第1話
「くっそ転売ヤーめっ、滅びればいいのに!」
オレはパッケージを開けながらそう叫ぶ。
メーカー希望小売価格49,980円。
それがなんと! 送料込みで80,000円!
クッソ高ケェ!
度重なる抽選に敗れて心が折れた結果、遂に、禁断の転売ヤーに手を出してしまった……
奴らの言い分は、最初から需要に供給が追い付いていない。
抽選なら絶対に手にできない奴が現れる。
ならば、多少は高くとも手に入れられるなら、そっちのほうがいいだろう。
って事だ。
確かにその通りだ。
オレのようにくじ運の悪い奴は、抽選だと、どうやっても手に入れられない。
そのとお~りなんだ! だが、納得いかないんだよ!
と、実際に利用したオレが吠えても説得力はない……
利用する奴が居るから、転売ヤーが撲滅しないんだ。
なんて事は分かっている。
転売ヤーが居なくなれば多少は手にできる確立は上がる。
そりゃそうだろう。
でも、どうしても欲しかったんだ!
待てばいいじゃん。
なんて軽々しく言う奴もいるが。
手が届く場所にあるのに、待ってもいいと思えるような品なら、最初から欲しがりゃ~しねえ。
ああ、皆、意思の弱いオレを許してくれ。
などと、誰に言い訳をするでもなく、本体のスイッチを入れる。
この金額で買う踏ん切りがついたのも、ソフト3本をセットと書かれていたから。
それなら、ギリギリ(アウト)で金額も折り合いがつくじゃないか!
なお、何のソフトが入っているかは確かめていない。
どうでもいいソフトだったら悔しいからだ。
とりあえずその、入っているソフトとやらを呼び出してみる。
タイトルの字が読めねえ…………どこの国のソフトだよ。
やはり買う前に見なくて良かった。
もう買った後だから後悔はない!(ウソ)
やけくそな気分で、その内の一つを起動してみる。
スタートボタンを押すと、いきなりキャラクリエイトの画面に代わる。
「随分リアルなグラフィックだな。最近の洋ゲーのレベルはパネエな」
とりあえず自分の外見に似たキャラクターを作る。
そしてゲーム開始のボタンを押すと画面が輝きだす。
スピーカーから何かが、争い合うような音が流れる。
というか画面、マブシッ!
ほんとに、どこの国のゲームだよ。
日本じゃ、ピカ〇ュウショック(電気技で画面がピカピカした結果、てんかんを起こした多数の幼児が病院に運ばれた)の所為で、こんなに激しいエフェクトは作りはしない。
というか、長いよ!
いつまでピカピカしているの? これ絶対、目が悪くなるわ。クッソ、転売ヤーも、てんかんになればいいのに。
画面どころか、部屋中が光に包まれているような感じすらする。
その輝きが収まった後、そこに映っていたのは、少しだけ盛り上がった丘の上から見下ろす、モンスターと人とが争いあう、戦場であった。
うおおぉ、レアリティ、スゲェ……
まるで実際に、そこに立っているかのような感覚さえする。
草や木、遠くまで見える景色の全てが、本物としか思えないほど精巧に作られている。
その景色を見ていると、風や、匂いまで感じられる気がするほどだ。
暫くの間、その風景に見とれていると、ふと背中に衝撃が走る。
「ふえっ?」
振り返る、すると何やら棍棒を持った醜い小鬼のような存在がいる。
「えっ、!?」
その小鬼は棍棒を振りかぶって襲い掛かってくる。
「えっ、どゆこと? あれ? 画面が……ない?」
慌てて左右を見る。
しかしどこを探してもモニターは存在しない。
まるでそこに立っているような感覚。どころじゃない。
実際に、そこに立っているのだ!
「まるでフルダイブ型VRゲーム……時代はいつの間にかこんなにも進化していたのか……って、そんなわきゃ~ねぇ!」
棍棒を避けようとして慌てて後ろに下がる。
だが、そこには地面がなかった。
うん、崖の傍だったネ☆
つって、落ちるぅううう~~~~…………!
「くっ、イッテ~……くない?」
そのまま崖下の地面に激突したのだが、衝撃こそあれ、痛みを感じない。
起き上がって頬をつねってみた。やはり、痛みはない。
あれ? もしかして、これって夢?
ふと顔をあげた先、崖の上から小鬼が飛び降りて来た。
ウォッ、なんでそんなに激オコなんだ?
いったいオレが何したってんだ。
何か武器になる物はないかと、辺りを見回してみる。
すぐ隣に棒切れが落ちていたので、それを拾おうとする。
そこで気づいた。
オレの服装が変わっている事を。
鎧を着て、帯剣までしている。
その姿は、キャラクタークリエイトで作成した、剣士の風情だった。