069 誕生祭2 ガイド依頼
冒険者ギルドでいつもの獣人パーティーの人達の事を聞いたら、今日はまだ依頼を受けていないので、宿にいるのでは?
と言って、常宿を教えてくれた。
個人情報の観念とか心配になって来た。
教えられた通り、彼らが常宿にしている宿へ向かったら、宿に入って秒でいた。
「ぬわっ?!セージ様じゃないですか?!こんなくたびれた宿に来るだなんてどうしたんですか?!」
めっちゃ驚かれた。
俺もとても驚いている。
そしてクマの人、あんたの後ろにいる宿の店主らしき人が「こんなくたびれた宿」と言った瞬間イラってした顔で睨んでるけど大丈夫かい?
「……趣深い素敵な宿だと思うけど」
御世辞にも綺麗な宿とは言えないけれど、俺はそう言って率直な感想を回避する。
だってクマの人のすぐ向こう側に店主らしき人いるし!
冒険者ギルドで教えてもらった宿に着いたら、入り口にクマの人が居て、俺を見つけるなり駆け寄ってきてくれた。
遅い朝食を食べていたようだ。
犬だか狼だかの獣人の人、垂れ耳兎の人、ツチブタの人も揃っている。
「まさかあの高級宿の支払いが出来なくなって宿換え…なんてことは」
「ない。あんた達に用があって来た」
「俺らに?」
不思議そうな顔をされた。
とにかくここでは何なので、どうぞと、他のメンバーもいる食堂に通された。
その際、宿の店主に銀貨1枚のチップを渡したら快く受け入れてくれた。
席に着いて、一応飲み物の注文をした。
獣人パーティーは俺のおごりと言うことでワインを注文。
俺は酒以外を頼もうとしたら無いと言われたのでドライフルーツを頼んだ。
「今日は休みなのか?」
「まぁ、そんなもんです」
「防具の修理待ち」
「ついでに必要な物の買い出し」
「お金に余裕がないので遅めに起きて朝食兼昼食をとり、値が下がらない道具類は昼から買い出し、食料なんかは夕方の叩き売りを狙います」
クマの人が濁したのに、犬だか狼の人、兎の人、ツチブタの人がぶっちゃけた。
「そうか。他に予定が無いならガイドを頼めないか?必要な物はこちらで貸し出す。武器も防具も道具類も。食料なんかは全部こちら持ちで、基本報酬は1日当たり金貨1枚、期間は冒険者ギルド次第」
「1日金貨1枚?!」
「ガイド?護衛じゃなく?」
「武器・防具を貸してくれるなら…」
「ん?基本報酬、てことは、それ以上貰える可能性があるってことですか?」
「そう。どうだろう?」
肯定すると、4人は話し合い、すぐに結論が出された。
「願ってもないことだ。よろしく頼む」
と快く受け入れてくれた。
それから獣人パーティーと連れだってまた冒険者ギルドへ行き、彼らへの指名依頼でガイドを頼んで出発。
今回もバスで移動を考え、バスを出したら、獣人パーティーからストップが掛った。
「またどえらいもんを出したな…。きっとすごい代物だってのはわかる。わかるが、もう少し穏便な乗り物はないか?これじゃぁ祭で帝都に来る人達が驚いて騒ぎになっちまう」
なるほど。
そこまで考えてなかった。
かわりに移動出来る物ってなんだろ?
手持ちの移動手段なんてバスぐらいしかもってな…
「ゴーレム馬車を用意致します」
アーシュレシカが代案を出した。
でも俺、そんな物持ってないよ?
けどアーシュレシカは【アイテムボックス】から馬車を出した。
車輪の形状から【異世界ショップ】で買った物だ。
あ、きちんとサスペンションついてる!
内装もクッションの利いた椅子だ!
現代馬車だ!
馬もどうやって出したかわからないが、なるほどゴーレムっぽい。
首の付け根に魔石が埋め込まれた、馬の人形…人形?
まさか…
「セージ様が御心配されているようなものではございません。このゴーレムはリヴァイアサンの素材を使って外部発注した、馬車牽引用ゴーレムです。この帝都の職人が作ったゴーレムなので御心配にはおよびません」
そうだったのか。
いつの間に。
用意がいいな。
ゴーレム馬車にも驚きを隠せない獣人パーティーだが、バスよりは見た目が普通だし、金額さえ考えなければゴーレム馬車は貴族階級には割と普及している代物なため、ドン引きはされたが受け入れられた。
やっと出発となった。
馬車の中はとても快適。
御者は兎の人が請け負ってくれた。
獣人パーティーの人達には、宿で既に武器・防具の貸出は済んでいる。
必要な道具類や食料も、聞いてみたけど、俺の手持ちで充分だったので、冒険者ギルドで依頼をしたり受けたりするだけで後は出発するだけとなっていた。
冒険者ギルドでは、さすが勝手がわかっているベテランの獣人パーティー。地図と必要な肉類を確認してからギルドの掲示板で向かう予定地の近くの村や町の依頼票を、締切日を確認しつつ依頼をうけようという提案をしてきた。
ギルドの受付の人が喜んでいたので、その提案はギルドにとってありがたかったのだろう。
肉集めで本来の依頼がなかなか受けられる状況に無いみたいだった。
俺も魔物狩りのついでに依頼がこなせるならいいと受け入れた。
「すげぇ早い馬車だな。ゴーレムってことは休憩もあまり考えなくていいんだろうし…」
「バスを使えばもっと早いですよ」
クマの人がゴーレム馬車に驚いていると、アーシュレシカが悲しそうな顔でバス推しする。
「揺れも気にならないですし、座り心地も最高ですね」
「バスの方がもっと快適です」
ツチブタの人がフォロー気味に言うが、アーシュレシカはさらにバス推しする。
「まぁ、人通りが少ない場所になったら、そのバスってのに乗らせてもらおうか」
犬だか狼の人が、妥協案を出したらアーシュレシカが満足そうに頷いた。
なぜアーシュレシカはバス推しなんだ?
「依頼票と地図を確認すると、近場から片づけて行った方がいいな。セージ様の【アイテムボックス】を頼っても良いんだよな?」
獣人パーティーは俺が大容量の【アイテムボックス】持ちというのは知っている。
「あぁ。アーシュレシカも持っているから、荷物に関しては気にしなくて大丈夫だ」
「うし。んじゃ効率と魔物回収重視で各所を回る。俺達で太刀打ちできなそうな魔物がいた場合は速やかに回避して次に行く」
「いや。回避はしない。魔物の討伐もこちらでやる。あんたらはガイドとして依頼書に該当する魔物がどれが教えてくれたり、村人たちの交渉事をお願いしたい」
「セージ様が討伐するってのか?俺達だって戦えるぞ?武器や防具だって貸してもらえてる。ガイド以外でも役に立てる!」
「せっかく見たこともない上等な武器や防具、試したくなる」
「もちろん村人との交渉や魔物についての講師としての依頼はきちんとこなします。ただ戦える装備があるのに何もしないで見ているというのは落ち着かないです」
「わかった。そういうことならそれで」
それから各自倒した魔物は各自の獲物、依頼に関しては野良パーティーと同じ扱いで、俺達みんなで依頼を受けたということにした。
「なんか、出しゃばっちまったみたいでワリィな」
「ガイド役をきちんとしてくれるなら俺に異存はない」
「そう言ってくれると助かる。せっかくいい装備があるうちに、少し高いランクの魔物を倒してレベル上げもしたかったんだ」
そういうのもあるのか。
「ティムト達からの依頼のおかげで前よか良い装備を買うことが出来て、高ランクの魔物の討伐も出来るようになってきたんだが、高ランクだけあって装備の破損も多くなって修理に金も掛るようになってギリギリでなぁ」
「報酬は上がったけど、それなりに装備に金も掛るようになった。生活は前とあまり変わらない。…少し酒を飲む余裕が出来たくらいか。誕生祭で使う肉集めで少し稼げればと思っていたところだった」
「稼いだ分誕生祭で散財しそうですけどね」
いろいろなジレンマ的なものがあるようだ。
「あっ、セージ様、この装備へこましたり刃こぼれしたからって修理代請求なんかは…」
「セージ様はそのような事は致しません。それにあなた方に御貸しした装備は自動修復機能があるので木っ端みじんにならない限りはメンテナンス以外で人の手にかかるような事はありません」
「そ、それって…」
「最低でも金貨100枚以上はするんじゃ…」
「いや。タダで手に入れた物だから気にしないで使ってくれ」
「タダ?」
「セージ様がダンジョンで手に入れたものです」
「え?!セージ様が?……セージ様って、もしかしてめちゃくちゃ強かったり…?」
「いや。俺は弱いよ?」
弱いというか、レベル1000超えにもかかわらず攻撃力が高校野球の豪速球程の石投げというか。
「セージ様は特Sランクの冒険者です」
アーシュレシカ、やめて。
みんなの俺に対しての期待値が上がってしまう。
「「「「?!」」」」
「形だけだ。別に強いわけじゃない。回復と結界に特化しているだけだ」
冷静に予防線を張る。
こういうときは落ち着いて出来る事を言えばそれ以上期待されないって誰かに聞いたことある。
「それでもすごい、いや、すごすぎる…」
「パーティーに回復術師がいるだけで生存率は跳ねあがる」
「結界術も使えるとなるとそれこそ最強なのでは…」
「そもそもSランクの時点で俺らじゃ足元にもおよばねぇけどな」
いえ。
足元どころか俺より遥か格上があなた方という存在でございます。
「あれ?そうなるとSランクのセージ様を無実の罪で拘束した教会って…」
「セージ様、教会ってどうなったんですかい?」
「知らないなー」
興味ないから誰にも聞いてなかった。
城でサラッとコニーに説明された記憶はあるけど、記憶に残っている事はほとんどない。
本国から物資が届かなくて大変な人達ということぐらいか。
「し、知らないって…」
「国やシェヘルレーゼが何かしたとまでは聞いたけど。今後あまり俺と関わりが無いようにしてくれるならどうでもいいし」
「国とシェヘルレーゼ様が同列視されてるんですがどういうことでしょう」
それは俺も気になるところ。
彼女のこの国での謎な程の権力が怖いです。
「食料も与えられず掃除する奴隷すら来ない状況でずっと地下に監禁されていたと聞いてたけど、それだけされてどうでもいいって、セージ様は人が良すぎるぜ」
ほほう。
世間ではそういう話になっていたのか。
間違ってはいないな。
「むしろどうでもいいと言う一言で済ませられると言うのはやはり大物」
「食料も手持ちで何とかなったし、身の周りの物も【アイテムボックス】に入ってたし、掃除も【クリーン】で何とかなったから牢とはいえど教会の世話になるほどではなかったってだけだ」
「セージ様最強説が浮上」
「セージ様さえいればどんな秘境でも冒険出来そうだな」
そういうのフラグになるから言わないでくれ…。
そうしてワイワイ話している間に、目的の村に到着。
依頼を出していた村長さんにクマの人が話を付ける。
すると、クマの人が小難しい顔をして戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「帝都の近くだと言うのに、思った以上に被害があるようだ。怪我人も多く、セージ様の格好から回復術師ならなんとか怪我人を見てもらうことは出来ないかと言われた。しかし、作物への被害も多く、それほど金は出せないらしい。あぁ、でも依頼料は既にギルドに払っているから大丈夫と言われた」
「…わかった。怪我や病気はひとり銅貨1枚。畑の再生は1世帯当たり銅貨50枚、村全体の魔物除けの結界は銀貨1枚で請け負う」
「こりゃまた破格値だが、畑の再生ってなんだ?それに魔物除けの結界って…」
「【草木魔法】を使える。魔物除けの結界はそのまんま、俺が結界を設置する。俺が意図的に解除したり、俺が死なない間は結界を維持できる」
「セージ様、【草木魔法】まで使えンのか?!そりゃなんとも…」
「国でも簡単に創れそうだな」
「無敵確定」
「冒険者やめても生きていける」
【草木魔法】が使えることと、結界の説明をしただけなのに、また話が壮大な方向に。
ん?
あの農地、ある意味国と言えなくもない気が…。
気のせいだな。
とにかくクマの人に村長に提案してみてくれと言って、すぐにクマの人が村長に提案しに行ったら物凄く胡散臭がられた。
「すまん。信じてもらえなかった」
「いいよ。それはそれで。依頼だけ消化して次に行こう」
というわけで、依頼にあった魔物の討伐へ向かう。
俺は獣人パーティーの1人1人に【聖女の守護】を掛けた後は何も出来る事はない。
「セージ様はこちらでお待ちください」
そう言ってアーシュレシカは天幕を出し、その中にテーブルと椅子とお茶の用意をして俺に座るように促す。
邪魔になるのでここで待っているように、というやつだろう。
俺はアーシュレシカが用意した場所で、大人しく待つことにした。




