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053 マイ騎士

 


「まぁ、このたらこパスタというものはとてもおいしいですわね」


 魚を日常的に食べる国なのでタラコも大丈夫だろうと思い、昼食はたらこたっぷりのたらこスパゲティーにした。


 作ったのは家事を任せるために買った奴隷の人達。

 シロネと子供達の一夜漬けが効いている。


「それに生野菜なんてとても贅沢。でも色とりどりでみずみずしくておいしいし、かけてあるソースもなんともいえない酸味とうま味があってさっぱりいただけるわね。たくさん食べられちゃうわ」


 寮内の色々を見学して、なにか吹っ切れたのか話し方もフランクになってなにより。


 今朝までの気合いの入り様は何だったのかと言うくらいには肩の力が抜けているご様子。


 昼食は奴隷達の料理の勉強も兼ねて作られたものだ。


 胡麻ドレ掛けの生野菜と蒸し鶏サラダ、刻み大葉とくし切りレモンをちょこんと乗せた たらこスパゲティー、適度な厚さにスライスしてガーリックバターを塗って焼いたバゲット、レモン果汁入りの水出しミーグ茶。

 というラインナップ。


 ここにきていよいよもって飲むことになってミーグ茶だが、なんとも不思議なお茶だった。


 お湯で淹れると日本でおなじみのほうじ茶となり、水で淹れるとコーラ味。しかも水出しの場合はしっかり炭酸の利いたコーラ味だ。


 こんなに普通においしいならもっと早く飲んでおけばよかったよ。



 しかしこんな簡単なメニューでよかったのかな?と思い、夫人に聞けば、貴族と言っても毎日毎食フルコースや豪勢な食事をとっているわけではないらしい。


 もちろんそんな貴族がいない事はないのだが、ほとんどの貴族や皇族だって普通の一般人…といっても上層の一般人と変わらない食事だと言っていた。


 中層はまだ小麦の入っていない黒パンが基本だし、下層に至っては黒パンすら買えないから比較にはならなかったが…。


 食事をしながらも夫人は色々教えてくれた。


 目の前の物事をひとつひとつ教えていくスタンスにしたようだ。



 食事が終われば店の見学。

 食事のあと、お茶をしたかったのだが、店に行っている人達に昼食を届けると言うのでついでに一緒に行くことにした感じだ。


 店には従業員さんとその奴隷の人達が機材の使い方を含めて復習に励んでいた。


 俺と夫人を見て一斉に立ち上がり、反射的に礼をとる従業員と、それを見て焦って真似る奴隷の人達。


 だが従業員の数人が二度見のようにすぐに顔を上げてしまう。


「あ、兄上?!」


「お姉さま…」


「お兄様!」


 夫人のツレにご家族がいた様子。


 しかし夫人側の御家族は驚きつつもすぐに叱る。


「セージ様と夫人の前だぞ?いくら家族が見えたからと言って目の前の貴人に礼を欠いてはいけない」


「「「失礼しましたっ!」」」


「ふふふ。そうね。次からは気をつけましょうね」


 たしかにこれが開店中だったら客に対して失礼にあたるのか。


「それにしても…あちらがあんな感じだったからこちらも、と予想は付いていたのだけれど、こちらも非常識ねぇ」


 そう言って店の内見を始める夫人。

 その間に店で練習を頑張っていた従業員と奴隷の人達に昼食をとってもらう。


 夫人への店の案内は、既に俺や夫人とともに昼食をとっているシロネがする。


 俺はサロンでお茶して待つことにした。

 なんとなく施術の流れになりそうな予感がしたので。


 予感は的中。

 店で練習を頑張っていた従業員さん達が食後のお茶まで楽しめちゃう時間をたっぷり使ってシロネからの施術を受けていた夫人がサロンに戻ってきた。


「セージ様。このネイルというのは素晴らしいものですわね。でもたった半年で辞めてしまわれるの?」


「えぇ。既にそういう契約を今回従業員として雇い入れた彼彼女等とかわしてしまいましたからね。奴隷も半年で自分を買い戻せるくらいの給金を支払う契約をしましたし」


「そう…だったら半年後、再契約をしてはどうかしら?」


「そう言われましても…まだ始まってもいない商売ですし、今のところ物珍しさもあって一部で騒がれているだけですので長くは続かないと思いますよ」


 俺、知ってるよ。

 貴族が熱しやすく冷めやすいって。


 ゾーロさんが言ってた。


「そんな事ないわ。これは必ず成功するし続く商売よ」


 そんな強い眼力で断言されても困りますよ?!


「俺、そんなに長い期間をこの国に滞在するわけでもないので、半年がギリギリですね」


 なんなら半年経たずに出ていく気満々だし。


「そんな……そうね。だったら業務委託をすればよろしいのよ。誰か信頼のおける貴族や商人はいまして?」


 商人と聞いて一瞬ゾーロさんを思い浮かべたが、そもそも彼はこの大陸の人間ではないと言う話だったし、貴族に知り合いがいたら夫人がここにいるはずがない。


 それに信頼と言われるとさらになぁ…。


 ん?信頼。


 そうか、信頼!


 信頼と安心の……久遠の騎士!


 ここで雑用の為に久遠の騎士を解禁するのも悪くないな。


 うん。

 そうするか。


「そうですね。そこまで言っていただけるのなら貴族でも商人でもありませんが、配下の者にしばらく任せる事にします」


「シロネかしら?」


「いえ。別の者にまかせようかと」


「あら、他に従者が?陛下からはシロネ以外いないような事を聞い……なるほど。そういうことですのね」


 夫人も気付いたご様子で。


 というかコニー、夫人に結構色々話しているのね。

 ということはこのご夫人、かなり信頼できる人?


「それなら問題ないのかしら?あまりにも常識外過ぎてよく分からなくなってきたわ。陛下が気を付けるように言ったのはこういうことかしら…」


 夫人、ご混乱あそばしているご様子。


「では、そういうことにしますので、今日の所は俺はこれで失礼しますね」


 大人を気取るのも丁寧な言葉遣いするのも疲れた。


 宿戻ってダラダラしたい、という気持ちを込めて【聖女の微笑み】を発動してお暇を告げる。


「え、えぇ。急に押しかけてしまったにもかかわらず、丁寧な案内、ありがとう存しました」


 申し訳ないとは思うけど、これを使うと有無を言わせず何事も辞退出来るので重宝している。



 夫人方とは店で別れ、俺はシロネと子供らとともに宿へ戻る。


 テンちゃん?

 ずっと俺の後をちょこまかフワモコ付いてきてるよ。


 子供らは途中、冒険者ギルドへ遊びにいくというので別行動。

 元気だね。


 シロネも宿に着いてからは自由にしていいと言って、俺は宿の部屋の寝室にこもる。


 とりあえず小一時間ほど昼寝して、ダラダラと起きあがり、それから意を決して【アイテムボックス】から大きな宝箱を二つ取り出した。



【魔力登録型久遠の騎士:typeドール】を2つ。


 思いきってサクッと登録。


 登録はすぐに出来た。

 けど設定はやはり面倒だった。


 細かい設定は後で…なんて、たぶんやらないと思うので、この段階でしてしまう。


 ドールの性格は 《任意》

 登録者からの知識コピー 《許可》

 登録者のスキル使用 《許可》

 ドールスキルタイプ 《任意》

 ドール姿 《任意》

 ドール思考 《任意》


 …と。


 《任意》を選択しないと細々とした設定があったので、面倒になって2体とも全部《任意》や《許可》にしておいた。

 登録して自分好みの久遠の騎士にカスタマイズするという醍醐味の薄い設定だったが、俺はこれでいい。


 ハルトやマモルみたいにめちゃくちゃ細かい設定を何時間も悩みながらするなんて俺には無理ですよ。

 それにそこまでこだわりとかもないし。



「して、起動、っと」


 設定を完了して、起動させれば、音もなくドールタイプの久遠の騎士は動いた。


 大きさは1メートル弱くらいの球体関節人形で、髪も性別もない。


 それが起動して1分すると意思を持ち動き始め、擬人化を始めた。


 片方は12歳くらいの、色白でクセがかったショートボブの藍紫色の髪に金眼の少年。

 もう片方は…白人的な健康的な肌色で真っ赤な髪色、藤色の瞳をした妙齢の美女となった。


 俺は慌てて二体…いや、二人にバスタオルを投げた。


 二人はすぐに意図に気付き、体にバスタオルを纏い、それから俺の前に跪いた。


「「主より命を授かりましたドール、壊れて動かなくなるその日まで、久遠の騎士として主に忠誠を」」


 二人同時に、そう言った。


 両方ドールタイプだからだと思うが、ハルトやマモル、ハーちゃん、コニーの時とは少し言い回しが違う。


 こちらはなんか人形感推してる感じだな。

 それと性格も任意にしてしまったから同じこと言ったのかも?


 それにしても性格を任意にすると、見た目がこんなに変わるとは思わなかった。


 今では身長も見た目も普通の人間と変わらない。

 髪色も眼の色もこの世界では全然違和感ない。


 まぁ、元の世界でもコスプレとして通りそうだけど。


「よろしく。二人にはやってほしいことがある」


「なんなりと」


「主の仰せのままに」


 二人とも跪いたままそう答える。


 これ、アレかな。

 全部言わなきゃダメなやつかな?

 そうなると面倒なんだけど…どうしよ。

 早速後悔し始めたんですけど。


 と考えた瞬間、二人とも優雅に立ち上がり、こちらを見てしっかりと聞く姿勢に入った。


 よかった。

 いや、良くない!


 跪くのが無くなったのはいいんだけど格好が良くない!

 バスタオル纏ってるだけじゃん!


 服着せないと!


「まずは服か…どういうものを着たい?」


 なんだろう、人に見えるけど人じゃないとわかるとちょっと安心して話せる自分がいる。

 片方美女だけど全然怖くないし緊張もしない。人感あるのに、人じゃない、元は人形だと知っているだけでこんなに精神的に楽なのか…。


「わたくしはクラシックなメイド服を。しかし主様の許可をいただき、主様のスキルを使用させていただけるのならば主様のお手を煩わせることなく私どもで選び、速やかに身に付け、主様へのお目汚しの時間を少しでも短くしたいと存じます」


 何故メイド服に色々ある事を知っている?!

 そしてクラシック指定?!


 あ、そうか、知識コピーか。

 俺の知っている事をこの二人は知っている、ということか。

 だったら結構楽だな。


 それに俺のスキルも使えると言うのなら自分たちで選んだり必要な物を買って身の周りを整えてもらえばいいのか。


 マジ楽かも。


「わかった。俺はあっちの部屋に行ってるから」


「「お手数をおかけします」」


 そう言って二人は俺が部屋から出て行くのを深く頭を下げて見送った。




 しばらくして、寝室から出てきた二人。

【異世界ショップ】にこんな服売ってたんだと感心してしまう。


 美女型のドールは、白と黒のモノトーンなクラシックだがどこか現代風なロングスカートなメイド服に高めのヒールの編み上げの革ブーツ、フリル付きの白のエプロンドレスと、腰には腰鞄と多機能腰袋をつけている。


 少年ドールも装備品は同じで、色合いや作りは同じだがひざ丈スカートのメイド服で、白タイツにローヒールの黒のストラップパンプスだった。


 ……あぁ。


 そうですか。


「……二人ともよく似合ってるよ」


 悲しいかな、母さんからしっかり教育されている俺は、相手に着替えた服を見せられた時にはこう言うようにと教育されている。


「あの…いいの、ですか?」


 メイド服姿の少年ドールがビクビクとした感じで、俺の顔色をうかがうように尋ねる。


「うん。まぁ。でもそういうの着たいのなら女性タイプのドールになった方が良かったんじゃないか?」


「でも…それだと主様のおそばにいられない時があると思ったので…この見た目だったらギリギリセーフかなって」


 全然アウトですね。


 とは言わずにぐっとこらえた。


 一応その格好をしていれば少女に見えなくもない。

 少年と言われても納得はするけど。

 声も少年寄りの少女声だし。


「………………………………そうか」


 無難かどうかはわからないが、そう答えるしか俺には出来なかった。


「しっ、下着も、女性物にしてしまいました。本当に申し訳ありませんっ」


 いや、そういう報告いらないですよ?!


 顔を赤らめ、潤んだ瞳での上目づかいで言われても、こっちはなんだか悲しくて涙が出そうなんですけど?!


「…好きな格好していいから。大丈夫だから」


 大丈夫大丈夫。

 人それぞれ人それぞれ。


 俺は心の中でそう自分に言い聞かせることしか出来なかった。


「あ、ありがとうございますっ!」


 涙を滲ませ、とても幸せそうな笑顔を浮かべる少年ドール。

 それを微笑ましそうに見ている美女ドール。


 あとは細々としたものも各自買いそろえるように言っておく。

 俺が用意しても後々足りないものが出てくるだろうし、その都度許可をとって許可を出して…というのも面倒だし、ついでのその旨も伝えておく。


 自己判断で【異世界ショップ】の使用もだし、お金も各自の裁量に任せて使っていいし、たぶん俺の【アイテムボックス】からもモノを取り出せるっぽいので、それもいっぱいある物は自由に使っていい事も言った。



 そういう説明をしてからようやく本題に入る。

 ずっと俺の身の回りの世話をしてくれているシロネの負担がだんだん大きくなってきたので、負担を分散してほしい事、農業したいけど全く分からないからどう手を付けていいかわからない事、でも旅とかもしてみたい事、元の世界に戻る手掛かりや方法も見つけてみたい事などなど。


「なるほど。承知しました。それでは申し訳ないのですが、もう少し知識を得たいと思いますので、教材を購入し、マモル様から協力を得てもよろしいでしょうか?」


 美女ドールが言うので許可する。

 マモルの【ミニチュアガーデン】の使用させてほしいとの事。

 加速世界で専門知識を得る勉強をしまくってきてくれるらしい。

 めっちゃありがたい。


 マモルには夕方の夕食時にならないと連絡が取れないので、それまでに揃える物や出来る事をしてもらう。


 俺も二人が知識を得るのにたくさん教材が必要だと言うので、【異世界ショップ】のアイテムチャージで余裕を持ってアイテムを換金していく。


 とりあえず普通に売れないことが判明したレベル100以上の魔石や鉱物で出来た不思議な木や、【マジックバッグシード】のがくっついていた茎の部分もいっぱいあるし、それら大量にあるアイテムを三分の一くらいまんべんなくアイテムチャージしていく。


 やったね!

 チャージ金額金貨100億枚だって!


 これだけあればドール達が使いまくっても足りるよね?


 聞けばマモルの【ミニチュアガーデン】を借りてそこで時間を加速しまくって勉強しまくってくれるみたいだし。


 俺がこの世界で何不自由なく過ごせるようにしてくれるらしい。


 とてもありがたい申し出だ。


「でもあまり無理はしないように」


「ありがとうございます。しかし我らドール、食事や睡眠を必要としませんし、セージ様はご自分のスキルで身を守る事が出来る御方なので、我々の存在意義となると武力の他は知識のほかありません。しかしセージ様はあまり武力は必要とされないようですので、ならば極限まで知識を高めようと思うのです」


 力説された。


「つきましてはエストラ様方にもお手伝いして頂きたいと思うのですが」


「わかった。じゃぁマモルが帰ってくるまでまだ時間あるし、今から夫人と顔合わせしとく?」


「よろしくお願いいたします」


 ということで、夫人とはつい2時間弱前に別れたばかりだが、また会いに行くことになってしまった。



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