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047 およばれさん3

 

 ちょっと頑張って庭の説明とかしそうになったが、よく考えると花とかよくわかんないよね。


 母さんがよくお客さんから花束貰うけど、そんなもんしか知らないのに、説明とか無理だった…。


 薔薇もあるけど、薔薇じゃない綺麗な花もいろいろ咲いていて綺麗なお庭です。

 という感想しか言えない。


 植物園やどこぞの庭園みたいなところにも旅行で連れてってもらったんだけどな。


 “人見知りするなら植物育てる仕事とか気になったりしない?”という母さんの思いつきで。


 ごめんよ。母さん。

 俺、植物にも興味なかったみたいだ。



 用意されているテーブルセットの脇に、もう一つ、小さなテーブルが用意されてあり、その上に俺の手土産が置いてあった。


 決まっていたっぽい席に着くと


「本来ならここで改めて自己紹介に入るのだろうが…必要ないだろう。…土産まで用意しているとは、な。王にはとても口には出来ないような物を手土産とした、と聞いているが…」


「アレは…旅で見知っている相手に対して今更普通の手土産も無いと思いまして」


 出まかせです!

 すみません!

 よくわかってませんでした!


 言い訳ですがコニーへの手土産のチョイスはマモルです!


 …って言ってもやっぱり相手は皇帝と言えどコニーなので、改めて考えると手土産なんてしゃくである。


 騎士なんだぜ!

 よろしくなんだぜ!

 みたいなこと言っといて実は皇帝でしたとか、後から考えても胃が痛くなるわ!


 でもってやっぱり今更感があるのでこちらも開き直るしかないし、開き直ることで、皇帝に対して色々やっちまった感をうやむやにしてるんですけどね!


「そ、そうか…して、これはいったい何なんだ?珍しい鞄だが…」


 俺が同い年くらいとわかったからか、ハーちゃん父の態度が柔らかくなっている。


「鞄は単なる入れ物です。中に入っている物が本命の手土産です」


 失礼します、と言ってシロネがハーちゃん父用の土産に近づき、ケースを開いて改めてハーちゃん父…の傍に控えている人に、中身を見せるように差しだす。

 その人から改めてハーちゃん父にケースごと鞄を渡される。


「ほう…?紙、か?」


 ハーちゃん父の問いに対して、シロネが応えてくれた。


「はい。手紙用の紙と、したためた手紙を入れる入れ物、封筒でございます。そしてその紙と封筒専用のペンにございます。インクを付けずとも長く書いていられる万年筆、という羽根ペン代わりのペンでございます」


「これは…」


 シロネの説明を聞いて、ハーちゃん父は紙や封筒を手に取り、確かめ、感嘆とした声をあげた。


 シロネはついでに万年筆の丁寧な説明に入っている。

 シロネにあげていたメモ帳に試し書きをしたり、そのメモ帳にも興味を示したりして、ハーちゃん父は大いに盛り上がっている。


 そんなハーちゃん父をハーちゃん母はソワソワと眺めている。…が、自分が貰った土産も気になる様子でそちらの方もソワソワと見たりもしている。


 そんな妻の様子に気付いてか、ハーちゃん父は


「そ、そうだな、ありがたく受け取ろう。もう一つの方はどういうものなのだ?」


 きちんと妻の気遣いが出来る夫らしい。

 ついでにどうやらシロネからメモ帳をゲットしたようだ。

 シロネが俺に申し訳なさそうな視線を送ってくる。

 気にしなくても【異世界ショップ】のレベルを上げるために買いこんだメモ帳がたくさんあるし。あとでまたいくつかシロネに渡しておこう。


「奥様への贈り物でございます。使い方は少し説明が必要かもしれないのですが、いかがいたしましょう」


「そうね、お願いいたします」


 かしこまりました。といってシロネが手袋を外して完成形を見せつつ説明を始めた。


「つまり、それを使えばあなたのように、爪にも化粧を施せる、というものなのかしら?」


 そういう認識らしい。

 そして一応この世界にも爪を装飾することもあるらしいが、それは刺青の一種らしく、気軽に変えたりする事は出来ないものという。


 シロネの説明を聞いて俄然興味を持ちまくったハーちゃん母は、早速シロネにネイルを施してもらうと言い始めた。


「早くても半刻程の時間を要するのですが」


 前に聞いたところ、半刻とは1時間の事らしい。


「かまわないわ。爪まで艶やかに美しくなれるんですもの、そのくらいじっとしていることは訳ないですわ」


「奥様。お客様の御都合もございます。なによりお行儀が…」


「…そう、ね。ついはしゃいでしまいました」


 自分の従者の言葉にしょんぼりするハーちゃん母。

 彼女は俺達と同い年くらいに見えなくもない。

 ハーちゃんを生んでいるくらいだから俺よりは少し年上だと思う。


 …そう思いたい。


 そんな妙齢のハーちゃん母。

 歳相応にはしゃぎたくもなるよなー。


「こちらは構いません…シロネ」


「はい」


 もともと使い方を説明する予定でもあった。

 知っていたらその分早く帰れるかな、程度だったし。


 全く問題ない意向を示すと、ハーちゃん母は物凄く喜びながら、別室へ移動し、シロネの施術を受け始めた。


 ここで俺は気付いてしまった。

 手持ちの戦力が無くなってしまった事に。


 え、これから俺、ハーちゃん父とサシでお茶すんの?


 とりあえず、今しばらくはハーちゃん父の話でも…聞いていればいいのか?


 そう言えばこのあとどうするんだ?


 手紙にはハーちゃんを助けたお礼をしたいって感じに書いてあっただけだ。

 そのお礼とやらを受け取ればそれでミッションコンプリートっぽいが…?


 ふと、隣から物凄い視線を感じた。


 目を向けると、そこにはハーちゃんが。


 俺と目が合ったハーちゃんは


「ハーちゃんは?」


 と不思議そうな顔で俺を見つめてくる。


「???」


「お嬢様…」


 メリサさんが申し訳なさそうな顔をしている。


 俺もハーちゃん同様不思議そうな顔をしていると、ハーちゃん父がハーちゃんの声を聞いて困った風に説明をする。


「すまない、娘は自分ももらえると思っていたようだ」


 なるほど。

 すっかり忘れていた。

 ハーちゃんのお土産。


 礼義的な事ばかりに気が行ってしまっていた。


「ハーちゃんのは…」


 やばい。

 ハーちゃんがすっごいガッカリしている。


 今からショップで適当にハーちゃんのお土産を選んでいる時間も無さそうだしなー。


 ハーちゃんには申し訳ないが、間に合わせで乗り切るしかないな。


「フェンディロット侯爵、急で申し訳ないのですが、別室と人を用意してもらっても良いでしょうか」


「ん?あ、あぁ」


 意図を察したっぽいハーちゃん父からOK貰ったので、あとはハーちゃんにも了承をもらうか。


「ハーモニアへのお土産は、大きすぎてそのテーブルの上には置けなかったんだ。今から持ってくるから、待っていられるか?」


「……うん」


 物凄く渋々頷く幼女。

 幼女の渋い顔を見ると、自分の至らなさで胸が締め付けられそうだ。


 てか、ハーちゃんはちょいちょい渋い顔するんだよな…。

 このあたり父親というモノをよく見て真似ているようにも見えなくもない。


 この屋敷というかこの城に来てからずっと俺に付いてくれている、シュッとした執事っぽい人、そしてその部下っぽい人2人が俺に付いてきてくれるようで、別室へ案内してくれた。


 案内された部屋は隣の部屋だった。

 ほとんど何もなく、ホールとして使っているっぽい感じだな。


「ここに、大きなものを出していいですか?中身の確認も兼ねて部屋を用意してもらったんですが…」


「お心遣い感謝いたします」


 了承と取っていいのだろうか。

 シュッとした執事っぽいおっさんは俺に恭しく腰を折る。


 彼が頭をあげたのを見計らい、俺は【アイテムボックス】から宝箱を出した。


「「「!!!?」」」


 執事さん達は目の前に突然現れた、大人の腰の高さまである宝箱に驚いている。


 幅は俺が両手を広げたくらい、高さは腰程、奥行きは片手の長さくらい、という結構大きめな宝箱だ。


 ダンジョンで見つけたアイテムで、宝箱も綺麗なものだ。

 宝箱ごと持ち帰る必要があったものだったお宝。


 同じような物をたくさん拾ったのでここで1コくらい人にあげちゃっても良いかなと思う。


「危険は無いので、中を確認してください。大丈夫であれば先ほどの部屋まで運んでいただけますか?」


 全体的に真っ青で、金で柔らかく縁どりされ、ポイントには宝石で装飾された美しい宝箱を、執事の人が恐る恐る開ける。


 宝箱の仕様なんだと思うけど、この宝箱、開ける度にいちいち「パァァァ」って光が中から出てくるんだよなー。

 いちいち眩しい…が、特別感があるので、こんなもんかと受け入れつつある俺もいる。


「……あの、恐れながら…こちらは?」


「くまのぬいぐるみ型の久遠の騎士です」


「ぬい、ぐるみ??騎…士?」


 これが?

 みたい顔しないでくれませんか。


 俺だって思ったよ。

 まさか宝箱に、デフォルメされた大きなフワモコクマのぬいぐるみが入っているとは思わなかった。

 そして更に鑑定をすれば、


 ―――――

【魔力登録型久遠の騎士:typeクマのヌイグルミ】

 はじめに魔力を通した者の永続的な騎士となる。

 終末の騎士とよく混同されているが、別物である。

 ――――


 と出ていた。


 さらにはじめはなんのことかわからなかったので魔力を通してしまった。


 すると色々文字が出てしまい、慌てて操作したら


 ―――――

【魔力登録型久遠の騎士:typeクマのヌイグルミ】


 登 録 者:セージ・ミソノ

 設  定:護衛タイプ

 護衛対象:未登録

 状  態:待機中

 ―――――


 て感じになって様子が落ち着いたので【アイテムボックス】に突っ込んでいた。


 ダンジョン探索優先で、後で改めて登録してみようと思っててずっと忘れていたやつ。


 そのまま【アイテムボックス】に突っ込んでそのままだった。


 でも一応これもアーティファクトだ。


 こんな感じのヌイグルミタイプのと、小鳥型、人型、妖精型や機械型の【久遠の騎士】なんてのもあった。

 もっとバリエーションがあった気もするが覚えて無い。


 …あ、犬や猫、兎のぬいぐるみタイプなんてのもあった気がする。

 ハルトに機械型1つとマモルに妖精型1つをあげて以降は【アイテムボックス】の肥やしになろうとしていたやつ。


 しかし、こんなのでもなかなか高性能なので、ハーちゃんの護衛にはいいのではなかろうか。


 それにハーちゃんはぬいぐるみ好きっぽかったし。

 くまのぬいぐるみ型リュックすきだったよね?


「もしや…アーティファクト…終末の守護騎士、ではありませぬか」


 聞いているようで断定したっぽい言い方の、独り言か呟きともとれる感じで俺に問う執事さん。


「いえ。久遠の騎士です。あらかじめ防御行動しか取れないようにはしています。それにハーモニアはこのような人形が好みな様子だったので、この姿の物を選びました」


 そうなんだよね。

 宝箱取った時に俺の所有物扱いになってしまった。

 でも改めて登録した人を主人と出来るみたいだった。


 所有者の俺を第一の主とし、魔力登録をした者を第二の主とする。


 この宝箱を見つけた最初の方はいちいち律儀に防衛型に登録をしてから【アイテムボックス】に突っ込んでいたけど、だんだん面倒になって、宝箱を開けたらすぐ出てくる文字を無視してそのまま【アイテムボックス】につっこむようになっていた。


 その最初の方に登録しちゃってたのがこのくまのぬいぐるみ型の久遠の騎士だ。


 大丈夫。

 これからこの騎士の主になるであろうハーちゃんが、将来どんな暴力的な命令をしたとしても、普段の生活補助や防御行動以外は出来ないようになっているから。


「侯爵閣下にも確認を取った方がよろしいでしょうか」


「いえ、…いえ。侯爵もきっとお喜びになるでしょう。何よりも信頼できる、お嬢様だけの護衛ができるのですから」


 …執事さん、自分の事のように泣いて喜んでいるっぽい。

 そこまでですか?!


 いや、侯爵家のお嬢様が別な大陸まで攫われてしまったんだから、こんなんでも絶対裏切らない護衛がいるというのは感慨深いのかもな。


 そうはいっても見た目完全なぬいぐるみなんですけど。

 アーティファクトといってもちょっと…ねぇ。


 相手がハーちゃんだから許されるかなーなんて軽い気持ちで出してしまったけど、心配になって来た。




 執事さんからOKが出されたので、宝箱を閉めて、数人掛りで宝箱を運ぶ。

 結局6人の人手が必要で、執事さんは応援を呼んでいた。

 俺は手ぶらでハーちゃん達のいる部屋に戻ってきた。


「これは、いったい何が…」


 予想以上に大きな箱に入っているのに驚いた様子のハーちゃん父。

 そんなハーちゃん父の耳元に、あのシュッとした執事さんが寄る。ネタばらしでもしているのだろう。


 それを聞いたハーちゃん父が、信じられないものでも見るような目で俺を見ている。

 俺はそんな視線からそっと顔をそむけた。


 顔をそむけた先にハーちゃんのキラキラとした眼差しがあった。

 そむける先を間違えてしまった。


 もうワクワクした顔でハーちゃんが俺と宝箱を交互に見ている。


「これ、ハーちゃんの!」


「そうだよ」


「あけるー!」


「っ!待ちなさい、ハーモニア」


 ハーちゃん父が焦ってハーちゃんを止める。

 それにハーちゃんは素直に止まる。


「これ、ハーちゃんの…」


 悲しそうなハーちゃんの表情がハーちゃん父の感情を揺さぶる。


 が、しかしハーちゃん父もすぐにキリッとした顔でハーちゃんに問いかける。


「うん。そうだね。ハーちゃんのだよ。でもかーさまが一緒じゃないと、かーさま悲しくならないかな?」


 あぁ。

 あの夫人だったら、後で自分だけノケモノにされたと騒ぎそうな…。

 それが怖いからこうして客の前で“お父さん感”晒してまで必死に娘を止めている感じか。


 執事さんの話を聞いて、驚きはしたが、拒否してないってことは、このハーちゃんのお土産は受け取っても良いということなんだろう。


 時間を置くごとに、娘以上にワクワクした顔で宝箱を見始めているハーちゃん父。


「こ、このような高価な品物の数々を手土産などと、随分と酔狂な事だな…いや、違う。すまん。……感謝する。いや、感謝いたします」


 ハーちゃん父もまだ俺と話すのに手探りなんだろう。

 ちょっと仲間意識持てそうだな。


「こういっては何ですが、大勢の他人目があったり、重苦しい場所でもない限り、普通に話して下さい。その方が俺も楽ですから」


「う、うむ…。しかし、礼をする側がこのような物を…」


 かなりの葛藤を見せるハーちゃん父。


 いや、そこまで気追うこともないんですけど。


 もしかして土産物のチョイス間違えたか?

 けどハーちゃんが喜びそうなのってケーキとかなんだよなー。


 あとは…。


 あぁ、そうか。

 普通のぬいぐるみでも良かったのか…。

 やっちまったな。


 やっちまったもんはしょうがねぇ。


「…ほんとは、お菓子を持ってこようと思っていたんですが、この国…いえ、この大陸では失礼にあたると教えられたもので。それにこの国に無い物はほとんどないとまで言われてしまったので、少々大げさな物になってしまいました」


 開き直ろう。

 別に悪いものでもないしな!


「そうか。いや、どれもこれも心からありがたく思う。感謝しかない。ありがとう」


 初めて、ハーちゃん父の柔らかな笑顔を見た。


 ふわりと笑うその顔は、年下の少年のものだった。




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