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074 誕生祭7 Casino

 


 来ちゃった。


 カジノ。


 ドレスコードがあったっぽいけど、俺とシロネ、シェヘルレーゼとアーシュレシカの格好を見ても何も言われず入れちゃった。


 足元にテンちゃんとテンちゃんにライドオンしてるコニーからもらった配下久遠の騎士・シエナもいたけど何も言われなかったね。


 シロネは女性とわかってからは女性物の衣類を身に付けるようになった。

 ローブも今までのダボッとしたものではなく、腰回りがキュっと絞られた女性らしいローブを纏っているし、靴も女性物の細身でヒールのあるものを履いている。


 それだけで女性に見える不思議。

 まぁ、アーシュレシカもメイド服のおかげで女の子に見えているんだけども、それらは黙っておく。




 カジノは映画で見た事のある世界観だった。

 実際にはみたことがないので、たぶん元の世界の本物のカジノもこういう感じだろうなと思える。


 そしてやたら発達したカジノ系魔道具。

 こんなピンポイントな場所でしか使えない魔道具開発するなら馬車のサスペンションを頑張った方が建設的だった気がしますよ?


 広いフロアでいくつもの種類のゲームが展開されている。

 カードゲームに使うトランプもとても精巧に作られている。

 一般に出回っていないところを見ると、かなり高いものなのかもしれない。


 帝都では印刷技術が使われていると思しきものは見かけてないので、ハンドメイドかも。


「随分本格的なカジノゲームが出来るような道具があるんだな。本場と遜色ないかもしれない」


 少なくとも映画で見る世界観とは遜色がない。


「なんでも、この帝国にはカジノダンジョンとか呼ばれている高難易度のダンジョンがあるらしく、その宝箱から出るアイテムでこのカジノがつくられたらしいッスよ」


 そうだったのか。

 それらの魔道具を見てカジノを作ろうと思ったのが昔の同郷者ということが。その人が道具まで作ったわけじゃないのか。


「そんなダンジョンあったんだ」


「正式名称はシーフ泣かせのダンジョンと言うらしいッスよ。運次第では一切戦闘にならず、初心者や一般人でもクリアできるダンジョンみたいッスから」


「しかしそれは可能性です。実際に踏破者が現れたわけではありません」


 シロネの説明にアーシュレシカが補足。

 そして俺を見つめている。

 シェヘルレーゼも会話の流れに気付いて俺を見つめ始めた。


 俺知ってるよ。

 それ、フラグって言うんだろ?


 俺は行かないからな?




 入り口から壁に沿って順番にカジノを見学していく。

 かなりの人でにぎわっている。


「誕生祭で集まった各国貴族や大商人のほとんどがいるんじゃないっスかね?明日から誕生祭が始まって連日パーティーに参加となると今日か誕生祭終わりでしかここに来れないッスからね」


 なん…だと?!


 その貴族や大商人とかいう偉い人が集まるからっていう理由でコニーの誕生日不参加にしたのに、それに近い場所に自分から赴いてしまっただと?!


 …少し考えればわかったんだよな。


 誕生祭を前に既に続々と人が集まっていて、食材確保に奔走してたってのに、その続々と集まる人の中に貴族は確実に居る訳で。


 その確実に居る貴族がカジノで名を馳せている大帝国のカジノに足を運ばないわけがないんだ。


 自分の考えの無さに項垂れそうになる。


 早く帰ってふて寝したい。


「と、とりあえずせっかくここまで来たんスから一通り見学して…」


「あーーーン、もうちょっと待って、今、もうすぐだから!もう少ししたら従者がお金を持って戻ってくるから待ってぇぇー!」


 シロネが俺の気付きを察して励まそうとした時、近くのゲーム台から白熱したご婦人の声が。


 金持ちしか来れないカジノならば紳士淑女の集まりで、適度にがやがやしているが、ここまで大声を張り上げ、真剣にカジノに取り組む淑女が1人。

 ダメな感じにディーラーに縋りつく淑女。


「おねがい、もう1勝負だから!次こそ絶対取り戻してみせるんだから!」


 ディーラーも淑女の破産が見えているのか、困った顔で淑女をなだめ、「もう少し時間を置いてから参加しては如何ですか?」と言っているが、淑女はそれを挑発と受け取ったのか、負けを取り戻そうと食らいつく。


「本当よ?本当にもうすぐ従者がお金を持って…」


 そう言って淑女が従者を探すように会場をぐるりと眺めた時だった。


 俺と目が合う淑女。


 そう言えば聞き覚えのある声で、何故かずっと彼女の声を追っていた気がする。


「……ばーちゃん?」


「え?せーちゃん?」


 どうやら間違いではなかったようで、俺の呼びかけにしっかりと俺のあだ名で返してくれた淑女こと俺の祖母。


 なんでこんなところにばーちゃんが?

 なんでカモられても必死にディーラーに食らいついてるの?

 身内としてちょっと恥ずかしいからやめて?!


 俺とばーちゃんの邂逅に若干周囲がざわつく感じが聞こえるが、そんなことより…


「せーちゃんっ、いい所に!お金貸して!」


 異世界での孫との再会をまず喜ぶどころか、金をたかる祖母って。

 さすがだよ、ばーちゃん。





 結局アレから金貨1000枚ほどボロ負けしたところでマジな顔したディーラーに止められ、渋々ゲームをおりたばーちゃん。

 それからややあり、やっと現実を思い出し、俺と向き合った。


 場所はカジノ側が気を利かせて個室の休憩室を用意してくれた。


 そこへ俺達とばーちゃんの従者数名が入った。


 こちらは何故かシロネを含めて動揺はしていないが、ばーちゃん側の従者はめっちゃ動揺しまくって、早くばーちゃんから詳しく話を聞きたそうにしている。


「まさかせーちゃんがあんなにお金持ちだなんて、おばぁちゃんびっくり」


 いや、まずそこにびっくりする事に俺びっくり。


「俺はばーちゃんがこんなとこにいることにびっくり」


「うふふふふ、おばあちゃんね、この国のえらーい人とお友達で、お誕生パーティーにお呼ばれしてたの。でもね、とーっても暇だったから、仕方なーくここで時間を潰していたのよ。ほんとうよ?」


「俺はばーちゃんを信じてる。でもカジノの事じゃなくて」


「そうねぇ…」


 言葉を濁しつつ、周囲に目を向けるばーちゃん。


 そうか。俺が異世界人ということをここで暴露しちゃってもいいのか分からないからあえて会話をズラしていたのか。

 ありがとう、ばーちゃん。


「あぁ。紹介する。シロネ、シェヘルレーゼ、アーシュレシカ。毛玉みたいなのがテン、小鳥がシエナだよ。ちなみに俺も今日からちょっと暇になるし、お金をどこかで使おうと思ってここに来てみたんだ。俺は初めてカジノにきた」


「よろしくね。まぁ、そうなの。ところでせーちゃんはひとりでここに来たの?」


「ううん。ハルトとマモルが一緒。1カ月以上前くらいに帝都に来て、最近になってから各自自由行動中。ハルトは冒険者を張り切ってて、マモルは図書館巡りしてる」


「せーちゃんは何してたの?」


 ?!

 なにしてたのって言われたら、何してたんだ俺?!

 ってなる。


 俺一人何も目標もなく日々を過ごしていたのでとくに何かした覚えがない。


 俺が答えに困っていると、ばーちゃんが同情的な視線を送ってきた。


「い、いろいろしてた!…気がする。何もしてないわけじゃないから!」


「せーちゃん、それは自宅警備員がよく言うアレよ?無理しなくていいのよ?せーちゃんひとり養うくらい、おばぁちゃんなら余裕なんだから。そうだわ!ここでの予定が終わったら、おばぁちゃんと一緒におばあちゃんのお家に行きましょう。ぜーったいせーちゃんに不自由させないわ」


「え、あ、うん。でもばーちゃんお金持ってるの…?」


 俺の一言でばーちゃんはハッとし、冷や汗をかいていた。




 ばーちゃんは父方の祖母だ。

 二年に一度、たくさんのお土産を持って会いに来てくれる面白いおばあちゃんというイメージの人。


 でもみた目が全然おばあちゃんぽくない事に、小さいころはちょっとそこが孫として不満だった。


 今だってどう見ても40前後だし。


 父さんは妹が生まれる前に死んだと聞かされた。

 でもばーちゃんはずっと2年置きに俺達に会いに来てくれた。


 でもばーちゃんちは知らなかった。

 小さい頃は別に不思議にも思わなかったけど、ウチが極貧生活をしていた頃、みんなでばーちゃんちに行けばいいんじゃない?って母さんに言ったことがあった。


 でも母さんはちょっとだけ悲しそうな顔をして、「おばあちゃんちはとても遠いから行けないんだよ」と言っていたのを覚えている。


 ……。


 え、なにこれ。

 うちって思った以上に複雑な家庭だったの?


 目の前のばーちゃんの表情からは複雑さが一切窺えないんだけど?


「ん?どーしたの?せーちゃん。おばぁちゃんに会えて嬉しいの?うふふふ、たくさん甘えていいんだからね?今まであまり構ってあげられなかった分、たくさん甘やかしちゃう。せーちゃんの欲しい物なーんだって買ってあげるんだから!」


「…………ばーちゃん、お金あるの?」


「ッ!おうちに帰ればいっぱいあるのよ?今日はたまたま手持ちがないだけで」


「…宿大丈夫なの?」


「それはもちろん!おばぁちゃんぐらいになると、この国のお城にタダで泊まれちゃうんだから!」


 ばーちゃんが何をもってどのくらいかは分からないけど、もしかして貴族か何かなのかな?

 カジノ来れるくらいだし、従者の人達を見る限りでは商人というわけではなさそうだ。


 そして着ている服は中央大陸でもこの帝都でも見かけないデザイン。


 東か西大陸か?


「そうなんだ。それはすごいね」


「あー、せーちゃんいまちょっとおばぁちゃんのこと疑わなかった?ほんとうよ?おばぁちゃん、ほんとうにこの国の皇帝とお友達なんだから!」


 なんか自慢げに言ってるけど、それって自慢になるのかな?


「うん。だから信じてるって」


「うそうそ!その目は信じてないって言ってるわ!よし、いいわ!おばぁちゃんがせーちゃんをこの国の皇帝に会わせてあげるんだから!」


「いや、会わせてくれなくて結構です」


 今朝会ったし。

 会っても面倒なだけだし。


「いーえ!ぜーーったい、会わせてあげますー。おばぁちゃんウソつきませーん。そうね、明日。明日から7日間パーティーが開催されるから、誕生日当日はフォーマルなパーティーだけど、それ以外は比較的カジュアルなパーティーだからせーちゃんでもきっと大丈夫よ?」


「だから行かないって」


「おばぁちゃんが頑張ってウソついてるって思ってる?気を使ってそんなこと言ってるの?せーちゃんはいい子だっておばぁちゃん知ってるけど、そんな優しさはいらないのよ?だって本当なんだもの!」


 余程孫に祖母の威厳を見せたいらしく、必死に食い下がってくるばーちゃん。


 あまりにも必死なものだから


「わかった。連れてって」


 と孫の俺が折れる形となった。




 それで納得したばーちゃんは余裕を持って周囲と接し始めた。

 大人の余裕を取り戻したらしい。


 自分の従者の紹介をし、簡単な近況報告をし、最後に爆弾を投下した。


「サーくんはちょっと遅れてくるそうだから、会えるのは3日後かしら?きっとサーくん驚くわよー。でもやっぱり息子に会えるから大喜びかしら?あぁ、でも再婚したし、ちょっと複雑になるのかしら?うふふ、どっちにしても驚くわね。せーちゃん、もうすぐパパにも会えるわよ?嬉しい?」


 またやたら突っ込みづらい、どこから消化していいかわからない話題を振られた。




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