そして、また呑む
「すみません、中央警察署の鈴木と申しますが。」
「あ、あ、あの・・・ 姉になにかあったのでしょうか?」
「すみません、あなたのお名前を伺ってよろしいですか、
名字を忘れた20代の女性が、この番号だけ覚えていると言ってまして。」
「それ姉です!1週間近く帰ってこないんです、どうなってるんですか!」
必死な状態で、説明が面倒くさそうだ。
「落ち着いてください、交通事故で入院していますが、意識がなかったため
5日程確認が取れませんでした。なにせ何も持ってなかったので」
ウソつけ、スーツ見とけよ・・・
「私、私、高木ゆうこです、ひらがなの、姉は漢字で優しい子の優子です」
なんて、ややこしいことを。
「あぁ、カードの優子はそう書くんですね、元気ですよ、名前は覚えてるんです」
ばらしちゃったよ・・・
「どっちの病院ですか?会えますか?」
気づかないんかぁい・・・
「中央病院ですよ、私も一緒に行きたいので、都合、合わせていただけますか?」
「今すぐ行きます、駐輪場ありますか?」
「あー、ないんですよねぇ」
僕:「前の公園にありますよ」
「分かりました、今すぐ行きます!」
プチッ!
「あーあ、切っちまいやがった」
「あのう、なんとなくなんですけど、彼女、自転車ぶっ飛ばしてくるような子な気がして
ならないんですが、大丈夫かなぁ・・・」
「なんで?」
「いや運転手さんが見てた自転車の子って、その妹さんじゃないんでしょうか。」
「・・・あぁぁぁ、はい・はい・はい・はい・はい・はい・はい・はい」
「はい」は、1回までといって差し上げたい。
1階で待っていると、20分もかからず妹はやってきたので、
手を降って「おいでおいで」した。
メットもせず、高校生にしか見えない髪型と、姉と同じフレームに跨って・・・
ホイールは鉄下駄で変速系も105だけど・・・
しかもフレームには「puttering」とある。
フレーム逆ぢゃん・・・
「おねぇちゃんに追いつこうと思って車の後ろについてたら、
その車が突然びゅーと先に行って、他の車が入ってきたから避けたんだけど、
おねえちゃんもういなくって。心配で心配で携帯も置いていってるし」
一気に捲し立てた。
「分かった分かった、すぐに車で中央病院まで連れてってあげるから」
「はい、ロード止めてきます!」
あーまぁ、取られても大したことないか・・・
これ以上、絡まないほうが良い気がする・・・
「あのう、僕、帰っても良いのではないでしょうか?」
鈴木さん、しばし考えた後、バツが悪そうに
「そうね、ありがとね、気をつけて帰ってね」
そうそうに、コンビニに寄って晩酌の準備をすることに決定した。
きっと姉はドラフティングはしない子なのだ。
タクシーの運転手に迷惑をかけたわけではないと、
勝手に自分の中で推測したままにして・・・
だって同じ子がワープしてきたら、ビビるよねぇ・・・
しーらないっと。シートベルトは締めましょうねぇ。
そうだよ、夕方だけど、飲んじまえ!
・・・後日、この姉妹が金魚のフンになるのは、いつかどこかで。