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072 誕生祭5 まだまだ肉集め、シロネたちと合流

 


 誕生祭が始まる前から帝都へ来ている人達が日に日に増え、せっかく集めた肉などもどんどん消費されていく。


 城から依頼を受けている肉も集めなきゃならないし、日常に消費される肉も集めなければならない。


 冒険者ギルドも商業ギルドも人手不足で誕生祭がまだ始まってもいない、むしろこれからますます人が帝都に集まってくる事を考えると頭を抱える状態にあった。


 飲食店を経営する人達も、帝都の食料が不足してきている状況に不安を抱え、誕生祭の本番を考え、営業日変えをする店舗も増えてきている。


 そうなると帝都に集まってきた人達が不満を抱えることになる。


 しかしそれを回避しているのが、孤児院の子供達がやっている屋台だ。


 早速孤児院で、屋台をやってみたい有志達が自分でどんな屋台をやってみたいか、それにどの程度の原価が掛り、どの程度の素材が必要かを計算しながら頑張っている。


 ティムトとシィナのように、自力で肉を狩ることはまだできないので、ティムトとシィナから肉を買い、野菜も孤児院の教師役の久遠の騎士から適正価格で買ったりして、しっかり屋台を運営している。


 経費がかかる分、ティムトとシィナのように銅貨1枚で商品を出すことは出来ないが、それでもどの屋台も銅貨3枚ぐらいの範囲で売ることが出来ている。


 屋台の形状も、誕生祭の混雑を考え、帝都でよく見る形状の屋台に切り替えての営業だ。

 孤児達の屋台だけで20はあり、常に客でにぎわっている。


 それに対して商業ギルドはジレンマを抱えている。

 ティムト達のおかげで誕生祭の為に帝都へやってきた人達が、営業している店が少ない事に不満を抱える事は回避されているが、ティムト達だけが安定して食材を手に入れることが出来ている。

 その分を商業ギルドに卸してもらいたい。

 けどそうすると、ティムト達の屋台が立ち行かなくなり、せっかく誕生祭に来た観光客が不満を持つ。


 ということは、まともに誕生祭を迎えられない大帝国の皇帝の力が弱いのではないか…と、そこまで発展して邪推されるらしい。




 という話を聞きながら、俺は高速馬車の中にいる。


「ティムトとシィナが屋台から抜ければ、銅貨一枚で飲食できる屋台が減りますから、彼らを今から討伐に向かわせるのは悪手でしょうね。かといってこのままでは食材不足で祭りが散々なものとなるのは目に見えてきた状況です」


 アーシュレシカがここ3日で集めた情報をまとめた。


「なんだか酒も足りない状況になってきてるらしいぜ」


 アーシュレシカの情報に被せるように、クマの人が冒険者界隈で手に入れた情報を添える。



 俺達はアレからさらに12件の村々の依頼と、冒険者ギルド、商業ギルドの肉集めの依頼もこなしていた。


 それでもまだまだ食材が足りない。


 中央大陸の各地で内乱が起き、中央大陸出身の冒険者が地元に戻ってしまったために帝都の冒険者が不足している。


 さらに酒不足というのも、主な輸入先が中央大陸だったから。

 内乱騒動で外様の商人たちがなかなか近づけない状況にある。


 内乱と言うのも、召喚された聖女達の言動が原因らしいという噂が出ている。それに対し、なんとなく「すみません、うちのクラスの女子達がすみません!」と言いたくなるのをグッと堪えて、せめてもの償いの意味でこうして肉集めに積極的に参加した次第な俺。


 それを知ってか知らずでかそれとも別な思惑があるのか、シェヘルレーゼは上機嫌だった。


「うふふふふ。とうとうセージ様がこの大帝国を手中に収める時がやってきましたわね」


 と、わけのわからない事をブツブツと人に聞こえるように言っている。


 獣人パーティーと俺はもちろんドン引きだが、アーシュレシカも若干引き気味だったのは興味深かった。


「そ、それにしても3日で12件の依頼をこなすというのはすごいですね。それに食肉になる魔物も狩れているっていうのも凄いです」


 ツチブタの人がいい感じに話題をそらしてくれた。


「それでもギルドに依頼されている数を考えるとまだまだだな。肉の事はギルドで孤児院の子供たちやスラムの【解体】スキル持ちを期間限定でも雇ってくれるならいくらでも食肉になる魔物を卸すことは出来るんだけどな」


 と俺が呟くと、獣人パーティーは「え?!」みたいな顔をしてこちらを見た。


 あ、ちなみに馬車は馬型になったハルトからもらった配下久遠の騎士・ヒューイが馬兼御者を務めている。

 マモルからもらった配下久遠の騎士・ピクシー=ジョーも今回は同行している。


「なんでそれをギルドに提案しないんだ?」


 クマの人が素朴な疑問風に俺に聞く。


「ギルドがそれに気付かないわけないと思ったからあえて何も言ってこないのかと。今まで孤児院の子供達が授業で解体して、孤児院の食事に使っても余る分はギルドに卸していた。スラムの【解体】スキル持ちを雇って魔物の解体をして、それを子供たちに見せ、【解体】スキルを覚えてもらおうという試みをしていることも知っているはずだからな」


「…ギルドではその事を忘れているか、セージ様に言いだせないかのどちらかだと思う」


 犬っぽい獣人の人が苦笑気味に考えを述べた。


「だからと言ってセージ様がギルドの事を考えて提案を持ちかけるのもおかしな話ですわ。ギルドの方で食肉になる魔物を卸してもらうようにセージ様にお願いをし、孤児院の子供たちに依頼を出し、スラムの【解体】スキル持ちを募集するなり行動すべきです」


 澄ました顔でシェヘルレーゼが言う。


「一個人になにからなにまで頼りまくっている状況に危機感を覚えている可能性もあります。城の方でも同じでしょう。だからあえて今回の事をセージ様に頼りきらないように最低限の接触に留めているのだと思います」


 アーシュレシカが冷静に分析した。


「確かにそうッスね。野菜も肉も酒も他の誰よりも現状セージ様がギルドにも城にも卸している状況っス。これ以上セージ様に依存するようなことがあればセージ様無しでは……あぁ、シェリーちゃんの言っている事はそういうことっスか」


 はぁー。と感心したような、ガッカリしたようなため息を漏らすシロネ。


「シロネは理解が早いので大好きですよ。そうです。もはや食をセージ様に依存しているこの大帝国はセージ様無しでは立ち行かなくなってきているのですよ。そしてセージ様に集まりゆくお金にも不安を抱えているでしょうねぇ。なにしろセージ様は帝国で買い物などほとんどしませんもの。使っても宿代くらいだったかしら?」


「カネもモノもなんでも持ってるッスからね。どこかで散財してもらうにもセージ様の興味を引くものは帝国にはなく、むしろセージ様が持つモノを帝国人が欲している状況ッス。コニぽんが嘆いているわけッスね」


 またシロネが知らない情報をぬるっと出してきた。

 流石だ。


 ちなみにコニぽんというのは彼の皇帝陛下のことらしい。





 冒険者ギルドの依頼を受け始めた次の日から、シロネとヒューイとピクシー=ジョーが合流した。

 おかげさまで依頼達成速度がぐんと上がった。


 帝都内のおつかい的な依頼はビギナー冒険者が張り切ってこなしている。


 ビギナーは次のランクに上がるまでは基本的にギルドの戦闘訓練を受けつつその町の中の依頼を受け、ランクが上がればギルドの戦闘訓練試験を合格し次第、町の外の薬草採取等の近場の依頼を受けられる。


 そうしてランクが上がるごとに行動範囲を広げることが出来るのでビギナーは今、必死に都内のおつかいクエストと訓練をこなし、薬草採取のついでに狩ることが出来る、食肉になる低レベル魔物を狩れるように頑張っている。


 ランクが上の冒険者ほど、行動範囲ギリギリの魔物を狩りまくっているのだが、肉になるような魔物ばかり。

 肉にならなそうな魔物は放っておかれ、村や町では困った状況になっている。


 それを俺達がこなしているこの現状。

 獣人パーティーはこの短期間で冒険者ランクが1つ上がった。


 肉集めの方が金にはなるが、ついでに依頼でもこなさない限りランクには影響がない。


 ランクが上がって喜んでいる獣人パーティーだが、この状況も長くは続かないとわかっているのか、完全には喜びきれてないようだった。


 今回は装備もレンタルだし、依頼も合同だからこれだけ早く依頼を達成しまくれているが、自分達だけになった時、今のランクでやっていけるのかちょっと悩み始めているっぽい。


 そんな悩みを聞きつつ、現在。


「なんとまぁ…」


「肉祭りですね」


「アーシュレシカ、言葉が過ぎますよ」


「被害者はいないっぽいッスけど、これはメスを有する集落っぽいッスね」


 オークの巨大集落に到着した。


 大帝国内の芋類の約7分の1を作っている村が、オークに畑を荒らされているから助けてほしいという依頼があった。


 オークだし、肉になるから中堅どころの冒険者が食い付きそうなものだが、オークの集落ともなると、何組かのパーティーが合同で依頼を受ける規模の大きな依頼。


 ただでさえ現在冒険者不足なのに、冒険者パーティーのいくつかを集めるとなるとかなりの時間がかかるので放置されていた依頼だ。


 放置されている間に、オークの群れが集落をつくり、それが大きくなった。


 たまたま群れにオークのメスがいたらしく、それで一気に増えたらしい。


「オークってメスいたんだ?いないってきいたんだけど」


 素朴な疑問を投げかける。


「この大陸特有の、いわば固有種ユニークモンスターだな。他の大陸にはいないらしい。この大陸は邪竜が魔物を量産しているからなぁ」


 そういうことらしい。

 ここでも邪竜か。


 どこかの勇者か賢者が討伐すれば魔物被害も減るんだろうけど、それはそれで魔物討伐で生計を立てている人達が困るのか。

 それに帝国もそれを見込んで国を運営しているみたいだし。


 それはそうと、広大な芋畑が無残にも掘り返されて芋を奪われまくっていた。


 あれを食料にオークが繁殖したようだ。


「では、セージ様はこちらでお待ちください」


 今回は村からも離れ、村人も来てないとあってロッジを用意された。


 その中で待つことになった。


 アーシュレシカが【アイテムボックス】からロッジを出した瞬間、獣人パーティーが呆気に取られた顔をしていたのがとても印象深かった。

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