048 およばれさん4
「…そう言えば、セージ殿は中央大陸からここまで渡ってこられたとか」
侯爵と言うからには既にそれなりの情報は得ているんだろうな。
「はい。そうですね」
そう言えば中央大陸とこの北の大陸との関係性もまだ分からないんだよなー。
聖女派遣はなさそうだが中央大陸の教会はあったし。
案外仲いいのか?
「他大陸ではどういったものが手土産とされているのだ?」
「…正直分かりかねます。俺達は常識外にありますので」
こういう事はシロネに丸投げが俺にとってのマストである。
けど今はいない。
とても残念なことに。
「しかしそうですね、ここに来るまで得た知識では、シャローロ・ラ・スヴィケのある大陸や西の大陸でしたら貴族平民問わず、酒などが喜ばれたでしょう。女性が多かったり、子供のいる家庭であったら菓子なども喜ばれたかと。もちろん貴族と平民では酒も菓子もランクは別物でしょうが」
ゾーロさん、ありがとう!
あなたの長話がここで物凄く役立ちました!
あとでゾーロさんにお礼しよ。
敢えてこの国とも親しい間柄であるシャローロ何とかの国を例にあげた。
あの国の中心は俺達を召喚した国ではあるけど、この国に馴染みがあるのはバールと別れたシャローロなんとかって国なのでわかりやすいだろう。
それに旅の中、時々耳に入ってくるゾーロさんの出身だと言う西大陸の話も混ぜれば話により深みが出るだろう。
自分の話の薄さや浅さは自覚あるので。
そういえばあのローなんとか聖王国よりもシャローロ何とかの国の方が栄えていた感じがするし、食べ物もおいしかった。
パンも小麦を多く使った黒パンだったので、俺達でも「健康に気遣ったパンだな」程度に問題なく食べることができた。
おいしいかそうでないかと言えば、もちろんおいしくない。
【異世界ショップ】で出した、あの国と同じ比率で小麦の入ったライ麦パンの方が断然おいしいのだが。
「なるほど、な。…他には?」
「宝飾品や布類、剥製、家具、茶、スパイス、葉巻、自領の特産品、などでしょうか」
「飲食物以外はそう変わりないのか。こういった美しく整えられた紙類や封筒、つけインクのいらないペンなどは普通に流通しているのか?」
「いえ。少なくともここまで旅する間では見たことがないですね」
「…妻への土産物もか」
「はい。でも似たような物はあるんですよね?」
「まぁ、それはそうだが、あそこまで発色がいい物はないな。それにもっと時間がかかるという話を聞いたことがある。けど…そうか。……ではそちらは」
そう言って、ハーちゃんにあげた宝箱に視線を向けるハーちゃん父。
「ここまでの旅では見かけなかったですね。ちなみにこれと似たような物もまだいくつか持っているので、そうあまり気にしないでください」
たぶんハーちゃん父が聞きたかった答えとは少し違うが、他の国隅々まで見てまわったわけではないからあまり答えようがない。
マモルに聞いた時は「たぶん一般的に普及されているものではないと思うよー」とのことだった。
ちなみにこの久遠の騎士はハルトとマモル、それぞれのリクエストに合わせてハルトには機械人形タイプ、マモルには妖精タイプのものを譲ってある。
二人の分はとくに登録せずに【アイテムボックス】に突っ込んだものなので、所有者は俺である事には変わりないが、魔力登録者のハルトとマモルの完全指示のもと動かすことが出来る。
二人のことは信頼しているから大丈夫だし。
というか、ハルトとマモルが本気でレベル上げしたら久遠の騎士より強くなるから、万が一久遠の騎士が盗まれたり暴走しても止められるだろう。
ハルトは「ロボットは男のロマンだよなー」とかはしゃいでいたし、マモルは「妖精さんだ…妖精さんだ!」と謎のテンションで喜んでいた。
二人は異世界に来て結構性格変わったよなー。
はっちゃけたってかなんていうか…。
「あぁ、いや、それもそうなのだが、そうではなく、だな。私が知りたいのは何故そんなものを手に入れられたか、それに他に持っているものは居ないのか、なのだが」
「あー。他はハルトとマモルにも1体ずつあげましたよ。手に入れた経緯は先日海に落ちた時に成り行きで」
「……で?」
「成り行きです」
「それだけか?!」
「はい」
「いやもっとあるだろ?!魔怪魚あふれかえる海の中に落ちたのだぞ?!恐ろしい魔物との戦いや海の中での困難を乗り越えて、そこで手に入れたものなのだろう?!成り行きという言葉で済ますつもりか貴様は?!」
「旦那様っ!…お相手は聖人様にございます」
「ッ!!…すまん」
「あの、私的な場所では気にしないでください。執事さんも…」
なにより聖人様て…。
「お気づかい、痛みいります。私の事はどうかサリフとお呼びくだされば」
「サリフさ…」
「敬称は不要にございます」
だったらサリフさんも気軽に接しては下さいませぬか。
「あー、はい。サリフもそんなに改まることも無いです」
と言ったが、特に返事をするわけでもなく、深く頭を下げて、執事さんは引き下がった。
無言で頭を下げる事にどんな意味があるのか全く分からないんですけど?!
怒ってないよね?!…ね?!
「成り行きと言うのは…海底を散歩しながら帝国へ向けて移動している途中で見つけたダンジョンに、興味本位で入ってみたら見つけた感じです」
話題を戻すように、苦笑いとともに先ほどのハーちゃん父の質問に答えてみる。
「海底を、散歩?海底に、ダンジョン?興味本位で、海の中のダンジョンに入ったと言うのか…?すまん。言葉はわかるのだが言っている意味がさっぱりわからん」
俺とハーちゃん以外、皆さん絶望的な表情を浮かべている。
俺は当事者として、ハーちゃんはよくわかってないし、宝箱に興味津々で話を聞いていないっぽいから、別として、そこまで驚きと言うより、この世の終わりでも見ているかの表情をされるとは思ってもみなかった。
もう話を変えたい。
もっとポップな話しようぜ!
「…聖人とは、人々を守り、癒す存在ではなかったのか…海底の覇者でもあるというのか…!」
んんんんんんん????
「違いますよ?」
と言ってももうハーちゃん父は俺の話とか聞いて無い。
独り言と、自分に付いている執事っぽい人と何やら話に没頭している。
なんかもういいや、と、俺は目の前に置かれているお茶を大人しく啜る事にした。
庭を眺めながらまったりとお茶を飲んでいると、クイックイっと袖を引っ張られる。
見ればハーちゃんがこちらを見ている。
「なに?」
「あまくてふわふわの、しろくていろいっぱいでおいしいのがいー」
ん?
…あぁ。前に昼食代わりにしたフルーツ山盛りホイップ増し増しパンケーキか。
それが欲しいと。
ハーちゃんも随分自分の意見を言葉で言えるようになったようだな。
家に帰れてリラックス出来たんだろう。
少し見ない間に成長したのかもしれない。
家の人には赤ちゃん返りと言われているみたいだが、旅でのハーちゃんを知っている俺からすれば、随分と子供らしく出来るようになったなと思える。
「あのー、失礼かもしれないですが、ハーモニアの要望を叶えるため、彼女に軽食を渡してもいいでしょうか?」
分からない事は潔く聞く。
俺に付いてくれていたはずのシュッとして執事さんがハーちゃん父と話しこんでいるので自分でその辺に人に聞くしかない。
とりあえず目があった別の執事さんに聞いてみた。
そんな彼も返事に困ったようで、何やら話しこんでいるハーちゃん父に許可を取りに行ってくれ、すぐに戻ってきて、OKをくれた。
なので俺は安心してアイテムボックスからハーちゃんにパンケーキを出して渡した。
パンケーキもそうだけど、食べ物や嗜好品はアイテムボックスに買いだめしてある。
ショップレベルをあげるクセが付いてしまい、1つ必要なのに、その1つを買うごとに10コ買ったりしてしまっていた。
それにいちいちショップで選んで買うより【アイテムボックス】から出した方が早いし、取り出しやすいので。あと海底や海底ダンジョンで結構アイテムチャージ出来たので、残金の心配なく余計に余分な物を買っておけたというのもある。
俺が出した物を見て、慌てて侍女さんが食器を用意。
取り分けようとしてくれたのだろうが、それをハーちゃんが拒否し、ナイフとフォークだけを受け取り、幼女なのにとても上手に上品に一口大に切り分けておいしそうに頬張っている。
以前のように口の周りをホイップクリームだらけにはしたりしない。
幼女も成長するのだ。
さっき執事に話を通された時は見向きもしなかったハーちゃん父はこちらをガン見である。
「そ、それは何だ?手土産にする予定だったものか?」
「…いや。普通に昼食として持っていた物です」
「持っていた…?あぁ、アイテムボックス持ち、か。なるほどな。そう言えばそうか。状況に混乱してそこまで頭が回らなかった。あのような大きなもの急に出したのであればそういうことか。立場も立場ゆえ、我々には手出し出来ぬ逸材か。うむ。…それにしてもこれが手土産予定のものではなかったのなら、どのような物を手土産にするはずだったのだ?」
「…こういったものでしょうか」
あ、アイテムボックスバレ…まぁ、いいか。
今さらだ。
そういえば別に隠していたわけでもなかったしな!
ゾーロさんなんてめっちゃ俺の【アイテムボックス】信者だし。
俺はショップの贈答品コーナーから買っていた、缶入りのクッキーと缶入りのチョコ、箱詰めされたフルーツタルト、カッコよくラッピングされているお高めのワイン数本と、シロネがおすすめしてくれた、缶入りの紅茶と、こちらで勝手に缶に入れて贈答向けにした、こちらの世界に来て初めて買ったお茶、ミーグ茶などを取り出した。
綺麗に包装され、全部中身は見えないようになっているので、侍女さん達が頑張って丁寧に包装を外していき、中身を明らかにしてくれた。
「…この大陸の暗黙の了解さえなければ充分に物珍しい物ばかりだな。知っているものはミーグ茶ぐらいなものか。それでも希少性から考えれば手土産としては充分過ぎる物だな」
マジか。
ミーグ茶すげぇ。
すっかり忘れていたため、飲んだ事すらないけど。
「その果物が乗っているものは涼しい場所か冷やせる場所に置いて下さい。それでも今日中に食べた方がいいし、その他も数日以内、早めに食べた方がいいです。お茶や酒の事はあまり詳しくはないのでなんともいえませんが」
クッキーなどは保管場所に寄るけど、やっぱりこの世界の保存方法が分からないので早めに食べてしまう事をお勧めしておく。
湿気ったらおいしくないし。
俺は湿気ったのでもおいしく頂けるけどな。
普段と違う食感で楽しいと思う。
手土産にしたのは敢えてどれも個包装されてない物にした。
前にシロネ達にあげた個包装のお菓子の開け方をシロネ達はわからず、マーニなどは半泣きしながらどうやって食べるのかハルトに聞いていて、シロネは俺から教えられシュラマルに教えていたので、この世界の人達には個包装はハードルが高そうだと一応考えて土産を選んでいた。
「詳しくないのにこのような物を持っているのか」
「趣味で集めて、出来れば商売に繋げられたらな、程度には考えてはいました」
「商売、だと?」
「はい。先日までいた大陸よりはマシだろうということでこの帝国を目指して旅をしてきました。そして住みやすそうであれば暮らしていこうと。それで生活していくにあたっての仕事として店でも開こうか、というぼんやりした未来を見ていました」
「ほう、商売」
ニヤリ、と危険な笑顔をハーちゃん父は見せた。
ゾーロさんとは違うが、ゾーロさんみたいにイイ商売相手見つけたな、とでも思われてそうだな。
これからの商売に関してはマモルに丸投げとか出来なそうだし、困ったな。
シロネは…貴族相手でも大丈夫だろうか。
どうしよ。
これからの事に物凄く不安になって来た。
「まだ何をするとも決まってないので、ゆっくり考えていきます」
「…その間にこの国を見定めよう、ということか」
…何やら物凄く深読みなさったようだ。
「なにをいっているのかさっぱり」
マジでさ。
ハーちゃん父にとっての俺って何なの?!
もう帰りたい。
「ふ、今はそういう事にしておくとしよう」
だから何が?!
俺とハーちゃん父の謎のやり取りを、この部屋の扉が開くことでなんとなくうやむやにしてくれた、入室する御一行。
「セージ様!これ、とても素晴らしいですわね!」
入室一番に、大はしゃぎでネイルの感想をくれたハーちゃん母。
周囲がたしなめるのもなんのその。
キャッキャしながら自分の旦那にご報告。
そんな妻をみて旦那は優しく微笑んでいる。
それどんな感情?
一緒に戻ってきたシロネに視線を向けると、シロネは俺に目礼してから俺の後ろ隣に立つ。
一応シロネ用に椅子を用意されているが、ハーちゃん母がまだ椅子に座っていないため、シロネは立ったまま。
ハーちゃん母が落ち着いて座ればシロネも座るっぽい。
従者と言ってもシロネも一応客人なので。
ハルトやマモル、マーニには既に支払われたようだが、シロネもこれから侯爵家からお礼の金銭が渡される予定だ。
シュラマルの分はマモルが既に受け取り、再会時に渡していた。
「あら?これはなぁに?」
興奮も一段落して、ふと周囲に目が向いたのだろう。
ハーちゃん母が宝箱の存在に気付いた。
こんな大きな宝箱が部屋にあって、部屋に入ってきて今まで気付かなかったというのもある意味すごい。
「セージ殿からハーモニアへの手土産だそうだ」
そう言ってから、続きの言葉をハーちゃん母の耳元でハーちゃん父は告げてるっぽい。
聞いたハーちゃん母はまたもや大興奮。
「まぁ!早く見てみたいですわ!もう中は見たんですの?」
「いいや、君が戻るのをハーモニアが待っていてくれたんだよ。ハーモニアは君と一緒に中を確認したいってね」
「まぁ、まぁ、ハーちゃん!なんて優しい子なの?!可愛いわたくしの娘!」
それから忙しく娘のもとまで行って、娘をぎゅーっと抱きしめるハーちゃん母。
なんか、ハーちゃん父ってすごいなって思ってしまった。
ハーちゃん、お母さんのこととか考えもせずに真っ先に宝箱開けようとしてたよな…。
ひとしきりハーちゃん親子が戯れたあと、いよいよハーちゃんが宝箱をあける。
ハーちゃん父がハーちゃんを抱っこして、ハーちゃんが宝箱を開けやすいようにしている。
そしてハーちゃん母はハーちゃんが宝箱をあけるための介添えをするようだ。ハーちゃんが一人で宝箱をあけられるかわからないので。
ワクワクしているハーちゃんが、宝箱に手を掛けて、蓋をあける。
よかった。
幼女でも簡単に掛けることが出来るようだ。
お決まりの光が溢れるアーティファクト級の宝箱エフェクトが室内に広がる。
「ふあぁぁぁ…」
ハーちゃんの目もキラキラ輝いている。
中に何が入っているのもそうだが、こうして宝箱と呼ばれる物をあける行為はなかなかないだろう。
そのことでも喜んでいるのかもしれない。
光が収まり、中を見て、さらにハーちゃんは大喜びである。
よかった。俺の選択は間違えてはいなかったようだ。
「くまたん!」
ハーちゃん用に選んだのはクマのぬいぐるみ型久遠の騎士。
サイズ的には今のハーちゃんより大きい。
魔力登録した主の要望で体を小さくも出来るし、大きくも出来る。
基本形態がコレなだけで、主人が希望すればどんな形にもなることができる、という謎騎士である。




