『ないものねだり』
紫陽花が色付き始め、外に、しとしとと雨が降り続ける中、
「今日のG1こそは行ける! 間違いないから!」
そう、コイツは、私に力説する。
「あ~。ハイハイ。それでまたスって財布の中身を軽くするのね。」
外の雨降る景色を眺めれる窓際のマックのテーブル席で、
フィレオフィッシュとポテトを交互に食べながら、いつも通りコイツをあしらう私に。
「次のG1は、絶対に、あの馬が来る! 今度こそはオレは夢を買うんだ!」
と、スマホで今日のG1の『馬券』を買う為に購入アプリを起動し出す。
「ホンット。男ってバカよね。
そんなの『ないものねだり』だって、いつも言ってるじゃない?
夢を買うとか言って『馬券』とか買ったり『宝くじ』とか買ったりさぁ。
その分を貯めれば良い商品なんて、いっぱい買えるのに。」
その私の、いつもの感想に。
「こっちこそ、いつも言ってるだろう!
『宝くじ』は、運だけで当てる夢!
『馬券』は分析して勝ち馬を想定し、
その分析結果で買う、計算された夢だと!
だから運が無ければ全く当たらない『宝くじ』と違って、
『馬券』は洞察と分析による計算能力さえあれば、
運が無くとも当てれて夢を買えると!」
と、コイツも、いつもの定型文の様な説明を更さらに力説する。
「あ~あ。その賭けるお金を貯めれば質素なのなら直ぐにでも挙げれるのに。」
と、グチる私に。
「それこそ、いつも言ってるだろう?
オレはな!
ソイツとの式は10年や20年経っても忘れられない様な記念になるのにしたいって!
その為には馬を徹底分析して『万馬券』という夢を買い当てる事……ッ!
これが必須事項なんだ…ッ!」
と、またも勢い良く豪語するコイツ。
「ハイハイハイハイ。
全くアンタは、ただの散財バカだけど、
そんなに思われるなんて、その好きな人ってのは幸せね。
もうホンット、ゴチそうさま。お腹いっぱい。」
と、あきれ顔の私に。
「ま…オレの今日の『万馬券』の夢が近いのと同じで…
その相手ってのも…案外…近くに居るんだがな…。」
と、何やら、ゴニョゴニョと言い出すコイツ。
「何か言った?」
聞き返す私に。
「何でもねぇよ。ま、今日で夢は叶うんだから、大丈夫だがな!」
と、コイツは、更さらに、豪語する。
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それから半年後……。
その日に叶った一方の夢のお陰で…。
もう一方の夢も…叶った…。
私の夢と…一緒に…。