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くらがり森の迷剣(へっぽこ)鍛冶師ときりふり山の伝説の竜になりたい子竜  作者: 雅◆
第1部 第2章 ラウルと小竜 村へ行く
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2 キルセン村(その1)


 キルセン村は小規模村落に分類される。

 丸太を組んだだけの簡素な囲いで一周ぐるりと囲んだ村には、二百人ばかりが暮らしていた。


 村人達の生業は三分の二は農家で、ほかに服や雑貨、道具類、小料理屋などのちょっとした店を構えている家と、宿。

 この村は宿の数が近隣の同規模の村より多かった。

 竜舎があるからだ。


 その竜舎は村の外れ、くらがり森側にほぼ円形に作られた村からやや突き出すように位置していた。

 竜舎の飛竜養育官が十名ほど。彼等は村の名士だ。


 直接竜舎に行きたかったがラウルはまず、弟と妹、母の暮らす家に顔を出すことにした。

 非常に気が重いが。


「エーリックが働いてる店に寄るかな」


 母の様子を聞いておこう。


「あれ、ラウルさんじゃないですか」


 途中声をかけてきたのは顔馴染みで、道具屋の息子のケイといった。

 ラウルの作る道具類を買い取ってくれるありがたい店でもあり、ラウルを見かけると屈託なく挨拶をしてくれる明るい青年だ。


「こんにちは、ケイ。この間は(くわ)を買ってくれて有難う」

「すぐ売れましたよ。また頼むねラウルさん。今日はなんか持って来てくれたんですか?」

「ぜひ仕入れて欲しいけど、手元に何にもなくて。またお願いします」

「こっちこそ、頼んます」


 ケイはにこやかに笑みを返し、通り沿いの道具屋の扉を潜り、店の中に消えた。


「ラウルだって」


 次に届いた声は別にラウルに掛けられたものではない。

 うっかり首を回らせてしまい、ラウルは内心しまった、と思った。こちらはケイのように歓迎してくれる視線ではない。


 くらがり森に暮らすようになってしばらくは、それこそラウルが逃げたことをみんなが知っていて、それに対する軽蔑の眼差しが主だった。『たいそうな家に生まれたのにねぇ』と。

 だが今は。


「ぜんぜんまともな剣を打てないらしいよ」

(うっ)


 ラウルは胸を押さえたくなった。


「立派な工房だけ先代から譲られて。名鍛治師だったってのにねぇ」

「剣が打てなきゃ炉も先代も泣いてるよ」

(ううっ)


「たいして稼げなくて、弟を働かせて」

(うううっ)


 つらい。

 つらいし、エーリックに申し訳なくて心苦しい。

 すいません師匠。

 ごめんなエーリック。兄ちゃんが、兄ちゃんが不甲斐ないばっかりに苦労させて……!


 腰の辺りで気配がす――る予兆を素早く捉え、ラウルは咄嗟に(ヴァース)の柄元を押さえた。


『剣なら打っむぐ』


 そこを押さえると止まるんだと感心しつつ、


「こんにちはー!」


 いい天気ですね、と、村人へ精一杯明るく挨拶をして通り過ぎた。

 通り過ぎてから小声でヴァースを嗜める。


(頼むから、喋んないでくれよ)

『挨拶してないぞー』

(そうじゃなく! 声出すのが森以外ではだめだから!)


 ちぇ、という気配がして、それでもヴァースはおとなしくなった。

 息を吐き、顔を上げ――ラウルははっとして、足を止めた。


 エーリックが働いている貸本屋兼雑貨屋が、あと五十歩ほど先にある。

 店の前にはエーリックが、ラウルに背を向けて立っていた。

 その前に。


「――レイ……」


 背の高い青年だ。エーリックより頭ひとつ分ほど越して、肩まで伸ばした濃い茶金の髪が揺れる。

 整った面はややきつい印象を受けた。


 レイノルド・マリウス・オーランド。

 この一帯の領主であるオーランド子爵の息子だ。


 ラウルの――、一歳下の従兄弟。


「また来てたのか」


 ラウルは一つ息を吐き、唇を引き結んで二人に近付いた。


「レイ」


 さっとレイノルドの顔が上がり、ラウルを見つけて開いた口を、ぐいと閉じた。

 険しい視線がラウルに注がれる。


「レイ、弟に何か用かな。話なら俺が聞くよ」

「――兄さん? 急にどうしたの」


 エーリックが振り返り、ラウルの姿を見て驚きと安堵を昇らせる。

 ラウルはエーリックの横に並び、あともう一本、前に出た。


 レイノルドは苦いものでも噛んだように眉根を寄せ、ラウルを上から下まで眺めた。


「俺のことをそんなふうに気安く呼ぶな、ラウル。逃げた奴が偉そうに」


 毎度のことだと、ラウルはほんの少し首を傾けた。

 事実は事実だ。


「それで、用件は。こんな店の真ん前に立って話をしてたら迷惑だから、場所を移そう。ごめんなエーリック。後で寄るよ」


 レイノルドがいいとも何とも言う前に、ラウルはすたすたと歩き出した。




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