その後
目を開けるのが苦しい。眩しい光が眼球にしみる。
ここは、どこだ。
あたりを見渡すに、白いリネンのシーツ。カード式のテレビ。清潔なベッド。鼻を刺激する消毒液のにおい。腕には点滴の針が刺さっている。
どうもここは病院のようだ。
僕はぼーっとした頭で考える。
今までのことは夢だったのか。
ふとしたことを考える。
立ち上がろうとするときにポケットに何かが入っていることに気がついた。
これは……。
一枚の手紙と、ひとつの小さな袋がはいっている。
手紙には、岩永からの言葉が書いてあった。
これを読んでいるということは山川、お前はきっともとの世界に無事に帰り着いたということだ。無事に帰り着いておつかれさま。ゆっくり休んでくれ。
ところで急に俺が帰らないと言い出してすまない。別れの挨拶も十分にできなかったことだろう。でもお前は俺の親友だから俺の気持ちをわかってくれると信じている。お前は何も言わずに俺を見送ってくれただろうか。
俺は、今まで科学を信条として生きてきた。しかし俺が全知全能すぎたおかげで未来の俺はもとの世界を追われ、こちらの世界にも迷惑をかけてしまった。一度人生を考え直してみることにするよ。科学は捨てないが、それ以外にもやることはありそうだしな。
まあ、あんまり長く書いても俺らの間に余計な言葉は不要だと思うから、ここらで切り上げることにするよ。
次にいつあうことになるかは分からない。もしかしたらもう二度とあうことはないかもしれないが俺らの友情は普遍だからな!
さよならの言葉はつかわないよ。
また今度。
岩永隆夫
PS 家族には適当にごまかしておいてくれ。それから俺の貯金と株券を全て譲る。法定上必要な書類は全て同封しているからよろしく。
あいつは最後まで馬鹿だったな。
僕はそう思う。
シド国王からもらった袋を開けると、ひとつの大きな赤い宝玉の付いたペンダントが転がり落ちてきた。
マリーがかけていたペンダントである。
大切な人のためにかけるペンダントだったな……。
金の鎖に、深紅の宝玉。宝玉を支える台座はドールの国旗が彫り込まれている。
僕は右手にそれを握りしめる。
窓には大きな満月。
どっちの世界も月はきれいだ。
結局、僕はいつも岩永と一緒にかよっていた神社で倒れていたようだ。家族はみな心配していた。僕は三ヶ月以上も僕は行方不明になっていたらしい。最終的に現代の神隠しとしてこの事件は扱われた。岩永は行方不明ということで今でも捜索願が出されている。行方を知っているのは僕だけである。
この事件のことも時とともに忘れ去られ、僕は普通の高校生活を続けていった。かわったことと言えば、僕の横から自称全知全能の神がいなくなっただけである。特に校内は平和になった。廊下でなぞの爆発が起こったり、校庭がカエルで埋め尽くされるということがなくなったのである。
でもやっぱり少し寂しいときもある。
今日、僕はコンビニで今年度始めての肉まんを二つ買う。
階段で上っていくのはいつもの神社。岩永がいなくなってからめっきりここにくる回数も減った。
レミイは今頃泣いていないだろうか。
岩永は心配いらないな。
マリーはどうしているかな。
僕はいろいろ考える。
肉まんを神社の境内に座ってほおばる。
もう秋も深まり、周りの紅葉は深紅に染まっている。
横においた肉まんからは湯気が見える。
めっきり寒くなった。
冬はすぐそこだ。
お供えみたいで縁起が悪いが僕はここに来るときは岩永の分も買っておいておくのである。
さあ、受験も近づいた。
マリーがいつ迎えにきてもいいように僕も恥じない男になろうか。
僕の胸には赤い宝玉がついたペンダントがかかっている。
ここは、修道院の近くにある湖畔。
レミイがいつものように遊んでいる。
湖は以前と同じように美しい。
その湖畔の中にたたずむ遺跡の中に厳重に封をされた瓶がある。
その封がとかれることは永遠にない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
小説なのでちょっとした矛盾点なんかは目をつぶっていただけたらうれしいと思います。
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