二人と三人目/ツインズ魔法使いは冒険したい(その2)
「改めて、ラウル・オーランドと言います」
セレスティの時と同じく、ラウルは法術士と名乗った二人を招き入れ、暖炉の前の席を勧めた。
「あたしはリズリーア・トルム。この子はヴィルリーア。ヴィリって呼んでる。二人とも十六歳。見たとおり双子だよ」
言うとおり、二人の顔の造りはそっくりだった。
身長は二人とも五尺と少し。小造りで繊細な顔立ちに柔和な眉も同じだ。
柔らかな黒髪をリズリーアは耳元ですっぱりと切り、ヴィルリーアは首まで伸ばして両側の髪を後ろで括っていて、それが二人の印象を変えていた。
水色の瞳が何より、意識を捉える。
素直な気持ちを言えば、滅多に見ないくらい美しい少女達でラウルは密かに緊張している。
「住んでるところはイル・ノー。父さまが学者で母さまが法術士なんだ。だから法術の腕は信頼してもらっていいと思う」
「リズちゃん、僕は自信ないよ……母さまに」
「ヴィリは黙っててっ」
『よー! おれ様
「最初に言っておくけど、この剣喋るんだ」
ヴァースの機先を制し、ラウルは傍らに置いた剣を指差すときっぱりと言い切った。
「え?」
「ど、どれ……」
と『この剣』を探してリズリーアとヴィルリーアの目がさ迷う。
「この剣ね、この剣」
ラウルの指さす先。
「ええー! 何それ、嘘ぉ!」
「じょ、冗談ですよね……」
二人が瞳を見開き、椅子の上で恐々と身を乗り出した。
「冗談なんかじゃないよ。この剣は冗談ばっかり言ってるけどねー」
とにこにこし、ラウルはヴァースを持ち上げた。
「ほら、ヴァース、ご挨拶して」
『……おれ様はヴァース。ご主人の打った、ええと』
(戸惑ってる戸惑ってる)
にやり。
先手必勝だ。
「ほら、ね? まあちょっと他の剣と違うだけだから、気にしないで。仲良くしてやってね」
最初から説明してしまった方が何かと楽なのだ。
二人は瞳も口も丸く開いたまま、互いに顔を見合わせた。
「法術……? ヴィリ、知ってる?」
「え、え、聞いたことない、けど……」
『ちぇー』
ヴァースは唇を尖らせたように呟き、と思ったらラウルの腕は独りでに動いて高くヴァースを掲げた。
『よーく聞けガキどもー! おれ様はヴァース! ご主人の打った名剣宝剣国宝剣だー! よろしくなー!』
めげないな。
そもそもこの子達も、君より年上だけどね。
「へぇえ……」
双子は口をあんぐり開けて見つめていたが、リズの二つの瞳が宝物を見つけたかのようにきらりと輝いた。
ぴょん、と子うさぎのように身を跳ねる。
「すごーい! 喋る剣だなんて、初めて見た! どんな術使ってるの? あっ、改めてあたし、リズリーア・トルム。リズって呼んでね。今十六歳。よろしくね! ヴァースさん」
『よろしくなー』
「よ、よろしくです。僕はヴィリです」
『よろしくなー』
「でもきっと絶対、あたし達の母さまならその法術知ってるし」
『法術じゃないしー』
「ええ、嘘ぉ。法術以外ないと思うし」
『違うしー』
「嘘ぉ。法術だし。母さまに聞いたらすぐわかるもんっ」
「リ、リズちゃん、失礼だよ……」
リズリーアは勝気でどうやら少しせっかちで、ヴィルリーアの方は引っ込み思案のようだ。
妹のアデラードと印象が重なるところもあり、ラウルは微笑ましくなった。
(アデラードに紹介したいな。年齢ならエーリックと同じだけど)
二人に。
とは言えこのままヴァースとのやりとりになってしまいそうなので、ラウルは話を戻した。
「それで、君たちの用件は?」
きりふり山とか何とか言っていたけれど。
寝起きだったから聞き間違いかもしれない、と思ったが、リズリーアは得意げに顔を持ち上げた。
「ボードガードさんから貴方が助っ人を探してるって聞いたんだ。きりふり山に登るんでしょ? 二人じゃムリ。だからあたしたちが協力してあげる!」
「僕は、そんな、自信ないし……」
「ボードガード親方が」
オルビーィスはまだ寝室だ。ラウルは寝室のある壁へちらりと視線を向けた。
ボードガードが、特に今回のことを滅多な相手に話すとは思えない。
ボードガードの紹介ならば、この子達は年齢と見た目に反して、かなりの法術の技術を持っているのかもしれない。
「じゃあ本当に、きりふり山へ一緒に行こうと思ってるんだね?」
「そう、当然。だから来たんだもん」
胸を張る。
リズリーアの黒い外套――法衣は幅広の襟が肩をぐるりと巻いていて、黄色混じりの白い糸で蔓草と花弁の刺繍が施されている。
首元に縫い取られた太陽の意匠が目を引いた。
ヴィルリーアの白い法衣には灰色混じりの濃紺の糸で同じ刺繍が施され、首元の刺繍は月だ。
「さ。早いとこきりふり山へ向けて出発しよ。今日出るんでしょ?」
せっかちな様子にラウルは微笑んだ。
「いやいや、まだ無理だよ」
「何で?」
「何でって、食料とか武器とか防寒具とか色々と準備しなきゃ。君たち、たとえば装備は何を持ってるの?」
「この杖」
再び、とん、と杖を立てる。しゃらり。
長さは五尺四寸(162cm)ほど、艶やかに磨かれた木は山桜だろうか。ほんのりと赤みがかっている。
先端が輪っか状になっていて、そこに小さな鈴が三つ、ついていた。リズリーアは金色、ヴィルリーアは銀色。
「失礼――」
それまでただ話を聞いていたセレスティが、改めて名乗ると、二人へと問いかけた。
「お二人は法術士とのことですが、どのような法術を用いられるのですか」