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くらがり森の迷剣(へっぽこ)鍛冶師ときりふり山の伝説の竜になりたい子竜  作者: 雅◆
第1部 第2章 ラウルと小竜 村へ行く
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5 竜は飼えないまつろわない


「剣――?」


 これまたラウルの自分が打つ剣に対する悲しげな説明を聞き終えると、ヴァースをしげしげと眺め、ボードガードは頭の痛そうな声を出した。


「まさかラウル、(くつわ)とかが喋り出したりはしねぇよな?」

「それは、きっと、多分、大丈夫かと……」


 ラウルの胡散臭い細い答えにボードガードは太い首をばしんと叩き、鼻から息を吐いた。


「ふん、まあ、いや、まあ、うん」


 うん。


「なるほどねぇ。まだ打ててねぇとか言っていつまで経っても剣を売らねえと思ってたが、そういうことだったのかよ。お前さんの言った、そのあと十本の剣――やたら光るとか、でか過ぎるとか」


 髭の強面の、焦茶の温もりのある目をラウルに向ける。


「確かに普通の買い手はつかねぇだろうなぁ」

「あ、やっぱり親方でもそう思いますか」


 分かってはいたが、懐の広いボードガードにそう言われると、ちょっと悲しい。


「ま、普通のは、な。それもお前さんの才能だと思やぁいいさ」


 慰めるように笑い、「とにかく」と顔を上げる。


「今の問題は、そのちび竜をどうするかだったな」

「あ、はい」


 そうだった。


「目ぼしいとこできりふり山に登ってみんのが一番だが、あの山に登るのに今日明日すぐにって訳にもいかんだろう。それなりの準備してかなきゃならねぇ」


 何と言っても。

 ボードガードが指折り数える。


 急斜面である。

 岩だらけである。

 山道らしい山道がない。

 中腹は霧が深く方向を見失いやすい。

 谷も多く、霧の中で谷に足を滑らせる可能性がある。

 獣や魔獣が出る可能性が高い。

 一日で行って帰れる場所ではない。

 その為の装備を揃えなければならない。

 素人数人では命が危ない。


「飛竜では」

「連れてきたくねぇ」


 ボードガードはきっぱりと言った。


「竜と飛竜はお友達ってわけじゃねえからな。ちょっとくらいは意思疎通できるかもしんねえが……だいたい、きりふり山の主が竜とも限らねぇ。下手に怪我させんのはごめんだ」


 一頭の飛竜を育てるのにかかる労力と経費は尋常ではない。


「何か、だんだん不可能に思えてきました」


 そこまで、ラウルの為に苦労し命をかけるような話に乗ってくれる人達がいるだろうか。


「まあまあ、俺の方で心当たりに声をかけてやるよ。商売柄伝手(つて)が無くもねぇ」

「親方……」


 じわりと胸が温まり、ラウルはボードガードへ深々と頭を下げた。

 ボードガードがこの村で慕われ頼りにされている理由が身に染みてわかる。


「本当に、有難うございます。ご迷惑をおかけしてすみません」

「何言ってんでぇ、改まって。第一まだ何も終わっちゃねえだろ」


 ボードガードは照れ臭そうに笑うと、籠の横にしゃがみ込み大人しくお座りしている子竜をまた覗き込んだ。


 オルビーィスが伸ばした首を傾げると、強面の髭面が幼い子でも見るように緩む。強面の大男がにこにこしている姿は微笑ましい。


「軍に依頼できりゃいいんだが、あんまいい手じゃねぇしな」

「ですよね……」


 ラウルも籠の傍にしゃがむ。

 ボードガードは顎髭を引っ張りながら頷いた。


「竜は軍にしてみりゃ討伐対象だしなぁ。そもそも今までがなぁ」


 そうなのだ。

 竜と言われて軍がまず考えるのは、五年前、それから何百年も前の、想像を超えた騒乱のことだろう。


 ラウルは人伝(ひとづて)に聞いただけでしかないが、人里近くに竜がいると知り軍がどんな反応をするか分からない。


「まだ、孵化したてだし、そりゃ大食いだし鉤爪もあるけど……身体もまだ小さいし……」


 呟いていると、ボードガードは何に引っかかったのか、「待てよ?」とラウルを見た。


「こいつ、お前さんの話じゃほんの二、三日前に孵化したばっかだよな?」

「俺が拾った時に、孵りました。孵化は本当は、もう少し早かったかもしれないですけど」

「それでも一日程度しか変わらねぇだろう。それでもうこいつは飛べんのか。飛竜も自力で飛べるようになるまでひと月はかかるぞ」


 言われて初めて、ラウルはそのことに思い至った。

 確かに、鳥や獣でも自分である程度のことをできるようになるまで、それなりの日数が必要だ。


「さすがに、孵化して一日で飛べるようになるとか、あまり聞かないですよね」

「竜がそういうもんなのかもしれねぇが」


 成長早いな、と付け加えたボードガードの言葉が今のラウルの悩みに拍車をかける。


「なるべく早く手を整える。それまでお前さん、くれぐれも餌になったりしないように気を付けてくれよ」


『オルーはご主人を喰ったりしねぇよー、なぁオルー!』

「ぴい!」


 オルビーィスは意志を表明しようと首をうんと伸ばした。

 ボードガードの目がすうっと細くなる。


「オルー?」


 ラウルはぎくりと首をすくめた。


『こいつはオルビーィスってんだ、よろしくなー』

「ヴァ、ヴァース!」


 止めたが、後の祭りだ。

 ボードガードがじろりと、ラウルを見据える。


「ラウル――、お前さんまさか、名前なんて付けてないよなぁ……? ん?」

「つ……つ……」


 ボードガードの真剣な眼差しが怖い。

 ラウルは正直に頭を下げた。


「付けました……」





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