航空レース
航空祭最終日。
今日は航空レース、祭りの最後として締めくくりの日である。町は全力でにぎわっている。騒ぎゃなきゃそんだ、という風に通りをいく人たちも盛り上がっている。町は半分無法地帯である。
「あれ、岩永は?」
もう当然となった、岩永の研究室。
後ろから肩に包帯を巻いたザックス大将が現れる。
「シド公も今日は朝からいないのです。今日は他の国からの大使がきているというのに。」
肩をいたそうに手で押さえながら歩いていくザックス大将。怪我しても一日も休めないとはご苦労様です。
「あのトランシーバーってやつは使えないのかしら。」
それだ!
僕らは岩永にもらったトランシーバーを取り出す。
「こちら、山川。こちら山川。岩永はいるかい。」
ざーっとうなるノイズ。しばらくして、響く間の抜けた声。
「あー、もしもし、山川かい。今研究室?」
「そうだけど、岩永いまどこだ。」
「まあどこかは気にしないとしてそこの部屋の隅にあるテレビのスイッチをつけないかい。」
振り向くとそこには大きなボロッチそうなテレビ。
「はい???」
全く理解不能。なんでテレビ。と言うよりあいつテレビまでつくってしまったのか。
まあいい、とりあえずスイッチぽいボタンを押してみる。
かるいブラウン管の音がする。なかなかテレビがつかない。
「それ真空管テレビだから五分ぐらいつくまで時間がかかるから。」
トランシーバーから岩永の声が聞こえてくる。岩永の科学力恐るべし。
しばらくすると、テレビにはじわっと白黒の岩永とシド公の顔が映ってくる。
「なんと面妖な。」
「これはすごいわね。」
「レミイは、レミイは、おどろいちゃった!」
始めてテレビを見たであろうザックス大将、マリー、レミイは目が皿のようである。
「映っとるぞ。」
僕は岩永に報告してやる。すると画面が移動する。
「見ろ、これを。」
岩永はどうもカメラの視点を移したようだ。そして映ってくるもの。それは……。
レシプロ機であった。とは言うものの手作り感、、満載である。
ぼろっちい布ばりと思わしき翼、大きなプロペラ、微妙に所々さびているエンジン部分。そして座席が二つ。
「これで航空レースに参加する。」
岩永の堂々宣言。場所はどうもリンドブルム中心部の巨木の中。
マジかよ。落ちるんじゃないか。というより岩永の作ったレシプロ機に乗ったら命がいくつあっても足りない。
僕は機体を見つめるが不安しか感じない。
「シド公、まさかあなたも参加するのではないでしょうね。」
ザックス大将は焦っている。
「もちろん参加するさ。私もこれを作ったのだから。そして私がこの大会で優勝する。賞金も私が出して私がもらう。」
「シド公、もし落ちたらどうするんですかあああ。」
ザックス大将の叫び声が響く。
「大丈夫だ。絶対に落ちないから。」
岩永が根拠のないフォローを入れる。
幸せそうだ。シド公と岩永は二人で腕組みをしている。四十過ぎのおっちゃんと十七になったばかりの変態はいいコンビだ。
「そろそろ、出発時間だから。行ってくる。」
カメラが床におかれる。二人はカメラの向こうで操縦席に乗り込んだようである。カメラの向こうでは、プロペラが回り始める。空気を斬る風切り音。
「いってきまーす。」
岩永の声とともに車体が前に進み始める。助走をつけてレシプロ機はゆっくり空に吸い込まれていく。