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036 シロネ3 商人への道、海底の道

 


 セージ様と過ごす日々はとても幸せなものでした。

 今もなおそれが続いています。


 まるで夢のようです。


 セージ様はとても穏やかで物静か。

 だからと言って無口なわけでもなく、ハルト様やマモル様とはよくおしゃべりしています。


 ワタシが話しかけても嫌な顔せず答えてくれます。


 ……調子に乗って勢い任せに話しかけるとドン引きされますが、それでも受け答えしてくれるセージ様はきっと聖人様なのでしょう。




 ただ少し、セージ様はハルト様方よりも浮世離れしているように思えます。


 お金の使い方が尋常ではありません。


 ハルト様達はそれには薄々気付いていたらしいですが、ここに来て確信を得たようです。


 セージ様は同郷者もびっくりの金遣いの荒さでした。


 本人は自分の特殊なスキルのレベル上げの為に使ったと言います。


 仮にその特殊スキルのレベルを上げるためにお金が必要だったとしても、限度はあると思うのですが、セージ様にはその限度というモノはありませんでした。


 もともとの所持金にも驚きましたが、それを2日で使ったと言うのは衝撃でした。


 それでもセージ様は言ったのです。


「まだ金貨1枚と少しある」


 と。


 金銭感覚があるのかないのか微妙な発言でした。


 金貨1枚あればしばらく暮らしていける金額です。


 しかし2日で金貨48枚使いきってしまうセージ様なら数分で消えてなくなる金額です。


 セージ様のあの発言で、ワタシはハルト様とマモル様から、セージ様のお金の管理を任されました。


 そのおかげかは分かりませんが、セージ様の金遣いはなりを潜め…ることはありませんでした。


 隊商に同行する事が出来、ゾーロさんという方の荷物の護衛という立場で旅をすることになり、その時に立ち寄った小さな村。


 そこで金貨で買い物をしようとする暴挙。


 こんな小さな村で金貨でのやり取りなんてまずあり得ません。

 持ったとしても大きな町まで行かなければ使えませんし、おつりにも困ります。


 それに買うモノもモノです。

 庶民の中でも下層庶民が飲むお茶を大量に買おうとするその気持ちのありようは如何に。


 それでもこのシロネはセージ様の心の向くまま気の向くまま。

 なんだってさせてもらいます!


 お金の管理はしますが、それでセージ様が不自由な事になるのはいけません。


 お金が無くなってしまったのならシロネが稼ぎましょう。

 歌を歌って稼ぐことも出来ます。

 演劇だって人に見てもらうことが出来ればお金を稼げる自信があります。


 それに……ワタシは生きるために人を殺すこともしてきました。

 そのスキルを使うこともセージ様の為になるのなら厭いません。


 万が一の時は、このシロネにお任せ下さい!




 この短い期間にわかった事。

 セージ様は、私がセージ様の代わりに、ハルト様とマモル様以外の方と会話ややり取りをするとホッとした様子を見せてくれます。


 今のワタシでもセージ様のお役に立てているようです。

 こんなことでお役にたてるなら、もっともっと頑張れそうです。


 ワタシ、お話は嫌いではないので。




 それと、ワタシがお金を預かるようになってからのセージ様の奇行。


 石や雑草、食べられるかどうかもわからない茸、倒木、土、砂、岩などを集め始めました。


 目印になるような物を避けて集めているので誰にも文句は言われないでしょうが、やはりそれは他人からは奇行として映るでしょう。


 でもセージ様は気にせず集めます。

 私も集めます。

 暇を持て余しているシュラマルも、暇を見つけてマーニもセージ様の為にそれらを集めます。


 別にセージ様が我々に頼んだわけでもありませんが、我々、基本することがないので。


 隊商に同行するにあたり、やることと言えば御者のみ。


 セージ様の結界に守られている隊商が危険な事になる事はありません。


 それでも一応索敵はします。

 やれとは言われませんでしたが、することもないので自発的に。


 それに隊商に同行する名目上では一応護衛として側に置いてもらっているので。


 でもやっぱり手持ち無沙汰です。


 なのでちまちま石など拾い集めます。

 セージ様が喜ぶので。


 休憩時、岩を見つけるともっと喜んでくれます。

 なんでかわかりませんが。


 でも後から聞いた話ではこれが大金になったと言うのだから驚きです。


 物凄く驚きました。

 スキルのなせる技とは聞きましたが、すごいスキルもあったもんだと驚きしかありませんでした。





 そんな奇行気味のセージ様を熱いまなざしで見つめる男がいます。


 おっさんです。


 ゾーロさんです。


 セージ様の出す食べ物に興味津々です。


 異国の食べ物。

 東大陸の食べ物だと勘違いしています。


 東大陸出身のマーニやシュラマルも食べたことがない食べ物なのですが。


 セージ様方は東大陸の辺鄙な小国出身という設定なので、なんとかなるでしょう。


 セージ様がその【アイテムボックス】から出してくれる食事はどれもこれもおいしいです。


 サラダも何のクセもなく、“どれっしんぐ”もたくさんの種類があっておいしいです。


 食事の味付けも多様性があります。

 飲み物も色々な種類のお茶や果汁があります。


 なのでなんであんな下層平民が飲むようなお茶を買い占めたのか謎です。


 セージ様の所持していた美しい彩色の本には“おすすめ!”と書かれていて、セージ様はそれを疑うことなく信じて買っていたようですが…。


 あぁ、ゾーロさんの話でしたね。


 ゾーロさんはセージ様の出す不思議な魅力満載の食事に興味を示し、セージ様からお情けを経て食べることが出来て以降、その虜になりました。


 そして彼はそれだけにはとどまらず、セージ様の持つアイテムにも興味を持ち始めます。


 セージ様の持ち物は、ワタシにも全く理解が出来ない物がほとんどです。


 しかし便利な物ばかりです。


 セージ様からいただいたメモチョウとボールペン。

 めっちゃ便利です。


 文字が書ける者は皆持つべきです。


 世間では、紙もインクもとても高価なものです。

 一般的に使われているのは木の板と細い木炭に布を巻いた物で何かを書き残したりします。


 木の板はかさばるし、木炭は折れやすいしかすれるし。


 かといって羊皮紙や獣皮紙は高価でなかなか手が出せませんし、インクも高いし持ち運びに不便です。


 所がどうでしょう。

 そんな物よりも格段に使いやすい、綺麗に揃えられ、真っ白な紙に薄くて規則正しく描かれた線の入った紙束と、ペンの頭の部分をカチっと押すだけでペン先が出てきて、強く握ってしまっても折れることなくしっかりと文字が書け、インクを付け足さなくてもずっと書いていられるペン。


 それがどちらも銅貨1枚で揃えられてしまうというセージ様。


 こんな便利な異世界のアイテムがたったの銅貨1枚です。


 ……あれ?

 おかしいですね。


 銅貨って結構な価値だったと思うのですが。


 セージ様の傍にいられるようになって金銭感覚が狂います。


 ローザング聖王国王都、商業街の宿屋の料金が銅貨30枚という恐ろしい値段に驚いていた自分がどこかに行ってしまいました。


 他の大陸の普通の町では銅貨10枚あればあの程度の宿屋で食事付きで泊まれます。


 村の宿なら銅貨5枚もあれば充分なご馳走も食べられて泊まれてしまいます。


 自分たちで野営して食事も調理した物なら銅貨1枚あれば数人分まかなえてしまいます。


 ………。

 これは仕方ありません。

 ワタシはもう昔のシロネではないのです。


 身も心もセージ様という異世界の方のものとなってしまったのですから、考え方もおのずと変わるものです。


 それにセージ様が前向きに商売をなさろうという時期。

 こんな事考えている場合ではありません。


 ワタシはセージ様の為に、商人にだってなりましょう。




 そうしてワタシの商人道としての道が拓かれ始めました。




 おかげでワタシは今、忙しくさせてもらっています。


 ふふん。

 マーニやシュラマルから一歩リードした形でご主人様のお役に立てています。


 ……と思っていたのも束の間でした。


 ハルト様が保護した小さな女の子がセージ様にしか懐きません。


 セージ様だけではセージ様が大変なので、年下の弟妹が多かったマーニが補助に抜擢されてしまいました。


 今ではワタシよりマーニの方がセージ様の傍にいる時間がとてもとても多いです。


 悔しいです。

 とても悔しいです。


 この悔しさは商売にぶつけましょう。


 この商売がうまく行けば、セージ様がきっと褒めてくれるはずです!


 そうじゃなくてもワタシがしっかり商売出来るようになれば、セージ様の生活は安泰となるはず。

 頑張ります。


 セージ様だってお子様のお世話で頑張っているのですから!




 ゾーロさんがワタシをセージ様の代理人として完全に認めて下さるようになりました。


 いまだなかなかセージ様と共にいる時間は少ないですが、肩書だけは悪くないです。


 とても嬉しいです。


 セージ様からも商売に関しては絶大なる信頼を得ているような気がします。


 この上なく嬉しいです。


「シロネ無しでは生きていけない!」といつかセージ様に言われてみたいものです。




 たった一人の商人相手に順調に商売できてしまっている自分が恐ろしいです。


 シャロ―ロ・ラ・スヴィケ王国に着いた頃にはゾーロさんとの商売で得たお金は金貨1000枚以上に達していました。


 彼もセージ様から買い上げた商品でそれなりに儲けを出しているようですが、こちらの比ではないでしょう。


 自分の商才が恐ろしいです。


 そんな事を思って調子に乗っていたからでしょうか。


 セージ様が深く落ち込まれてしまいました。


 その直前に、騎士に連れ去られる事件がありました。

 ワタシの不徳の致すところです。


 セージ様の結界魔法の理解もありましたし、短時間であったし、気配も辿れていました。


 だから大丈夫とは思っていましたが、これが本当に連れ去られて何か事件に巻き込まれてしまったらと思うとゾッとしました。


 ひとり部屋に残されたハー様の事もありましたし、迷いましたが、セージ様の心情を考え、私はハー様を優先しました。


 その判断は間違っていなかったようですが、それでもあの時自分がついていればまだ状況は変わっていたかもしれません。


 たくさんの返り血を浴びて戻ってきたハルト様を見た時のセージ様の表情は忘れることが出来ません。


 その後も少し顔色を悪くされていましたし。


 それでも気丈に振舞い、平静を保つセージ様は見ていてとても痛ましかったです。


 ワタシは、商売よりもはやりセージ様のおそばにいてお役に立ちたいです。




 そんな事を考えたから良くなかったのでしょうか。


 現在、商売が全く出来ない環境におります。

 商売道具の魔法鞄もありません。


 そうですね。

 あの時の言葉は、言葉の綾というものでして、基本セージ様のお世話をしつつ、片手間にでも商売を続けられたらいいな、と思っただけなんですが。


 なのにどうでしょう。

 今のワタシは海底で、ゆるーくダンジョン探索なんてしちゃっております。


 本来ならゴリゴリの冒険者が命を張って挑む場所なんですが。


 セージ様が結界を掛ければ、海中のダンジョン内に空気が満たされ、エラ呼吸の魔物がその場でビチビチと暴れ、体内から水分をまき散らした末に虫の息となり、時間が経つごとに弱り、息を引き取って魔石とドロップアイテムを落としていなくなります。


 その落ちた魔石とドロップアイテムをただひたすら拾い集める作業です。


 ときどき生きていても力ない状態なので簡単に倒せてしまいます。


 海の魔物は強靭な肉体があっても水の中ではないので十全に力を発揮する事が出来ずにその存在が消えてゆきます。


 シュラマルの火魔法も大変よく効きまくります。

 ワタシ程度の腕力でも、マモル様からいただいた身体強化の指輪のおかげでサクサク魔物と張り合えます。


 虫の息の魔物にトドメを刺すだけでサクッとレベルも上がるので余計サクサクウマウマです。


 海底ダンジョンは普通のダンジョンより難易度が高いと聞きます。


 人に見つかりにくいということもありますし、海の中での行動のしにくさもあるでしょうが、それより何より地上では考えられないほどの強い魔物が犇めくダンジョンだそうです。


 一階層の、比較的浅い場所の魔物でさえLv.50は超えています。

 ボスに至ってはLv.70だそうです。


 そう聞いていたんですけどね。


 いえ、セージ様の【鑑定】スキルでもそうだったみたいです。


 でも水の無いところで魚が生きていけないように、海水の無い場所で海洋の魔物は生きられなかったようです。


 どんな強い魔物が出てきても、セージ様の結界で空気を満たされればそれで終わりです。


 最悪の海底ダンジョンの階層主戦は、海水が無くなって自由に動き回れない階層主に、遠くから貝殻や石ころを投げてから少し待つだけの簡単な攻略でした。


 大変だったと言えなくもないのは階層をくまなく歩き、走り回らなければならなかったことくらいでしょうか。


 別にスルーしてもかまわないんだけど…というセージ様には、一緒に海底ダンジョンに来てしまった子供たちとその場でお待ちいただき、ワタシとシュラマルが急いで階層内を走り回り、魔石やドロップアイテムを拾い集めてまわります。


 セージ様の結界によって海水を抜かれた階層では、人しれずに魔物達が何の抵抗も出来ぬまま、その身を魔石とドロップアイテムに変えてゆくので。


 放っておくのももったいないのでワタシたちが拾い集めます。

 だって最低でもLv.50の魔物の魔石ですよ?


 大荷物を抱えてセージ様のもとへ戻ると、セージ様は優雅にティーテーブルを出し、子供達とお茶をしていました。

「シロネ達も休憩しなよ」とか言うので、私もシュラマルも一杯ご馳走になります。


 その後もまだドロップ品を拾い集めてない場所まで走って拾い集めては、持ち切れなくなったらセージ様のいる場所まで戻って【アイテムボックス】に入れてもらうという作業を繰り返します。


 そのうちに慣れてくると、子供達もその作業に参加します。


 その方がレベルが上がりやすいので。


 ときどき死んでない個体がいるのでそれにトドメを刺せばレベルが上がります。


 その死んでない個体というのが他の魔物より強いユニークモンスターで、倒すと結構レベルが上がるのです。


 子供ひとりずつをワタシとシュラマルで担当し、付き添いながら魔石やアイテムを回収し、魔石になってない魔物には子供に少しだけ攻撃をくわえさせてからワタシかシュラマルがトドメを刺して安全なレベル上げをしていきます。


 宝箱はセージ様の能力でセージ様が回収していきます。


 それが終われば階層主のボス部屋の前で待ち合わせというやり方を見つけ、ダンジョンを進んでいき、特に危険な状況に陥ることがないまま、サクサクと階層をすすめていくことが出来ました。


 2階層、3階層と進み、あっという間に10階層。


 何の危なげもなく来られてしまいました。


 そんな10階層のボスのレベルは480。


 エグいレベルです。

 地上の魔物でもまずお目にかかれないレベルです。

 ついでに聞いたこともないレベルです。


 でもセージ様の結界にかかれば、小一時間待っているだけで魔石になってしまいます。


 階層主は他の魔物と違って息が長く続くみたいで少し時間がかかります。


 その間にいくつか小石や貝殻をぶつけて待ちます。


 なんなら軽食を食べて待ちます。

 セージ様が勧めるのでつい…。


 いけませんね。

 せめて我々だけでも緊張感を持たなければ。

 もぐもぐ。あ、この“ほっとどっぐ”っていうの、おいしいです。



 そのうちまた小慣れてきて、セージ様もドロップ品を回収してまわります。


 ついでにダンジョン内でも景色のいいところでは“きねんさつえい”というのもしました。


 しゃしん。

 綺麗です。


 目の前の景色がそのまま切り取られたかのような。


 その景色を背景に、我々が映り込む物もあります。

 楽しいです。


 そんな事をしながら下層へと進むうちに、あっという間に最下層の階層主を倒してしまっていました。


 お宝ザクザク、超巨大魔石ゲット、口に出すのも憚られるようなドロップ品や宝箱の数々。


 ついでに最下層階層主のレベルが1000を超えていて、そこから得られた経験値もウマウマでした。


 こうして初めての海底ダンジョンは、宝箱を根こそぎ拾った状態で攻略出来てしまいました。





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