氷雪の勇者の失恋
一応胸糞注意かも、です。
「おとなになったらフユくんのおよめさんになる!」
「うん!ぼくもユキちゃんとけっこんしたい!」
在りし日の思い出。
故郷の村の外れにある、二人だけの秘密基地。
子供には、大人と認められるための儀式が15歳となる年のはじめにある。
思えば、その日に僕と彼女の運命は、分かたれてしまっていたのだろう。
一年前のあの時、僕が勇者と認められてしまったその瞬間から―――――
◇ ◇ ◇
世界に魔王が現れたとき、勇者もまた現れ、世界を救う。それがこの世界の決まりだとされている。
皆、一度は勇者を夢見る。しかし成長するにつれて、だんだんと残酷な真実を知って離れてゆく。
勇者の寿命は短い。魔王との決戦で相打ちになることもあれば、かつてのストレスが原因で早死する場合もある。どのみち、誰かを幸せにすることはできても、最愛の人を幸せにはできない。それが勇者だった。
一年前の成人の儀、僕は幼馴染みのユキと教会を訪れた。その時、選ばれてしまった。僕が、勇者に。
僕とユキは、そのまま結婚までするつもりでいた。村の皆も祝ってくれていた。なのに、そんな約束など知らないとばかりに、突き付けられたのは勇者の責務。
その日から、僕とユキは再会していない。
◇ ◇ ◇
半年に及ぶ教会の長い鍛錬を耐え抜き、僕は魔王討伐に向けて動き出した。仲間はいない。魔王に対抗できるのは勇者のみだからだ。
まずは四天王と呼ばれる強力な魔族の討伐からだった。魔王は異界におり、その異界への扉を開くための鍵のパーツを、四天王がそれぞれ一つずつ持っているためだ。
最初に戦ったのは瀑布の四天王カイ。水を操る彼に対して、その動きを制限できるであろう僕の氷の力は有利だという教会の判断だった。
結果として、僕はカイに勝利した。彼は最後にこう遺した。
「その力はあまりに危険だ。加えて、心が未熟な貴様は、脆い。せいぜい狂わんようにするのだな」
と。そして、
「魔王様、お役に立てず申し訳ない・・・先にあの世で待っております・・・」
それは、主君に対する敬愛と懺悔の言葉だった。
旅の途中、何度か色仕掛けをされることもあった。けれど、僕は一度も相手はしなかった。ユキが待ってくれている、その一心で雑念を払って戦いに明け暮れた。
二人目の四天王を討伐するため、僕はかつての思い出が残る故郷を通過することになった。
僕はユキと会いたいがために、そこで一泊するつもりだった。
僕が村を訪れると、皆が勇者の到来を歓迎してくれた。あたかも、僕のことなど知らないかのように。
その時になって気付いた。なぜ、勇者がどこからともなく生まれるのか。
つまり、勇者はそれ以前の関係を忘れられる、ということだった。
せめてそれでも、ユキの顔が一目でも見たかった僕は、日が暮れてからユキの住む家へ向かった。
今も元気にやってくれていればいい。
そんな幻想を胸に抱いて。
ユキは、元気だった。元気に、盛っていた
家の外からでもわかるほど甘い空気と声が漂ってきて、吐き気を催した。
僕は、そのまま村を出た。かつて世話になったおじさんに
「真っ青だけど大丈夫か?」
と聞かれたが、無視して歩きさった。
僕の心には空虚が残った。
虚ろな瞳で日々敵を切り刻み、世界を救うための犠牲らしく、道具らしくあろうとした。
ある日から、氷雪の勇者と呼ばれたヒューリーは、このような異名で呼ばるようになった。
"黒雪の暴虐"と。
もし、万が一、いや億が一でも評価がたくさんいただけたら、もう少し深い内容まで掘り下げた連載版を書くかもしれません。
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