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044 聖水の使い道

 



 そう言えばシロネ達に言うの忘れていたな。

 子供らも驚いた顔でこちらを見ていた。


 アレだな。

 俺が少しでも人と話す事をシロネ達に託すには報告連絡相談は大切だな。


 と、報連相の大切さを今、再確認した。


「期間は定かではありませんが、高品質の聖水を国と、とりあえず商業ギルドと冒険者ギルドに卸そうかという話はありますね」


「…それは、どの程度の期間、どの程度の品質で、どの程度卸して頂けるのでしょう?」


 俺はマモルに言われてあらかじめ作って置いたサンプルの聖水を、【アイテムボックス】から出し、キンバリーさんに見せる。


「この程度のものを、はじめは週に1本、金貨1枚で」


「っ、な…、これは…、これは、聖水、なのですか?」


 え?

 違うの?


 一応鑑定には『聖水』って出てるし、コニー側でもしっかり確かめていた。


 大丈夫だと思うのに、そう言われると違うのかなって不安になるんですが?!


「…さぁ、どうでしょう」


 必死にキョドりたいのを抑えてなんとかそう答える俺。


 スキルで作ったんだから聖水だとは思うが、聖水ではないと言われたらきっとそうではないのだろうと思う。


 なのであいまいな返事となってしまった。


「とりあえずこれを金貨1枚で聖水として卸す予定ではありますが、聖水として信じてもらえないのなら無理に卸そうとは思っていません」


 って言えってマモルにもコニーにも言われた。


 一応この国の商業ギルドも冒険者ギルドも腐ってはいないとコニーから言われている。


 それでも本当かどうかはわからない、と言うことも。


「……いえ、これは、聖水…なのでしょう。これほどまでの高品質のものをわたくしは初めて拝見いたしました。それでも分かります。これは本物だ、と」


 たぶんこの人も【鑑定】スキルを持っているんだろうな。

 さっきの動揺とは違って、聖水を見てしっかり答えを出している。


「それはよかったです」


 良かったのかどうかわからないけど、そう言っておく。

 なんとなくおとなっぽい言い方だなって思ったので。

 あと俺の語彙力の無さな。


「はじめは1本、とおっしゃられましたが、それが2本や3本になる可能性もある、ということでしょうか」


 お、気付きましたか。


 これもしっかりマモルとコニーから言われてまっせ。

 覚えておりますとも。


「販売価格は最高でも金貨2枚。これを守って頂けるのなら週を経るごとに1本ずつ増やし、最高で5本を、確実とは言えませんが卸す用意はあります」


「その条件を守らせた上で確実とは言えない、とは?」


「不測の事態、などの突発的な事情でしょうか?」


「それは、どのような…?」


「それは…」


 といって目を泳がせていると、シロネがここぞと説明してくれた。


「発言をお許しください」


「…どうぞ」


 シロネの言葉にキンバリーさんが許可を出した。


「我が主は忙しい身の上にございます。そのうえ大変心がデリケートであられます。故に、主の心の憂い次第で安定的に供給する事も、それが叶わないこともあり得る、というわけでございます。それが期間限定の意味につながるかどうかはそちら次第ということになるのではないのでしょうか」


 凛としていたキンバリーさんの表情が急に胡散臭いとでも言うような顔になる。


「…それは、我々に何かしらの便宜をはかれ、ということでございましょうか。何分急なことで勉強不足なこちらとしては、ご希望をはかりかねます」


「何も難しいことではありません。“うるさくするな”ただこれ一点のみでございます」


「???」


「我が主は常に心の安寧を求めております。憂いごとがあれば手につくものもつかなくなってしまいますゆえ。騒ぐな急かすな脅かすな、が鉄則でございます」


「は、はぁ…」


 俺のあまりのメンタルの弱さにドン引きでもしているのだろうか。


 それともメンタルが弱い事をここまで従者に言わせて平気な顔をしている俺にゾッとしているのだろうか。


 たぶん両方だと思う。


 それからすぐにキンバリーさんは気を取り直して、受け入れた。


「承知しました。ちなみに、金貨2枚以上で売り出す場合はどうなるのでしょう」


 ここからはまた自分で話さなければならない。

 いいかげん集中力が無くなってきた。


 朝からたくさんの知らない人と接してしまったので物凄く精神的に疲れた。


 はやく引きこもりたい。


 あ、違った。

 やる事見つけるために宿にこもって考え事をしたい。


「期間中、週を経てもずっと1本入荷のままになるか、仕入れそのものを断念して頂くか…ですかね」


「……」


 キンバリーは考え始めた。

 難しい取引を考えられても困るので、俺はさっさとマモルから言われた事を言ってしまう事にした。


「この聖水は特殊な容器に入れてナンバリングしてあります。どこに卸したかわかるように管理します。もちろんこれを商品として卸すからには、転売もされるだろうと予想も立てています。その場合、こちらの許容を超える金額での売買を確認出来た際はたぶんもう卸すことはしないでしょうね」


「…その場合、あなたの命の危険があるかと思われますが」


 キンバリーの目が、怪しく光る。


 …ような気がした。



 でも確かに誠に遺憾なことながらその可能性はあるんだよなー。


 マモルに言われた時は心のそこからコニー以外に聖水売りたくなかったけど。

 でもマモルには考えがあるみたいだったし、それに仕方なく付き合うことにした。


 レベルが初期の状態のままだったら断固として断ったところだが、聖女スキルの安全圏確保の確実性は海底やダンジョンで実証されたし、レベルが上がったことでHPやMPの低さのなどの心配も多少は無くなった。


「こうして聖水を国以外に卸す時点で命の危険は確実にあるかと思います。こちらはあえてその危険を冒してまで高品質の聖水を卸そうとしているのですが…」


「自衛手段を持っている、と」


「そうなりますね」


「あなたにメリットが無いように思うのですが」


「全くもって無いですね」


「ではなぜこのようなお話を?」


「…知人に頼まれたから。友人の提案を受けたから。この国で商売を始めようと思ったから。なりゆきで。などですかね。まだこの国に来たばかりなので分かりませんが、過ごし辛い所だったらまた旅に出る予定です。それも含めた期間限定という言い方をしました」


 こんな感じでいいんだっけな?


「謎人物を演じるならなお良し!だよー」とかマモルに言われたけど、謎人物ってなんだよ?!

 これで合ってる?!


「どれか一つでも欠けていればこの話は無かった、と。我々はとてつもない幸運に恵まれた、という事ですね。この幸運を活かすも殺すも我々の手腕にかかっているということでしょう。…承知しました」


 ぬお???

 幸運?手腕?承知した?


 あれ?いつの間にか違う話になってた?


 一瞬集中力切れた時にでも話題変わってたのかな?


「帝都商業ギルドではセージ様からの提案はすべて受け入れます。こちらから…そうですね、“うるさく”することは無いように徹底させます。聖水も売る者を選びましょう。そして当支部の総力をあげてセージ様のお力となることを誓いましょう」


 ふあ???!

 後半、どこでそんな話になった?!


 キンバリーさんもキリッとした顔してこちらを見ているけども。


「…ほどほどに頼みます」


 としか答えられなかった。

 そこはかとない不安を抱いてしまったので。


 急にキリッとした表情になった人を見ると、一抹の不安を抱えてしまう事ってよくあるよね。





 面倒事はまとめて終わらせてしまおうということで、商業ギルドを出たその足で冒険者ギルドにもいっとこうということになった。


 今回は説明を全部シロネに丸投げ。


 金ぴかの輝く特別冒険者証を提示しただけあって、冒険者ギルドに入ってすぐに個室に通されたので、話は最初から冒険者ギルドの偉い人とスムーズに終わった。


 冒険者ギルドでは特に質問とかは無くこちらの提案を全て受け入れる形となった。


 一本でも多く聖水を仕入れておきたい冒険者ギルドでは、俺に面倒な輩が近づかないようにしてくれるとも約束してくれたのでとても好感が持てた。


 そして今更ながら、なんで聖水?


 なんで聖水をここまでみんな欲してる?


「この大陸では食料自給率というのは著しく低いらしいッス。他の大陸より魔物が多くいる分、肉類は充実しているらしいッス。この国に限っては海に面しているために魚介を得ることは出来るようッスが、そうであっても穀物類は他大陸からの輸入に頼らざるをえないっぽいッスよ」


 急にシロネからの説明が入った。

 俺達が城にいる間、マーニに教えてもらったらしい。


 そのマーニは俺達がダンジョン巡りをしている間のこの国の騎士や兵士、漁村の村人に聞いたらしい。


 それによると、この大陸の中央にあたるこの国の北に、混沌と呼ばれる、とてつもない大きさのドラゴンが眠っているらしい。


 前にシロネが言っていた邪竜のことのようだ。


 混沌は眠りながらも息を吐くごとに瘴気を吐き、魔物を生み出す。


 魔物にならなかった瘴気はそのまま大地を穢し、植物が根を張ることも許さない。大地に浸潤した瘴気をまた混沌が取り込み、それを循環するというサイクルが生まれていると言う。


 瘴気は聖水で払うことが出来る。

 しかし、じわじわと穢れ行く大地をなんとか現状維持するのに聖水を使うのがやっとで、改めて瘴気を払うために聖水を使うことは現状では出来ていないらしい。


 昔一度この大陸までやって来た聖女がいるらしいが、瘴気を払うことが出来ないまま帰ってしまい、それきり一度も聖女はこの大陸には近寄らない。


 聖女から見捨てられた大陸という者もいるが、聖女すら逃げ帰る恐ろしい大陸とも言われている。


 どちらも同じようだが同じではないらしい。


 この大陸の人は聖女や教会と呼ばれるところからやってくる回復術師の事をバカにしている。


 自分たちに手に負えるところしか癒さない、と。


 とまぁ、そんな遺恨がありつつ、この大陸の回復術師ギルドは頑張って聖水を作っていたりするのだが、それでもやっぱり状況を回復させるには至っていないし、だんだん腐りつつあるようだった。


 それに裏で中央大陸の教会と繋がっているという噂もあるようだ。


「自分たちにしか聖水が作れないという事に胡坐をかいているようで、どうやらそれもローザング聖王国がうらで糸を引いているようだ、とマモル様は考えているようでしたッス」


 コニー達から話を聞いて、そこにマモルは行きついたらしい。

 さすが賢者してるだけのことはある。


 なるほど。

 ということは、マモルはあの国を潰そうと考えているのか、もしくはこの国、この大陸から排除しようとしている…それともこの大陸に居る間者や信仰者を寝返らせようとしているか。


 まぁ、わからないが、とりあえずマモルを怒らせると長引くということは間違いなさそうだな。


 最近毎日女子達と近況報告の為に連絡を取り合ってるから感化されてきたのかも?



「じゃぁ、この聖水はあっちの大陸で言うところの聖女派遣で大地に実りをもたらす役割がある、ということか」


「そうらしいッス。それでも聖女の御力より格段に劣るため、現状維持がせいぜいで、年々混沌の範囲が広がっているという話ッした」


 作物が作れないなら、本格的に海から食料を得ようということで、今回の航路作りと海の魔物の大討伐が行われたという経緯もあると。


「…あの国が少しでも関係があって、マモルもやる気に満ち溢れている感じからすると、この大陸は大丈夫そうだな」


「???どういう意味っスか?」


「マモルと、それからハルトがやる気になれば混沌も無くなるんじゃないかと」


 勇者と賢者が揃えば行くだろ?

 ドラゴン退治。


「んじゃ聖水の需要がますます高まるッスね!討伐するなら聖水は不可欠ッスからねぇ」


「それは心配ない。こちらはこちらのペースを守って行動すればいいだけだ」


 暗にマモルも聖水を作れる事を伝えると、シロネは苦笑いをしていた。


「あとはもう宿でお休みになるッスか?」


「うん」


「んじゃ俺たちこの町探検してきていーか?!」


 今まで大人しくしていたティムトとシィナが待ってましたとばかりに声を張る。


「いいけど、暗くなる前までには帰ってくるッスよ?」


「わーってるって」


 大人の長い話にはとっくに飽きていただろう子供達は、それでもずっと我慢して付き合っていたようだ。


 これくらいはいいだろう。

 それにたぶんそこらへんの冒険者より強いし、数日間シュラマルとシロネに手加減を教わっているので相手に怪我をさせることも無いだろう。


 ふと、シロネに視線で何か訴えられたので、頷いておく。


 なんなんだろうと様子を見ていると、シロネが魔法鞄からお金を取り出し、子供らに銅貨10枚ずつあげていた。

 お小遣いらしい。


 物凄く気が利くシロネさんである。

 そしてアレはゾーロさんに売った商品の売上金から出されているんだろうな。


 売上と言えば、船でマーニに預けた魔法鞄の中身はマーニが商売を引き継ぐ形でゾーロさんに全部売りつけておいたらしい。


 ハルト達の乗る船ははじめ、帝都の港へと着いた。


 まさか2日もの間、魔物と戦うだなんて思ってもみなかったゾーロさんだが、港におりてからの高待遇に驚きつつも上機嫌となり、特に船で起こったことへの言及はせずに、数日間の国からの護衛と大きな荷馬車数台、帝国からの商売の許可証、それから迷惑料も兼ねた口止め料を国から、そしてハーちゃんの両親からはハーちゃんをここまで連れてくるために荷車の一角を提供してくれたことへの礼金も受け取り、ホクホクとなった懐の現金、ほぼ全額を投じてマーニから商品を買い取ったらしい。


 ほぼと言わず、全額を投じて買い取りたかったようなのだが、その前に魔法鞄の中の商品が空になってしまったようで。


 ゾーロさんはしばらくこの国で商売をし、支店を作ってからまた本店に戻るんだとか。


 ハルトやマーニに居場所を伝えているので、いつでもこちらかゾーロさんへは会いに行ける。


 そうか。

 ゾーロさんと業務提携するのもありだな。

 とか思考を飛ばしていると、


「ありがと!んじゃ行ってきまーす!」


 と元気よく二人は人ごみの中へと消えていった。


 そんな子供ら二人を見送ってから、俺達は宿へと向かった。



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