計画犯罪
階段の下で動かなくなった娘は、嘲笑うかのように私の方を見ているようだ―…
頭を下にしてその後頭部からは大量の血が出てるというのに―…
暫くして、物音を聞き付けたお隣さんが訪ねてきた。
玄関のドアを開けるなり、娘の変わり果てた姿と、階段の上で包丁を片手に呆然としてる私を見て、甲高い悲鳴をあげ、また玄関を飛び出して行った。
それから30分としないうちに警察と救急車が到着し、私は連行された―…
*********
私の家族は母だけ。
所謂、母子家庭というやつだ。
でも、唯一の家族である母は親として最悪だ。
私には何の関心を持たず、次から次へと変わる男にしか興味はないのだ。
私がテストで100点取っても、学校で怪我した時も、イジメられてる今だって…。
顔を合わせば、決まって口喧嘩。
母の口癖だっていくつも覚えた位。
私はそんな母も、楽しくも幸せでもないこの世の中も大嫌いだった。
…―だから、母を殺すことを決めた。
私は母が帰宅するのを、包丁片手に2階の自分の部屋で待っていた。
ガチャ。
帰ってきたらしい…
母が階段を上ってくる。
私は包丁を強く握りしめ、階段を降りながら出迎えた。
「うんざりなの…」
母はその言葉で私の存在に気付いた後、片手に握られている包丁を見た。
「…あんた親を殺す気なの?」
「そうよ、どうしても堪えられなくなったのよ!」
私は包丁を構える。
しかし、母は動じない。
「…まったく、なんでこんな親不幸な子を産んじゃったのかしら…」
「こっちから願い下げだったわよ!」
「そうかい、それは悪かったわね。…でも、まだ死ぬわけにはいかないのよ」
「…殺すけどね。私にはもう恐いものなんてないから!」
私は包丁を前に突き出し、母に襲い掛かった。
しかし、それをかわす母。
「気付いてるわよっ!あんたにそんな度胸なんてないくらいっ!!」
かわされても私は向きを変え、また母の方へ向かう。
「つべこべ言わずに死んでよっ!!」
しかし、母は包丁を握っている私の手を掴み、包丁を奪おうとした。
「狂いすぎよっ!自分の母親を殺そうとするなんてっ―…っ!」
その時!!
私の手から包丁が抜け、その反動で態勢を崩した私は後ろ向きで階段から落ちると同時に、大きな物音が響いてゆく―…
…―薄れゆく意識の中、私は母を見て笑った―…
【解説】
この話は娘が母親に殺されたように見せ掛けて、実は娘が母親を殺人犯に仕立てあげたという話でした。
話の前半は母親目線で後半は娘目線です。
娘はイジメも受けていたため、世の中にも嫌気がさし、生きる希望もなくなっていたので、死ぬことも恐くはありませんでした。
そして、憎んでいた母親の人生をめちゃくちゃにするために、この計画殺人を考え、実行に移したのです。ちなみに、ちょっとした遊び要素としてあるメッセージを隠しました。
隠した場所は"会話"です。
この母と娘の会話に注目します。"会話"なので"句読点や間"は考慮せずに、"言葉の音"のみに注目します。
「うんざりなの」
「あんたおやをころすきなの」
「そうよどうしてもたえられなくなったのよ」
「まったくなんでこんなおやふこうなこをうんじゃったのかしら」
「こっちからねがいさげだったわよ」「そうかいそれはわるかったわねでもまだしぬわけにはいかないのよ」
「ころすけどねわたしにはもうこわいものなんてないから」
「きづいてるわよっあんたにそんなどきょうなんてないくらいっ」
「つべこべいわずにしんでよっ」
「くるいすぎよじぶんのははおやをころそうとするなんてっっ」
キーワードは、娘は"頭を下にして"、"死"にました。
つまり、"死=4"番目の文字を"頭を下=下から読む"と、
「うんざり」
「あんたお」
「そうよど」
「まったく」
「こっちか」
「そうかい」
「ころすけ」
「きづいて」
「つべこべ」
「くるいす」
⇒「すべてけいかくどおり」=「全て計画通り」
ここで気になるのは母親の会話も使われているということ。
つまり、娘は母親が話すことさえも予想しており、さらに階段から落ちて死ぬことも予測していたということです。(>母親の口癖も覚える位)
最後に娘が笑ったのは、「計画通り」に事が済みそうだったからでしょう…