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005 奴隷さん達

 


 そして案内、誘導されたのは、このフロアに入った扉と違う扉だった。

 奴隷には上から被るフード付きのローブを被せ、奴隷商の従業員が、その扉を開く。

 扉の先は半地下だったようで、数段階段を上がれば奴隷商の館の裏門に出た。


「申し訳ございません。その状態の奴隷に館内を歩かせるわけにはいかないもので」


 と、一応は心から申し訳なさそうにしてくれるから、良しとするけどさ。

 実際血や細かな肉を歩く…というかズルズル体を引き摺る都度に滴らせているわけだし。

 絨毯を敷き詰めた館内は厳しいよな。石床なら掃除も出来そうだし。

 というか奴隷も歩くと言うか、体を引き摺ると言うか、そんな状態だし。

 こりゃ早くなんとかしないと。

 さっきからマモルが適当な低レベル回復魔法を何度かかけるという謎の工作を行っているが、そろそろ持ちそうもない。

 てか、マモルが普通に回復魔法使えば欠損部位の再生は難しいとしても、現状の流血や肉体の崩壊は食い止められると思うんですけど。


 奴隷商の従業員が見送る中、奴隷商の敷地を出て、門扉の脇の壁に隠れ、従業員の視界から離れたところで


「さて、えーと、こうかな? 【隠蔽】」


 そうマモルが口にすると、マモルと奴隷の人たちがどこかへ行ってしまった。

 さっきまでそこに居たような気がするけど、どこか路地にでも入った?

 そう思わせる感じの自然な思考誘導付きの不思議な魔法。


「お、消えた、ってか見失った感じ?」


「だな! あらかじめわかってても騙された感じするぜ」


「ん、成功だね! じゃセージとハルトにも【隠蔽】魔法っと」


 かけられたっぽいけど、自覚はあまりない。


「え、これで周りからは消えてんの?」


 魔法を掛けた感のある視覚効果とかはないようだ。

 それに自分の体も消えたわけでもないし、マモルとハルト、奴隷の人達も普通に見える。周囲の景色も普通に見えて、【隠蔽】魔法を掛けられたからと言って、かけられた側には全く異変はないようだ。

 魔法の効果ありますよ感は少し欲しかったな…。


「うん。そのはず。じゃさっそくセージお願い」


 俺達が奴隷の状態を見て、奴隷商の支店長や従業員たちが奴隷達の奴隷紋をどこに描くかとあーだこーだしているところでコソコソと立てた小さな計画としては、館を出たらすぐにマモルが使えるという【隠蔽】魔法でもって姿をくらまし、その間に俺が聖女スキルで奴隷達を治すというものだった。

 治せる保証もないが、ここまでひどい状態の人をどこまで治せるかの検証にもなるし、治せなかったとしてもそれはそれでマモルがなんとかして見せる、という謎の説得力を発揮されたので俺達はマモルの提案に乗ることにした。


 後でマモルから聞いた話で、その“なんとかする”ってどういうことする予定だったのか聞いたところ、魔法と錬金術の合わせ技のゴリ押しで、人工的な器官や手足を作って普通に生活する分には何の支障もない程度にはすることができそうだったと言っていた。


 どうやら賢者はマッドな思考も持つようになっていたらしい。

 けど、同時に色々考えてんだな、とハルトと二人で感心して聞いた。


「うぃーっす」


 と初めての事にちょっと緊張しながら返事をし、スキルに集中する。


「えーと、まずは【堅牢なる聖女の聖域】からの【聖女の慈愛】、【聖女の癒し】ついでに【クリーン】か?」


 まずは【堅牢なる聖女の聖域】で聖域内を浄化し意識的に無菌状態になるようにし、そこから【聖女の慈愛】でまずは病気やバッドステータスを癒しつつ、同時に【聖女の癒し】を掛けてHPの全回復をはかる。

 あとはついでに外に出るまでについさっき被せられたローブが血まみれ状態だったので、クリーニングしたての状態をイメージしてローブや身につけていたっぽいボロ切れを綺麗にした。


 スキルを使った実感はなかったが、奴隷の人達がほぼノータイムでスッと一瞬で欠損部位含め、怪我も病気も破れてはみ出てた部分も腐った部分も全て治ったのがわかった。

 淡く光って怪我が治ったり欠損部位がじわじわと再生されるとか、そんな事はなかった。何の感動もエフェクトもなくスッと一瞬だった。

 マモルの隠蔽魔法もそうだけど、魔法やスキルって結構地味なのかもしれない。


「もー、セージはゆるいなー。結果はえげつないけど」


 まさかゆるキャラマモルにゆるい言われるとは思ってもみなかった。


「うわー、手足生えてるし内臓も腹に収まってるっぽい。体調どーよ?」


 ハルトは俺のスキルに引きつつ、意識を取り戻したっぽい奴隷の人達に感想を聞くという荒業に出ている。

 勇者となればもともとあったコミュニケーション能力を格段にアップさせることも出来るらしい。なんというチート能力!


 そして奴隷の人に対する注意事項もきちんと聞いていた模様。

 確か話し方や態度はしっかりと自分が主導権を握るように、だったか。


「あ…、は、…い」


 ローブのフードを下ろして自分の頭や顔、体の状態をおっかなびっくり確認していた奴隷の人たち。

 ハルトの質問になんとか声を絞り出した感のある兎の獣人がカッスカスにかすれた声で返事をする。

 一応ハルトが契約主になっているので、強制的に返事をさせられた的なアレだろう。

 まだ奴隷紋の設定変えてないし。


「あー、ごめんごめん。喉渇いてるよね。これ、水な。とりあえず水。落ち着いたらおにぎりな」


 アイテムバッグに入れていたっぽいペットボトルの水を出して、親切にキャップを外してから奴隷3人に水を手渡す紳士ハルト。


「えー、ここはパンじゃない? 異世界だし。他の二人も好きなだけ水飲んでね」


 マモルにそう言われ、困惑しながらもよほど喉が渇いていたのか、ゴクゴクと水を飲む3人の奴隷。


 一気に2リットルを飲みきって、落ち着いたらしく、ハッとした表情となり、姿勢を正し、俺達に向き直る。


「こういうときってどうすればいいんだろうな? とりあえずいちいち指示しなきゃ行動できないのも不便だし、設定変更からはじめるか」


 ってことでそれぞれの奴隷の奴隷紋設定を変更する事からはじめることにした。

 と言っても最低ランクの設定にしたってだけだが。

 主人に対する攻撃や虚偽報告、裏切り行為などが出来ない設定。


 その設定は本人にもわかるようで


「あの…これでは自衛の為に敵前逃亡したり、主をこの身を呈して守らなかったりしても罰則がない感じになると思うんですが…」


 おずおずといった感じで質問する兎獣人女子。

 俺達と同じくらいの年齢っぽい、素朴な見た目のウサ耳ウサ尻尾のそれ以外人間と変わるところが無い女の子だ。


「ああ、いーのいーの。主に日常生活の補助の為に奴隷を受け入れることにしたんだから。それでも戦闘スキルある人選んだのは、自分の身は自分で守れる人がいいなってだけだから」


「はあ…」


「まあ、まずはパンでも食べなよ。水のおかわりもあるよー」


 マイペースにも今度は食パンを配るマモル。


 初めて見るものなのか、不思議な顔をしつつも、パンと言われたものなのだから食べられるだろうし、主…と仲の良さげな男子に食べろと言われたのだからこれがなんであろうと食べなければならない、そういった表情がうかがえるウサ耳女子。他の二人の奴隷の表情は無表情だが困惑気味なのはわかる。

 ウサ耳女子に続いて食パンをかじり、まともに食べられるとわかったのか、あとは貪るように食べ、喉が詰まれば水をがぶ飲みする。


 そんな奴隷達を生温かい表情で眺めるハルトとマモル。

 そんなハルトとマモルを見て、随分余裕だな、と俺は思った。


 あの半スプラッタな方たちが、一瞬にして欠損含め、そんな事はかけらもなかったかのように五体満足で病気や怪我も皆無状態になってるんですけど。


 スキル使った本人が一番引いてるんですけどねえ。


 なのに驚くタイミングを失って手持ち無沙汰。

 どうしようかと目を泳がせていると、俺が契約することになった狐人族だ、と奴隷商の支店長さんが言っていた、狐耳の…男性? 女性? 性別不詳っぽい人と目が合う。

 この人も狐の耳と尻尾のパーツがついているだけで普通の人間っぽい獣人の人だ。ただ色合いは白い。銀髪ってより白髪っぽい。ケモ耳ケモ尻尾部分も白だ。どちらも回復前は欠損していたけどさ。


「す、すみませんっ! あ、えっと、自分、シロネと言います! 自分さっきまで何も見えなくて、微かに感じ取れた魔力から考えると、ご主人様が自分ら治してくれたんですよね!? ありがとうございました! それに、奴隷紋の設定緩和や食事も!」


 目があった瞬間、思い出したように狐の人が慌ててしゃべりだす。

 グイグイ来るタイプのようだ。勢いがすごい。もしかしたら仲良く出来ないかもしれない。


「あ、はい」


 勢いにのまれてそんな返事しか出来なかった。


「遅ればせながら私も礼を」


 マモルが契約した鬼の人も落ち着いた感じで言葉を発する。

 思った以上のバリトンイケメンボイスだった。


「あっ、わたしも、すみません! 驚くところが多すぎて感謝が遅くなってしまいました! ありがとうございます! わたし、平原兎人族のマーニと言います! よろしくお願いします!」


 こちらも急に前のめり気味で挨拶込みの感謝を述べてくれる。このグイグイ来る感じ、仲良く出来ないかもしれない。


「あー、すまん。こっち二人、グイグイ行かれると引くタイプなんだわ。とりあえずよろしくな」


 ハルトに続いて俺とマモルも若干引きつつよろしくとあいさつする。

 兎と狐の人は反省気味に、今度は落ち着いて、鬼の人はさっきと同様に口数少なく改めて挨拶してくれた。


 兎の女子はマーニと言って、兎の獣人で17歳。

 耳も尻尾も髪色も目の色も落ち着いたこげ茶色で、顔立ちも素朴。テンション以外は馴染めそうな感じである。

 マーニは仲間に騙され陥れられた揚句、魔物前に囮として投げ捨てられ、それでもまだ生きているからと奴隷として売られたというなんとも散々ないきさつで奴隷になった人だった。

 本人はヘラヘラと笑って説明していたが、俺達はなんとも言えなかったのは想像に難くないだろう。


 次にシロネ。狐の獣人で19歳。

 耳、尻尾、髪色は真っ白で、目の色も薄灰色。顔立ちはキレイめだけど性別は不詳。声を聞いても分からなかった。言動は落ち着いたがめっちゃ気合いが入った視線をこちらに向けてくるので、俺としてはまだしばらくは馴染めそうにない。自然と目をそらしてしまう。

 シロネは旅芸人一座に所属していて、この国の隣国へ公演に来た際、たまたま居合わせたこの国の貴族に目を付けられ、難癖付けられ、一座全員なぶり殺しに合うもシロネだけはギリギリで生きていた。そのまま殺されると思ったところに追い打ちで死なない程度に切り刻まれ、そのうち飽きて奴隷として売られた、というこれまたハードな内容だった。


 そうだよな、よく考えてみたらあの地下に居た奴隷の人達、見た目もハードだったんだ。奴隷になったいきさつもかなりハードだよな。


 で、鬼の人はシュラマル。46歳。

 鬼人族というのは人族というのに該当する俺達より2倍は長生きするそうなので、人族で言えば20代ぐらいだそうで。

 シロネ同様白い髪だが、肌は赤い。額にある一本角は先端に行くにしたがって透明になっている。あだ名を付けるとしたら赤鬼さんだな。

 シュラマルがいた国が戦争で負け、その際兵士として参加していたシュラマルは敗戦奴隷となった。と言葉少なに説明してくれたが、あの状態から考えると、こちらも残酷な目にあったのは疑いようがない。


 俺達はこの3人が奴隷になったいきさつにはなんとも感想は述べられなかった。



 で、今はこれからの事を話しつつ移動している。

 ずっと奴隷商の館の裏門横に居たので、そろそろ移動しつつ隠蔽魔法解除しようという事になった。


 奴隷商の館から大通りの中でも人通りの多いところを選んで、歩きながらぬるっと隠蔽魔法を解除して完了。

 既にこの魔法を使いこなしている辺り賢者である。


 マーニ達は奴隷商で着せられた時点よりかなり小奇麗になったローブのフードを目深にかぶり、旅人風となっている。

 なるべく耳や尻尾、角なんかが隠れるようにしたし、歩き方もしっかりとしているので奴隷だとは誰も思わないだろう。

 なんかここ異種族人種の奴隷多いみたいだしさ。ちょっと隠しておいた方がいいかもねってマモルが言っていた。


 というか、奴隷じゃない異種族人種を見かけないんだけど…まさかこの国、マジで人族至上主義的な国とかだったりしないよな?

 シロネの奴隷になった経緯とか思い出すと、なんかそんな気がしてきた。

 この国に限らずこの世界全体がそういった感じなんだろうか?




 なにはともあれまずは宿で落ち着いて話をすることに。


 宿では4人部屋をもう一つ、俺達の部屋の隣を取った。

 宿にはたまたま知り合いと会って、一緒の宿を取ることにした、という説明をマモルがしていた。

 まだここで奴隷や獣人と呼ばれる人達がどんな扱いなのかもわからないし、こういう理由を俺達の方で説明しておけば、何かあってもアメリの家でもあるこの宿屋にそう迷惑はかからないだろうとの理由だった。

 考え過ぎでは? と思わなくもなかったが、よく考えたら、ここに来て半日も経たない俺達は多少考え過ぎなくらいじゃないとだよな、とちょっと反省し、さすがマモルは賢者だなという並み感あふれる感想を抱いた俺だった。


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