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始まり


まあ暇つぶしにご利用ください。


感想、評価を書いてくれるとうれしいです。


誤字脱字はもちろん様々な意見が聞きたい所です。


科学ネタはアリエナイ理科の教科書から抜き出している所があります。

ご了承ください。


あと人物名、地名は某有名ゲームからとってあるので気がついてもパクリとかいわずにスルーして下さい。

お願いしますね。



 三百年前、


 ひとつの部屋に立つのは一人の男。五十に近いだろうか。疲れた顔からは年齢以上の苦労を忍ばせるものが存在する。

 彼は特徴的な下淵眼鏡をかけている。とげとげの銀髪が背の高い彼の風貌を際立たせる。

 手にはひとつの黒い箱。

「これを巡り多くの命が失われた。」

 彼は誰にしゃべるともなく一人でつぶやく。

「そしてここに平穏の地を見つけた。」

 彼はその箱を部屋の床に静かにおく。

「山川……。」

 男は静かに部屋を立ち去る。足音が誰もいない部屋に響く。

 その男の行方は誰にも分からない。







 成績は、中の上。運動神経は上の中。ルックスは中の中。加えてちょいオタク。毎日田舎の進学校に通い、部活で剣道をして、そつなく日々を暮らす。ゆくゆくは普通に大学に入り、普通に就職し、普通に結婚し、普通に子供を育て、普通に老い、普通に死んでいくはずだった人生。そんな平凡な僕の人生に風穴があくことがあるなんて想像もしていなかった……。



 学校にて、


「……というわけで、夏休みの注意事項は終わり。お前ら、ちゃんと夏休み勉強しとけよ。そうでないと来年の冬に泣くことになるぞ。まあ、気晴らしも大切だがな。」

 頭が白髪のまじめそうなおっちゃん、これが僕らの担任だ。

 そとにはうるさいぐらいの蝉の声、高くのびる入道雲、真っ青な空、全くいつもどおりの高校二年一学期の終業式。夏の一日。

「よし、号令。」

最後を締めくくる担任の声。そしてこんなに暑いのに清々しい顔をした級長、岩永の声。岩永の顔にかかっている下ぶち眼鏡がきらりと輝く。しかしこいつの腹の中身は真っ黒だ。

「気をつけ、礼。」

教室全体に開放感が広がる。後ろの席から顔が突き出てきた。

「山川いまからどうすんの。暇ならバスケして帰ろうぜ。」

後ろの席のバスケ部のやつが聞いてくる。

「すまん。今日は岩永に悪いパソコンを治してもらう予定だから。ごめん、今日はちょっとむりっぽい。」

「あいつにパソコンをいじってもらうんか。それは人選をミスったんとちゃうか。岩永はノーベル賞もらうか死刑になるかどっちかのやつやから。パソコンをいじらせたあかつきにはペンタゴンにハッキングした容疑とかでお前も次の日に公安に捕まるで。友達は選べよ、岩永。」

 バスケマニアは笑って席を立った。いつもどおりのたわいのない会話。手で鞄をもって教室の後ろのドアの方へ向かっていく。そして自分も、あまりうれしくない成績表の入った鞄を手に取る。教室の前の方にいる岩永と名前のついた規格外超高校生の方へ歩いていった。

 岩永の手にはばかでかい銀色のジュラルミンケース。

「岩永、その荷物はなんだ。銀色のケースに入っているものに非常に嫌な予感がするのだけど。麻薬の密売でもいまからするのか。」

 このようなことを言うのには訳があった。岩永は科学オタクである。正確には理系オタクか。自宅爆破未遂が三回。自分の部屋を爆破したことが二回。学校の教室になぞのキノコをはやしたことが一回。おかげで頭は死ぬほどいいが、女の子にかわいらしさ感じるより、爆発に萌えを感じてしまう変態である。傷薬から原爆までそれが岩永のモットーだ。

「ん、こいつのことか。科学部のマイ薬品ケースや。これさえあれば爆薬だろうが麻薬だろうが何でもつくちゃうぜ。俺の命や。」

 ちなみに岩永の右手の肘から手首にかけて大きなやけどの跡がある。自宅でレールガンを作ろうとして感電してできたものだとずいぶん前に聞いた。岩永いわく、男の勲章である。真性のアホだ。

「で、そっちの学校かばんも持ってかえるんだろ。おもそうだ……。しかし、科学部にも入っていたなんて、五年間友達で初めて聞いたぞ。」

「いや、去年から在籍しちゃっていたんやけど。去年の五月、世界最強の爆薬オクタニトロキュバンとか言う爆薬を化学合成しようとしちゃた。そいつが見つかって科学室出入り禁止になっちゃった。テヘッ。ちなみにオクタニトロキュバンの威力は強すぎてどこの軍隊もつかっていない最強だから。」

 テヘッじゃない。

「やっぱり危険なやつ……。」

 小声でつぶやくが岩永には聞こえていない様子。本人がいうには微量ながらプルトニウムも持っているとのこと。海外の怪しい通販サイトで買ったものを個人輸入したらしい。ああ、公安の方はやくこいつを捕まえないと後悔しますよ。

「麻薬を買う人って馬鹿なんよ。結構簡単に合成できるのに。麻薬を買おうとしたら一グラム一万円もするんだぜ。俺に任せれば五百円で作ってやるのに。お前いる?」

そのジュラルミンのケースに関して僕の勘はあたっていたようだ。麻薬は入っていなさそうだが、麻薬以上にたちの悪いものが入っていそうだ。こいつはほおっておくと世界を滅亡させかねん。最強の理系馬鹿は、世界を滅ぼす力を持っている。俺の顔は引きつって見えたことだろう。しかし岩永は平然とした様子だ。こいつが悩んでいる姿を見たことはない。脳の不安を感じる一部の機能が眠っているのではないか。

「とりあえず帰ろうぜ、お前のパソコン直さなくちゃ行かんのやろ。」

なんて言っている。

 岩永は机に立てかけていた鞄を取りいかにも重そうな銀色のジュラルミンケースを軽々引き下げ教室から出て行った。

「あいつは相変わらずマイペースだな。」

 俺は、一人でつぶやいてあいつの後を追った。

 普段と同じの夏の一日が続くはずだった。



 いつもの自宅への帰りと同じように二人で土手の上を歩いている。学校の姿は後ろに小さく見えている。蝉の声はうるさく、暑い日差しを浴びて汗ばんだカッターシャツが肌にへばりつく。それでもいつもより爽快な気持ちがするのは明日から夏休みだからだろうか。

「おい、明日からなにをしちゃうの。」

唐突に岩永が話しかけてくる。そして僕のほっぺをつんつんしてくる。岩永はボディータッチが以上に多い人種なのだ。

「とりあえず、なんにもない。お前はどうする。」

「俺か。俺はな、とりあえず七月は核融合の実験をする。アメリカの高校生が自宅で核融合を成功させたと聞いちゃったんだ。世界最強の頭脳を持つ俺にできないはずがない。二億度のプラズマの発生に手こずっているがもう少しで完成しそうやし。八月になったらアメリカのペンタゴンにでも自宅のパソコンをつかって侵入しようかと考えている。宇宙人は本当にいるのかロズウェル計画の資料でものぞいてくるかな。とりあえず世界征服の一歩として俺の名前を広めてくるぜ。」

 話す内容が完全にぶっ飛んでいる。しかしこいつの言うことは全て現実だからたちが悪い。自称の知能指数二百はなめちゃいけない。僕は心の中でこいつは試験管で天才の遺伝子を組み換えられた遺伝子組み換え人間じゃないかと本気で怪しんでいる。まあ岩永に言わせればブッドとキリストとモハメッドの生まれ変わりなのだとか。えらい攻撃的なブッダだな!

こいつは本当に世界征服をしかねんと思いつつ、

「FBIかなんかに捕まるなよ。俺はいつでも友達代表として法廷でお前の悪事を証言してやるから安心してくれ。」

 と上段っぽく言い返してみる。

 横を見るとやっぱりくそ暑いのに涼しげな顔をした岩永の姿。身長は178センチあり、がたいは筋肉質の均整のとれた体つきをしている。そのくせ、その姿は人に威圧感を与えない。つんつんの白髪頭が岩永のイケメン顔によく似合っている。ブリーチし過ぎでそのうちはげるぞ。神はいったい岩永にいくつの才能を与えたというのか。出会った最初の頃は、岩永をみるにつれ神に人生の不平等さを呪ったものだ。まあ、この破綻した性格はいらんが。

「おい、いつものようにコンビニでアイス食べて帰ろう。」

 と、岩永に声をかけてみる。正直、今日の暑さは異常である。アスファルトが溶けてるのじゃないか。靴が粘り着くような気がする。時間のある日いつも自分と岩永は近くのコンビニによる。その後、すぐそばの公園で涼みながらアイスを食べるのである。この僕らにとってのある種の儀式は、冬には肉まんとなる欠かせない季節の恒例行事であった。ちなみに岩永はこの神社を全焼させたことがある。それはまた別のお話。

「今日は、学校も終わったことだし奮発してハーゲンダッツを食べようぜ。」

 岩永は、飛び跳ねてうれしそうにコンビニに一直線に進んでいく。背中から喜びが見えるほどである。

 コンビニでいつもの店員さんに挨拶した後、コンビニすぐ隣の神社の境内へと続く階段を上っていく。百段ほどの階段の先には誰もいない神社。

 お賽銭箱に毎回五円を涼み賃として僕らは入れた後、賽銭箱の前に座り込む。神社は樹が茂っており心なしかアスファルトの道路より五度は涼しく感じる。境内では、外界と隔絶した神聖な場所と言う雰因気をかもし出している。

「ハーゲンダッツうめー。」

 ハーゲンダッツをパクツキながら本当においしそうに岩永は食べている。幸せそうな様子を見て唐突に自分は岩永に質問をぶつけた。

「なあ岩永、お前は受験、どうするんだ。」

 ふたの裏のアイスをなめてた岩永はいう。

「外国にでもいくかな。やっぱ科学の研究にはお金がかかるんでね。バイオハザード級の細菌だって研究できまくりナトコがいいな。」

 さすがに死刑判決かノーベル賞をもらうと言われている男。ちなみに普段の岩永の研究費は岩永カタログによるインターネット販売によりまかなわれている。ホレグスリ、一万円。ちょっとあれな昆虫二千円。原爆二億円。誰か頼んだことのいるやつはいるのだろうか。制作費一億、利益が一億ということらしい。

「まあ俺以上にすごいやつなんて地球上に存在しないけどな。」

 かたかたと笑う岩永。神様のようなセリフである。自分に絶対の自信があるやつにしか吐けない。

 岩永は進路希望に岩永教総統と記入したこともある。岩永に言わせると研究にはお金が必要なため岩永様をあがめ奉る人々からお金を搾取するそうだ。岩永様のカリスマ性を持ってすれば不可能はないそうで……。

「そういう要一はいったいどうすんのさ、俺と一緒の大学にいくか。そしてアンブレラ社でも立ち上げるか。」

 バイオハザードで世界を滅ぼしかねない男に僕はいう。

「無理言うなよ……。俺はお前みたいに頭よくないし、地球外生命体ではないし、地方の地元の大学が精一杯さ。」

「ちょっと気になるセリフが聞こえたが、スルーすることにしようか。まだ入試まで一年半もあるんだ、もうちょっと頑張ってみればいいじゃないか。」

 と岩永は慰めにならない慰めをかけてくる。

 お前とは違うんだよ。

 という心の声を笑って押し込める。

 蝉の声がうるさい。息苦しさを感じるのは気温が高いせいだけではないはずだ。嫌な汗が落ちる。もうハーゲンダッツも食べ終わってしまった。嫌な気分を払拭するかのように空っぽのハーゲンダッツの容器を投げ捨てる。

「どこか、受験のない世界に行きたい!」

 僕の心のさけびである。生暖かい風が吹き、蝉の声が気づけば自然と遠くから聞こえるような気がした。

「さあ、かえろうぜ。昼ご飯を食べてないので腹が減ってたまらん。」

 規格外生物も人並みにおなかは減るようである。

 いつもと同じように、笑って帰りを促す岩永。コンビニへと続く階段を先におりていく岩永。岩永の姿が見えなくなり、後を追いかける僕。僕がまた岩永の姿を視界にとらえたときには、コンビニの向かいの道へ道路をわたっていくため岩永は歩行者用の手押し信号のスイッチを押しているところだった。

 岩永のところに僕は駆け寄る。

 まさにそのとき僕らのところに操作を誤った大型トラックが突っ込んできた。

 ヤバいと脳が認識する。しかし体が動かない。足が重い。

 鈍いブレーキの音を立てながらゆっくりトラックが突っ込んでくる。脳からの信号が足に伝わる。

 後、3メートル。足は驚くほど遅くしか動かない。岩永は顔をトラックに向けたまま微動だにしていない。

 2メートル。もう間に合わない。

 1メートル。走馬灯の様に様々なことが思い返される。

 僕の人生はこれで終わりなのか。

 死ぬ訳にはいかない。彼女もいない。なにも楽しいことはやったことはない。ゆっくりとトラックが近づいてくる。目の前が真っ白に……。

 


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