの程度かだな」

「はい!」


 リズが立ち上がり、手を上げた。


「法術士! 私たち!」

「はぁ?」


 グレスコーの頬の傷が歪む。

 鋭い目が細くなった。


「子どもがこんなとこに遊びに来てたら危ねぇぞ」

「あたし達子どもじゃないから! もう十六だし。法術士だし、ふたりとも。あたしがリズリーア、リズで、この子はヴィリ」


 と言ってリズがグレスコーの正面にくっつきそうなほど近くに立つ。

 精一杯睨みを聞かせている。


 が、グレスコーはさらりと流し、両腕を組んだ。


「法術士って――アーセンは確か、トルムって法術士に声を」


 ぎくりと、リズが息を呑んだように見えた。


「だ、だからっ、あたし達がそのトルムなんだってば!」

「お前さん達が? しかしなぁ」

「あたしが回復役で、ヴィリが攻撃役なの。ヴィリの法術はけっこう強いんだから!」


 胡散臭そうに眺めたが、視線を一度天井へ流し、グレスコーは肩を竦めた。


「へぇー、まあ、なら期待してるぜ」

「あっ、今鼻で笑ったでしょ、おじさん!」

「んなこたぁねぇが、評価も認めんのも実力見てからだな」

「じゃあ今見せたげる。ヴィリ、風切り!」

「お、落ち着いて、リズちゃん」

「やんなさいよっ」

「屋内でなんてできないよう」


 居間があっという間に賑やかになり、ラウルはヴァースを台所に置いておいて良かったと息を吐いた。


「収拾がつかなくなるしね。あれ? オルビーィスは」


 紹介しなくては、と台所の戸口に視線を向ける。

 ついさっきまで、お昼ご飯を作っていたセレスティの周りをうろうろしていたはずだが、見当たらない。


 つつ、と下に視線を落とすと、オルビーィスが床に伏せ、戸口の木枠から鼻先だけ覗かせるように身を隠していた。


「オルビーィス? どうかした?」


 目が三角になっている。

 しゃがんで、抱え上げようと手を伸ばしたとき、ふっと影が差した。

 振り返り見上げた先に、いつの間にかグレスコーが立っている。


「そいつが、例の」

「あ、はい」


 ラウルの手が捉える前に、オルビーィスは素早く飛び上がって食卓の後ろに隠れてしまった。


「オルー?」

「俺が怖がられてんだな」


 とグレスコーはオルビーィスに向かって両手を広げて見せた。


「そら、弓は無い。お前に射かけたりもしない。な?」

「狩人って分かるんですかね」

「まあ、俺も身に染み付いてるもんがあるんだろう」

「竜も?」


 これまで狩ったものに、と恐る恐る尋ねると、グレスコーは無いんだが、と言ってから頬の傷を歪めて豪快に笑った。


「狩ってみてぇなぁ!」

「ぴー!」


 オルビーィスは水場の足元にあった野菜の木箱の中に、頭から突っ込んだ。長い尻尾が丸見えだが。

 がたがたがたがた。


「オルー! 大丈夫、大丈夫だから! グレスコーさん!」

「おっと、すまんすまん。つい本音が」

「この子は! この子は絶対に駄目ですからね?!」

「冗談だって」


 本音って言った……。


 じと、とラウルは複雑な目付きをグレスコーに向けつつ、オルビーィスを抱き上げて落ち着くよう長い首を撫でた。







 グレスコーが色々と必要なものや注意すべきことを教えてくれたおかげで、きりふり山登頂準備はあっという間に整った。

 彼が来て二日目の夜、出発をいよいよ翌日朝と決め、ラウル達五人は暖かな部屋での食事を終えた。


 きりふり山から戻ってくるまで数日――数日で済むと期待しているが――、暖炉とも寝具とも、たっぷりの食事ともお別れだ。


 食卓を片付け、暖炉のある居間へと移る。

 セレスティ、リズリーアとヴィルリーア、グレスコー、それぞれが明日出発の準備に余念がない。


 ラウルはヴァースを椅子に立て掛けて置き、オルビーィスを手招いて、彼等の輪の間に背筋を伸ばして座った。

 セレスティが鎧を点検する手を止め、ラウルへと顔を上げる。


「ええと」


 弓の弦に松脂を刷り込んでいたグレスコーも、熱心に法術書を読んでいたリズリーアとヴィルリーアも顔を上げた。


「少しいいでしょうか」


 一つ、出発前に話しておきたいことがラウルにはあった。

 ラウル・オーランドという人間の過去についてだ。


 キルセン村では当然、イル・ノーの街でも噂程度に、ラウルの話を耳にする機会はあっただろう。

 きりふり山への登頂という危険なことに手を貸してくれる四人には、その噂話についてきちんと説明して、知っておいてもらいたい。


「皆さんには、俺の過去を話しておきます。半分くらい知ってるかもしれませんが」


 そう言って、ラウルは懐かしい想い出を掘り起こすように話し始めた。









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