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041 説教タイム

 



 帝国に着いたのは船から落ちて二十日弱後のことだった。


 砂浜がある漁村に辿りつくと、見知った毛玉がいくぶんそのふわふわ感を損ないつつも俺の足元に絡み付きすぎるくらい絡みつく。


 って、ちょっと嬉ションしてない?!

 うわっ、やめてっ!

【クリーン】、【クリーン】!


 で、そんなテンちゃん、どこから来たのかと周囲を見渡せば、ハルト達が待っていた。


「おっせーよ!」


「ほんと、なにしてたの?いや、大体知ってるけども。それにしたって遅いよー」


 とりあえず俺の足元でキャンキャンキュンキュンしてるテンちゃんを抱きあげ、テンちゃんそのものに【クリーン】を掛けてフワッフワを復活させる。


 俺のいない間、マモルもテンちゃんに【クリーン】を掛けていたようだが、まだまだフワッフワ感が甘い。


「え、なんでここに?」


 感動の再会っぽいけど、感動よりも二人とその他結構な人数の騎士たちが既に待機していたことに驚いてしまった。

 こちらの漁村に迷惑とかかかってないか心配なんですけど。


「最初の言葉がそれって…まぁ、セージか」


「だねー」


「なんかごめん」


 なんかほんと、なんて言っていいか分かんないけど。


「まー、でも元気そうで良かった」


「でもさー、あの光に沿って向かっていたんなら3日程度で着いたよね?メッセージも既読になってなかったし。まぁ、そのかわりシロネが逐一報告してくれたからいいんだけどね」


「えぇ?!…あぁ、そうだ。忘れてた」


 なんてこった。

 寄り道せずに歩いていたらそんな程度でここまで来られていたのか。


 そしてスマホは最初に海底に着いてメッセージを送って以降アイテムボックスに放り込んだままだった。


 ダンジョンちょっと楽しくなっててすっかり忘れていた。


 それにしてもシロネさん、流石ですね。

 いい仕事をしてくれますな。

 ありがたやありがたや。


「ほんと頼むからしっかりしてくれよー」


 ため息交じりに言うハルト。


「海中の道みたいな光もそうだけど、セージの結界が僕たちや船にずっと効果あったから無事な上に余裕なんだろうなとは思ってたからいいけどさ」


 なら良かった。


「じゃぁ船は大丈夫だったのか?」


「あぁ、まぁな。あの場で丸2日魔物狩りするハメにはなったけど。その後も移動しながら魔物狩りで、こっちに着いたのはあの大陸から出てきて3日後だな。正直あの海の中の光の線はセージだと思ってたからさー。さっさとこっちの大陸に着いているもんだと思ってたら、マーニのスマホにシロネからしばらく戻らないとか連絡あるだろ?最初驚いたぜ」


 海の中の道みたいな光も、光の線と表現されるのもどれも【聖女の輝導】のことだろう。


 海上からも見えていたようだ。


 そんなに強い光には見えなかったんだけどな。

 スキルという謎なモノは常識では計り知れないものなのだろう。


「でも光の線消えてないし、シロネの報告もあってそこから見当つけてここでまってたんだよね」


「ごめんごめん。海中無双してたらなんか楽しくなっちゃってつい」


「何それ」


 マモルが興味を示した。

 ハルトは胡散臭そうにこちらを見ている。


 なんか、ほんとすんません。

 調子乗ってました。


「まぁ、話は後でだな。お土産たくさんあるぞ…って、そーいやハーちゃんは?」


 ごめん。

 彼女のこと、ずっと忘れていたかもしれない。


「あー、うん。お前いなくなって大騒ぎして大変だったよ。でもなんとか説得してこっちまできて、すぐに親御さん来てさ、速やかに引き渡ししたさ」


 大変だったね。

 申し訳ない。


 でもそうか。

 ハーちゃん、両親と会えたんだ。

 良かった。


「幼女のあの複雑な心境の顔ってなんか珍しい物見れたよね」


「お前、あの親子の感動の再会を見てそんなこと考えてたのかよ」


「だってやっとハーちゃんを親元に届けられたんだよ。安心したからあとは余裕を持って感動の再会現場を眺められたんだよ。ちょっと複雑すぎて笑えてきちゃったけど」


「……まぁ、たしかにハーちゃんの両親、ちょっとかわいそうだったな」


 そんなにハーちゃんの態度は複雑だったのか。


 ところで複雑ってどんなのだよ。

 ざっくりしすぎて想像できん。


「そうか。で、なんで騎士がこんなに居るんだ?」


 浜辺に俺達を迎えるようにズラズラと居並ぶ騎士達。

 レベル上がってもビビるわ。


「なんか、な」


「うん。なんかね」


「なんだよ。ここで勿体ぶるのか?勿体ぶるとこ違くね?」


 どうせ勿体ぶるならハーちゃんのくだりだよね?!


 あっさり両親との再会とか、もっと掘り下げて聞きたかったわ!


 あまりの動揺にさらっと話題変えて大勢の騎士について聞いた俺も悪いけども。


「だよねー。なんか俺達要人として国で丁重にもてなされるらしいんだ」


「…へー」


「うっっす!何そのペラい反応?!」


 当たり前だ。

 なにしっかり王道異世界勇者・賢者してんだコイツ等?!


 アホか!


『お前も一緒だからな』みたいな顔してんじゃねぇよ!


「あ、ハルトもマモルもここまで迎えに来てくれてありがとうな。大きめの町まで連れてってくれたら宿住まいだったり家借りたり、もしくは買ったりして、しばらく自分で何とかして生活してみるからさ。たまに遊びにきてくれよな!」


 そのうち女子達も合流するだろうし、その時になったら皆で帰る方法を考えたり、帰ることが出来たりするだろう。


 そのとき迎えに来てくれれば充分だ。


 要人扱いとか国で丁重にもてなすとかそんな肩身の狭い思いをするくらいならこのあたりの町でのんびり生活していたい。


 なんだったらまたダンジョン生活でも俺は全然構わないんだ。


「なに爽やかに健気な事言ってんだよ!お前も要人だよ!」


 やっぱり俺も要人扱いですか。

 誤魔化されませんか。


 というか勇者は勇者として疲れないのだろうか。

 ツッコミが勇者なんだけど。

 わからないけども。


「あ、また失礼な事考えてるよ、絶対」


「あぁ、オレでも分かるぜ」


「お前ら久々に会ったのに失礼だよね」


「お前が失礼な事考えてるからだろ?!なぁ、マモル。オレが失礼なわけじゃねーよな?!」


「うんうん。大丈夫だよ、ハルト。失礼なのはセージだから」


「お前ら仲良しだな。」


「妬けない妬けない」


「テキトーだな?!」


「マジな話さ、しばらくまったりしたいからそういうイベント事パスしていーかな」


 正直それ、勇者と賢者で処理して欲しい案件なんですけど。

 普通の男子高校生がしれっと加わることではない。


 あ、俺今普通じゃなかった。

 レベル1000超えの男子高校生だった。


 なんだかんだレベル上がるのって嬉しいよな!


「顔がニヤケてますけど?」


 おっとぉ。顔に出てたようで、ハルトが胡散臭そうにこちらを見ている。


「お土産と関係ありそうだねー。海の中のダンジョン行ってたみたいだし。ってことはやっぱりもしかして…?」


 さすが賢者。

 気付いてしまいますよねー。


 いや、マモルは思わせぶりな事をよく言うので注意が必要な場合があるけども。


 でもわかるか。

 これくらい。


「おい、こいつ分かりやすいくらい話そらしたぞ?」


 おっと、危ない危ない。


 しばらく離れている間にハルトはきちんとツッコミを入れる事を覚えたようだ。


 彼にいったい何が…。


「ま、まぁ、アレですよ。お土産です。後ほどお渡しするので楽しみにしていてください」


「急によそよそしくなったぞ」


 そんなことないですよ?


「お土産でうやむやにしようとしているに違いないね」


 賢者…!


「まぁ、要人なんたらってのはそんな身構えるもんでも無いっぽいし、大丈夫だって。偉い人には会うみたいだけど、それほど仰々しい感じでは無いっぽいぞ。普段着で来てくれて構わないとか言われたし」


「そーそー。気軽においで、みたいな感じだったから。報奨金くれるとか言ってたし」


「報奨金?」


「そ。俺達は海の魔物の討伐、セージは帝国の船と船員乗員の守護に対する報奨金、みたいだよ?」


「あぁ」


 ハーちゃんの護送とかではなく。


「そう、それからハーちゃんを送り届けた謝礼も、ハーちゃんちからでるみたいだぞ」


 おう。なんかスゴイネ!

 心を読まれたかのようだ!


「いや、正直知らない人達と会うくらいなら報奨金も謝礼もいらない。やっとここまで来たんだからあとは元の世界に帰れるその日まで、穏やかな日々を過ごしたい」


 歴戦の戦士みたいな事言って見ちゃったりする俺。

 ダンジョン帰りって人を大物気分にさせてくれるね。


「穏やかな日々を過ごすために報奨金も謝礼も受け取っておいた方がいいって。な?」


「いや、まって、ハルト。セージのこの余裕の表情…、穏やかに過ごしたいってのはその通りかもしれないけど、お金の心配を全くしてない気がする」


「お、おいおい、言いがかりはよせよ。世の中金より大切なものってあるだろ?心の安寧とか」


 アイテムチャージや換金でスキル内荒稼ぎしていたことがバレたか?!


 いや、バレても別になんてことはないんだけど。

 そもそもハルトとマモルも同じスキルあるし。


「確かに1人黙々と作業する時間とか必要な時あるよな。プチプチを延々とプチプチし続けるとか。あれマジ安寧」


「あー…」


 え、なんかそれで納得してしまったの?!

 逆にそれでいいの?!


「ま、この3人で謝礼と報奨金受け取ることは変わらねーけどな」


 良くなかった。

 決定事項を俺が無駄にゴネてただけの時間だったようだ。







 俺達が漁村に着いたのは昼ごろで、このまま移動の準備をしながら一泊してから帝都に向かう運びとなった。


 それまでは騎士団が用意してくれた大きな天幕で過ごすことに。


 せっかく地上に戻れたので速やかにダラダラしたい。


 体は疲れてないけど、海の中で結界の中という閉塞感はあったので、精神的には疲れていたのかもしれない。


 地上の天幕の中でも解放感があると思えてしまっていた。


 そしてなんかモフモフしたものを見るとほっこりする。

 海の中はツルツルしたものやヌメヌメしたものばかりだったので。


 天幕の中に用意されていた、ふっかりしたベッドに寝転がりながらテンちゃんをモフモフする。


 俺がモフモフししている間、シロネとシュラマルが海の中の詳細な出来事をハルト達に説明する。


 説明が進むうちにハルト達の視線がジト目にかわり、こちらを見ている気がするが、気にしない。


 気にしてしまったらその瞬間負けるので。


 基礎レベルは上がっても、心のレベルまでは上がらない。

 未だ俺は激安絹ごし豆腐の角メンタルのままだ。


「…で、その装備となった。と」


「はいっス…はい」


 冷やかなマモルの態度に、シロネであってもたじたじのようだ。

 いつもの威勢が低下している。


 マモルの視線は子供らに向いている。

 子供たちはマモルの視線に緊張した面持ちで姿勢を正し、じっとしている。


 俺やシュラマル、シロネには慣れたようだが、マモルとハルトには少し緊張するようだ。


 そしてマモルの視線はテーブルに置かれた装備に移る。


「古海珠の杖に壮海の天海星剣、深海の美弦戯弓…ねぇ」


「なんか、オレでもわかるトンデモなお土産名だな」


「セット防具もあるんでしょ?」


「はい。武器の中に収納してあって、武器装備者の任意で自動的に装備されたり解除されたりしますね」


 素敵な機能もあったもんだよね。

 これ初めて知った時ワクワクが止まらなかったよ。


 もともと装備していたものの上から上塗りするかのようにセット装備が出現されるんだもの。


 思わず爆笑しちゃったさ。


 他にも不思議素材や食材を渡したら呆気に取られていた。


 なかでも錬金術の材料となる宝石や貴金属を出した時のマモルはとてもいい顔をしていた気がする。

 一瞬で俺の味方になってくれた程度には。


 俺達が採取してきた素材の活用や運用も率先して色々考えてくれた。


「とりあえずこの大量にあるアイテム…深海雪蜘蛛の絹糸、海底樹の実宝などのかなりダブついている物凄く高価なものは、王家にお土産として1つずつ贈ろうか」


 とても穏やかな笑顔で提案されると、なんかこう、不安になるのは俺だけではないはずだ。


 それに大量にあるんだから1つずつってケチくさくない?


「それからこの…【アイテムボックス】と同じ機能を持つ魔法鞄を作ることができる【マジックバッグシード】も各種数粒程度お裾わけしとこうね。自分達の分の魔法鞄も新調しとこうか。あははは、これだけあったら日替わりでその日のファッションに合わせた魔法鞄を作れそうだね。ふふふふ」


 なんか賢者が壊れてる。


 ハルトはたくさんある武器や防具に見入って色々手にとっては楽しそうに何かを確認している。

 それをマーニが後ろでおとなしく眺めている。


 シロネとシュラマル、子供2人が使える武器はそれぞれに持たせているので、それ以外はハルト達に全部あげた。


 ちなみにシロネ達4人は既に個人の魔法鞄を持たせてある。

 アイテムボックスと同じ機能だとわかってからは予備の装備や食料、大量にある一部の素材や宝石、魔石、俺がスキルの換金で出した金貨なんかもいくつか渡してある。


 鑑定して分かったことだが、宝石も魔石も魔法の触媒なんかに使えるらしかったので。


 試しにシュラマルが宝石を使ってみたら、少ない魔力で大魔法が使えてしまって、みんなで驚いたことは記憶に新しい。

 試しておいて良かった。


 本番で大量の魔力を注ぎこんで魔法を使っていたらどんな大惨事になっていたことかと肝を冷やしたものだ。


 子供たちは大興奮で大喜びだったが。


 迫力満点だったからなー。


 ちなみに魔石は魔力が無くなったら魔石の魔力を使って魔法を放つために持たせてある。


「帝国の冒険者ギルドや商業ギルドの質は良かったから、この国のギルドに売れるものは売ってしまっても良さそうだね。さすがにこの王家に献上するような物は出せないけど、レベル100くらいまでの魔物の素材や魔石ぐらいだったら買い取りしてもらえると思うよ」


 そこに宝石や貴金属が入ってないのは、自分が使いたいからだろうか。


 金を出すから譲ってくれと言われたが、お土産だから金はいらないといって、手持ちの半分以上をマモルにあげた。


 ちなみに子供らやシロネ、シュラマルには分け前を固辞されている。


 シロネとシュラマルは奴隷だからという理由で。

 子供らは俺の使用人だからという理由で。


 既に俺は子供らの雇い主として認定されていたようだ。


 なにより、わけ前の事を言ったら青い顔で、さも恐ろしげに「装備品として貰いすぎている」と言われてしまった。


 装備もなにも、みんなで探して手に入れたものじゃん。


 という感じで言ってみたが、そもそもその前提段階の考えがおかしいと言われてしまった。


 彼らからすると、主人の俺に付き従い、主人の前に立ちはだかる払うべき対象を払い退け、主人の手足となって働いた結果に過ぎないらしい。


 その払うべき対象も俺のスキルによって弱り切った状態であったからなおさらだと言われた。


 そしてその恩恵として楽にレベル上げやスキルアップをはかれ、あまつさえアーティファクト級の装備を貰い受けた。


 …もう貰い過ぎて正直恐ろしいとまで言われてしまった。


 彼らの心の安寧の為に、俺はそれ以上言う事をやめた。


 心の安寧、大事だからな!





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