経緯
「僕は柊 直人と言います。
はじめましてでいいのかな。」
「そうですね、私は・・・」
言葉が続かない。
看護士が戻ってきた、ナースセンターに報告に行ったのだろう。
「なにかお話できましたか?」
「僕のことは覚えていてくれて、自己紹介をしたのですが・・・」
「私、名前がでてきません。」
沈黙が流れる。
「取り敢えず、お茶を持ってきたので、ゆっくり飲んでくださいね。
血圧を測りますので、しばらく待っていてくださいね。
10分後くらいにきますから、何かあったら呼んでください。
大丈夫ですか?」
あぁ、ここで「大丈夫ですか」なんだ。
僕は看護士の対応に感心しきりだ。
彼女がコクリとうなずくのを確認して、
大きめの紙コップ2つを置き、足早に出ていった。
丸投げって訳でも無いようだけど、
間違いなくボールはこちらにある。
彼女が先に口を開いた
「私はなんで病院にいるんですか?」
そうだ、僕が知っている限りの事を伝えなければならない。
五体満足だし、交通事故だと認識できているのだろうか、
相手がいて、それがタクシーで、電柱にぶつかって停止して、
でも、運転手が死亡しているなんて当然知らないはず。
彼女は気を失ったまま搬送されたのだから。
「交通事故にあって、気を失われて救急車に乗ったんですよ。
僕が引き返して、一緒に乗ってここまで来ました。」
「そうですか」
彼女はゆっくりと起き上がり、両手を膝の上に付きながら、
左手の点滴を軽くうつむいて眺めていた。