068 誕生祭1 プレゼント選びとギルドからの依頼
ハルトとマモル、それからコニーと配下交換してから3日後の事。
なんだかいつもより窓の外がにぎわっていた。
いつも通り朝食を食べていると、部屋付きのメイドさんが、手紙を持ってきてくれた。
「招待状が届いております」
部屋付きメイドさんから早朝に城から届いた招待状だと言う手紙をシェヘルレーゼが受け取り、俺に渡す。
そのワンクッション、いらないと思う。
気を取り直して受け取る。
「へー。コニーのお誕生日会だって。めんど……俺には恐れ多すぎて参加なんて無理だな」
「でしたら適当にお祝いの品をお贈りするだけにしておきましょう」
俺も俺だがシェヘルレーゼも大概な言い様だな。
「買ったものと拾ったものどっちがいいかな?」
【異世界ショップ】で購入したものが買ったもので、海底ダンジョンでドロップしたものや宝箱から得たアイテムを拾ったものってね。
言い方がアレなだけで、酷いものではないはずだ。
「拾った物の方がわかりやすい存在感がありましょう」
「じゃぁ、海底産の薬やリヴァイアサンの素材や薬の詰め合わせにしよ」
「いらない物の叩き売りみたいに言うんスね。あれの一握りでも国家予算に匹敵する価値はあるッスよ……」
シロネが疲れたようにツッコミを入れる。
仕方ないよ、だって【アイテムボックス】にいっぱい入っている割には使いどころがないんだもの。
大体はアイテムチャージ行きだし。
あーだこーだなにを贈り付けようかと相談し、結果は万能薬ポーション5本、アムリタ1リットル、若返りの実10粒、毛生え薬5本、海底ダンジョン産のアダマンタイトで出来た木を丸々1本。
それを適当なサイズの桐箱を【異世界ショップ】で買って、【マジックバッグシード】でマジックバッグ化させてその中に全部入れた。それを海底ダンジョンのドロップ品、深海雪蜘蛛の絹糸製の絹織物で包んで贈り物とすることにした。
「きっとありがた迷惑がるッスよ、皇帝様」
ぽつりとシロネがこぼしていたが、聞こえないふりをした。
「ところで最近街の人通り多くない?」
「皇帝陛下の誕生祭に続々と人が集まっているようです」
「誕生パーティーって一般の人達も招待されるんだ」
そんなカジュアルなら俺も参加しようかな?
「いえ。招待状を受けた招待客は貴族や大商人、自国や他国の王族などです」
うん。
やっぱ参加しない。
「それとは別に、帝都では誕生祭と呼ばれる、お祭りが開催されるっス。期間は1週間。他の町から皇帝陛下の誕生日をお祝しに国民が集まるんスよ。城から振舞い酒や振舞い肉なんかも出て、かなりの賑わいになるみたいッスよ?」
他、城でのパーティーも7日間行われるらしく、最終日の7日目が皇帝の誕生日にあたるらしい。
「その期間の人の集まりを狙って他の町から商人や料理人もあつまり、通りは屋台などが立ち並ぶらしいです。大市も毎日開催され、普段手に入らない物なども手に入れられる機会となるとか」
「ふーん。じゃあ、もしかしたらこれまで以上にティムトとシィナの屋台が繁盛するかもな」
ティムトとシィナと言えば、アレから案の定ハルトからの久遠の騎士、ヒューイとマモルからの久遠の騎士、ピクシー=ジョーにめちゃくちゃ大興奮していた。
俺がどこかに遠出しない日なら、一緒にいていいと言うと、喜んで連れ歩いている。
今日も一緒に屋台に連れて行っている。
ヒューイとピクシー=ジョーも、俺の行動範囲が狭いと知り、基本宿の中にいる事がわかると、子供たちについて行った方が情報を得られると気付き、子供たちの相手をしつつ外で色々情報集めをしている様子だった。
コニーの久遠の騎士は基本ペット扱いとなっている。
だって可愛いんだもの。
手のひらでも余るサイズの小鳥で、胸毛フワフワ、つぶらな瞳と小さなくちばしがなんともいえない可愛らしさ。
某道にいるとされる雪の妖精そっくり。
あれよりフワフワ感があるかもしれない。
見てるととても和む。
古参のフワモコ、テンちゃんにライドオンしてる時なんて無限の癒しを誇っている。
名前が無かったので、シエナと名付けた。
普段は小鳥姿から変える予定もないので、この名前でもいいかなって。
「そう言えば、孤児院の他の子供達も屋台をやってみたいという希望が出ていました。この際に体験させてみるのも良いかもしれませんね」
課外授業的なことだろうか?
各屋台に配下久遠の騎士を配備すれば大丈夫そうだけど。
「じゃぁ、希望する子に配下つけてやらせてあげて。あとこれ、招待状の返事。不参加で」
「承知しました。商業ギルドから祭で人が多くなる分さらに食料を多く卸してもらえないかという要望と、冒険者ギルドも祭で人が多くなる分、肉や魔物の素材を出来れば卸してもらえないかというお願いも届いておりますが」
「薬師ギルドからは薬の完成品も出来るなら売ってほしい事と、錬金術師ギルドは薬師ギルドからセージ様の噂を聞いたようで、触媒となるような素材を卸してもらいたいという打診がありました」
錬金術師ギルドからはあれば卸してほしいというリストもあった。
【アイテムボックス】を確認する限りは該当する魔物を所持はしているが、未解体なので微妙なとこだな。
「あ、それなら鍛冶師ギルドや宝飾品ギルドから海底ダンジョン産の素材やドロップ品を見せてほしいとか、買えるようなら買い取りたいっていうのも聞いたっス。それと料理ギルドからはティムトとシィナの屋台の料理のレシピを買い取りたいって言ってたッスね」
いろんなギルドがあるもんだ。
……そもそもだが、なんでみんな俺が海底ダンジョンに行った事を知っているのだろうか。
不思議だ。
「その辺りはシロネの判断に任せる。アーシュレシカと相談してどこに何を卸すか決めてくれ」
「承知しました」
「了解ッス」
「セージ様が教会より解放され、資材を仕入れることが出来るようになり、ネイルサロンを再開する事のできた夫人からも、資材をもう少し多めに卸してほしいとの要望がございます。それからアテナ、ダヴィデ、コンユン、ショータロをネイリストとして派遣する事は可能でしょうかという質問がございます」
「雇った人に対しての講師にするならいいけど、ネイリストとして使うのも店以外に派遣するのは無しで」
「承知しました。店の方ももしかしたら祭の対応をしなければなりませんね。そちらの方もアテナ達に対策をさせましょう。そもそもアテナ達は夫人の部下ではございませんもの」
夫人に丸投げ状態だけど、適度に口出ししないと元々の店と違うサービス業になりそうだな。
シェヘルレーゼの言い方からして、夫人の部下としてアテナ達が使われているのは嫌なんだろうな。
夫人にはアンバサダーとして店と関わりを持ってもらい、基本はアテナとダヴィデに任せた方がいいかもしれない。
「今はまだ様子見として、そのうち段々に店の主導権をアテナ達に持たせるようにして、夫人には御意見番として店に関わってもらうようにしよう。あからさまじゃなく、それとなくな」
忖度スキルの暴走が起きない事を願うばかりだ。
今までずっと夫人に丸投げしてたし、シェヘルレーゼが嫌がっているからと言って急にまた口出しするってのは微妙なんだよなー。
夫人には楽しいまま、店に関わって繁盛させてほしい。
って俺、自分の久遠の騎士の顔色窺っちゃってるし。
それにしてもお祭りか。
しかも1週間もぶっ通しとか陽気が過ぎるぜ。
コニーの誕生日を祝うためらしいけど、そう考えるとあのコニーというおっさんが偉大な人に思えてくる不思議。
絶対気のせいだけど。
宿から出て、大通りを歩く。
シロネにはいくつかの素材やレシピを持たせて鍛冶師ギルド、錬金術師ギルド、宝飾品ギルド、料理ギルドに行ってもらった。
シェヘルレーゼには農地に行ってもらい、収穫物の状況を確認してもらって、どのくらいの収穫を見込めるか、そしてどの程度なら商業ギルドに融通出来るかの見通しをしてもらうことに。
俺はアーシュレシカとともに冒険者ギルドと商業ギルドと薬師ギルドへ素材系を卸しに行くことにした。
薬師ギルドと商業ギルドは相変わらず。
薬師ギルドでは謎に崇められながら海底ダンジョンで拾った薬草と、サンプルにポーション類を売ってほしいって話だったから、同じく海底ダンジョンで拾ったポーション類を10コずつ売ったら、
「こっ……このような特級ポーションが現実に存在するとは……!セージ様、いずれ必ずお支払いいたしますので、今回はなにとぞツケで卸しては下さいませんでしょうか!?」
と、薬師ギルドのギルマスが目を血走らせながら言うので、ドン引きしながら頷くしかなかった。
今回初めて薬師ギルドのギルマスを見たけど、何らかの禁断症状が出ているんじゃないかと心配になるような、ヤバそうな研究者ッぽい感じの人だった。
いつもの受付の人も何かの中毒症状持ってそうでヤバそうな人たちだったけど、ここのギルマスはそれに輪を掛けてヤバそうだった。
商業ギルドはやっぱりキンバリーさんが俺の担当らしく、すぐに対応。
「来週に誕生祭を控えておりますが、既に町には人が集まりつつあります。小麦や干した野菜などは中央大陸から続々とやってくる商人達から買えてはおりますが、やはり新鮮な野菜や肉が足りない状況です。どうかまた、いえ、せめて誕生祭期間だけでも今まで以上に卸していただけないでしょうか?」
こちらも目を血走らせながら言う。
「野菜類は収穫状況次第でまだわかりませんが、肉類は他の冒険者からも入荷されてますよね?どうしたんですか?」
「それはそうなのですが、最近、中央大陸では内戦やそれに近い小競り合いが各所で勃発しているらしく、中央大陸出身の冒険者がそちらに人手を取られ、この帝国を拠点としている冒険者が約7分の1減っております。いつもこの時期ですと、中央からやってくる冒険者たちが、魔物を狩り、祭りの為に増えた人達の分の肉をまかなえていたのですが、今年に限っては逆になってしまっています。せめてティムトくんとシィナくんが冒険者として復活してくれればいいのですが、あの屋台、物凄く繁盛してますし……。ハルト様も他大陸へ行かれたようですし、まともに大量の魔物を狩れる冒険者でもいれば肉事情はなんとかなるのですが……」
とか言いながらチラチラこちらを見てくるキンバリーさん。
え、俺に魔物狩りしてこいって?
無理ですよ?
もしかしてあのギルドカード真に受けてます?
違いますからね?
あー、でもアーシュレシカがいればなんとかなるのか?
「肉事情もそうですが、魔物もなかなか減らず、帝都にやってくる人達に被害をもたらしているという話も聞きますし……」
といってまたチラチラこちらを見てくる。
「…………暇ですし、いいですよ」
と言ってしまった。
ギルドに入ってくる肉が減ると、祭りでみんながただで食べることが出来る振舞い肉の数にも影響するっぽいし、孤児院の子供達も何気に祭りを楽しみにしてるってさっきの話の後、シロネから聞いたし。
俺の答えにキンバリーさんは大喜び。
「そのかわり、ギルドで全部買ってくれるんですよね?」
「もちろんです。あ、よろしければこちらに依頼書がございます。出来ればでいいのでこちらの魔物を狩っていただければ当ギルドとしてもありがたいかぎりでございます」
渡された木の板には、魔物の名前がズラズラと書かれていた。
うん。
わからん。
まぁ、色々狩れば該当する魔物にあたるだろう。
街道を歩く人にも被害が出ているくらい魔物がいるくらいだし。
商業ギルドで依頼を受けることにしたので、手持ちの魔物を卸すことはせず、もしかして冒険者ギルドでも似たような件があるかもと思い、行くことに。
冒険者ギルドへ行くと、人は閑散としていた。
「ようこそ、セージ様。申し訳ございません、本日ギルドマスターは不在となっておりまして」
受付の人に申し訳なさそうに言われた。
あと受付の人、俺の事すごく怖がっているみたいなんだけど。
……色々あったし、そういうことなんだろう。
微妙に気にはなるけど、気にしないことにした。
受付の人が言うには、現役を退いたギルマスも出張らなければならないほどの肉不足らしい。
中央大陸に戻る冒険者が、狩った肉を冒険者ギルドへ卸さず、持って帰ったりもしているらしく、城から要求されている肉ノルマに追いついていないとか何とか。
なんか、帝都の冒険者ギルドに同情的になってしまう。
俺が悪いわけではないんだろうけど、たぶん中央大陸の内乱系はクラスの女子達によるものだろうし。
ここまで冒険者ギルドの受付の人達が俺に委縮しまくるのって、聖水絡みの事や、シィナの冒険者引退云々の影響が尾を引いているんだろうし。
なんか俺とこの帝都の冒険者ギルドってなんとなく相性悪いんだよなー。
その相性の悪さ払拭も込めて、ここは肉集めに協力しよう。
商業ギルドのついでに肉を卸そうとか考えてたけど、そういう考えを持って肉を卸そうと思えばやる気が起きるか。
と言っても魔物狩るのはアーシュレシカ達なんだけどね。
「肉集めの依頼、受けますよ」
「ほ、本当ですか!?」
受付のお姉さんたちがめっちゃ食い付いた。
それから受付け内がザワザワする。
意を決したように、俺に地図と依頼書を見せた。
「こちらの魔物の分布図と、目撃情報をもとに、地図に書き込んだものとなります。そして緊急依頼とはなっておりますが、どれも依頼の受け手が現れないものとなっております。よろしければ受けられるだけ受けていただけないでしょうか?」
普段使いの木の板ではなく、貴重とされる羊皮紙に描かれた地図を渡され、さらに依頼書がもっさり。
これを見ながら目当ての魔物を狩るとなると時間がかかりそうだな。
地図を見ながらそれっぽい場所で適当に狩ってきた方が手っ取り早そうだ。
本格的に冒険者してる人となると、魔物の名前や姿を覚えなきゃならないんだろうなー。
アーシュレシカに聞いたけど、細かい種類とかは分からないみたいだし。
「とりあえず適当に狩ってくるので、それに該当する依頼書をその時受理し、完了してもらうことって出来ますか?」
「もっ、もちろんです! よろしくお願いしますっ!」
「あと、出来ればガイド役として、知り合いの冒険者パーティーを誘いたいんですけど、彼らの居場所ってわかりますか?」
あ、名前わかんねぇ。
「大地の申し子というクランにいる月下の疾風という獣人パーティーです」
アーシュレシカが知ってた。
いつの間に……。




