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悪役令嬢、お茶会でヒロインをいじめる

 待ちにまった、クリスティーナ殿下のお茶会──通称『百合は美しく咲き誇る会』の当日。


 王宮の庭園に設けられたお茶会の会場には華やかなドレスを着たご令嬢たちが庭園の花々を愛でる……こともなく、ひたすら一点を見つめながら紅茶をすすっていた。地面より一段高い位置にあるガゼホには予定通り私と、向かいにクリスティーナ殿下、隣にピンク令嬢が着席している。

 この会の趣旨は、麗しのクリスティーナ殿下をオカズにお茶を飲む。ただそれだけ。格調高いものではない。

 しかし、招待状が届いた令嬢は歓喜のあまり気絶するらしい。


 ──貴族令嬢ってよく気絶する。たぶん、コルセット締めすぎて酸欠なんだと思うわ。


 そんなプレミアムなお茶会に初参加したピンク令嬢は……おっと。クリスティーナ殿下を見て魂が抜けてる。わかる、わかるわぁ。クリスティーナ殿下は金髪碧眼で、クズ王子と同じ過剰キラキラエフェクト属性だし、場合によっては大きな花束も背負ってるけど、素敵なのよね。

 今日なんて、レース山盛りブラウス、金地に銀の刺繍入りジャケットとトラウザーズを合わせた男装をなさっているのだけど、それがもう……ため息がこぼれるほど麗しいの。さっきから私の心臓はときめきっぱなし。お茶会に呼ばれたご令嬢も、バッタバッタと気絶している。

 この日のために気付け薬を何本も用意したらしいけど、足りなくなりそうね。



 さてと、王子が来る前に私も悪役令嬢しなきゃ。

 チラッと隣に視線をむけると、ピンク令嬢は口を半分あけた状態でクリスティーナ殿下を凝視している。

 手には中途半端に持ち上げたティーカップ。

 そろりと扇を持った手を伸ばし、軽くピンク令嬢の手を叩いた。


「きゃっ!」


 可愛らしい声とともに落ちるティーカップ。バッシャーンとドレスに飛び散るぬるい紅茶。


「ピンク伯爵令嬢、クリスティーナ殿下をぶしつけに見つめすぎではありませんこと?」


 ここで片眉をクイッと上げて、扇で口元を隠す。うん、リハーサル通り。完ぺきな役作り。


 唖然とするピンク令嬢。

 大爆笑するクリスティーナ殿下。

 動じない侍女侍従。

 クリスティーナ殿下の麗しい爆笑姿にうっとりするご令嬢たち。

 次のセリフを考えてなかった私。


 ──えっと、次どうしよう。え、ええっと?


「これは、いったい……どういうことだ?」


 助かった! クズ王子、ナイス! ナイスタイミングで登場。こんなに王子の登場が嬉しいって思ったのは、はじめて。スポットライトまぶしいけど今日は許す!


「見ての通りですわ。礼儀のなっていないご令嬢に、作法を教えて差し上げているのです」


 得意げにいうと、王子はピンク令嬢と私の顔を見比べる。そのたびにスポットライトがチラチラして、光の残像で目が痛い。もうそろそろスポットライトを切ってくれないかしら……。目を細めてまぶしいアピールすると、光量が落ちてきた。


「な、なんと羨ましい」

「はい?」

「いや、なんと嘆かわしい」


 キラキラエフェクトと、紫の哀愁煙エフェクトが同時に発動する。こんなの初めて見た。エフェクト係も今の王子の心境を掴みかねているのかしら。


「レイチェル、話がある。一緒に来てくれないか。ああ、ピンク伯爵令嬢。先日はハンカチをありがとう。素晴らしい刺繍の腕前だ」


 キランと光る瞳。そのエフェクトいる?


「は、はい! 殿下」


 よゐこのお手本みたいなピンク伯爵令嬢のお返事で、人の発言を遮ってはならないと教えられて育った生粋の貴族令嬢。つまり、私は開いた口をパッと閉じる。

 そんな一瞬の隙をついて、王子が私の生腕を掴み王宮の方へ歩き出した。


 卑怯なっ! あなたたち息がピッタリじゃないっ。

 ぎゃ──!! いや──! なにこれ断罪イベント!?


 振り返ると、侍女がタオルと消毒香水を手にうなずく。良かった。助かる。ありがとう。



 庭園から近い王宮の一室に連れこまれた私は、もういいだろうと、王子の手首を扇でバシンと叩いた。腕を掴んでいた手が離れる。


「ライアン殿下。お話とは?」


 つとめて冷静に言えば、王子はハァハァ息を切らし、頬を赤らめ手首をさすっていた。気持ち悪い。

 追いついた侍女が、慌てて私の腕をタオルで拭いて、念入りに消毒する。優秀な侍女がいてよかった。ボーナス弾むからね!

 遅れて部屋に入った侍女たちが、素早く私の乱れた縦ロールヘアを整え、扇であおいでくれる。完璧なフォーメーション。さすがね。これがプロの仕事。ふぅと息をはいて顔をあげると、王子が無表情でこっちを見てる。え、こわい。


「君は……女性が好き、なのか?」

「は?」


 ──なに言ってんだ、こいつ?


「今までレイチェルは、私以外の人間に、礼儀正しく淑女の手本となるよう優雅に接していた。なのに、なぜ、ピンク伯爵令嬢にそうしない。なぜ執着するのだ」

「執着だなんて誤解です」

「自覚がないのか? 君の目は、まるで獲物をいたぶる猫のように輝いているのに?」


 そう言った王子の目の方が、獲物を狙う猛獣のように鋭いんですけど。あれ、キラキラエフェクトどこにやったの?


「それは、わたしの性格が悪いからでしょう」

「何を言う。君は完璧だ。……なぜ、もっと私をいたぶってくれないのだ」

「はぁ?」


 ──なに言ってんだ、こいつ?


「……っ! いや、違う。今のは──忘れてくれ」


 ……え。


 ……え、なに顔赤くしてるの。


 ……きもい。涙目でチラチラ見るのやめて、かまってちゃんか。鬱陶しい。


 ……それで、私はどうしたらいいの? 帰っていいの? いいよね。

 心のお七が火の見(やぐら)で盛大に鐘を打ちならしてるのよ。カンカンカンカン! 逃げろー火事だー!


「ライアン殿下、要件がそれだけなら帰ってもよろしいでしょうか」

「ああ、屋敷まで送ろう」

「いえ、結構です」

「そうか……残念だ」


 くるりと踵を返して、優雅に最速で退室した。後に続く侍女と侍女と侍女も、ゾロゾロ着いてくる。廊下で待機していた侍女も合流。はいはい、みんな、撤収。撤収よー!


 ──あああああ、全身に鳥肌立ったぁああ。

 それにしても、どうしよう。殿下がピンク令嬢にまったくなびいてくれない。


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