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ダンスパーティ

 砦の前に煙を上げて墜落したカーム号はリンドブルム軍の士気をあげた。その一方でエスタ兵は自軍の将が倒されたことを知り至る所で投降をした。元々、エスタの兵は征服した国の軍を次々と併合していったため忠誠心は高くないのである。

 その後、ぼろぼろのかっこうで砦に戻った僕らはすぐにシド公に会いにいく。僕らを待ち受けていたのは大量の拍手でもなんでもなく、大量の傷の手当だった。結局何も怪我がなかったのは岩永だけだ。レシプロ機で壁に突入したというのに……。岩永の皮膚は超合金かなにかでできているのだろうか。

 次の日の朝にはエスタの残兵も制圧され戦争は終結した。

 リンドブルムの市街地には砲撃は及んでいなかった。そのためひと月のうちにリンドブルムは活気を取り戻した。

 それから数日が立った。

 戦争による犠牲は、計り知れないものだった。しかし生き残ったものは自分の生を喜び、生きている実感を噛み締める。

「これは犠牲のもとに手に入れた平和である。長くは語らない。我々は生き残ったのである。この生を楽しむことのみが犠牲になったものの弔いだ、今日はさわげ。」

 式典においてのシド国王はいかんないカリスマを発揮していた。僕らの前でなければ有能な統治者である。

 僕らはシド公からその式典において勲章をもらった。盛大なパーティにおいて、僕と岩永とマリーはその場で国中の人に向かって紹介をされた。加えて国を救った英雄として扱われた。

 式典の日は国中をもってしてのお祭りである。町という町はお祭り騒ぎ。戦争が速く終わっため余った戦費は国中に振る舞われた。もちろん城では日が暮れてから盛大なパーティ兼舞踏会が行われている。

「君がもとの世界に帰る日が判明した。十日後の満月の夜だ。」

 シド公が僕に話をかけてくる。

「君には世話になった、いろいろこの世界の思い出をお土産にしていってくれ。今宵は思う存分楽しむがいい。」

 シド公は楽しそうに僕に話しかけてくる。だいぶ酔っているらしく足下はおぼつかない。ザックス大将がそれを後ろから支える。

 手をひらひらさせながら去っていくシド公。

「私も大変です。何にせよ感謝しています。」

 いつものように礼儀正しく挨拶を交わして、いつものようにシド公を追っていくザックス大将。世界は平和である。

 僕は右手にグラス持って城の大広間を歩いていく。

「これが世界を救った科学だー。」

 岩永は中庭の池に何かを投げ込んで爆発させている。

 周りの人の目を集めて喜んでいる。岩永も大概酔っているようだ。

「おにいちゃああああん。」

 背中から飛びかかってくるのはレミイ。僕はその重みを体全体で受け取る。

「大変だったね。レミイは毎日お兄ちゃんが無事なことをお祈りしていたよ。」

 プニプにのほっぺを僕にレミイは押し付けてくる。

「レミイはお兄ちゃんにあえてうれしいよ。」

 耳元で言われるレミイの声は僕に安堵感を与える。

「こら、ヤマカワさんにあんまり迷惑をかけないの。」

 ドナさんが僕の後ろから声をかけてくる。ひょいっとレミイを僕の背中からとりあげたドナさん。レミイは暴れているがそんなことはおかまいなしである。

「マリーの所へいってあげて下さいな。あの子は結構寂しがりやですから。上の方に上っていったのを見ましたわ。」

 僕はお礼を言って城の最上階へと続く道を歩いていく。

「お兄ちゃん、チューしちゃえ。」

 背中にかかるレミイの声。教育上よろしくないな。

 苦笑しながら僕はみんなが騒ぐ大広間を後にする。


 前、岩永とお酒を酌み交わしたのは砦の頂上だった。今度は城の頂上に登る。砦と違って今回は風が強くない。僕はここに来る前に食堂に寄って葡萄酒の瓶を一瓶しっけいしてきた。

 頂上に続く階段を上り終えるとそこには星を見上げているマリーが待っていた。

 マリーは僕が上ってきたことに気づく。

「タカオがここにいればヨウイチが来るっていっていたわ。煙となんとかは高い所が好きだって。」

 マリーは僕に微笑む。マリーは下でのパーティに参加していた正装のまま黄色のフリフリドレス姿だった。しかしその左手には包帯がまいて首から吊ってある。

 僕はマリーの方に一歩近寄る。もう僕らから血のにおいはしない、マリーの髪から匂ってくるのはほのかな香水のにおい。マリーは右手を僕に差し出す。

「葡萄酒をちょうだい。」

 僕は持っていたグラスに葡萄酒をついでやる。マリーはそれを受け取って一口飲む。

「ああ、おいしいわ。」

 マリーははかわいらしい顔をして、僕に微笑む。

 僕らは城の塀に肘をつき外を眺める。星がきらめくきれいな夜である。

 眼下には城の中庭が映っている。楽団の人が明るい曲を奏でている。

 岩永の姿はすぐに分かる。シド公らしき人物と肩を組んで踊っている。なぜか岩永の周りでは何かが爆発しているようだ。それを周りからおろおろして見ているのはザックス大将だろうか。

 僕は葡萄酒をすこし口に含む。まだこの渋い味にはなれないが、今日はなぜかおいしく感じる。

「ねえ、ヨウイチ。」

 マリーは中庭を見つめたまま僕に聴いてくる。

「本当にもとの世界に帰るの。この世界に居続けることはできないの。」

 ほんのわずかの間沈黙がこの場を支配した。

「……僕らは向こうの世界の人間だから……。この世界に残り続けることはできない……。」

 なんとか絞り出す声。

 マリーは勢いよく葡萄酒をグラスから飲み干す。さらに僕の持っていた葡萄酒を瓶ごと勢いよく飲み干す。

「マリー?」

 マリーはまっすぐに僕の瞳を見つめてくる。そのほほは少し赤い。それがお酒の力によるものかそれ以外によるものかは僕にはわからない。

「黄色いドレス似合っているでしょ。」

 マリーはその場で一回転する。ドレスの裾が広がって本当にきれいだ。

 僕はゆっくりとうなずいてみせる。

「黄色い死神って言われているのよ。こんなにかわいいのに信じられる?」

 マリーは僕の手をとり握りしめる。

「ヨウイチとの約束は果たしたわよ。」

 マリーは少し目を伏せる。

「戦争が終わったら手を握るって約束はあなたが言い出したことよね。」

 僕は軽くうなずく。

「じゃあ、今度は私と約束して。必ずいつかまたあうって。」

 マリーは顔をあげる。そのほほは前のときと同じように濡れていた。

「ああ、約束する。なにがあろうとも約束する。」

 城の中庭から聞こえてくる音楽の曲調がかわる。どうもダンスタイムとなったようだ。

「私はもう死神になることはないわ。孤独な世界に大切なものを教えてくれたから……。」

 にっこりと微笑むマリー。

 僕はマリーの手を握ったまま。左手をマリーの腰に当てる。マリーの左手は包帯が巻かれている。

「観客のいないダンスを踊ろうか。」

 マリーは当惑した表情をする。

「私はダンスなんて知らないわ。」

 僕は適当にステップを踏むがマリーはそれにつられるように足を動かす。

「僕も知らないさ。僕らしかいないんだ、適当に踊ろう。」

 マリーの表情が和らぐ。

 マリーは僕の歩調に合わせてくる。

 誰が教えてくれる訳でもなく、何を考える訳でもなかった。

 僕はマリーに顔を近づける。

 マリーも僕に顔を近づける。

 僕らは何も言わない。

 やるべきことはわかっている。

 僕らの唇が重なる。

 ゆっくりと感じる柔らかな感触。

 女の子の唇は涙の味がした。

 いつまでも僕らだけでちぐはぐなダンスは続く。

 僕らを見ているのはきらめく満点の星空だけだった。


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