097 戦争に加担する
我ながら大胆な事しようとしているとは思う。
けど、どう考えてもこれが一番、多くの命が助かるとしか思えない。
偽善的な考えだと思うよ。
こういった戦争に人が死ぬのは当たり前だ。
それを横から人の命がどーのなんて言えない。
双方国同士、とるかとられるかだから。
攻めてきたほうは食糧難が死活問題になっていて、だからって攻め込まれる方もただ蹂躙されるってのも馬鹿げた話だし。
話し合い?
無理だよね。攻め込んでくる方は「たかが亜人国家」としてしかこちらを見ていない。
ばーちゃん達の国を完全に見下している。格下の国をちょっと攻めて従属させようとしか思ってない。
これまで攻めてこなかったのは、戦争にはカネがかかるから。
今回攻めてきたのは戦争でもしないと食料が手に入らないから。
食料は欲しいけど、「亜人国家」相手に頼みごとはしたくない。
だったら奪えばいいという一方的でイカレた考えによる戦争だ。
というピクシー=ジョーによる裏どりも出来ている。
だからここは心を鬼にして対応も出来る…と思う。
大丈夫。命はとらない。
てか俺のスキルに命が取れそうなスキルは一切ない。
あってもストッパー的な何かがあって使えない謎仕様。
無属性魔法でシュパッと首取れそうとか?
ためしに雑草で試したけどダメだった。
俺の無属性魔法は空中に浮くとか、移動させるとかなら余裕で出来たけどな。
植物魔法で植物操ってシュパッと首取れそうとか?
俺の植物魔法、高校生仕様とか謎の仕様で植物の成長とか交配とかそんなもんにしか使えなかったよ。
聖女スキルの聖女の呪い?
あぁ、ある意味殺せたね、相手の毛根。
誰で試したとかはノーコメントだけど。
俺にできるのはそれだけだった。
でもそれが出来たから今回の作戦を思いつけた。
目の前に広がる大地。
その先にだいたい灰色の砦。
石造りで、ところどころ緑のツタが這っている。
敵兵なのか、砦の上には何人もの人がいる。
その砦の前には何百人なのか、千人以上なのか数千人なのか。
あんな大勢に対峙したことないから何人いるかわからない。
とにかくたくさんの兵がいる。
軍隊ってやつなのかな。わからないけど。
そんな大勢と対するは俺と、なんとなくシロネとティムトとシィナ。
子供を戦場に出すってどうなの。と思ったんだけど、二人とも一緒に行くって聞かないし、最悪俺の結界で何とかなるかな…とか。
いや、最近結界について本当に信用して大丈夫なのかとか考えさせられる機会があったけどさ。
今回ばかりはきちんと考えられ得る限りの防御力の高い【堅牢なる聖女の聖域】を張った。きっと大丈夫。
たった4人でたくさんの人達の前に出る。
「妖精族め、ナメおって!」
数百メートル離れているのに、聞こえる敵さんの激怒。
魔法かな?
こわいなー。
頼みますよ、結界さん。守ってね。ここで誤作動とかやめてね。
「妖精族は基本相手をおちょくり倒して舐め腐るものよ?知らなかったの?それが嫌ならおうちに帰ったら?」
え?
気付いたら隣にばーちゃんがいた。
負けずに魔法であちらに声を届けたようだ。
「ばーちゃん?」
なんでここにいるんですかね??
「やーね、ここでおばぁちゃんがでないわけないじゃない?孫一人敵軍の前に放り出すなんて、おばぁちゃんにはできないわよ?」
俺への返しは普通の音量だ。
「いやいや、総大将が護衛も連れずにおかしいでしょ?!」
「大丈夫よー。シロネちゃん達いるし、せーちゃんも結界術は大得意なんでしょ?だいじょぶだいしょぶ」
女王様のノリが軽すぎる。
俺のばーちゃんとしてはカッケーばーちゃんだなって思うけど。孫とともに敵に立ち向かう?姿勢がね。態度はアレだけど。
「亜人風情がふざけおって!戦場を汚すな!それとも亜人は戦の作法もわからんのか!」
敵さんさらに怒ってる。
血圧上がってるなー。
「あらあら、坊やたち、ここは妖精族が統べる国よ?ここの作法に従うのは坊やたちの方よ?そもそも坊やたちも自国のお作法もなってないようよ?無知なの?誰も教えてくれなかったの?とってもかわいそう」
そうか。
ばーちゃんも煽る系の人か…。
「何が作法か羽虫どもが!」
「やだ、若いのにもうさっき自分で言った言葉忘れちゃったの?作法言いだしたのは坊やたちよ?もしかしてもう老い?それとも残念な素なのかしら?」
しばらく続く言いあいを俺達はただ聞いているしかない。
戦争ってこんな感じなの?
悪口とかあげあしとりとかそんなんばっかじゃん。
のんびり眺めているうちに、ついに敵将がばーちゃんの煽りに根負けし、ブチギレて開戦の号令をかけた。
うおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!
というたくさんの人達の声が響き、こちらに向かってくるのが体感でもわかる。
ちょっとした地響きが体に伝わる。
「んもう、堪え性のない子ね。逆に心配よねー?…さて、せーちゃん、準備はできて?」
おどけているけど、ばーちゃんは少しかたい表情をしている。
ばーちゃんも緊張してんだな、ってのがわかった。
「あ、うん。すぐ終わるし。いつでもできるよ」
「そ?じゃーもうお願いできる?砦にいるの以外は全軍こっちに向かってるみたいだし」
「りょーかーい」
なるべく軽く応える。
矢とか投石機とかで既にこちらにもガンガン攻撃が向かっている。
けどしっかり俺の結界が防いでくれている。大丈夫だ。
軽く息を吐き、ちょっと気合いを入れて…
「武器、防具、衣服、皮製品、布製品、植物製品、魔物製品、魔道具を指定…【アイテムボックス術】!」
わざわざ声に出さなくてもいいんだけどね。
一応。
なんとなくキメ顔も付けて言ってみたよね。
魔力を一気に地面に広げ、特大の魔法陣を構築。
レベル1000超えの魔力をここに……!
まぁ、それでも勇者や賢者のレベル50時のMPより少ないんだけどね。
でも基準が世界トップの職業だから、なんとかなるよな!
それに俺には聖女スキル、MP半回復する【聖女の慈恵】と全ステータスを3割増しにする【聖女の恩寵】がある。
常にそれを自分に掛け続け、どんどん魔法陣を広げていき、砦までをも魔法陣に入れてしまう。
敵方は一瞬魔法陣にビビるも、ここまで来て引き返せないみたいでかまわず突っ込んでくるようだ。
俺も負けず、気にせず作業に終始する。
充分敵方に魔法陣が行きとどいたのを確かめ、地面にぴったり張り付いた状態の巨大な魔法陣ぐぐぐっと砦の上まで引きあげ、そして
「収納!」
その言葉と同時に、さっきまで魔法陣内にいた敵全員が丸裸となった。
「あらまぁ、話に聞くよりひどい。集団公衆ワイセツ罪なのかしら? 体面を気にする人間からしたら絶望でしかないのじゃないかしら? 写真に撮って砦の向こう側全土にばら撒こうかしら? あの間抜けな姿。ウフフフフ」
武器も防具もなければ攻撃できないだろう。
相手は全員人族だ。強靭な爪も牙も毛皮もない。
馬具も靴も素肌を隠す服も布もない。
身を隠すものもない状態で堂々としていられるか?
俺なら絶対できない。
恥ずかしすぎる。
数秒して敵方も自分たちの状況に気付いた。
馬から落ちている人達も当然いて、何が起こったのか分かってないようだったが、自分の肌色を見て混乱している。
どよめきが起き、次第に阿鼻叫喚にかわる。
体を隠すものは己の手しかない。
めっちゃ髪が長い人はラッキーだね。
髪で隠せる。
「よし、追撃だ!【聖女の呪い】!」
俺は調子に乗って敵方へ向かって聖女スキルの【聖女の呪い】を発動。
みんなツルツル、丸ぼうず。隠すものはいよいよ手しかなくなった。
「せーちゃんは鬼ね!小悪魔ね!さすがおばぁちゃんの孫ね!うふふふ、うふふふふふ!みてみて!みんなびっくりして右往左往してるわ!おもしろいわね!急に着るものがなくなると、人ってああなるのね!」
ばーちゃん、楽しそうだな。
俺は心が痛いよ。
俺ならあんな状態、絶対嫌だからな。
仕方なかったんだ。
だって戦争だもん。
命があるだけイイじゃないか。
…たぶん。
俺はスキルや職業的に人の命を奪うことはできないけど、人としての尊厳は奪うことが出来るようだ。
命と尊敬、人によってはどちらが大事かはわからない。どちらも大切なものかもしれないな。
「こうして実際目の当たりにすると、えげつないッスね。自分、あんなつるっぱげにはなりたくないッス。耳も尻尾もあんな風に禿げたらと思うとゾッとするッス」
シロネは本当に嫌なのか、自分の腕を抱え、顔色悪くガクブルしている。
対してばーちゃんと子供たちはゲラゲラ笑っている。
「…可哀想だがトドメだ」
俺は砦へ向けて植物魔法を放つ。
砦周辺の生きてる植物が全て種へと戻るように。
そして自棄をおこしてこちらに向かってこないように縦にも横にも長大な透明で分厚い結界を張っておくことも忘れない。
これで砦へ戻っても身にまとえそうなものはほぼないはず。
馬や馬がわりに使っている魔物を牽くものもない。
大変だよね、きっと。
もう自国へ戻るしかないと思う。
素っ裸で。




