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  鍛治工房の仲間達を紹介するぜ(その2)

 


 翌日。


 ラウルは朝から緊張していた。

 井戸から汲み上げた冷たい水で顔を洗い、冷えた朝の空気に濡れたままの頬をさらす。

 それから両手で挟むように頬を叩いた。


「――よし」


 心を決めたのだ。

 今ある剣達の中から、セレスティに今日、朝食後、選んでもらう。

 そして旅が終わったら、改めて新しい剣を打とう。


 なるべく寡黙な鋼を選び、実直な、セレスティの人柄に相応しい剣になるよう願いを込めて。

 セレスティはラウルの提案を喜んでくれた。






 という訳で朝食後、ラウルとオルビーィスとセレスティは再び鍛冶小屋に立った。

 昨日は誤魔化してしまったが、全部しっかりと洗いざらい説明するつもりだ。


「どのような特徴を持つ剣なのか、それぞれご説明させて頂きます」


 とまず告げる。

 セレスティは本当に好青年で、昨日も剣達が風変わりなことやオルビーィスのことも、ラウルの話を呆れることなく受け止めてくれていた。


 とは言えこの素っ頓狂な剣達を何の考えもなく紹介したら、ちょっと引かれるかもしれない。


(まずは――)


 やはりヴァースだろう。


「私は素材の声が聞こえる質なんです」


 と言い出したラウルのことも、セレスティは生真面目な面持ちで見つめてくる。


「鋼達が色々と主張をするんですが、それを聞きながら打っているとつい」

『ついじゃねーだろー。おれ様の誕生は必然だー』


「このような剣が打ち上がる訳ですが、いずれもちょっと癖はありますがそれ以外はフツウで、あとは使用方法といいますか」

『ご主人の剣は名剣揃いだぞー。中でもおれ様が一番だけどなー。他の奴らはくせ者ばっかだなー』


「ヴァース。ちょっとだけ静かにしていてくれるかな」


 ややこしい。


「とても興味深い。他の剣がどのようなものか、楽しみですね」


 セレスティは微笑んでいる。


(いい人……)


「では、」


 ともう一度咳払いし、ラウルは次に壁に立てかけた大剣を示した。


「昨日ご覧になったこれは、鋒から柄尻まで六尺(約180cm)ありますが、というのも打っている間ずっと『大きくなりたい』と熱望しておりまして」


 気が付いたら振り回せないほど大きく重い剣になっていました。


「シュディアールといいます」

「鋼鉄という意味ですか。本当に素晴らしい……」


 まだ未練があるのか、セレスティは熱のこもった眼差しで大剣を見つめている。


(何だか男の子みたいだなぁ)


 とラウルは微笑ましくなった。


 が。

 シュディアールを使おうというのは普通に無理なので諦めてもらう。


「えー、次は、打っている間『無骨なのは嫌だ』とずっと言っていた、この剣です。スキアーという名前です」


 とても薄い刃をしているが、打ち上げた時に手を滑らせて足元に落とし、側にあった作業台を真っ二つに絶ってしまったほど鋭い。


「影を切ったら本体を切っちゃった、みたいなー感じでしてー」


 ちょっとカッコ良さげなことを言えただろうか。


「ふうむ、確かに。見るからに切れ味がよさそうです」


 セレスティは感心しきりだ。


(う、嬉しい――)


 弟の苦笑していた顔が思い浮かぶ。


(エーリック、にいちゃん、認められてるぞ――!)


 次の、四本目、行っちゃうかな。

 ふふっ。


「この剣はレペルトゥス。とにかく『普通なのを嫌』がって。まあ何が普通か、俺もちょっともうよくわからないんですが」


 唯一、直剣ではなく『く』の時に曲がった姿をしている。

 切れ味はそれほど特筆すべきところはないが、軽いので投げて使うといい、だろうか。


「副装備にいいかもしれません」

「そうですね。使うには訓練が必要そうですが」

「はい。今回はちょっと無理ですかね。それで、五本目のこの剣は、オリゴロゴスです」


「オリゴロゴス? 珍しい名前ですが、どのような意味が」

「凄い無口らしくて、ヴァースが」

『まんま無口って意味だよー。おれ様がつけてやった!』


 見た目は非常に一般的な片手剣だ。

 そのくせ片手では扱えないほど重い。さすがにシュディアールほどではないが。

 ラウルにもこの剣は一番掴めていない。


「次に、これがフルゴルと言って。光ります」

「光る」

「敵の目眩しにとてもいいです。混戦時とか、すごく」


 実体験です。

 フルゴルがじわじわと光り出した。

 選んで欲しいようだ。


「なるほど。眩しい」


 喜びの気配を感じる。

 セレスティが真剣に聞いてくれているのが心苦しい。

 煌々と光りすぎる前に次に行こう。


「次は、えーと」


 セレスティの視線がその隣の剣に移ると、それはガタガタと身を揺らし始めた。


(おぅ、落ち着けー)


「動いている。この剣もヴァースのように?」

「ではないと思いますが、今までそういうことはないので――」


 持った感じは特に重いとも軽いとも、どちらでもないのだが。


「ええと、彼女は、リトスリトス、です」


 打っている間ずっと『私を見て見て。美人に打って』と言い続けていた。

 ちょっとでも気を抜こうものなら非常に怒られた。


(セレスティのことを好きだと言っているのは、この際黙っておこう)


 まあ本当に見惚れるほど美しい姿形をした剣ではある。


「彼女――この剣は女性なのですね」


 セレスティが腕を組む。


「確かに、とても美しい剣です。惚れ惚れするほどに」


 カタカタ。


(照れてる……)


「ただ私にはやや、細すぎるかもしれません」


 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ


「リトスリトス!」


 ラウルは腕を伸ばしてリトスリトスの柄を押さえた。


「静かにしよう。ねっ?」

「申し訳ない、私が失礼な発言を――」


 心底申し訳なさそうな顔をしているセレスティにラウルは精一杯首を振った。


「いえいえいえ。用途の問題ですから」


 というか、剣に失礼な発言て何なのか。

 言葉に引っかかってガタガタ身をゆする剣とは。

 もう、何というかこう、この小屋の中は一般常識から大きくかけ離れた様相を呈している。


(リトスリトス)


 ガタン!


(さん)


 ガタ。


(とても美人なリトスリトスさん)


 静かになった。


(セレスティに変だと思われないように、静かにね)


 ――

 ――


 ふう。


「ええと。ここにある最後の剣が、こちらです。ヴァースの一つ前に打ちました。ノウム」


 そう言ってラウルは、一番右端の下段に掛けてある剣を示した。


 この剣だけは打っている間、好きに打てばいいと言ってくれた。

 だからか、大き過ぎたりも切れ過ぎたりも光ったりも重過ぎたりもガタガタと揺れたりも、喋ったりもしない。

 ごくごく一般的、村の武具屋に打っていても何の違和感もないだろう。


 ただラウルはもうこの時点で、村に売りにいく気力は失っていた。

 さてこの中で、セレスティに相応しいのは一体どの剣だろう。


(一番無難に使ってもらえるのは――)


 そういえば昨日、セレスティの前で壁から落ちたのがノウムだった。


(主張するなんて、珍しいな。ノウムがいいかな)


 それともオリゴロゴスとか。

 ふと、ラウルは小屋の奥にある扉付きの棚へ目を向けた。


 そこに一振りだけ、師匠である鍛治師の打った剣が収められている。

 最後の一振り。


(あれは)


 ラウルは一つ息を吐いた。

 あの剣は、大切な手本であり指標だ。

 セレスティにとっては一番扱いやすく、切れ味も良く、彼が欲しているものだと思うが。


(申し訳ないけど、俺の打った剣の中から選んでもらって――)


 ちらり、とセレスティを確認する。


(あああ。まだ見てる。大剣(シュディアール)見てる)


 無理ですから。

 さすがに装備して十歩も歩けませんから。

 多分巨人用ですから、彼。


「じっくり。じっくり選んでください、セレスティ。まだ出発には日が要りますからね」


 と言いつつラウルは、じっと大剣(シュディアール)に熱視線を注いでいるセレスティの腕を引いて鍛治小屋を出た。






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