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099 妖精族の生態

 


 村への施しという名の炊き出しが始まった。

 シェヘルレーゼがアイテムボックスから軍用の特大鍋を出しただけだけど。


 鍋には既に少しだけ塩味を感じる程度の熱々のたまご粥がなみなみと入っていた。


 食器は各自持ってきてもらう。

 餓死寸前で動けないものもいるようで、そんな人達にはポーションを飲ませて回復させてから粥を配った。


「もっと早く来てくれれば息子は…」


「うまれたばかりのあの子も…」


「母も…」


「おじいちゃんやおばあちゃんも…」


 既に餓死者も出ていた。

 赤ちゃんは生まれても、母親はおろか村の誰も乳が出ない状況だったみたいですぐ死んでしまったとか。


「あ、死んで1週間以内の死体があれば生き返らせることできますけど、どうします?」


 軽く挙手しつつそう発言したら、ポカンとした顔で見返された。


 ですよね。

 死んで一時間以内なら分かるけど、さすがに死んで一週間した死体を生き返らせることが出来るって、ぶっ飛んでるよね。


 でもほんとなんだよ。

 なんかスキルが進化してたんだよ。


 二回目の牢屋に入った後辺りにさ。

 聖女スキルの結界系の誤作動がきになって、俺の結界指定の甘さか認識間違いか気になってもう一度スキルの説明でも見るかと思ってスキルを見たら「new!」って表示出てて、新しいスキルと、進化したスキルがあったんだよ。


 そのうちのひとつが

【聖女の奇跡】<死んで1時間以内の死体、もしくは時間と関係なく死んだ毛根を蘇らせる。他あり得ないことが多々起きる>


 だったのから


【聖女の奇跡】new!<死んで1週間以内の死体、もしくは時間と関係なく死んだ毛根を蘇らせる。他あり得ないことが多々起きる。重ねがけや組み合わせて使うことも出来るよ!>


 になっていた。


 めっちゃ後付け感がありまくる最後の文はきっとまたツッコミ待ち的なアレだと思うんだ。


「……それは…妖精族のからかいかなにかでしょうか?」


「どうでしょう。試したことないんで分からないんですが、そういうスキルを持っている事は確かですね」


「ほ、本当ですか?それは、本当に…」


 左の方からやってきた男が俺に掴みかかってきそうな勢いで接近してきたところで俺の周囲に張り巡らされた結界に阻まれた。


 うん。

 今回は結界さん、きちんと仕事してくれたようだ。


「たぶん?なのでこういってはなんですがどなたかでためさせてくれませんか?」


 自分でも言い方が悪いと思うけど、仕方ない。

 こういう時の言い方、学校で習ってなかったし。


 結界に阻まれ、男は一瞬驚いていたが、俺の言葉に急いで引きかえし、間もなくして布にくるまれた2~3歳くらいの小さな子供を抱えて戻ってきた。


「五日前に力尽きました。飢えに耐えかね野草に中って腹をこわし、それで…」


 あぁ、うん。

 理由は出来れば聞きたくなかった。

 毎日普通に食事出来ている自分に自己嫌悪してしまいそうになる。

 砦一つ向こう側は、こんなにも別世界だったのか。


 改めて周囲を見ると大人たちもガリガリにやせ細っていた。

 生きる知識と生命力が強い者だけがこうして生き残っていたんだなと思わせる。

 その辺に生えている草が全て食べられるとも限らない。

 そもそも草もあまり生えている様子はない。カサカサの大地。畑はきちんと整備されているが何かが育っている様子はない。


 そうか。ここはそこまでひっ迫していたんだ。ギリギリを通り越し、破滅の途中だったんだ。


「そうですか。…初めて使うスキルなので、うまく使えなかったらすみません」


「いえ、あなた達は我々を救ってくれました。それだけでも十分です。死者蘇生などという夢物語、縋る方がどうかしている。それでも、俺は縋ってみたい。その結果の失敗でも、娘にしてやれることはしたと、後悔なく送ることが出来ます」


 そういう考えもある、か。


「わかりました。そういうことなら早速スキルを使ってみますね」


 いままで完全スルーしていた【聖女の奇跡】を使ってみる。

 まさかこのスキルまでぬるっとしてるんじゃないだろうなと一抹の不安を覚えながら。


 俺の不安をよそに、【聖女の奇跡】はきちんと発光演出アリだった。その事にとりあえずホッとする。

 それからわずか3秒ほどで光がおさまった。


 え、これだけ?

 眩しい!目がくらむ!

 とか一切なかった。スマホ画面の明るさ設定の真ん中くらいの発光具合だった…。

 奇跡感を感じることができない。

 そう考えるとただ体が光るだけの【聖女の輝き】の奇跡感たるやだな。


「ラーダ…ラーダ!」


 男が腕の中の子供に向かって声をかける。

 どうなの?生き返った?生き返った?!


 …あれ、これもしかしてゾンビやキメラとかのモンスター的な甦り方しないよな?


 という不安がよぎる。

 母さんが好きなハリウッドな映画にそんなシーンがあったような…。


「とーちゃん…?」


「ラーダ!!」


 あ、きちんと蘇生できたっぽい。

 よかった!


「「「おお…」」」


 周囲の村人たちもそうだけど、ばーちゃんの陣営も驚いている。

 大丈夫、俺も充分驚いている。


 え、マジ人が生き返ったけど?!

 大丈夫なの?!


「これでわかりましたでしょう?そもそも神森女王国に戦争をふっかけること自体無謀なのですよ。そちらは多くの死者と労力と食料を無駄に出しておしまいですが、こちらの陣営はたとえ死んでしまってもいくらでも蘇生する事が出来るのです。今回の戦争では女王の妖精族的な采配で死者はおろか体に傷一つ付けることなくそちらの軍を引かせることがかないましたが、次はきちんと人間の作法に則り殺し合いです。どうなるか、子供でも分かる結果になりましょうね」


 しばらくおとなしかったシェヘルレーゼが周囲に聞こえるように言った。


 まって、それって俺以外にも妖精族には人を生き返らせる力があるって思わせるって事か?

 方便が過ぎるだろうよ!


「今まで妖精族のチェンジリングの恩恵で気付くことなかったのかしらね?」


 ばーちゃんもそれに乗っかった!

 てかそもそもチェンジリングってなにさ。ふわっとしたことしか分からない。

 だってみんな知ってて当然みたいな顔してるんだもん。

 今更聞けないよね。

 でもそういうところに気づいちゃってくれちゃうのが我らがシェヘルレーゼさんだった。


「妖精族のチェンジリングとは、死に瀕している赤子に対し、その赤子の親が必死に願うことでその赤子を妖精が迎えに来て大人になるまで妖精のもとで育て、元の家に戻すというものです。人格形成は妖精族の任意によるものですが、死が確定している赤子が健康になって戻ってくるという言い伝えですね」


 村人たちの認識の確認のために説明しつつ俺にもそれとなく教えてくれるテイをとってくれるそれ、さすがだよね。

 ちなみにシロネ、ティムト、シィナは俺同様詳しく知らなかったのか、「へー」と感心しているところ、俺は当然知ってますけどという顔をしておいている。


「それは知っていたが…本当だったのか」


 我が子がどこかで生きてさえくれていればいいと思うのか、ぶっ飛んだ性格、または気弱な性格になって戻ってこられても困るから死を受け入れるか。

 育つ過程を知らなければ受け入れがたいかもな。

 そもそも親元で育ったところで普通に育つのかってところだけど。


「生きていてさえくれればいいと本気で願った人にだけ、だけどね? ほら、妖精の気まぐれで育てるから、結構な確率で自由奔放な性格に育っちゃうか、あり得ないほど真面目になっちゃうか…両極端になっちゃうのよ? ね?」


 なんで最後疑問形?説明に飽きたのかな?


 そんな妖精族の生態はともかく、ラーダちゃんが生き返ったのをかわきりに、続々と「生き返らせ希望」者が列をなした。

 意外と家の中に死体を置いておく人が多かったのはびっくり。

 というか、墓を掘る気力すらなかったようで、家族の死体を見ながら自分も死んでいくんだろうなとぼんやりと思っていたようだ。


 残念ながら一週間以上前の死体はどうにもならなかったが、それでも自分達が元気になったために墓を掘ることが出来るだけでも良かったという人がほとんどだった。


「意外だな。蘇生期間が間に合わなかったという人の家族に『なんでもっと早く来てくれなかったんだ!』とかなじられたり罵倒されたりするのかと思ったけど」


 それぐらいは言われるのを覚悟はしてたんだけどな。


「まさか。他国の、それも我らが亜人と呼んで一方的に敵対していた方々にこんなにもよくしてもらっておいて誰がそんなことを言えますか。そもそもこうした死者が増えたのはこの国があなた方の国に頭を下げる事をせず、武力で糧を得ようとした結果です。…今ならそう納得できます」


 俺の呟きが聞こえたのか、近くにいた村人がこたえた。


「そうよね? 国同士で言うなら自業自得よね? でも…今後も私達の国に敵対しないなら、私達はこの村を支援しても良いと思っているけど、どうかしら?」


 ん?

 ばーちゃん?


「それはどういう…」


「そうね、亜人だなんだといちいち蔑んで接してくるのではなく、普通に人と接するように交流できるのであれば、畑に作物が実るようにしてあげなくもないってお話よ?」


「なんでばーちゃんはそんなことするの? 被害はほとんどなかったにしても、侵略してきた国にそこまでする?」


「それを言ったらせーちゃんだって敵国の人間を生き返らせてどうするのよ?」


「あ、そう言えば。なんとなく流れで?」


「ンもう、テキトーなんだから」


 ばーちゃんには言われたくないよね。


 俺とばーちゃんの会話を聞いて、周囲の人はドン引きだ。

 ばーちゃんの側近さん達も、村人たちもな。


 それでも早めに気を取り直したのは村長という老人だ。


「どうして敵国に来てまでこのようによくしてくれるのですか? 先ほどのお話にもあったように、この国はずっとあなた方を亜人と蔑んできたはずです」


「あら、知らないの? 妖精族ってね、困っている人は放っておけないのよ? 困った人には盛大なイタズラをお見舞いしちゃうけど、そこに困ってる人がいるって知ってしまうとおせっかい焼きたくなっちゃうのよねー?」


「なんと…」


「あ、でもそのおせっかいは我々にとって無害な人に対してよ? 一応この国に来た口実は報復よ。やられたんだからやられた以上にきっちりやりかえすわよ? 妖精ってね、執念深いから。ひどいことされたら、酷いことした人の顔や位置をしっかり覚えて、きっちり仕返しするのよ? 獣人族は忘れっぽいからそのうち忘れちゃうかもしれないけど、匂いで思い出しちゃうかもね?でも妖精族は忘れないわ。覚えておいてね」


 耳の良い獣人族の人達がばーちゃんの獣人ディスりにイラっとしたようだ。

 でもばーちゃんは気にした様子はない。いつもの事っぽいな。


「……心します」


「そうね、仲良くしましょ? そしたら無害な関係でいられるわよ?」

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