第3話
『ティア・スラッシュ!』
とにかく必殺技を放ちまくる。
これだけ敵が犇めいているんだ、どいつかには当たる。
『フル・グランドスラム!』
必殺技の利点はダメージが大きい、だけではなく、剣も持ったことのない素人でもそれなりの動きが出来る点だ。
流れるような動きで敵を次々と倒していける。
普通に剣を振るうんじゃ、腰が入っていないのか中々倒せない。
逆に欠点は、技が出終わるまで他の行動が出来ない事だ。
どうやら途中でキャンセル出来ないようで、体が勝手に動き続ける。
なので、後ろからや、出終わった後は隙だらけ。殴られ放題である。
ただ、今はレベルが低いおかげか、ちょっと戦えばレベルが上がる。
そうすると体力が全快になるので、少々殴られてもすぐに回復出来る。
レベルが上がれば、へっぴり腰の通常攻撃でもダメージが出るようになるだろうから、今は相打ち覚悟で必殺技を使いまくっている。
まあ、痛みがないからこそ出来る戦い方だな。
あと、敵の雑魚はどうやら無限沸きのようで、特定の核となるモンスターを倒さない限り、いくらでもオカワリが出る。
なので経験値は稼ぎ放題なのだが……
さすがに、ずっとそれを続ける訳にはいきそうにない。
少しでも敵を減らしていかないと、人間側の被害が多くなる。
ある程度、戦っていると、人間達もモンスターに向かって攻め始めた。
まあ、そこまではいいのだが、見ていると結構やられている。
というか、戦っている兵士に女性や子供まで見受けられる。
よっぽど切羽詰まっていたのだろうか?
それに、モンスター達は斬りかかっても、傷が出来る訳でなく、倒したら光の粒になって綺麗さっぱり消えるのだが、人間達はそうはいかないみたいだ。
変な所をリアルに拘っているのか、血は出るわ、死体はグロイわ。ちょっと、見てられない。
なので、優先的に核になっていそうなモンスターを倒して回る。
核となるモンスターは、色が違っていたり、装備が豪華だったり、大きさが違ったりしている。
また、そいつが周りのモンスターを指揮しているので、核となるモンスターを倒せば、周りの雑魚達は連携を失い、倒しやすくなる。
その状態の雑魚なら、人間達も余裕をもって倒していける。
随分、敵も減ってきたので、少し手を休めて周りを見渡してみる。
おっ、なんかアイテムが落ちてるぞ?
ふと足元に、白いピンポン玉ぐらいの丸いボールが落ちているのに気づく。
真ん中にボタンのようなものがある。
とりあえず、そこを押すとパカッと開いた。
するとボールが消え、ペットボトルのような飲み物が現れる。
「これ、開くモーション意味ねえなぁ」
そう思いながら、その飲み物を飲んでみる。
「マズッ!」
クッソ不味い。
でもなんか体力が回復した気がした。
どうやら回復薬の模様。
「ナニコレ!? 未だかつてない不味サッ!」
甘い、辛い、苦いとは全く別次元の味覚、マズイ!
これもVRならではの体験と言うのだろうか。
ただひたすら不味いという感覚。
いや、これは飲めませんワ。
偶々、近くまで来ていた兵士が結構な怪我をしていたので、それを手渡す。
そして、それを飲むようにジェスチャーで伝える。
その兵士が回復薬を飲む。むせた。
真っ青な顔でペッペッッと吐き出そうとしている。
やはり不味いか。
この世界の人間でも味覚は同じなんだな。
もしかして、これがこの世界の標準の味かと思ったが、そうではなかったようだ。
だが、効果はバツグンだ!
兵士の怪我がみるみるうちに治っていく。
良薬は口に苦しともいうし、我慢して飲め。
オレは兵士の肩を叩いて、傷口を指さす。
それを見て、キョトンとした顔でオレの方を見る。
さらに飲むジェスチャーをして傷口を指さす。
兵士は手元にあるペットボトルを真剣な顔をして見つめると、急に跪いて首を垂れる。
なにやら、ペットボトルを指さして、その後、物見やぐららしき物を示す。
それを持っていきたいって事か?
腕を組んで偉そうに頷いてみる。
すると兵士は慌てて駆け出して行った。
というか、行動がリアルだな。ほんとにゲームの世界なのか……?
ふと、嫌な考えが頭をよぎる。
高度に発展した宇宙文明があったとしよう。
そんな宇宙文明が作り出すテーマパークとは、星一つをまるごとなんてスケールもあり得るかもしれない。
そう例えば、人間や大地は本物で、そこにゲームのモンスターを配置する。なんて事も……
宇宙人が人型、とも限らない。
人間を猿ぐらいにしか思っていなければ、やりかねないのではないか。
モンスターはどう見ても作りものだ。だが、人も景色も本物にしか思えない。
と、言う事は、ここは実際の戦場であり、リアルに人が死んでいっている……とでもいうのか?