二人と三人目/ツインズ魔法使いは冒険したい(その3)
セレスティの凛々しい姿と声にリズリーアは頬を輝かせた。
「あたしは、治癒とか。裂傷を治す程度の初歩だけど。あと、泥水の浄化と、眠り寄せ。でも中級治癒を覚えたいんだ。中級なら骨折が治せるようになるから。だから実践の経験が必要なの」
今回の旅で経験を積むんだ、と意気込んでいる。
「治癒系なのですね。素晴らしい」
「えへへ。ほら、次、ヴィリも。ヴィリはね、攻撃系なんだよ」
へえ、とラウルは意外さを覚えた。双子の印象は逆だ。
ヴィルリーアはもじもじと手を組み、俯きがちに口を開いた。
「ぼ、僕は、光の矢とか、えと、その、か、風切り……まだ全然、弱いですけど……」
「だから実践練習が必要なの。ヴィリは特に度胸も」
「でも本番で実践なんて、無理だよう」
「だから前衛がいるとこに参加するんじゃない。前衛に盾になってもらってる間に試すの」
ね! とセレスティへ首を振る。
セレスティは特に気を悪くした様子もなく、にこにこと頷いた。
「お任せを。ヴィルリーア殿は攻撃系ですか」
「う、羽翼系も少し……鎧とか、剣とかを、強化するやつ、です」
右翼系は支援系統の術式だが、ラウルもセレスティもその辺りはあまりわからない。
「強化、それは有難い」
身を乗り出したセレスティに、ヴィルリーアはますます俯いた。
「あ、あの、ほんの少しだけです、ちょっと」
「それでも有難いものです。ラウルの剣が強化されるんですね。早く実戦に用いてみたいものだ」
「ヴィリは雷撃も覚えたいんだよ。ね」
振られてヴィルリーアは椅子の中で身を縮めた。声もだんだんと小さくなり、消え入りそうだ。
「そ、そりゃ夢だけど……雷撃なんて、そんなのまだまだ、ムリ……」
セレスティはますます興味深そうだ。
「雷撃」
と声を弾ませた。
「目にしたことはありませんが、相当の威力なのだと聞いたことがあります。修得に時間がかかりそうですが」
ラウルも詳しくは知らないのだが、セレスティと同じ感想だ。
「難しそうだよね。すごいな」
「まだつ、使えないんですぅ」
ヴィルリーアはますます小さくなり、逆にリズリーアが得意げな声を出した。
「そう、術そのものは第四段階――中級の中の術なんだけど、その中で一番威力があるんだ。攻撃系の中でも上位かも」
胸を張る。
「熊とかなら数頭を一撃で倒せるくらい。強いの打てれば竜にだって効くよ。でもまあ、確かにまだまだ修得まで辿り着くのに全然なんだけどね」
リズリーアは勇ましいことを言い過ぎたと思ったのか、照れくさそうに舌を出した。
「でも、あたし達役に立ちそうでしょ?」
セレスティと、それからラウルへ、水色の瞳を向ける。
その色は期待でいっぱいだ。
水色の瞳に弱いのかもしれない、とラウルは心の中で呟いた。
「お父さんとお母さんは承知してるの?」
「と、当然――!」
リズリーアがぐっと拳を握る。
「母さまも父さまも、行ってらっしゃいって見送ってくれたし!」
「俺が危険だと判断したら、君達だけでも引き返してもらうけど、いいかな?」
リズリーアとヴィルリーアが瞳を見交わす。
リズリーアは一度息を吸い、頷いた。
「それは、仕方ないし」
ラウルは頷いた。
「約束だ」
そう言って、四人は改めて握手を交わした。
「これで冒険隊結成だね。心強い。俺がいる分ちょっとへっぽこだけど」
「ラウルは立派ですよ」
「冒険! それすごくいい響き!」
「ぼ、僕、僕もがんばるから」
『おれ様がいるから安心しなー』
戦士と、法術士が二人。と喋る剣。
(ヴァースは俺と行って来いかなー)
これできりふり山への同行者が三人になった。
とは言えセレスティもリズもヴィリも、くらがり森に入ったのは今回が初めてのようだ。
贅沢を言えばあと二人――後衛にもう一人と、森の中に詳しい人物が欲しい。
二人は無理でもせめて一人。
何と言ってもラウル自身がへっぽこだ。
(ボードガード親方に、もう一度心当たりの人がいないか聞いてみよう)
こちらから頼みに行ってもいい。
リズリーアとヴィルリーアを見回し、
「君達にあとひとり、旅の仲間を紹介するよ」
そう言って、ラウルは寝室の扉に声をかけた。
「オルビーィス! こっちにおいで」
ぴい、と返事が返り、開いたままの扉から真っ白な小さい竜がふわふわと、居間へと飛んでくる。
リズリーアもヴィルリーアもその場に固まったように立ち、白い子竜を穴が開くほど見つめている。
オルビーィスはラウルの肩にちょこんと降りた。
青い瞳がぱちりと瞬き、新しくやってきた双子を見つめる。
「この子はオルビーィス。つい最近きりよせ川の岸辺で、卵を拾ったんだ。今回、この子を巣に返すためにきりふり山に登りたい」
「ぴい!」
"ここにいる!"
「オルー」
今のうちから言い聞かせておかなくては、とラウルは肩の子竜へ首をめぐらせた。
「――か、かわいいっ!!!」
弾んだ声が上がる。
リズリーアが瞳を輝かせ、ラウルに――ラウルの肩のオルビーィスに詰め寄った。
「かわいいきれいかわいいかわいい!」




