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066 読破した頃

 


 ずっと気になっていたけど巻数が多すぎてなかなか手を出せないでいたあの警察官の漫画や、海賊王を目指す漫画、ハードボイルドなすご腕スナイパーの漫画、とある一族から始まる数奇な運命を辿る血族や主人公達が精神エネルギー体を具現化して戦う漫画、体は小1で頭脳は超高校級高2な名探偵の漫画などの長編大作な名作をこの際に読みまくった。


 1カ月くらいかかったかな。

 その間はもちろん漫画だけ読んでいたわけではない。


 きちんと外と連絡は取っていた。

 ハルトやマモル、クラスの女子達とはもちろんシロネやアーシュレシカとも毎日スマホでやり取りはしていた。


 それでわかった事は、俺が無実で捕らえられた最初の一週間は何事もなく過ぎていったらしい。


 二週間目からざわつき始めた。

 まずネイルサロンではマニキュアを使いきってしまい、営業できなくなった。

 アーシュレシカは俺の許可が取れないとして店に資材を提供する事はしなかった。

 営業できない間は契約もあるのでその間しっかり給金は発生し、支払いもきちんとしている。



 城や冒険者ギルド、商業ギルドでは最高品質でありながら超低価格の聖水が手に入らなくなり、また教会の粗悪で高価格の聖水を買って使用しなければならなくなった。


 しかしここ数週間コスパ最強聖水で慣れてしまった人達にとって、教会の聖水は聖水ではない聖水に似た何かという感じになり、教会に文句を言ったら、その粗悪品より効果も値段も高い聖水をすすめられ、それを買っても俺が卸している聖水の10分の1の効果すらなく、教会は非難されているらしい。


 そのうちに誰かが俺と教会の人が揉めて俺が神官に連れていかれた事を思い出し、教会に詰め寄ったが、教会側は知らぬ存ぜぬの一点張りで、とにかく聖水は今後も教会から買うしかなくなった事だけを言い続けているらしい。



 孤児院兼治癒院は冒険者ギルドからの回復依頼を、俺の許可がないという理由で断っている以外はいつも通りの運営。



 商業ギルドでは何回か俺が卸していた麦や新鮮な野菜などがまた入らなくなったことでかなり荒れているらしい。


 キンバリーさんが死に物狂いで俺を探し、教会が連れて行ったという事実を知ると、物凄い形相で教会に乗り込んだらしいが、教会側でのらりくらりとかわされ、ブチギレて帰り、それから独自に何やら画策しているらしい。



 薬師ギルドにもいくつか薬草を卸していたので、そちらでもしばらく俺が来ない状況に恐怖していた。

 高品質の1級薬草が定期的に手に入らなくなるという謎の依存症的な恐怖。


 海底ダンジョンで手に入れたHP回復薬草とMP回復薬草ってのが、1級薬草というやつだったらしく、初めて売りにいった時、狂喜乱舞されたのを覚えている。


 1級薬草を扱えるというのは薬師としても名誉なことで、それで回復薬を作るとなると、高難易度だが、作れればたとえ失敗して等級落ちしたとしても、滅多に上がらない薬師スキルがかなり上がるし、それを特価で売れば助かる人も増える。そんな薬師冥利に尽きる薬草。

 もちろん特級ポーション作りが成功すれば国やギルドが高額で買ってくれるし、自分達のスキルが格段に上がる。


 そんな手に入ることなんてめったにない上に、手に入ったとしても状態がいいものはほとんどない薬草。


 そんな薬草を、品質を保持したままあり得ない銀貨1枚という低価格で売りにくる俺は、彼等にとって神か何かに思えたらしい。


 1級薬草の保管はなかなか難しいので、薬師ギルド帝都支部で使いきれる分だけ卸していたのだが、薬師ギルドでそんな風に思われていたとは知らなかった。


 あと、薬師ギルドの人達は、1級薬草中毒かと思えるほど、1級薬草が手元に無い事にストレスを感じているとか。



 子供たちはアーシュレシカに言われ、俺がいないからというこじつけのような理由でどこのギルドの依頼も受けなくなり、個人的に狩った魔物もどこのギルドにも流さなくなった。


 かわりに暇だからという理由で、自分たちで狩った魔物の肉を使って屋台を始めたらしく、大繁盛する一方で、毎日冒険者ギルドと商業ギルドの職員に、せめて魔物の肉だけでも卸してほしいと懇願されているらしいが、子供たちは頑として「セージにーちゃんが戻ってきたらまた依頼受ける」と言い張っているんだとか。


 とても健気で泣けます。

 のうのうと漫画読みふけっててゴメンよ。


 今度子供達が行きたいところに連れていってあげようと思う。

 それか遊園地作ってあげるのも良いかもな。



 シロネはアーシュレシカとともに俺を探すふりをしながら帝都内の諜報活動をしているみたいだ。



 夫人は一部の帝国貴族の貴婦人方を集めて俺のありがたみを説いているらしい。マジやめて。


 説かれた貴婦人方も、俺がいなくなったことで悲しそうにしているアテナ、ダヴィデ、コンユン、ショータロ、ユネ、ユオを見て、心を締め付けられているとか。


 アテナ達は俺がいなくなったことで、お茶などのサービスを一切しなくなったし、あまり人前に姿を現すこともしなくなった。


 でもパフォーマンス的な指導をアーシュレシカから受けているらしく、たまに悲しげな表情をしながら街で俺を探すふりをさせられている。


 なんてことさせてんだよ…。


 でもその甲斐あって、同情的に城へ陳情に上がる貴族が日に日に増えている。


 ある貴族はネイルサロンの常連化していた妻や娘に言われて。

 ある武闘派貴族は魔物狩りに必要なまともな聖水を欲して。

 ある美食家貴族はついこの間まで手に入っていた新鮮でおいしい野菜や果実が手に入らなくなったことを嘆いて。


 そして大多数の貴族が、俺が帝都にやって来たくらいから魔物の脅威が減ったのに、俺がいなくなってから、また前のような魔物の被害が増え、次に買える順番だったはずの低価格最高品質の聖水が手に入らなくなった事はどういうことなのかと国に訴え始めたらしい。


 俺が卸している低価格最高品質の聖水は魔物除けにもなるという噂があるらしく、どこの貴族も順番待ちだったようだ。


 一部貴族は頑張って教会から聖水を買っているらしいが、金の無い貴族なんかは手に入れられない。


 唯一手が届くと思われた聖水も順番待ちで、それを心待ちにしていたが、急にダメになったと聞かされては憤るのもしょうがない。


 コニーは増え続ける陳情書、陳情のための謁見で多忙を極めまくり、文官さんはまた顔色を悪くしながら働くようになった。

 どちらも大量に仕事が増えて寝る時間をガンガン削られているらしい。


 コニーの方でも俺が教会に捕らえられたという情報は入っているし、教会に説明を求めているが、全く回答を得られないまま今日に至っている。


 そこで事情を知っていそうなアーシュレシカに極秘裏に連絡を取り、知っている事を聞こうとしたけど、俺を探すのに忙しく、そんな暇はないと突っぱねられている、と。


 シェヘルレーゼとアーシュレシカの思惑としては国として教会に圧力を掛けるなり排除するなりさせたいらしい。


「セージ様より恩恵を受けるだけ受けて何もしないというのは許せません。どういう態度をとるか、どういう姿勢を見せるのか、どちらをとるのかはっきりしてもらいましょう」


 戦争でも起こす気か?!

 とも思ったが、そうはならないだろうという彼女達の見解。


 既にローザング聖王国に残っている女子たちによって国力は低下しつつあるらしく、あちらは他国や他大陸国家と戦争をする余裕もないっぽい。

 内乱が起きているとかで。


 なにしてるんだろ。女子達…。

 怖いんですけど。



 ハルトは東大陸に行ってみてるらしいし、マモルはまだ北大陸に居るけど他国だし。

 どちらものびのびと活動しているようだ。


 俺の連絡や近況報告は短すぎてあてにならないので、俺とは別にシロネからも情報を得ているらしく、それを聞いてゲラゲラ笑いながら「もっとやれ」とか「女子は中央大陸、セージは北大陸を手中に収めるのかなー?」とか言ってくるし。

 まるで人ごとのように楽しんでシロネから報告を受けていた。



 それと俺の国家反逆罪とか聖水密造とか無許可販売とかはマジでただの言いがかりだった。


 そもそも国家に属してないので反逆もクソもない。

 野良の回復術師なので教会の許可とか必要ないし。

 そもそも聖水作りも教会の許可制じゃないし。


 聖水作りは教会が勝手に秘匿していただけだし、そもそも俺とは作り方が違うし用法も違う。


 あと前提として俺が中央大陸出身だと勘違いしているらしい。


 召喚されたから出身と言えなくもないけど、放逐された身としてはむしが良すぎるんじゃないかと思うよね。


 だって最初で最後のあちら側からのお手紙でははっきりと『我が国は貴殿らと関わることはないと約束する』って書かれていたし。

 きちんと紋章みたいなハンコも押してあったし。


 ここから出れさえすればそれを証拠として提出する事も吝かではない。


 なのになかなか尋問が行われないどころかお迎えも来ないんだよね。


 シェヘルレーゼの読みでは、中央大陸から食料や金が入らなくなったため、俺を捕まえて聖水を作らせる算段だったのか、俺さえいなければ自分たちがつくっている聖水が売れると見込んでの暴挙だったのか。


 どちらにしても「セージ様への依存が強くなってきているこの帝国で、大きな顔をしていられるのも時間の問題ですわね。それにしてもコーウェニーク皇帝陛下にはがっかりですね。あれだけセージ様から施しをしてもらっていてまだ動かないのですから。がっかりですわ。本当にがっかり」とか言っていた。


 皇帝陛下と言っているのだからコニーだと思うけど、そんな名前だったとは知らなかった。


 それにコニーにしたってクソ広い帝国の頭してるくらいなんだから色々な方面からのしがらみもあるんだろうし、すぐに動けないだろう。


 そもそも俺だってわざわざここにいる必要はないんだし。

 さっさと外に出て帝国から出るなり他の大陸に行けば済むんだけど、自分を見失ってやることないって怖いよね。

 流れに身を任せ過ぎてる自覚、あるよ。



「うーん。さすが長編大作たち。読み切るのにかなりの時間が掛ったな」


 全然誰も来なくなってしまったし牢の中も快適だしで、長編名作の数々を今出ている巻数読み切ってしまった。


「お疲れ様でございます」


 俺のひとりごとにニコリと笑顔でこたえるシェヘルレーゼ。

 お茶も熱いものと交換してくれる。


 それをゆっくりと飲んで、これからの事を考える。


「ここから勝手に出たら脱獄犯として改めて捕まるのかな?」


「どうでしょう?ああいった輩はそういう難癖は付けてきそうですわね」


「そっか。じゃぁやっぱりお迎えが来るまでここにいるしかないのか」


「いえ。セージ様が出たいのなら出るべきです。うるさいコバエはわたくしが消してしまいましょう」


「いやいや、そういうのいいから。もっと穏便に考えようよ」


「ふふふ、承知しました。これまで通り、武力ではなく違う方面から攻めますね。…それにもしかしたら、すぐに出られるかもしれませんよ?」


 ちょっと気になる発言が聞こえてきたが、聞こえなかった事にしよう。


 シェヘルレーゼは何かに気付いたのか、地下の出入口の方に視線を向けた。


 するとガチャリ、と重そうな鍵が開けられる音が聞こえ、それからすぐギギギ…と扉が開く音がした。


 そしてガチャガチャと甲冑の鳴る音が近づいて…


「セージ様、お迎えに上がりました」


 知らない騎士が数名、お迎えに来た。

 そしてその騎士に紛れて


「これはこれは……なんとも優雅に過ごされていたようですね」


 あ、コニーの文官さんだ。

 彼もお迎えに来てくれたのか。


 めっちゃ顔色悪いけど。

 目の下の隈が頬骨あたりまで広がってるけど。


「あら、スピルガルグ様。どこをどう見たら優雅なのでしょうか。こんな狭い場所にずーっと閉じ込められましたのよ?それにこのように整える前は汚物まみれでしたのよ。お里が知れますわよね」


 シェヘルレーゼの言葉に、スピルガ…あの文官さんがティーテーブルに置かれているお茶を見て、俺の座っている椅子を見て、絨毯を見て、高級ベッドを見て、シャンデリアを見て、何かを諦めたのか、ふっ切ったのかは分からないが、とても爽やかな笑顔を浮かべて


「お迎えに上がるのが大変遅れてしまい、申し訳ございませんでした。罪状の裏どりや、教会への強制捜査に時間がかかりまして。しかしながらセージ様のお顔色もよろしいようでホッと致しました」


 と言った。


 そして他の囚人も見て頷くと、


「他の方にも手を尽くして下さったようで、感謝いたします」


 と、頭を下げた。

 もう突っ込まないことにしたらしい。

 いい判断だと思う。


「スピルガルグ様がお迎えにいらっしゃったということは、ここから出てもおとがめはないということでよろしくて?」


「はい。そうなります」


「他の囚人も冤罪のようですが」


「ええ。そちらのほうの裏取りもしてあります。セージ様とシェヘルレーゼ様同様に、皆咎め無しで解放されます」


「そうですか。それはよかったです」


 文官さんの言葉に納得したのか、シェヘルレーゼは満足そうに微笑み、頷いた。



 それから騎士達が各牢の鍵を開け、囚人達を解放。

 もちろん俺も牢から出ることが出来た。


 シェヘルレーゼは牢から出ると、アイテムボックス術を使って、各牢に設置したものをすべて回収。

 そしてトイレ壺は似たような物を【異世界ショップ】で購入して元の場所に置いた。


 するとそれを見ていた文官さんがちょっと顔をしかめた。


「もしかすると、この様な地下に牢を置きながら、毛布の一枚も無かったのですか?」


「ええ。それに掃除もされていなかったようで、悪臭と汚物の酷い場所でした。食事は衣類の薄さほどにスライスされた黒パンと汚泥のような水がコップに半分程度だされていたようですわよ?」


「なんと劣悪な、なんという非道…」


 シェヘルレーゼの情報に文官さんのしかめっ面が深まる。


「行きすぎた至上主義ですわね。…あちらの牢では虐待の跡も見受けられました。手遅れでしたが」


「……そう、ですか…」


 知らなかった。

 そうだったのか。


「…シェヘルレーゼ、その場所へ案内して」


「承知しました」


 案内を頼み、ついて行くと、地下牢の一番奥で鉄格子ではなく鉄と石の二重の壁に囲まれ、鉄の扉がついた牢があった。


 虐待に使う専用の牢だったのか、いくつものミイラや白骨死体がそこにあった。


 俺は迷わずこの世に囚われた魂を解放するという効果を持つ、【聖女の慈悲】を発動。


 魔法の効果なのか、ミイラや白骨から、淡く細かな光がほのかに立ち上る。


 残念ながら俺には魂は見えないが、これでしっかり鎮魂出来ればいいな、と胸に手を当てて、冥福を祈った。






 約ひと月半ぶりに外に出た。


 これが娑婆の空気とかいうやつか。

 埃っぽい。


 そして自然光の眩しさに少しだけクラリとした感じになる。


 そんな俺に、


『『お帰りなさいませ、セージ様』』


 と、教会の前まで迎えに来てくれていたシロネにアーシュレシカ、ティムトとシィナ、店や邸宅、孤児院兼治癒院を任せている久遠の騎士達、あの冒険者獣人パーティー、それから顔も覚えてないような獣人亜人達など大勢が出迎えてくれた。

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