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くらがり森の迷剣(へっぽこ)鍛冶師ときりふり山の伝説の竜になりたい子竜  作者: 雅◆
第1部 第2章 ラウルと小竜 村へ行く
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  キルセン村(その2)

 

 レイノルドはラウルを無視することもできるはずだが――ついて来る。

 目が合うと後ろから棘のある声が追いかけてきた。


「ラウルお前、おとといの捕物に関わったらしいじゃないか」

「耳が早いなぁ。まあそうか」


 オーランド子爵はロッソの街の領事でもあり、この辺り一体を管轄している。

 それに一昨日の件で軍が動いていたのは当然竜舎がロッソに申し入れ、ロッソがエル・ノーの駐屯軍に要請したのだろうから、情報は入るはずだ。

 どんな伝わり方だか気になるところだが。


 ラウルは人目につかない小屋の横に回り、レイノルドと向き合った。


「ここでいいか。レイ、それで、何の用かな」

「だから、俺を気安く呼ぶなっていつも言ってる」


 苛立ちを含んだ声が返ってくる。


「偉そうに」


 レイノルドはラウルの一つ下の二十三歳。

 そして、従兄弟だ。


 ラウルの父が生きていた二年前までは仲が良く、しょっちゅう行動を共にしていた。

 ラウルの父の酒量が増えていることを親身になって心配し、悩んでいるラウルのことを励まし助け、エーリックやアデラードとも良く遊んでくれていた。


 ラウルの父が死んだあとすぐ、ほんの少しのことで諍いになり、ラウルはレイノルドから決闘を申し込まれた。

 決闘などだいぶ昔に廃れた制度だが、こうした片田舎の土地ではまだ残っている。

 互いの命と名誉を賭ける、由緒正しい儀式。


 その決闘から、ラウルは逃げた。

 ラウルは指定された時間までに、決闘の場に行かなかったのだ。


 だからラウル・オーランドの名前はオーランド子爵領の中で、著しく不名誉なものとして広がっている。


「おとといのことを聞きに来た」

「だったら鍛治小屋に来ればいいじゃないか。いつでも歓迎するよ」


 いや、ちょっと今は状況的に歓迎しかねるか。

 突然来なくてよかった。


「ふん、あんな所に行けるか。お前が街に住めばいいだろう」

「それは無理だよ」


 むっとしたのか、レイノルドは口を尖らせたやや子供じみた顔つきになった。

 もう二十三なのになあと可笑しくなる。昔からそうだった。ラウルよりほんの少し、いやまあそこそこ、子ども――


 でももしかして今も昔通りだったら、今回のことをレイノルドに相談できたかもしれない。


(まあ昔どおりだったら、ヴァースも、オルビーィスもいないんだけど)


「隊長のヘインズから聞いた。お前が密猟者と争ってたとか、妙な光だとか、他にも人が――お前の仲間かなんかがいたんじゃないかとか、そんなことを言ってたが」


 内心ギョッとしつつ、ラウルはしれっと首を傾げてみせた。


「他にって、そんなのいないし、争う以前のやばい状況だったよ。俺が剣はからっきしなの知ってるだろ。レイとは違う。軍が来てくれてほんと助かった」


 レイノルドは憎々しげにラウルを睨んだ。

 まるでレイノルドの方こそ親の仇でも見るようだ。


「俺は、目立つことはするなと言いに来たんだ。お前は森の中の小屋に引っ込んで、身を縮めて暮らしてればいいんだからな!」

「ぴぃ!」


 ラウルの背中から、やや憤った声が上がった。

 レイノルドが眉を寄せ、きょろきょろと辺りを見回す。


「何だ、今の声」

「と、鳥じゃないかな」


 ラウルは微笑んだ。


「お前の背――」

「これは納めに来た(くつわ)とか、(あぶみ)だよ!」

「何か隠して――」

「無いって。もういいだろう、レイノルド・オーランド」


 その言い方にレイノルドはまたむっと眉を寄せた。


「俺の」

「貴方にお願いしたい。あまり弟達に、不安な思いをさせないでやってくれないか。何かあったら俺に直接、言ってほしい」

「――」


 レイノルドはしばらくラウルを睨んでいたが、ややあって首をフイと巡らせ、ラウルに背を向けて大股に歩き出した。


「――」


 ラウルはその背中を見送って、息を吐いた。


「とりあえず」

「兄さん、それ」


 ふいにかかったエーリックの声に、ラウルは驚いて振り向いた。

 エーリックが一間後ろくらいに立っている。


「エッ、エーリック! いつの間に」

「それ、どうしたの」


 エーリックが指差しているのはラウルの背中だ。背負い籠の蓋からはみ出す、白い尾。

 ふりふり。


「うわ!」


 蓋を開けて見上げた青い双眸に「ダメだよ」と言い聞かせ、ラウルは尾をしまい込んでからエーリックに向き直った。


 エーリックの不審そうな目が痛い。


「兄さん……それ、飛竜? じゃないよね?」


 白いし、と鋭いことを言う。


「いっ、やっ、これは、ちょっと、そう、わ、訳があってね」


 エーリックは繊細な眉をすうっと寄せた。


「兄さん、大丈夫なの? レイ従兄(にい)さんから密猟者の騒動に巻き込まれたって聞いて、本当にびっくりしたんだ」


 余計なことを話すなと言うのに。

 釘を刺すのが遅かった。


「今日村に来たのはどうして? 危険なことに巻き込まれてるんじゃないよね? ただでさえ離れて一人で暮らしてて、心配なんだから」

「大丈夫だよ、エーリック。心配なのは俺の懐くらいだ」


 エーリックの眉根は寄ったままだ。


「いや、だから、ちょっとした訳があるんだけど、だから竜舎に相談に来たんだよ。巣に返そうと思って」

「――」


 じいい。


 真っ直ぐな目がラウルの言い訳をどう受け止めようかと考えている。

 エーリックはそんなふうに大人びている。


 ややあって、エーリックは軽く息を一つ、吐いた。


「わかったよ。説明できるようになったらちゃんと説明して」

「ごめん。――あのさ、母さんには」

「僕は何も言わないよ。でも今日、この後会いにいくんでしょう」


 行きなよね、と。


 なんかもう、今日は顔を出すのをやめておこうかと思っていたところを釘を刺された。これではどっちが年上だかわからない。


「うん……」





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