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067 新入りドール

 


 平和な宿暮らしが戻ってきた。


 地下牢から出た日やその翌日は物凄く大変だった。


 迎えに来てくれたみんなにもみくちゃにされ、何故か胴上げとかされ、キンバリーさんに泣きつかれ、ついでに冒険者ギルドのギルマスにまで泣きつかれ、孤児院の子供達にも泣きつかれ、何故か経緯や裏を知っている配下ドール達にまで泣きつかれ、泣きつくみんなが落ち着くまでしばらくかかった。


 なんとか宿に戻れても、夫人や従業員さん達の訪問を受け、涙ながらに俺の帰還を喜んでくれた。


 そうこうしているうちに、城から使者が来て、良ければ今すぐに城に来てもらえたらありがたいです、みたいなこと言われたので、なんとなく迷惑掛けた負い目もあったので、お迎えを受けた。


 そして城に着くなり、コニーが居て、如何に心配したか、迎えが遅くなったかを真面目な顔で懇々と語られ、最後の方は俺のせいで陳情書が増え、暴動が起き掛け、寝る間も惜しんでその処理や鎮圧にどうのこうとの愚痴り始めた。


 まぁ、がんばって助けに来てくれたので、聖水100本程融通してあげた。


 それと回復薬と栄養ドリンクも100本ずつあげた。





 次の日は各ギルド回りをした。


 商業ギルドに聖水30本を卸し、あとは新鮮な野菜と大麦や小麦、卵や牛乳、そして未解体の食肉として使える魔物も大量に卸したらキンバリーさんが号泣しながら喜んでいた。


 薬師ギルドへ行くと、なんだか物凄く崇められた。

 怖かったのでさっさといつもと同じだけの薬草と少しだけ万能薬草も卸してギルドを出た。扉を閉めた途端、大騒ぎが聞こえたが気にしないで次にむかった。


 最後は冒険者ギルド。

 体育会系のノリでガッツリ頭を下げられた。

 やっぱり怖かったので、聖水10本ばかりと、こちらにもいくつか未解体の魔物を数体卸してさっさと出た。


 ちなみにティムトとシィナはまだ復帰してないらしい。

 屋台にドハマりしたようで。


 冒険者ギルドの帰りに二人がやっている屋台に寄ってみたら、なるほど大繁盛していた。


「あっ!にーちゃん!きてくれたのか!」


「にーちゃん!これたべてみて!おいしいから!」


「セージ様だ!」


「わーい、セージさまー!」


 ティムトとシィナだけでなく、孤児院の子も2人、一緒だった。

 あと、そっとこちらに頭を下げるアーシュレシカの配下と思われる久遠の騎士ドールが2人。


「どんな屋台をやってたんだ?」


 見れば2つの屋台を出している模様。


「こっちがチーズハンバーガー、フランクフルト、ホットドッグ、チーズドッグの屋台!」


 おお、ティムトの所はなんとハイカロリー。

 攻めてるねぇ。


 ハンバーガーとチーズドッグは先日のお茶会では出してないが、海底にいた時に食べさせたことがあったやつだ。


 ハンバーガーのパテとフランクフルトとホットドッグのソーセージが手作りらしい。

 はじめはこれを作って屋台を開始したらしく、それから日を追うごとにメニューを増やして今に至り、屋台も2つまで増えたんだって。


「ボクのとこは冷たいミーグ茶、ソフトクリーム、ベビーカステラの屋台だよ!」


 こっちはスイーツしてるのか。

 ミーグ茶ってのは水で淹れると味も風味も口当たりもコーラっぽい飲み物で、お湯で淹れるとほうじ茶味になる不思議な茶葉だ。


 ソフトクリームを冷たいミーグ茶に入れるという、コーラフロート的な事もしているようだ。

 農地の中心街の喫茶店で飲んだメロンクリームソーダにインスピレーションを受けて合わせてみたらしい。


 素晴らしいね!


 そして二人とも、屋台と言うより、キッチンカーで営業していた。


 なるほど。

 久遠の騎士がいるのは調理を含め、大人役をやるというのとこれを動かすためか…。


 そしてキッチンカーを用意したのはアーシュレシカ。

 先日のお茶会の時の屋台で使った機材や資材などもうまく使ってるみたいだ。


 商品も一律銅貨1枚というゴリゴリに攻めた価格で売っている。

 一応自分たちで狩った肉や農地で取れる小麦や野菜などを作っているから黒字にはなっている、薄利多売をしている。


 スラムの人や貧民層の人は銅貨一枚でも高く思えて買いづらいけど、比較的働けている人達からすればその辺の屋台で串焼き肉を買うよりはリーズナブルなお値段で買える感じだ。


 ウィングボアとかいう魔物の串焼き肉が銅貨2枚で売っているのを見たことあるし、あれよりも腹にたまらないかもしれないけど、物珍しさから言えばこっちに客は集まるのではないだろうか。


 てか現にめっちゃお客さん集まってるしね。


「んー、じゃぁ、フランクフルト5本とベビーカステラ5袋ください。あ、ちゃんと並ぶからな」


「「はーい」」


 嬉しそうに返事をしたのを確認し、列の最後尾に並ぶ。

 子供たちと配下ドールの手際も良く、10分も掛らず俺の順番がきて、銅貨10枚を渡すとはじめに予約した数を受け取ることが出来た。


「じゃぁ頑張ってな」


「おう!また来てな!」


「うん!頑張るよ!」


 子供たちと別れて、一緒に歩いているシロネ、シェヘルレーゼ、アーシュレシカにフランクフルトとベビーカステラを1つずつ渡して食べ歩く。

 俺も1つずつ取って、残りの1本はテンちゃんに、もう1袋は【アイテムボックス】にいれた。


 俺の分のベビーカステラはテンちゃんとシェアだ。


 テンちゃんは犬ではないので、ドッグフード以外も食べれる。


 基本はドッグフードを好んで食べているが、こうして俺から他の食べ物を与えれば、気の無いフリして実は嬉しそうに尻尾を激振りしてはぐはぐ食べる。


 尻尾も綿毛な体毛に埋もれているので後ろの毛だけが不自然にフワモコと風になびいているようにしか見えないのだが。


 シェヘルレーゼとアーシュレシカも人目がある時は人間の振りをしてきちんと食べる。

 体の構造的には食べても食べなくても問題ないようには出来ているらしい。


 食べ終わる頃には孤児院兼治癒院に着いた。


 ここではいつもと変わりない平和そのものな穏やかな日常と、ほんの少しだけの変化がある。


 昨日、牢から一緒に出た人達が仮の宿として滞在していた。


 金も無ければ行くところも無いと言うので受け入れた。

 国のほうで保護してくれるわけでもなく、行き場を失っていたようだったので、しばらくウチの職員として働かないかと打診したら、すぐに受け入れ、ホッとした様子だった。


 俺としてもウチに来ても良いと言った手前、全員結界内に入れなかったらどうしようと思ってたので、みんな入れて良かったとホッとした。


 回復術師は治療院で働いてもらって、他の人は孤児院で働いてもらうことにした。


「セージ様、この度は良すぎる待遇や措置、誠に感謝申し上げます」


「いえ。足りない物や必要な物はないですか」


「全くありません。元の生活よりも快適過ぎるくらいです」


「それはよかったです。何かあれば職員に言って下さい」


「はい、ありがとうございます」


 昨日まで牢で一緒だった人と俺の会話を一応邪魔しないように見ていた子供達は、会話が一区切りついたとみるや、絡んできた。


 如何にこのひとつき勉強したかとか、技術を覚えたかとか、何がおいしかったかとか、最近右目が疼き出したとか一斉に話し掛けられてもよく聞き取れなかったが、【聖女の瞳】と【純真なる聖女】と【聖女の微笑み】の複合技でなんとか切り抜けた。


 ここではとくに何も問題なさそうなので宿に戻ることにした。


「もうしばらくしたら旅に出てみるのも良いかもな」


 なんとなく呟く。


「そうなんスか?そしたらこの帝都をもう少し観光してみたらどうっスか?カジノとか温泉とか面白そうッしたよ?」


 俺が牢に入っている間、シロネはアーシュレシカと諜報活動をしている時に、帝都のお勧めスポットの情報も得ていたらしい。

 マップ情報誌も合わせて下見みたいなこともしていたらしく、俺が乗り気なら案内してくれるみたいなことを言ってくれたので、シロネの言葉に甘えて後日、ちょっと観光してみることにした。





 宿の部屋に戻ると、見知らぬ箱が。


「ハルト様、それからマモル様より小包が届いております」


 部屋付きのメイドさんが教えてくれた。


 小包というよりかは大荷物というか。

 ペットボトル飲料を箱買いしたような大きさと重さの木箱。

 ご丁寧に布で包んである。


 それが二つ。


 適当にぐるぐる巻きにしてある方がハルトから。

 しっかり風呂敷包みにしてある方がマモルから。


「あぁ、やっと届いたっぽいッスね」


 いつだって情報通なシロネさん。

 最近の俺はスマホを見る様にはしていたが、こんな小包届くなんて聞いてない。


 シェヘルレーゼとアーシュレシカも知っていたようで、納得顔をしている。


「なにコレ?」


「配下交換です」


 語呂的に等価交換みたいな?


「そうなんだ」


 適当に返事しておく。

 なんかよくわからないけど、受け入れておく。

 1人知らなかったのが悔しかったとかじゃない。


 …嘘です。

 悔しいので何の事もない風を装います。


「ハルト様とマモル様には、わたくしとアーシュレシカの配下ドールを1体ずつ送り込んでおります」


「ハルト様のもとにはまだ辿りついていないようですが、マモル様とは合流できたようです」


 これって俺にもハルトとマモルの情報が今まで以上によくわかるってことか?

 そしたら行動範囲が被らないでそれぞれ動けたり合流出来たりするってことだよな?


 誰だこの作戦考えたやつ!

 天才か?!


 …いや。微妙に天才でもないからハルトかな?

 小包にして送ってこなくても配下久遠の騎士なら自立して動けるんだから人型にしてここまで来させればいいのに…。


 そしてマモルは面白がってハルトに合わせて送りつけてきた感じっぽいな。

 少なくともマモルの久遠の騎士は人型に変身出来てたんだから。

 楽しんでいるのなら何よりってことでいいのか?


 異世界連れてこられたんだし、少しでも笑えるネタがあるならそれに越したことはないのか。

 俺だって謎の余裕かまして漫画読んでたし。


 あの時間があったから結構精神的に落ち着いた気がしたし。


 俺は俺で頑張ろう、的な。


 母さんと妹にまた会えるように。


 地下でひと月も呑気に漫画読んでたやつがよく言うよとかいうツッコミは一切受け付けないけども。


 とりあえず箱開けるかな。


 まずは雑な小包からアーシュレシカに開けてもらう。


 中に入っていたのは箱の内容量サイズの金属製の箱のようなもの。

 上にはハルトの字でカードが入っていた。


『名前はヒューイ。スキルは移動特化型。馬代わりに使えるように力と体力、俊敏力にステータスを振ってある』


 とあった。


「魔力を流せばセージ様の配下として使えます」


 俺がコニーに小鳥型の久遠の騎士をあげたような感じか。

 それの配下バージョンと。なるほど。


 さっそく魔力を流してみると、箱型金属がカシャカシャとうごめき、姿を変える。


 1分ほどで人型のロボットになった。

 サイズ的には3歳児くらいだろうか。


「人と同じようなサイズにはなれるか?」


 と言葉を掛けると


「御意」


 と返され、ロボットは…ヒューイはいれられていた箱から出て、ロボットとは思えない、魔法的な感じに姿を変え、成人男性並みの大きさになった。

 姿もシュッとしたイケてる人型ロボット。

 足元まで隠れるローブを着せていればガッチリした体形の男に見えるだろう。


 早速シェヘルレーゼが俺が思った通りのローブを着せていた。

 さすが俺の思考を元にした久遠の騎士である。



 それを見てから次はマモルから届いた小包をアーシュレシカに開けてもらう。


 中には色々な魔道具とともに、窮屈そうにいれられていた妖精型の久遠の騎士が。


 箱から出された妖精型久遠の騎士に早速魔力を流すと、その妖精が俺にポストカードみたいな説明書きされたカードを差し出してきたので受け取り読む。


『ハルトがこうするっていうから、僕も同じくしてみたよ。たまには届け物や手紙っていいよね。ってことで、セージに送る妖精の名前はピクシー=ジョー。スキルは諜報と暗殺特化型の斥候タイプにしたよ。ティムトとシィナが喜びそうなカッコいい妖精を目指しました。気に入ってくれたらうれしいなー』


 と書かれていた。

 やっぱり面白がっていたようだ。


 それを読んでから改めて妖精型久遠の騎士を見ると、なるほど。

 影のあるイケメンだ。

 但しサイズが家猫くらいのサイズだけど。


「お前も人と同じサイズになれるのか?」


「……いや。俺は変形のスキルは取っていない。このサイズでも問題なくセージ様の役に立つ自信がある」


 うん。

 受け答えがなんか、カッコいいな。

 ハードボイルド系だな。

 これはロボ並みにティムトとシィナの心を鷲掴みにしそうな久遠の騎士だな。



 翌日、俺がハルトとマモルから配下久遠の騎士をもらった事をどこかから知ったコニーが「俺もやるからお前も寄こせ」と言ってきたので一度断ったら、さらに翌日、「俺の久遠の騎士配下とそちらの久遠の騎士配下を交換して頂けませんか?」という丁寧な打診があったので受け入れた。


 こうして俺は新たに3タイプの久遠の騎士を側におくことになってしまった。

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