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4 二人と三人目/ツインズ魔法使いは冒険したい(その1)

 

 セレスティが来て四日目の、早朝のことだった。

 地面から濃厚な霧が樹々の間に白く立ち込め、五月に入ったとはいえ朝の森は陽射しが差し込まず、まだ肌寒い。


 家の外が騒がしかった。

 夢現ゆめうつつに、声が途切れ途切れに聞こえている。

 誰だろう。



 ――呼んでる。

 誰だ。



 "ラウル"



 ――父さん



 "ラウル。お前は何をしている。そこで"



 ――父さん。俺は



 "オーランドを、領地を、お前は見捨てるのか?"



 ラウルは首を振った。

 違うよ、父さん。

 そんなつもりじゃない。



 "ラウル"



 ――レイ



 いつもずっと、色んな話をしてきた。

 そのまま、その先もと――



 "何故決闘の場に来なかった"

 "俺を見くびって――軽んじた"



 レイ。レイノルド。


 あの時、俺は





「ラウル」


 はっと目を開ける。

 ラウルは枕から頭を上げ、ほの白く滲んでいる窓を見上げた。


 オルビーィスを見れば、寝台横に置いた籠の中で心地良い寝息を立てている。


「た……もー……」


 また、外で何か声がした。


「なんだ――」


 一瞬警戒したのは先日の密猟者の一件だが、枕元のヴァースは反応していない。

 と、今度は小さいながらもはっきりと、声が聞こえた。


「たーのもー!」


 女性――女の子?

 幼さを残した声だ。


(何で、森に)


「たーのもー!」


 たーのもー?


「――」


「たーのもー!」


 ラウルは首を傾げた。


「……頼もう?」


 コンコン、と扉が叩かれる。

 扉を開いて顔を出したのはセレスティだ。

 いつ起きたのか、もう身支度を済ませている。


「ラウル。どうやら貴殿に客人のようです」

「――客――!? ありがとうございます!」


 がばりと跳ね起き、ラウルは寝巻きの上に上着を羽織ると居間を横切った。居間だと声がはっきりと聞こえる。


 若い、声だ。

 とても。

 一人ではない。


「たーのもー!」

「や、やめなよ、リズちゃん、まだ朝早いんだし、め、迷惑だよ」

「だって全然出てこないんだもん! 寒いしお腹減ったし! たーのもー! たーのもー! たーのもーったらーたのもー!」

「リズちゃんってば。怒られるよぅ」

「いいからヴィリも一緒に声出してよ。気付いてもらえないじゃない。ほらぁっ。たーのも」


 がちゃり。

 玄関扉を開け、ラウルはすぐに来客を見つけた。


 戸口前の三段ばかりの階段の下、足元に霧の漂う中、二人、立っている。

 同じ身長、白と黒、色違いの膝丈の外套を纏い、外套の頭巾を目深に被って立っている様子は、昔読んだお伽話の一場面のように感じられた。


 目を引いたのは、二人がそれぞれ手に持っている五尺(約150cm)とちょっとの、彼等の身長よりも少し背の高い杖。


 二人はラウルを見上げた。


「……たーのもー!」

「あ、聞こえてます。えっと、お待たせしました、おはようございます。何かご用ですか?」


 右側にいた、黒い外套が一歩前へ出た。

 と言うか、白い外套の方が黒い外套の背中に隠れたような。


 黒い外套の頭巾を背に落とすと、耳元までで揃えたまっすぐな黒髪が、顔を縁取ってさらりと揺れた。


 ラウルは目を見開いた。

 大きな水色の瞳。あどけなさを残した頬と唇。

 少女――そしてとても綺麗な子だ。


 少女はラウルを見上げて、胸を張った。


「初めまして。あたしはリズ。こっちはヴィリ。法術士。あ、二人ともね。あなたがラウル・オーランドさん?」


 そう、と声に出す前に、リズは更にもう一歩踏み出し、身体の前に右手に持っていた杖をとん、と立てた。

 杖の先端に飾られた鈴がしゃらんと澄んだ音を立てる。


「一緒に、きりふり山に行こうと思って来たの」












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