第2話 剣士スキル
とりあえず木の棒で殴ってみた。
ポッキリ折れた。
そらな。
イダッ、イダダダッ、ってホントは痛くないけど、精神的に痛い気がする。
ほら、目の前も赤くチカチカしてきたし、って、コレやばくね?
木の棒で殴ったら、こっちは痛みを感じないが、あちらさんはそうでないらしく、凄く興奮して襲い掛かってきた。
何発か食らったあと、まるでゲームの瀕死状態を演出するように、見える景色に赤みを帯びたフィルターのようなものが点滅しだした。
慌てて素手で殴りかかる。
激しい攻防が続き、会心の一撃が奴の頬にクリティカルする。
すると、光の粒になって消えていくモンスター。
そしたら、チカチカしてた景色も収まり、何か急に力が増した感覚がする。
レベルアップでもしたのだろうか?
これって、ほんとにゲームなのか?
痛みは感じない、モンスターを倒すと跡形もなく消滅する。
不自然な明滅に、急に体力が戻る現象。
もしかして、あの転売ヤーって宇宙人だったのだろうか?
これは、宇宙人が作ったゲームソフト、ではなかろうか。
というか、それ以外に説明できそうにない。
そうかこれは、宇宙人が作りだした体験VR型のゲームに違いない! そう、洋ゲーならぬ、宇宙ゲーなのだ! きっと。
とりあえず疲れたので、地面に腰を下ろそうとした。
腰を低くした瞬間、なにやら突っかかりが感じる。
突っかかりのあった腰の辺りを見てみる。
剣、持ってるやないけ……
そういや、地面に落ちてた棒切れ拾ったときに確認したな。
人間、慌ててると、手元が見えなくなるんもんだな~。
昔さあ、寒くなってくると、おぬこ様が布団に潜り込んで来てたんだよ。
まあ、それ自体は問題ではないのだが、布団の中があったかくなると、蹴りだされるのよ、オレが。
いつも朝方には布団の隅っこで丸くなっている。オレが。
こんちくしょうと思って、入れないようにしっかりと布団を握りしめて寝ることにしたのだが。
おぬこ様、布団に入れないのに憤慨したのか、突然、顔に覆いかぶさって来てサ。
イキガッ! 息が~! って慌てた時、両手で猫をのければ済むのに、なぜかその手はバタバタするばかり。
あの時は、ほんと死ぬかと思った。
ドラマでもよく、後ろから口元を押さえられるシーンがあるが、正直、敵は両手が塞がってて、自分は自由なのに、どうして反撃しないんだ。
と、思っていたが。いざ、その状況になると、そんな事、考えられる余裕なんてないんもんだと実感した瞬間だった。
「さて、これからどうしたものか……」
目の前では、モンスターと人間達の軍勢が睨み合っている。
これがゲームだとすれば、あの人間達に加勢してモンスターを倒していけばいいんだろうけど。
「まったく説明がないんだよなあ……自由度、高すぎだろ」
自分の状態を表すステータスウィンドウが見えるわけでもない。
ゲームメニューが出ないか色々やってみたが、何も出てこない。
コレ、終了させるには、どうすればいいのだろうか……?
宇宙人さん、元に戻れないゲームとか作ってないよね?
不安を押し殺すように立ち上がる。
キャラクタークリエイトの時に、剣士の説明ムービーがあった。
そこでは3つの必殺技が紹介されていた。
それを試してみる。
『ティア・スラッシュ!』
前方に大きな一歩を踏み出し、体にひねりを加えながら斬り上げる必殺技だ。
少しだけ剣から衝撃派が発生し、思ったより遠くまで攻撃が届く。
威力もそこそこありそうで、攻撃の主体として使っていけそうな感じ。
『フル・グランドスラム!』
これは範囲攻撃。
前進しながら左から大きく円を描くように攻撃し、さらに反動を利用し右からも円を描くように攻撃する。
剣の先に少しオーラのようなものが伸びているので、かなり範囲の広い攻撃になっている。
その分、威力は低めだろうが、雑魚狩りにはいいかもしれない。
『ファースト・エンド!』
最後の一つは溜め攻撃。
構えを取ると、剣の先が赤く輝いていく。
そして一気に突きを出す、それだけの攻撃だが、これがかなり使える。
モンスターの集団への一撃目にこれを使ってみたんだが、一足で3メーターぐらい突っ込んで、さらに射線上の敵を吹き飛ばしていく。
ネットゲームでは吹き飛ばし技は嫌われるが、今は一人、誰に遠慮することもないだろう。
まあ、溜め技なので、溜めてる間、攻撃され放題だから迂闊には使えないかな。
「それでは、無双ゲーの始まりといきますか」
突然突っ込んできたオレの一撃に、目を白黒させているモンスター達を見やる。
辺り一面、敵だらけ……まっ、なんとかなるでしょ。
いきなり序盤から無理目なイベントを入れてくることはないだろう。ないよね……? あれ? 結構そんなゲームを見て来た気もする。