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095 現状

 


「それ、確かなの?」


 アーシュレシカの配下久遠の騎士が俺に報告してきた事を、同じ食卓を囲んでいた年上エルフ少女のカジュが聞いていて、それからすぐに顔色を悪くしながら聞き返した。


「はい。セージ様の祖母様に付いておりますアーシュレシカからの情報ですので間違いございません」


「そんな…」


「ばーちゃん達は無事なんだよね」


 報告に心を痛めているらしいカジュをよそに、俺は一番気になることを聞いた。


「はい。この度の侵略に関してはあらかじめ予想はしていたようです」


 聞けば、国を出る前からきな臭い情報を得ていたばーちゃんは、“国の最北にある北の砦にあらかじめ侵略がありそうだからもしマジで侵略されたら速やかに砦を放棄して逃げてね、自分が帰ってきたら改めて戦争と向き合うからー”と、あえて自国、ひいては西大陸を出て様子見をしていたそうな。


 それって国主としてどうなの?


 で、北大陸より戻ってから西大陸の港でさらに数日足止めをされそうな雰囲気だったのだが、ピクシー=ジョーからもたらされた情報により一方的な開戦が判明。


 ばーちゃんが北大陸にいる間に国を奪おうとしたみたいだけど、思いの外早く帰ってきたから慌てているみたいだ。


 先日までいた港がある国もグルだったってことかな?

 それともあの港の領主、または入国審査する役人がカネでも掴まされたのか。

 それとも北大陸から出る船からしてこの度の侵略と関係あったのかも。今考えればアレも足止めっぽいよなー。


 ちなみに俺達が誘拐されたのはとくに因果関係なかったようだ。

 たまたま不運が重なっただけで。


 ばーちゃん達は国が戦時下である事を理由にさっさと港町を出て国に向かったそうな。


 それで国での混乱とピクシー=ジョーの情報を照らし合わせ、予想通りの現実にうんざりしているところなんだと。


「え、うんざりなの?そんな程度なの?」


「今のところ死人は出ておらず、砦とその周辺の村々では食料や貴重品をしっかり持ちだした上で避難が完了されているので充分余裕があるそうです。むしろあちらの情報管理がずさんでこちらに奇襲がバレバレだったことに嘆いてもいるらしいです」


「戦争ふっかけてきたやつらの事を嘆いてるの?それはまたずいぶん余裕だね」


「多少の嫌がらせに各井戸に大量の粉末トウガラシを投入し、下剤入りの食料を置いておいたそうなのですが、それにまんまと引っ掛かったようで、『こんないたずらに簡単にひっかかるなんて』とも嘆いていたそうです」


 その井戸、戦争終わって村々に戻ったあとどうするつもりなんだよ。いたずらにしては死活問題じゃない?!それに…


「他国からすればそんな怪しい食料に簡単に飛び付く程食料不足って事なのか?」


「それはそうかもね。西大陸の玄関口である港を抱えるシーベルン商業国と神森女王国以外の食糧事情は結構悲惨なものだって話だったわ」


 報告を聞き、気を持ち直したのかカジュも話に加わった。


 なるほど。あの港はシーベルン商業国というのか。

 ばーちゃん達の話では西大陸で船の出入りが出来る港があるところってあそこしかない事だったし、そうなんだろう。


 そのシーベルン商業国では最悪でも海から魚が取れるんだろうし、輸入品だって簡単に手に入りそうだ。

 港がなくたって海に面した国なら小さな船で漁業はできるだろうな。


 となると問題は内陸国家か。


 一応ばーちゃんとこもこの内陸国家になるんだろうけど、ばーちゃんの話ではほぼ樹海でできた国らしく、樹海の一部を切り開いてなんとか農業も出来ているみたいだったな。

 後は狩猟と広大な森にある木の実とかかな。


 樹海は樹海で大変そうだよな。

 ゴブリンよりトレントの方が多くて、しょっちゅう道が塞がれているとか聞いたし、こまめに森を切り開いていないとすぐに昼間でも木々の茂りで暗くなるって話だったし。


 だから人が住んでいない地域は鬱蒼とした樹海で方向感覚をすぐに失ってしまうから気を付けるようにって言ってたな。


「そうなんだな。ここでも食料問題かよ」


「神替わりしてから日に日に酷くなっているわね。今はその話より戦争の話よ。北の砦を制圧されて、次はどうなるの?本格的な戦争になるのかしら」


 砦を制圧されたんなら既に本格的な戦争なのでは?

 この世界ではそれくらい日常茶飯事なんだろうか。

 それともまだ戦死者が出て無いから本格的とは言わないんだろうか。


 うわ、戦争やだな。

 魔物がいる世界なんだから魔物にだけかまけていればいいのに、わざわざ人同士が争うことないのに…。

 って、そういえば食料事情で侵略せざるを得ないんだっけか。


 うーん。どう考えてもこの世界詰んでる気がするだけど。


「ん?神替わり?」


 危うくスルーするとこだった。

 そういえば神様がかわってから食料問題になってるんならまた前の神様に戻ってきてもらえればいいんじゃないの?

 てか、居たんだ。神様。この世界に。


 いやー、だとしたらクソすぎるだろ。

 なに勝手に他の世界の人間召喚許してんだよ。


「ええ。中央大陸のなんとかって国が率先して前の神を邪神に堕として今の神をまつりあげたの」


 それって俺達を召喚した国なんじゃ…。


「神を交代させるってのは普通なの?」


 そんなこと言ったらカジュに“は?何を今更”みたいな目で見られた。

 けどすぐに何かを諦めたように説明してくれた。


「まさか。普通ではないわ。世間一般では神がかわった事すら気付いていない人は多いわね。…そうよね。これはあまり表沙汰にされてない秘匿事項だったわ。主導した国はそのなんとかって国だけど、神替えは人族至上主義を掲げている国々が賛成して行ったの。自分たちの都合の良い神を主神にね。けどもともと邪神とされている神よ。そう都合よく行くわけないじゃない。そしたら案の定よ。世界は飢饉にあえいでるわね」


「自分たちで崇め始めた神に裏切られたってことか?」


「裏切られたと言うより、予定が狂ったようよ。神がかわる時、大地からたくさんの力を必要としたの。でもそのかわり新しい神は自らを崇める国々に聖女が生まれるように、または召喚できるチカラを授けたって話ね。神替えに関係ない国からすればいい迷惑だわ」


 そうカジュは心から忌わしそうに説明してくれた。


「そっか。神様についてはとりあえず分かったよ」


「わかってなさそうな口ぶりで言われてもね」


「まぁ、ホントに神様なんていたらマジで力の限りぶん殴りたいからさ」


「それは不敬がすぎるわよ?!たとえ軽口だとしてもね」


 あ、ちょっとマジで怒ってる。

 けどそんなのはどうでもいい。

 こっちだって思うところはたくさんある。


「その新しい神様と中央大陸の国によって母と妹と引き離されたんだ。非力な俺が数発殴ったって大したことないじゃないか」


「……それはそれで、どうなの」


 俺の境遇をスルーして俺の自己申告の非力さにあきれた模様。


「まー、それは今どうでもいいか。それより戦争、心配だな。ばーちゃんとこにはシェヘルレーゼもアーシュレシカもいるから心配はないけど、砦付近の村々の避難先もそのうち危なくなるってことだよね?」


「そうですね。今は様子見と作戦の立て直しですが、やはり衝突は避けられないかと」


「なによ。王族としての責務だとかで先陣でもきろうと?」


「何度も言ってるけど、俺は王族でもなんでもないからね。そもそも血のつながりもないんだから。建前上のばーちゃんがこの世界で国主してるだけってだけなんだから」


「妖精族に血のつながりなんて関係ないじゃない。妖精族の半分はチェンジリングで得た家族ってはなしよ?」


「そ、そうなんだ」


 それすごいな。

 ヘタしたら誘拐じゃねぇか。


 でも話しぶりからして妖精のチェンジリングと誘拐は別モノっぽいよな。


「とにかく、俺は正直戦力外だし俺に出来る事は何にもないけど、ばーちゃんが大変そうな時に遠くでのんびりはできない」


「近くでのんびりするつもり?」


「ちげーよ!」


 もはや敬語とか使う気も失せてきたわ!


「妖精族ならやりかねないからね」


「だから妖精族じゃないっての!必要物資の調達なんかのパシリくらいならできるかなって思っただけだよ。砦近くの村々から避難してきた人達に、ここで採れた野菜や小麦を届けるだけでもさ」


「ふーん。いちおうちゃんと考えてるのね。関係ないとか言って高みの見物でもしてるのかと。それか足手まといに余計なこと言いだして現場を混乱に陥らせるのかとも思ったわ」


 散々な言われようにげんなりする。


「あんた俺の事なんだと思ってたんだよ」


「状況を面白おかしく楽しむ妖精()族のはしくれかしら?」


「マジか。いやホント違うから勘弁してください」


「そ。ならわたしも連れてってくれない?」


「え?なんで?」


「…逆に聞くけど、国元が大変な時に、貴族令嬢たるわたしが馳せ参じなくてどうするのよ」


「……カジュはばーちゃんの国の人だったの?」


「気付いてなかったの?!てか自己紹介した時言ったわよね?!もしかして覚えてないとか…」


 あの港町のある国の御令嬢かと思ってましたとも。


「あ、うん。なんかごめん。それに貴族令嬢って戦争に馳せ参じるものなの?普通疎開したりするもんじゃないの?」


「………あなたがわたしに一切興味のかけらすらない事はよく理解できたわ。ふぅ…。とにかくわたしはその普通の令嬢と違うから一緒に連れていってって言ってるのよ」


 物凄く不機嫌そうに言われた。


「そ、そうですか。わかりました」


 怖いので頷いておくことにした俺は悪くないと思う。


「他の子の家族とは連絡付いたのかしら?」


 問われたけど分からなかったから、アーシュレシカの配下久遠の騎士に目配せすれば、頷かれた。


「今朝の時点で親が判明している子の家族と連絡が取れました。受け入れ可能です」


「ならすぐ帰そう。親のいない子はどうするんだ?」


「どうするもなにも…あなたが何とかするしかないのじゃないかしら?」


「え?」


「あなたが連れてきてんだし」


 うわ…。

 そうですかー。


「わかったよ」


「…意外ね。すんなり請け負って大丈夫なの?」


「まあ、これでも北大陸で孤児院の院長してるんだ」


「北大陸?…あぁ、あの扉を使えば距離なんて大した問題ではないってことかしら?」


「そういう感じですかね。本人達の希望もあるし、聞いてから孤児院に預けるかどうかだね」


 それから親のいない子に聞いてみたらみんなとりあえずひと月は孤児院に行ってみて、気に入ったらそこで生活を、無理だったら元の地域に戻るということで話が付いた。


 一応「元の地域に戻ってもまた人さらいにさらわれるぞ」と注意はしておいたけど。

 コレばっかりは無理に引きとめるわけにもいかないしなー。


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