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081 移動

 


 予定になかった2度のコニーへの「お誕生日おめでとう」を言って以降はパーティーに参加することなく、平穏に誕生祭を過ごし、今はまだ町は誕生祭の熱を微妙に残したままだが、日常に戻っている。


 ばーちゃんは誕生祭が終わったので、城の部屋を出て、俺と同じ宿、というか、俺の部屋に滞在中。


 父さんたちは別な宿に滞在している。

 誕生祭が終わっても、貴族家のパーティーやお茶会に招待されているのでまだしばらく帰ることは出来ないらしい。


 ばーちゃんはとくにこの国の貴族と交流は持とうとは思ってないらしく、どのパーティーもどのお茶会も断っているっぽい。


「そんなことよりせーちゃんと一緒にいる方がいいでしょう?それに先日のパーティーで充分交流したもの。問題ないわ」


 と言っている割に、シェヘルレーゼを連れてカジノへ行っている。

 シェヘルレーゼの報告では、シェヘルレーゼ経由で俺から物凄い借金をしながらカジノに挑んでいるらしい。


 俺の代わりにばーちゃんが散財してくれていると思い黙認中。

 ちょっとは祖母孝行になればいいけど。


 子供たちは誕生祭で荒稼ぎ出来たと喜んでいた。

 あと、何故か孤児院の子供が増えていた。


 孤児院の子供たちが屋台で稼いで、そのお金で祭りを楽しんでいるのを見た貧民街の子供たちが、俺の孤児院が怪しい孤児院とかではない事を知って、孤児院の結界を通って入れる子は入り、孤児院で生活するようになったのと、誕生祭の人ごみに乗じて孤児院に子供を置いて帰る人が思った以上に多かったのもある。


 孤児院の部屋はもともと多めに作っていたのでとくに問題はなかったが、これからさらに増えるようならベッドを二段ベッドに換えて対応できなくもない。


 むしろ現状で部屋が余っているにもかかわらず、仲いい子同士や種族的な心理で寄り集まってひとつの部屋に5~6人で生活している部屋もあったし。


 それと、働き口を探して孤児院兼治癒院に来る人もいた。

 口減らしで、祭に乗じて帝都において行かれた村娘や、未亡人など。

 雇うかどうかは現場の久遠の騎士達の判断に任せることにした。

 既に何人か雇っているようだ。



 店の方は祭本番でめちゃくちゃ繁盛していた。

 強制ではないが、多めの残業手当を出すから夜まで働かないかと夫人が従業員にお願いしたところ、全員稼ぎ時とわかっていたため、残業し、どんどん客を入れていた。


 祭が終わってもパーティーやお茶会のシーズンとして、もうしばらく残業週間は続くようだ。

 働き方がブラックにならない程度にしてくれるなら良いけど。


 最近はこんな感じだ。

 あと2~3日程度でばーちゃんは国に帰るみたいなので、俺もそれに便乗する。


 それまでに何かすることはとくになかった。

 スケジュールを管理してくれているらしいアーシュレシカが善きにはからってくれた。


 農地から、帝都と行き来する配下を選んで、その配下に孤児院に食材を入れ、その後で商業ギルドへ適当に食材を卸す。

 その配下は今後帝都でのシェヘルレーゼの役割を担う。


 商業ギルドと冒険者ギルドと城に、食材と状況に応じて聖水を卸す。

 聖水は作り置きをたくさん渡しておいた。

 農地と帝都の往復には車を使ってもらうことになる。


 魔石で動くいくつかの車を預けた。

 その車にも【堅牢なる聖女の聖域】を施してあるので、最初に作った農地までのきちんと舗装された一本道を爆走すれば片道12時間で行けるっぽい。


 店もアテナに完全に任せてしまい、とりあえずあと数カ月頑張ってもらう。

 それから続けるかどうか状況を見て、やめるかどうか判断してもらう。


 孤児院兼治癒院も何人もの配下久遠の騎士が常駐してるし、食料も農地から定期的に届く。それにお金もかなり預けてあるから大丈夫だ。


 その他細かいことはアーシュレシカが調整していき、3日があっという間に過ぎた。


 俺がこれと言った準備なんて何もすることなかった。

 荷物も全部【アイテムボックス】に入れればいいだけだし、そもそもこまめに【アイテムボックス】で出し入れしてたので散らかってはなかった。

 ってことですぐに宿を引き払うことが出来た。


 今日からまたしばらく旅の生活が始まる。

 ばーちゃんも西大陸からひと月半掛けてここまで来たっぽいし、帰りもそのくらいかかるような事を言っていた。


「おい。何も説明無しか?!」


 宿を出たらコニーがいた。

 丁度宿についたところだったらしい。

 まだ忙しいさなかだと思うのに、よく来れたな。


「一応手紙で教えたじゃないか」


「忙しすぎてその手紙に目を通すのがギリギリだったわ!久遠の騎士に教えられたからこうやってギリギリで駆けつけることが出来た」


「え、まだ名前つけてないの?俺なんてこの小鳥にシエナって名前つけたぞ?」


「うっ…、い、忙しいんだよ!せっかくなら良い名前を付けてやりたいからな!」


 忙しいを理由にしている人の言い訳だが、それには突っ込まないで流すことにする。


「そうか。良い名前をつけてやってくれ。じゃぁ、俺はこれで」


「ずいぶんあっさりだな」


「もともとここまで滞在する予定じゃなかったからな。それに忘れ物したとしてもすぐ戻ってこられるし」


「あぁ、アレか…」


 さっきまでぷりぷり怒っていたのに、「すぐに戻ってこられる」方法を思い出して急にげんなりするコニー。


「まぁ、そういうことだから。じゃぁ」


「あら、皇帝。せーちゃんのお見送りですか?良い心がけですね」


 先に馬車に入っていたばーちゃんが、なかなか俺が馬車に入らない物だからしびれを切らして窓を開け、俺がなかなか馬車に入れないでいる現況にトゲのある言い方で声を掛けた。


「チッ、西の魔女め」


 斜め下を向いてぼそりとコニーが悪態をつく。


「わたくし、年の割には耳がいいのよ?」


 自分で言っちゃってるし。

 まぁ、俺に自分で「おばぁちゃん」って言ってるくらいだから、年齢の自覚はあるのか。


 てかばーちゃんの実年齢わからないけど。


 とまぁ、そんな感じでグダグダな別れの演出を経て、ばーちゃんの国へと出発となった。




 乗り物はばーちゃん来る時も使っていた豪奢な箱馬車だ。

 隊商の時よりも早い移動だが、それでもゴーレム馬車に比べると格段に遅い。

 バスとは比べようもないほど遅いけど。


 それにやっぱりケツが痛くなる馬車だった。

 めっちゃ金かかってる馬車だからと言って、例のアレはついていないっぽい。


 父さんめ…!

 日本育ちならこれくらい広めてくれよサスペンション!




 ばーちゃんとこの馬車は豪奢な箱馬車が1台と、高級箱馬車が3台の計4台。

 王族の移動にしては身軽な方で、人員も少数精鋭らしい。

 荷物もいくつかの魔法鞄を所持しているので、馬車の見た目は荷物も無く、スッキリしている。


 馬も全て馬竜で、ばーちゃんと俺が乗っている馬車は4頭でひき、他も2頭立てで、それ以外にも馬車に並走する護衛の人が乗る馬竜も4頭。

 しかも全部同じ鱗色の馬竜なので見ためも統一感がある。


 ばーちゃんの乗る馬車には、俺、シロネ、シェヘルレーゼ、ティムト、シィナ、テンちゃん、シエナ、ピクシー=ジョー、ばーちゃんの侍女、ばーちゃんの女性護衛が乗っている。

 それでも広いので余裕を持って座れている。


 窮屈なく座れてはいるが、やっぱり馬車の振動がダイレクトに背骨に来るので、はじめはケツが痛かったのに、だんだんどこが痛いかわからなくなるほど全身が何かしら痛くなった。


 そして俺は思い出した。

 そう言えばゾーロさんの馬車ではスキルで微妙に浮くことでこの痛みを回避していたんだったな、と。


 そしてそれに付随して、ゾーロさんに挨拶してくることを忘れていた。

 後で帝都の施設を任せた久遠の騎士に頼んで様子を見てもらうなり言伝を頼むなりしようっと。

 それか【聖女の願扉】を使って挨拶に行こうかな。



 俺達と帰りを同じくして岐路につく貴族も多いようで、何台かの馬車が連なり道を進む。


 それに便乗して帰る一般人や商人も多い。

 貴族には必ず騎士や兵士、冒険者といった戦力があるからということらしい。


 なるほど、考えたもんだな。


 次に似たような行事があったら俺も便乗しよう。



 馬車内では話題が尽きることなく、ばーちゃんとシェヘルレーゼ、シロネがしゃべっている。

 たまに話題を振られるが、あまり聞いていないので生返事しかしない俺。

 けどそんなことお構いなしに賑やかにしている。


「本当はこの馬車もっと速いのよ?良い馬竜をそろえているの。でも他の貴族と帰り時間が重なっちゃうとどうしても遅くなっちゃうのよねぇ」


 半数以上の貴族は今でも帝都でお茶会やパーティーに勤しんでいるが、遠くから来た客はそこまで長く滞在も出来ない。


 金銭的な面で滞在できない貴族もそれなりにいるけども。


 帝都を出てしばらくすると、快調に進んでいた馬車ものろのろとした進みとなっていた。


 それでも進んでいるので、事故や事件はないのだろう。

 ただ、遅い馬車があるんだなというだけで。


 こういうことが予想されたから「バスで行きましょう」とアーシュレシカは言わなかったんだなとわかった。


 今俺達が向かっているのは、西大陸へ向かう船が出ている港町。


「このままじゃ港町につくだけで2週間はかかりそうねぇ」


「えー。普通ならどのくらいで着くの?」


「一週間もかからないはずよ。なぁに、せーちゃん。まだ馬車に乗ったばかりなのにもう飽きちゃったの?」


 しょうがない子ねぇ、みたいな感じに言われた。

 でも当たってる。


「馬に乗って行けば早いでしょうけど、馬車があるからそれもねぇ」


「え、いいの?この紋章付きの馬車に乗ることに意味があるとかじゃないの?」


「この国の貴族ならそれも大事かもしれないけど、わたくしたちは他国どころか他大陸の人間だもの。少しくらいなら影響はあるでしょうけど、そこまで意味はないわよ?」


 なんだ。

 じゃぁ、馬に乗ってサクサク進もう。


 俺はその旨をばーちゃんに言ったら、馬車がなんとかなるなら良いわよ、とOKをもらった。

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