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096 馳せ参じる

 


 それから急いで残りの朝食をかっ込んで出かける支度をし、親のいない子は速やかに【聖女の願扉】で俺が名前だけ院長を務める孤児院に丸投げ。

 幸いにも<俺や孤児院関係者に対して現状ならびにこれからも害にならない>という結界の指定から弾かれることはなく、すんなりスタッフに預けることが出来た。あとはうまくやってくれるだろう。


 後は残りのメンバーで、あの港町の商業ギルド前に。

 一応【聖女の願扉】から出る時は認識阻害風な感じの効果のある結界を出してからだったから通行人にはバレてないはず。あとはじんわりとその効果を消していけば


「セージ様!」


「お、シロネ。ご苦労様」


 シロネの後ろには知らない大人の男女が数名。

 俺の後ろにいる子供達を見て涙を流し、子供に抱きついたりして感動の再会を果たしている。


「セージ様もご無事で何よりッス!」


「ありがとう。ちょっとドジ踏んで自業自得感は否めないけどな」


「いえいえ。セージ様のおかげで同じようにさらわれた子たちが無事だったんッスからある意味ではセージ様のファインプレーかと」


「おれたちは護衛としてダメダメだけどな」


「守りきれなかった」


 悲しげに俺のナイスな攫われっぷりを褒めてくれるシロネと、声を聞くまで居ることに気付かなかったティムトとシィナ。

 ちびっこ護衛の彼らは物凄く落ち込んでいる。


「何言ってんだよ。シロネも言ってただろ。俺がさらわれたからあの子たちも一緒にここにこれたんだ。あの子たちの親御さん探してくれたんだろ?ありがとな」


 わしゃわしゃと二人の頭をなでると、自分もと言わんばかりにテンちゃんが割り込んできた。

 そう言えばこのわんこも居たなと思い出し、忘れていた事にちょっとした罪悪感もあってこっちもわしゃわしゃと撫でまくった。


 こちらで一通り一段落すれば、あちらの感動の再会組も少し落ち着いたらしく、お礼を言われた。

 そしてあとは各々の自宅へと戻って行った。


「残りは二人か」


「カジュさんとツヅリくんは神森女王国出身と伺ったっスけど、ゴタゴタもあってうまく連絡とれなかったッス。一応無事はお知らせできたんスけど、それからどうするかはあちらも大変みたいで、『無事ならよかったー』で話が止まっている状況ッスね」


 シロネ、ばーちゃんの国の名前知ってたんだ。

 でもってこなれ気味に略してる。さすがシロネだ。


 そうか、残ったカジュともう一人の少年はツヅリくんと言うのか。

 エルフッ子だからこの子ももしかして俺より随分年上なのかもしれない。はじめの自己紹介の時くらいしかまともに話してないからわからないけどな。


「どーゆーこと?」


「いやー、なんかカジュさんのご家族は貴族の家系でツヅリくんのご家族は騎士の家系とかで、前線に出る方と避難される方で分かれるらしく、避難先をどこにするかてんやわんやのときだったんっスよ。話が進まないので、取り敢えず無事はお伝えできたし、こっちでセージ様に合流してから考えようって事でまずこっちに来た次第ッスね」


「なるほど。なら…いい、のか?」


「そうッスね」


「お、おう。てか随分移動早いみたいだけど、こっからばーちゃんとこは近いのか?」


「結構遠いッスね。それに道も入り組んでいて、まともに移動してたら何日もかかるっぽいッスけど、ヒューイが頑張ってくれたッス」


「おー。すごいな。そのヒューイは?」


「目立つんでそこの商業ギルドの裏手にある倉庫街に続く脇道で待機してるッス」


「そうか」


 さらわれた子とそのご家族の感動の再会に水を差すレベルの見た目だからな。気を使ったんだろう。

 流石にファンタジーなこの世界でもロボはかなり目立つようだし。


「そろそろいいかしら?」


 今まで事の成り行きを見ていたカジュが俺とシロネへと声をかける。


「あ、そうだった。カジュ、この狐の人はシロネといって俺の秘書兼雑用を任せられる人だ。こっちのちびっこたちは俺の護衛でティムトとシィナだ。白いのが犬のテン。で、皆は知っての通りこのエルフの人がカジュさんとツヅリさんだ」


 お互いぺこりと挨拶。


「よろしくっッス。画像の通りッスね」


 親御さんを探すにあたって調べてもらう時、名前や住所とともに本人の画像も添付しておいたので、シロネ達はカジュ達の事は画像で知っていた。


「がぞう?」


「あぁ、えー…うん」


 どうしよう。説明が難しい。

 チラリとシロネを見ると、心得ているとばかりにとくに視線を交わすことなく流れるように…


「あ、カジュさん達の情報をセージ様から伝え聞いた時、一緒に絵姿も送ってもらったんッスよ」


 と説明してくれた。

 すげー。


「え??あの短時間で?」


「そうッス。そういう魔道具があるんスよ」


「あぁ、魔道具」


 納得してもらえた。

 すげー…。


 とりあえず不思議な事象は全て「魔道具」という言葉で解決できるようだ。


「それにしても…犬?これどう見ても犬じゃないわよね?…え?犬?」


 魔道具よりも犬に興味津々のようだ。


「そうッスね。セージ様が『犬』って言ってるッスね」


「あぁ。そういう…」


 シロネの言葉に納得し、残念なものを見る目でこちらを見てくる年上系エルフ少女。


 だって犬じゃん。毛並みがふさふさのまりもみたいな白いポメラニアンじゃん。




 ・・・・・・・・・・




 さて。犬の事は適当に流して俺達は戦場へと向かうことになった。


 こちらの予定ではそんな大それた戦場とかじゃなく、避難民がいる街や村へと行く予定だったし、行ったさ。


 けど俺のこの顔がここでも悪い方へと導いてくれた。


 俺を妖精族の王族と勘違いした、町に滞在していた武官が、流れるように俺達を戦場へとお送りしてくれた。


 俺の周囲にいる人達も誤解を招く一因にもなった。

 エルフ2名と獣人1名、人間の子供に見えるが装備がすごいからきっと小人族の猛者たちだろうということであれよあれよと戦場に導かれてしまった。


 人同士が争う様子はないけど、武装したたくさんの人達がいて、雰囲気は今から争い事が始まるのではないかという雰囲気の中。


「あら、せーちゃん。どうしたの?」


 忘れ物でも?とでもいうような口調でばーちゃんに声を掛けられた。


 めっちゃ鎧姿なんですけど。


 ばーちゃんの周りにも、一緒に北大陸まで来ていた人達が武装しているし、見たことない人もいっぱいいた。

 けどみんな俺の顔を見るなりすんなりここまで通してくれた。

 それがいいのか悪いのか考えに困る。


 ちなみにここまで通される間、カジュ達とは一旦別れた。

 今はシロネとティムト、シィナがそばにいてくれている。


「避難しているとかいう村人たちが多くなって食料や生活用品が不足してそうな町に支援物資でもと思って町に行ったらここに連れてこられて」


「あはは、なぁに?それ。せーちゃんウケるー」


 ばーちゃんが爆笑してきた。

 ウケられてしまった。


「俺だってわけわかんないよ」


「あははっ、もう。ダメよ?時には“ノー”と言わないと。怖ーいおじさんにこんなところに連れてこられちゃうんだから。……ぷくくく…あははは」


 めっちゃ笑うんですけど。

 武官も「怖いおじさん」呼ばわりされて眉をひそめているけど、ばーちゃんには何も言えないみたいだ。


「ふー。まぁ、来ちゃったモノはしょうがないわよね?あなたも本人から詳しい話を聞かないでこんなところに連れてきちゃダメでしょ?」


 一瞬だけマジな視線を武官に向けるばーちゃん。

 でもすぐに気を取りなおすように俺にまた話を戻し、


「これからね、戦争が始まるのよ。人々がガチで戦うの。あそこに見える砦を、取り返さなきゃいけないの。とーっても血なまぐさい凄惨な現場になるの。おばぁちゃんね、そんな現場にせーちゃんにいてほしくないなーって思うのよ?」


「あー、うん。俺も嫌かな。血なまぐさいとか、凄惨な現場は」


 当り前だろう?


「そーよねー? だからせーちゃんは軍の後ろの方で待機するか、町まで戻ってほしいの」


「でもここまで来てまたうしろにさがるってのもアレじゃん?」


「全然アレなんかじゃないわ。現場を見るだけじゃすまないかもしれないもの」


 いつになく真剣なまなざしで諭すように言われる。


 そうか。

 マジの戦争をするのか。


 戦争とか、目の前で人が死ぬとか正直実感わかない。

 そういう映画やドラマを見たこともあるけど、身近なものごととして見たことないし。


 でもさ。

 この状況で、俺が得たスキルがあって、そのスキルでどうにかできるかもしれないって、それを思いついてしまったら?


「なー、ばーちゃん」


「ダメよ、絶対」


「きいてよ」


「ダメ」


「ばーちゃんってば!」


「ダメったらダメよ!」


「あのー」


 ばーちゃんと俺の不毛なやり取りに、こそっと手をあげるシロネ。

 流石シロネ様。援護よろしくお願いします!


「なぁに、シロネちゃん。あなた、この状況でせーちゃんの味方なの?」


「この状況も何も、もとより自分、セージ様の味方でしかないッスよ?」


「なんという家臣の鑑!…じゃなくて!」


「あははは、まぁ、当然ッスけど、こちらもそうじゃなくてッスね、一言言わせていただくと、セージ様は物理や魔法の攻撃系のスキルはありませんって事ッスね」


「…………ん? え? え、それじゃぁせーちゃんのかわりにあなた達が戦うって事?」


「やろうと思えばそれも可能ですが、たぶんセージ様がなさろうとしている事はそういうことじゃないッスよ」


「えー? ますますどういうこと?」


 不思議そうにするばーちゃんの視線を俺に流し、説明のパスをシロネから受け取る。

 俺もなんとなく空気読んでる感が出来ている気がする。やったぜ。


「なー、ばーちゃん」


「なぁに?せーちゃん」


「こういう戦場では、きちんと戦わないとダメなの?」


「どういうことかしら?」


「たとえば落とし穴とか、たとえば見えない壁を作ってこっちに来させないようにするとか、敵を丸裸にするってのは卑怯だからダメ! …とかないの?」


「ないわよ? 妖精族が主になっている国に戦争を仕掛けるんだから、妖精の悪戯(イタズラ)にいちいち目くじら立てちゃ戦争もままならないわよ?」


 それどういう認識…。

 でもそれならこっちとしては何の危惧もないな。


「そっか。それなら俺も手伝えるよ」


「なるほど…確かせーちゃんはすんごい結界を張ることが出来るスキルがあるって話だったわね…。あ! わかったわ! 敵が勇んで攻めてくる時に見えない壁を張って自滅させるって戦法かしら? 騎馬兵には有効かもしれないけど、それは前線にしか効かないわよ?」


 聞くとエグイな。


「それで敵の心がへし折れるならできなくもないけど」


「無理ね。そんなんじゃ諦めてくれないわ。後続が注意深くむかってくるだけ、もしくは矢で偵察掛ければ済ませられちゃうし」


「だよね。だとしたら……」







 俺の作戦をとりあえず試してみることになってしまった。

 ばーちゃんサイドには何の影響もないし、やるだけやってみるのもアリだよね、なにより面白そうだし、安全だし。

 というばーちゃんの鶴の一声で作戦が進んでしまった。



誤字報告ありがとうございます!



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