049 翌日もおよばれさん
ハーちゃんちにおよばれした翌日、俺は王城に来ていた。
朝早くに騎士に付き添われた偉い感じの文官が来て
「陛下がセージ様と個人的に昼食会をしたい、と」
とか言ってきた。
バカな俺でもわかるくらい嫌な予感しかしなかったので、条件を出した。
俺の奴隷であるシロネの身分の保障と、俺に代わり皇族や上位者に対して発言や交渉をする許可と同席。
これがダメなら俺個人で城には行かない。
ハルトとマモルも一緒なら仕方なく行くという旨をなんとか自力で話した。
文官は一旦城に持ち帰る…と思ったら、その場であっさり許可が下りた。
シロネの商業ギルドの登録証以外の身分証は城に行ってから発行となるが、俺達が城に行く時間までに用意しておくと言い、昼前に迎えを寄こす事を言って彼らは城へと戻っていった。
そして予定通り昼前には迎えが来て、俺とシロネ、ついでに俺の騎士としてティムトとシィナ、従魔としてテンちゃんも城に入る事を許可されていた。
さすがに子供らとテンちゃんは同室で同席などは出来なかったが、部屋の外でコニーの近衛騎士に混じって待機、ならびに騎士としての心構えなど習っている。
…二人は楽しそうだった。
テンちゃんは大人しくちょこんと毛玉らしくしていたが。
部屋の中に居る俺は全然楽しくない。
コニーがネチネチとめんどくさい。
「聞いたぞ。見たことも聞いたこともない品々をシェフィーに土産としたってな」
シェフィーとは?
なんていちいち質問しない。
面倒なので。
早く帰りたいのです。
「……ですね」
「おい」
「はい」
「なんだ、その他人行儀は」
「…他人なんで」
「…そうだよな。もとより俺とおまえはそんなに話す感じでも無かったか。こうしてサシで話すのははじめてか」
「ですね」
「おい」
「はい」
「…昨日シェフィーの所で出した軽食とやら、俺にも出せ」
「どうぞ」
ほぼノータイムで出してやった。
「ぶっ!なんだこれは!?」
「…シロネに説明を頼んでも?」
「許す! あ、あとこれ、身分証な」
一旦話を止めて、皇帝自ら差し出したのはシロネと子供らの身分証だった。
出身や奴隷云々などは書かれていなかったが、それぞれの名前とこの国の騎士と同等の客分として扱うことが書かれている。
この身分証に各々が魔力を通せばきちんと身分証として機能すると教わった。
気前よく子供たちの分まで用意してくれたみたいだ。
これには感謝だな。
子供らの登録は後からにするとして、早速シロネには、その場で身分証の登録をしてもらった。
それからシロネは俺が出したフルーツたっぷり生クリーム得盛りパンケーキの説明をコニーにした。
「なぁ、もっとほかには無いのか!? それと料理人を紹介してくれ。よければ召し上げさせてくれ」
「料理人は無理」
「何故だ!? いや、俺とお前の立場で言えば無理な事は言えないが、せめて料理人を一時的に貸すことくらいは出来るだろう!?」
立場がどうこういうのなら城に呼びつけないでくださいませんかね?
職員室に呼び出し食らった感じで嫌なんだけど。
「……俺がこれを作っていたとしても、か?」
【異世界ショップ】というスキルで出しているんだから俺が作ったという事にしとこう。
だってこれ、対価を支払い、たぶん何らかの方法で異世界から取り寄せてるんだよな?
だったらどう説明するかも分からないし、説明していいものなのかもさっぱり分からない。
ここにマモルが居ない事が大変悔やまれる。
前にどう説明するか聞いた気がするが、全然覚えてない。
早く帰りたい。
「なにぃ!? 旅の間、そんなそぶり全く見せなかったよな!? お前、料理出来たのか!?」
「嗜み程度には」
「どんな嗜みだよ!? ウチの料理人超えてる嗜みって嗜みとは言えないぞ!?」
やりましたよ、元世界のパンケーキ屋さん!
この世界の、栄えある大陸の大帝国の皇帝の料理人の腕前を超えてるって!
「いえ、こちらの料理人の方の料理は知らないので」
このコニーという帝国の帝王さん。…皇帝さん? 王様?
ここでは皇帝とか陛下とか呼ばれているけど、こんな話し方だし、態度だし、考え方もアレなのか、俺を昼食会に呼んでおきながら城から昼食を出す気はさらさらなかったようで、何も用意されてなかった。
出されたのは高級そうな紅茶だけ。
後は全部俺に出させる気満々だったようだ。
「ぐっ…、それもそうだが…」
「陛下…だから申し上げましたのに…」
コニーの側近がコニーを残念そうな目で見ながらそう呟くように声を掛けていた。
さながら「だから言っただろうこのバカが」という感じに言っているように俺は見えた。
この人たぶん物凄くコニーに苦労を掛けられているんだろうな、と俺は察した。
陛下のクセに単身他大陸まで渡って騎士のまねごとをしながら数週間国を留守にするって、俺でもこいつアホだろうと思えてしまう。
どうやって皇帝の不在を誤魔化したのかとか、やり過ごしたのかは知らないけど、相当この人頑張ったんだろうなとはうかがえる。
だって物凄く顔色悪いから。
そのうち過労死するかもしれない。
目の下の隈とか唇の色もすごいし。
俺の視線に気付いたのか、そのコニーの側近は一礼して一歩下がった。
それを見ていたシロネが俺のもとまでやってくる。
俺の考えそうな事に気付いたのか。すごいな。
俺はアイテムボックスから海底ダンジョンで手に入れた、めっちゃ回復する回復薬とショップで購入してある栄養ドリンクを出し、シロネに預けた。
シロネはそれを持ってコニーの側近に近寄り、回復薬を飲むように薦め、栄養ドリンクの開け方と飲み方を教えて戻ってきた。
「なんか、すまん」
やり取りを見ていたコニーが謝って来た。
たぶん回復薬というのはわかったんだろう。
そして顔色の悪い側近を置かざるを得ない状況であったのも謝ったんだと思う。
たぶん俺の聖女スキルで回復は出来たんだけど、しなかった。
人様の家臣に…というのもあるけど、仮にも皇帝の前で魔法を使うのは憚られたので。
この判断した俺ナイスだよな。
アイテムボックスという魔法ともスキルとも言えない物を使った後から言うのもなんだけどさ。
コニーには他にもいくつか【異世界ショップ】のテイクアウト料理を出し、ついでに側近たちにも食べさせたいし、料理人にも研究させたいからと追加で同じ物をいくつか頼まれた。
「料理人が再現できないからっていろんな意味で斬らないようにするなら」
という条件であげた。
「それとだけどよ、あの人形騎士や紙や封筒とかいうヤツも…」
「…シロネ」
交渉事っぽいのでシロネに任せる。
すぐにコニー側の文官が出てきてシロネと交渉に入った。
さすがにコニーが言う人形騎士…久遠の騎士は俺が説明か。
「この国では人形騎士と呼ばれているものも欲しいということか?」
「まぁ、出来れば。つか他にどんな呼び方があるんだ?」
「久遠の騎士」
「くおんの、きし? …っ!? あの久遠の騎士か!?」
「どの久遠の騎士かわからないけど」
「昨日、シェフィーに無理を言って見せてもらったが、あの獣…のような、あの娘の大事にしていた人形に似たモノは、少なくともこの大陸でもバールのいる大陸でも終末の守護騎士と呼ばれる類のものだ。それ自体大変珍しい物ではあることには変わりないが、久遠の騎士と呼ばれる物となるとそうはいかない。アーティファクトだ。それ1体持っていれば王にものぼることが出来ると言われている代物だ。百年で動かなくなる終末の守護騎士とは代物が違う」
「へー」
「おい」
「はい」
「なにが“へー”だ! とんでもないもん家臣家に渡しやがって! …ってことでウチにも寄こせ」
「…」
「すまない。ください」
「いいですけど」
「え、マジ?」
「…冗談でしたか」
「いやいやいや、ちがう! マジで欲しい! くれ!」
「ハーモニアは子供だし攫われた経緯もあってアレを贈ったけど、コニーにはしっかりとした騎士が付いているんだから必要ないと思いますが」
「それとこれとは違う。別物だ」
そうだろうとは俺も思うけど。
「戦争行為は出来ないようにしてある。それでも良ければいいけど」
「もちろんだ。それで頼む。自分の護衛を任せる分には問題ないんだろう?」
「あぁ。眠らないし、毒の判別も付くみたいだし防衛という意味では重宝すると思う」
俺は立ち上がって室内の空いたスペースに宝箱を出した。
ハーちゃんちでは一応調べてもらったが、こっちではあらかじめ知識としてあるものなので必要ないかなと思い、そのままコニーの前で出した。
コニーの脇には屈強そうな騎士2人はいるし、問題ないだろう。
たぶんあの騎士二人では久遠の騎士には敵わないだろうけど。
コニーに出したのは、俺の独断と偏見と成り行きで小鳥タイプのものにした。
いつでも頭に乗せたり肩に止まらせているがいいよ。
…というのもあるけど、鳥タイプならそこまで目立つことなく空を飛ぶことだって出来そうだし、周辺国や海の状況だって偵察として飛ばすことも出来るだろう。
それに初期に見つけた宝箱っていうのもある。
既に防御重視で登録済みの久遠の騎士だ。
うん。こんな感じならもういくつかの久遠の騎士を戦争とか攻撃に使えないように登録しといたほうがいいかもな。
急な手土産にもなるっぽいし。
この鳥タイプもハーちゃんにあげたくまのぬいぐるみタイプも戦争や犯罪になるような攻撃には使えないようになっている。
自己防衛という意味での攻撃なら一応出来る仕様だ。
相変わらず美しく大きな宝箱に、コニーのテンションは高い。
コニー自身、単身で他大陸へ偽装騎士として行くくらいなのだからそれなりに腕に覚えがあるのだろう。
誰の確認も取らないまま、サクッと宝箱をあけていた。
荘厳な感じで宝箱から光が溢れ、光が落ち着いてから中が見えるようになった瞬間に、
「チェンジ」
と無表情のコニーが言ったので、
「チェンジ不可」
と返してあげた。
「なんでだよ! こんな大きな宝箱にこんな小さなのってアリかよ!? どこにでもいそうな小鳥ってなんだよ!? だったらあの珍妙な獣型人形の方がまだマシだ!」
「…一応考えてこれにしたんだが、そうか…」
「…いや、まて。その考えとは?」
「小鳥だし、飛べるだろ?」
「あぁ」
「情報を得やすい」
「…確かに」
「周囲からも油断されやすい」
「…」
「基本はこの小鳥タイプだが、鳥型ならどんな鳥にも擬態出来る」
「!?」
「基本の鳥型の特徴こそ出るが、人型にすることも出来るし、問題無いと思うんだけど?」
「そうなのか! …そうか、終末の守護騎士の知識しかないが、確かに久遠の騎士の文献では姿を自由に変えられるとあった…アレは本当だったのか…」
あとは気を使って男性タイプにしておいた。
この世界は国を問わず、そこまで酷くはないものの、少し女性の立場が弱いようだったので。
久遠の騎士は生物タイプには雌雄があるが、ぬいぐるみや人形タイプには無いので、主人の希望する見た目にすることができる。
コニーにも人形タイプにすればよかったんだろうけど、そこは敢えてしなかった。
俺の頭の中では既にどこにでもいそうな小鳥に話しかける帝王様なコニーの絵が出来あがっていたので。
できれば久遠の騎士と間違ってその辺の小鳥に話しかければ面白いかな、とか考えている。
俺の心ない説得に納得したのか、コニーは早速小鳥型久遠の騎士に魔力を通し、起動させた。
『ちゅぴぴ』
と可愛らしい声を出しながら宝箱から出た小鳥は俺の周囲を1周してからコニーの肩に止まった。
「うぉっ」
「アナウンスに従って設定すれば簡単に終わる」
ざっくりではあるがマモル達から聞いていた。
久遠の騎士ははじめ、主の頭の中に直接主に分かる言語を語りかけ、これからの行動を決める。
後から変更も可能なのでとりあえずどんどん決めていく。
ゲームのハードの初期設定みたいなものだとはハルトが言っていた。
しばらくしてコニーの肩から離れた小鳥がぼんやりと光を放ちながら姿を変え、背中に鳥の羽の生えた人型の青年の姿へと変わった。
天使? と言われればそうかもしれないが、羽は天使の羽と言うより、人型の体の大きさに合わせて大きくなった鳥の羽根なので、なんとなく天使ではなさそうだ、と思える。
コニーの設定のおかげか、コニーと人の言葉で会話しているのが聞こえる。
うまく設定出来たようで何よりだ。
もう用は済んだだろうとばかりに俺は帰ることにした。
「じゃぁ、これで」
「あぁ、助かった。ありがとう」
コニーもあっさりしたもので、昼食会はお開きとなった。
昼食会会場となった部屋を出れば、コニー付きのあの顔色の悪い文官が話があると言うので、別室にて話を聞くことになった。




