094 牢破り……?
【堅牢なる聖女の聖域】効果でみんなの精神が持ち直し、少しでも安心できたところで、皆に付けられている隷属の首輪をはずす作業に入った。
まず、【聖女の慈悲】で隷属の首輪をただの頑丈な金属の首輪に変えた。
次に、鍵の部分を破壊すれば首輪が取れるはずなんだけど、自分の首元ってなかなか見れない。
それでも鏡を見ながら金属カッターで切ろうとしたら、その音で子供たちが恐怖したので、年上のエルフ少女が外す作業の手伝いを立候補してくれた。
「その物騒な魔道具はしまって。外す作業はわたしがするわ」
「あ、どうも。よろしくです」
ここでは金属カッターは魔道具に当たるらしい。
というか、金属カッターの代わりを少女がになうとはこれ如何に。
ゴリラなのだろうか。それとも金属カッター並みの魔法でも使うのだろうか。
ガチャン
……。後者でした。
一瞬だったから分からなかったけど、物理的なものではなかった。……気がする。
茫然とする俺に、年上のエルフ少女は教えてくれた。
「水魔法と風魔法の複合魔法よ。本来ならこんな至近距離で使ったら体が真っ二つ間違い無しなんでしょうけど、あなたの結界のおかげで何の憂いもなく使える魔法ね」
お、おう。俺の結界への信頼度たるや。
結界がその魔法に負けるとは考えなかったのだろうか。
うわ。あの威力、ゾッとするな。
俺の結界マジ頑丈でよかったわ。
俺の結界の頑丈さと年上エルフ少女の一瞬の魔法効果に同牢の子供たちも安心したのか、首輪をはずすことに前向きに検討し、結果みんな首輪をはずすことが出来た。
だよね、重いからずっと付けてるのもアレだもんね。
かといって実験台なくしてごっつい金属の首輪をはずすのも怖かったよね。
そうか。これが気遣いか。
年の功的な。
……いやいや、実験台て。俺の扱いよ。
「さて、これからどうするの? 助けが来るみたいなこと言ってたけど、大丈夫なの?」
「ああ、まあ、たぶん」
「たぶん?」
「うん。なんか正攻法じゃ無理みたいなこと言われたしな。証拠もなくここまで来れないし、さてどうするか」
このまましばらく牢泊がいいのか、農地に皆で移動してのんびり待つかはとりあえずこの年上エルフ少女とオハナシしてからか。
「その割には焦ってないようだけど、他になにかあるとでも言うの?」
「あるにはあるけど……そうですね、もう一晩ここに宿泊するか、別の場所でお泊まりするの、どっちがいいですか?」
「え、それはもちろんここから出るに越したことはないけれど、どういうこと?」
「そうですか。だとしたら一旦俺の農地へ移動してもらって、そこで落ち着いている間に皆さんのご家庭に連絡を入れますかね。じゃないとほら、このままココ出たら俺が誘拐犯扱いされてしまいそうなんで」
「それは考え過ぎというものじゃないかしら? 随分と警戒するわね」
「世の中ヒドい言いがかりする人や、思い込みで色々言う人とかたくさんいるじゃないですかー。面倒ですよねー」
「うん、世の中そんな人ばかりじゃない、というツッコミはあえてしないわ」
そんな実の無い話をしつつ、年上エルフ少女の協力を得、子供たちの名前や住んでいるところなどを聞き、それを参考にシロネ達に詳細を文章で送り、親御さん達への連絡を任せた。
さっきから指示が二転三転してしまって申し訳ないけど、シロネさん達には頑張ってもらおう。
いやー、結構動揺しているみたいだ、俺。
そうだよな、よく考えたら牢に入って自分で何か考えて指示出しするなんてはじめてだからさー。テンパってるわけよ。
牢の見張りしているお兄さんとかこわかったー。
余裕ある振りしてたけど内心ドキドキよ。
知らないところに知らない人達と個室の無いところで集団生活とか無理無理ー。せめてトイレくらい個室でお願いしたいですよね。
あ、ちなみにこちらでの聞き取り調査の結果、子供たちの半分くらいがストリートキッズだったのでこちらは先行きが不透明。
このまま野放しにするのもまた捕まって同じ事になりそうだし、どうするかな。
「では、俺の護衛が誘拐の事調べたり、皆さんのご家族に連絡とったりしている間に我が農地へご案内いたしましょう」
「ええ。あえて黙っていたけど、それが一番意味が分からなかったわ。まさかこの人数全員を脱出させるのに転移魔法を使うとか言わないわよね? 宮廷魔術師並みの熟練者やMPの権化たるリッチでさえ1人2人をともとして1日1回使えれば上等なのにね。それに距離にも関わってくるけど、どうするの?この結界で結構MP使ったわよね?」
なるほど。転移魔法ってそんなんだったのか。
もし覚えることがあったら気をつけよ。
「はい。ご心配なく。そこまでMP使ってないですし、全員で一気にここから出れますよ」
「妖精族の王家の秘伝と言う【チェンジリング】でも使う気かしら?」
「いや、それが何かはわからないですが、それではないですよ。コレです」
と、説明が難しいので現物を出す。
【聖女の願扉】
行った事がある場所へ瞬時に移動できる扉。
その扉を開けた先は長閑な農地が広がっている。
「…………」
年上エルフ少女はあんぐり口を開け、驚いている。
子供たちはびっくりはしているが、見た事の無い景色に怯えと興味を抱いている様子だ。
「てな訳で正解は転移できる扉でしたー。なんてな」
おどけて言ったら年上エルフ少女に睨まれた。
「…………」
スベッたっぽい。
「ま、まぁなにはともあれ、とりあえず危険はないから行きましょうよ。ほら、あれです。美味しいご飯とか、清潔なベッド、お風呂もありますし、なによりプライバシーが守れる個室のトイレもありますよ」
個室のトイレにピクリと反応した年長組。
10歳以上となるとやはり人目抜群の超解放的すぎる同空間内にある壺トイレは嫌だったようだ。
俺がまず扉をくぐり、それから同年齢ッぽい少女と続き、最後に年上少女エルフがくぐったところで扉を閉めた。
農地に俺が来たことで、ファーマー姿の配下久遠の騎士数名がやってきたので、子供たちそれぞれの見た目と同じ背格好をした配下久遠の騎士数名に子供たちの面倒を見るように伝える。
子供1人につき一人の配下久遠の騎士を付ければとりあえずは大丈夫だろう。見た目同年齢ッぽかったらそこまで警戒はしないはずだよね。たぶん。
「すごいわね、ここ。全てが整備、管理されている空間とでもいうのかしら。それなのに嫌な感じも不安も掻き立てられない、どこかほっとする空間なんてはじめてだわ」
「それはどうも。では、身の回りを世話する者も付けましたし、連絡来るまで自由行動って事でいいですよね」
「えっ、ちょっと待って。それは流石に放置がすぎるわよ」
「そう言われましても俺、他人の面倒見るのとか無理ですよ」
「言い方が気になるけど、そういうんじゃなくて! 見知らぬ人間をそばに付けさせて解散って酷くないかしら」
「いやいや、つい数十分前に同牢になったばかりの俺とそう変わらないじゃないですか」
「そうだけど、ここにはあなたが連れてきたんだからあなたがこの人達の他に率先して面倒見るのが筋……って、なんでそんなに物凄く嫌そうな顔してるのよ! ちょっとぐらいみんなの不安を払拭する努力とかないの?」
「あー、そういうのはちょっと……」
「なんでいらない勧誘受けたみたいな態度してるのよ! もう……いいわよ。見たところ怖くて危険な場所というわけでもなさそうだし、世話係だか護衛だか監視だか知らないけど、人を付けてくれたわけだし、この人達に聞いてここでしばらく生活していれば家に帰れるってわけね」
「おー、ご理解いただけたようで。というか、別に監視じゃないですよ。世話係と護衛は合ってますけどね。それに俺が下手くそな説明するより彼らに説明を任せた方が丁寧になんでも教えてくれますよ。ってなわけで、皆よろしくね。聞かれたらわかる範囲で教えてあげて」
久遠の騎士ネットワークでシェヘルレーゼとアーシュレシカから逐一情報入るだろうし、俺より状況わかってるっぽいから、俺からあやふやな情報を得るより配下久遠の騎士から話を聞けた方が早いし確実だろうさ。
『承知しました』
配下久遠の騎士が一斉に折り目正しく礼をとる。
執事服や侍女服なんて着てたら見栄えも良かったんだろうけど、皆ファーマー姿だからねー。Tシャツ・オーバーオールに麦わら帽子と軍手と作業用腰鞄と長靴。
うむ、これはこれで味があっていいのか。
「では、ご家族がいる子たちの家族に連絡がつくまでしばらく解散って事で」
「わかったわ。ここでは自由に過ごしていいのよね? どこに行っても良いのかしら?」
「あ、はい。この町や田畑ならどこでも。でも農地外……この盆地の外は強めの魔物がはびこってるんで、それには気をつけて下さいね」
「え、ナニソレ最後に爆弾発言しないでくれる?!」
「最後ってなんですか。今生の別れですか。あと爆弾でもないでしょう。この盆地は結界で守られてるんで大丈夫ですよ。それに世話係は皆強いので大丈夫です」
「わ、わかったわよ。絶対世話係の傍にいるようにするわよ」
「大丈夫ですよ。我々はセージ様の指示があるまでずっとお客様のおそばにおりますので」
「そ、そう。それはそれで不安ね。というか、あなた、セージ様と言うのね」
「そうでした。自己紹介もまだでしたね。ぼくのなまえはセージです」
「なにその取ってつけたような自己紹介は……。まあいいわ。人をおちょくるのが基本の妖精族相手にムキになってもしょうがないものね。わたしはカジュ=ロアム。ロアム公爵家の末っ子よ」
「うっわー……。お貴族様でしたか。丁寧な対応できず申し訳ない」
「うわってなによ。それを言うならあなた王族じゃない!」
「いえいえ。今更こう言ってもアレですが、俺は王族でもなんでもないですよ。普通の平民ですって」
「……」
ものっそいジト目でみてくるー。
「いやいや。マジで。確かに今まで祖母と信じていた人はどこぞの国の女王様なようですが、自分は生まれも育ちも平民ですよ」
「……まぁ、いいわ。妖精族の親類縁者なんて複雑怪奇ですものね。そうよ。そうだったわ。軽く受け流すくらいでいいんだったわ」
今後適当に話を聞き流す予定を聞かされるんですけどー。
あと、妖精族の信頼の無さよ。
というかなんで信頼もないのに王族なの、妖精族。
クーデターとかないのかよ。
とまぁそんな感じで農地で2日過ごし、なんだかんだ皆で昼食をとっていた時、その情報は入ってきた。
「セージ様、祖母様の国が他国から侵略を受けているとのことですが、如何いたしましょう」
「え……」
「戦争です」
えーー……




