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033 船の中

 


「あーー、やっと見つけたぜ!にーちゃん!」


 不安を感じさせてくれた人影。

 あの街で出会った子供たちのリーダー格っぽい子だった。


 その子供が迷子の子を見つけた感じに俺を指して言ってくるのはこの状況下でどうなのだろう。


「お前…なんでここに?」


「そりゃにーちゃん追いかけてきたに決まってんだろ?」


「はぁぁ?!お前、わざわざコイツ追いかけて軍船乗り込んだのか?!しかもさっきの感じからして無断で!」


 ハルトが子供の行動力に驚いて声を張る。

 マモルも驚いているようだ。


 もちろん俺も驚いているけどな。

 たぶん一番動揺している感じがするくらいには。


「てかお前、どーやってこの船に乗り込んだんだ?軍船なんて兵士や騎士ウジャウジャいんだろーが」


「えー?そこ?今頃親御さん心配してるんじゃない?とかじゃなくて?」


 どちらもそうかもしれないけど、なんでこの船に乗っているのかとか、なんで俺を探していたのかとかも気になるかも。


 いや、こういう場合なんて反応していいかわからないな。


「ん。荷物に紛れて普通に入れたぞ」


 それ普通なのか?


 この船、警備大丈夫か?


 帝国の船…帝国の安全性にそこはかとない不安を感じる。


「んー。あと俺、親いないから問題ない。それに孤児院には書き置きしてきたから心配ないって!」


 それ心配事案ばかりだと思うぞ。


 そのあともハルトとマモルの質問に子供は答えていった。


 名前はティムト。9歳。

 孤児院育ちで両親のことは知らない。


 孤児院がいっぱいになってきて、食べるものにも困ってきたので出てきた。


 俺に海虫を売った金でしばらくは大丈夫だが、昨日また孤児が増えたことで部屋も手狭になり、またすぐ食うに困るようになるだろうと思い、年長である…


「俺とシィナがここに来たんだ。漁なら他のやつでも出来るしさ、年長二人だけでもいなくなれば、他のヤツが多く食べられるようになるだろ?」


 とのこと。


 孤児が増えたのってたぶん、あの魔物の大発生の影響だろうなとは察しがつく。


 昨日の俺に謝り倒していた少女は孤児院で働く職員だったようで、急遽手に入った金で彼女と一緒に新しく増える孤児達に必要な物や安い食材を買いに出ていて俺と遭遇したらしく、俺から帝国に行く話を聞き、俺の雰囲気から一番大きな船に乗り込めば俺に会えると思ったらしい。


 いや、その説明で色々思うことはあるけど、とりあえず最後の俺の雰囲気ってなに?!


「金持ちは大体大きな船に乗るって決まってるしな!」


 海虫を買う程金を持っているのなら大金持ちなんだろうと思ったらしい。


 大金持ちでもなんでもないが、彼の予想は当たってしまったようで、現にこうして俺に会えている。


「で?密航してまでコイツに会って、どーすんだ?」


 ハルトの言う通り、まさかここまで来て何か買えとかは無いだろう。

 手ぶらっぽいし。


 船動いちゃってるし。

 帰れなさそうだし。


 言っちゃ悪いが孤児が船に紛れこんでいたところでこの船が港に戻るようなことは無いだろう。

 このまま帝国まで行くか、ヘタすりゃ海に放り投げられるかだよな。


「雇ってもらう!」


「はぁ?!」


「うわぁ…」


「……」


 驚くハルトと引くマモル、なんとも言えない俺。

 なぜ雇ってもらおうと思ったのか、雇ってもらえる確信があったのか、さっぱりわからない。


「あんな海虫買おうなんて思うくらい金が余ってんだろ?そしたら子供二人雇うくらい訳ないだろ?!俺もシィナもなんでもする!子供だから大人より少ない金で雇えるんだぜ!俺達、お得なんだからな!」


「おぉぅ…」


 ここに来てハルトもドン引きである。

 マモルは悲しそうな顔をしている。


「まだ戦うことは出来ないけど、簡単な薬草くらいなら採って来れるんだぜ!実はこっそり町から出て採取して売ってたりしてたんだっ。それに、それに…そうだ、掃除も洗濯も出来る!物売りだって得意だぜ!あとは、あと、屋根さえあれば、馬小屋でだって寝れる!二人合わせて一日銅貨1枚!……の半分でもいい、だから、だから頼むよ!」


 最後は涙ながらに訴えてくる。


 それを見たハルトとマモルは「もう雇ってやれよ」みたいな顔でこっちを見てくる。


「ここまで来ちゃったんだし、いいんじゃない?」


 なんて言葉まで掛けてきた。


「そう思うならお前ら雇ってやれよ」


「いや、オレら基本戦闘組だし」


「戦えないんじゃ側に置いても危険かなー」


「そうなるとやっぱりお前なんだよなー。基本危険なところに行かないだろ?」


「マーニ達に手伝ってもらえば子守も万全?」


 え、そのために引き換えた奴隷じゃないよね?!

 違うよね?!


 てかお前ら“のほほん”しすぎじゃね?!

 なに受け入れてんの?!


「まぁ、ほら、そういうもんだから、異世界」


 達観?! それともテンプレ的な?!

 受け入れる選択肢しかない感じ?!

 両極端過ぎんだろ!


 そして受け入れるしかないだろうな、と心のどこかで思ってる俺、お人好し!


 これを断られたらもう後はない、みたいな形相で俺を見つめるティムト少年。


「…ある意味、俺を説得したそっちの二人に感謝しろよ」


 少しでも何かを分散させるように俺はハルトとマモルを指してティムトに言っておく。


 説得というか、ある種の脅迫というか。


 俺ならこう言えば断りづらくなるだろう、みたいな。

 押しつけというか、なんというか。


 あさり食べたとき砂噛んだみたいな気分だ。


 しょうがない感じに受け入れてしまうと言うか。


「ありがと!にーちゃんたち!俺達、なんでもするし!なんでもいってくれ!」


「あー、“俺達”って言うけどさ、あと一人どこいんだよ」


「あ!そうだった!おっさん達から逃げてる間にはぐれたんだった!俺は階段の下の方に来て、シィナは階段の上に行った!」


「大丈夫かな?見つかったらすぐに船から放り捨てられるってことは…」


 ないよね?とマモルが言う前に、ティムトは顔を青くしてすぐに部屋から出て行く。


 それをハルト筆頭に皆すぐに追いかけた。


 とっさのことで取り残された俺がハルトの部屋に一人ぽつんである。


「しかたない。行くか」


 なんとも言えない気持ちを胸に仕舞い、よっこらしょと椅子代わりにしていたチェストから立ち上がり、ハルトの部屋から出た。


 歩いていると、なんだか先ほどより揺れが酷いように感じる。


 ゆったりした船の揺れと言うより、ぐらぐらする感じに加え、大きく傾くような複雑な揺れだ。


 船酔いする人だったらまず耐えられそうになさそうな揺れかもしれない。たぶん。


 揺れのせいでなんとなく足元がおぼつかないため、壁伝いに廊下を進み、階段を上がる。


 つきあたりの扉を開くと、甲板に出てしまった。


 ちょうどバッドなタイミングだったらしく、恐ろしくドでかい海洋モンスターが船を襲っている最中だった。


 テレビでみたクジラより大きい気がするんですけど?!

 あんなのに船襲われてるのとか無理だよね?!


 ちょっとまって、初見の魔物がこれって酷くない?!

 もっと初心者に優しいスライムからとかにしてくれませんか?!


「セージ!中入ってろ!大丈夫だ!結界効いてるから、後はこの内側から攻撃すれば倒せる!シロネ!セージと子供らを!」


「了解っス!」


 ハルトとマモル、シュラマルとマーニとシロネも船に乗っていた兵士や騎士達が参戦中だった。


 そのうちシロネだけが俺のお守につけられる。


 申し訳ない。

 それと子供達か。


 子供たちはどうなのかと視線を巡らすと、帆柱に縋りついていた。

 海の魔物を見て二人ともガタガタ震えていた。


 そして俺も腰を抜かし、ガタガタ震えながら、扉に縋りついてる状況だった。


 こんなの無理だろ。

 絶対無理だろ。


 小さな人間が敵う相手じゃない。

 この中で一番大きな体格のシュラマルでさえとても小さな存在になっている。


 あの魔物が大きく口を開けばこんな船、丸ごとひと飲みされて終わりじゃねぇか。


 なんなんだよ。

 なんでこんな事になってるんだ?!


 シロネが言っていた。


 普通ならナチュピケから帝国へ向かうのに、西周りに大きく回る航路を取るって。


 海の魔物の巣を避けるような航路を取るから直線で船で一日掛らないところを二日も掛けるんだって。


 なのに、曲がる様子もなく、ナチュピケからまっすぐ進路を進むこの船は、こんな大きな魔物の巣の上を無謀にも進んだのか。


 いくら勇者や賢者だってあんな大きな魔物に攻撃が通じるわけないだろ?


 海龍とかいうやつじゃないのか?

 深い水色の龍。


 初めて見た動いている魔物がコレってハードだろ。

 こんなことならゴブリンあたりから慣らしとくんだった。


 あぁ、そうだ。

 少しでも結界を固くしとけば、飲み込まれても、数日で魔物の糞と一緒に排出されるかもしれない。

 そうだ、そうしよう。


 結構な錯乱状態の俺は必死に【堅牢なる聖女の聖域】の強化をはかる。


 そんな結界に対して思うように攻撃が通じない海龍は、苛立たしげに水属性らしき魔法を船に放ってきた。


「うわっ!」


「わぁぁっ!」


 大きく船が揺れ、傾いた。

 そしてその拍子にティムトたち子供らは帆柱に掴まっていられなくなり、甲板に放り出され、そのまま船から落ちていく。


「ティムトっ!」


 訳が分からなかった。

 なんで俺、さっきまで腰抜けてたじゃん。

 って思う。


 俺の結界にこんな落とし穴があったんだ…。


 って、俺余裕かよ!

 と思えるようなことも同時に思った。


 俺はもう一人の俺が居るんじゃないかって感じの思考を重ねながら、立ち上がり、走り出して子供たちの後を追い、船から飛び降りた。


 そのとき


「「セージ!」」


「セージ様っ!」


「ぬぅ!」


「せっ、セージ様!」


「っくっ!」


 なんて声が聞こえた。

 最後のコニーっぽい。


 そのあとザブンと俺は海に落ちたので水の音以外何も聞こえない。


 何も考えないで海の中に落ちたけど、意外や意外、常に自分に掛けていた聖女スキル【高潔なる聖女】がいい仕事をした。


 俺は丸い球体の中で普通に息が出来ていた。


 海の中はウジャウジャと魔物だらけでちびりそう。


 でも息が出来てスキルに守られていることですぐに思い出し、子供達を探す。


 下の方を見ると、微かに見える人の形。


 たぶんあれだ。

 しかも二人手を繋いでいるっぽい。


 大丈夫。

 まだ魔物に気付かれてない。


 すぐに二人に【聖女の加護】を掛けた。

 スキルを掛けたと同時に、二人は沈まずそこに留まった。


 自分達の変化に気付いて驚いた様子。

 同時に周囲の夥しい魔物に驚き固まっている。


 急いで子供たちの所へ行くと、俺に気付いた子供たちがホッとした表情を浮かべるのがわかった。


 俺は子供らに言いたい。

 俺が来たところで何一つ状況は変わってないのだと。


 うじゃうじゃいる魔物をかいくぐりどう船まで行く?

 船まで行けたとして救助してもらえるのか?

 みんな特大の海の魔物達と戦っているだろうに。


 そもそも船は安全なのか?ハルト達は…マモルの魔法を使えば逃げる事は出来そうだな。


 万が一船が大破しても全員マモルの魔法で逃げることは出来るだろう。

 問題はこっちか。


 子供らと合流すると、結界が混ざり合い、俺達は1つの気泡の中に居るような感じとなった。


 俺達3人の周囲に6畳くらいの球状の空間ができる。


「「にーちゃん!」」


「はぁ。拾えてよかった…」


「ごめん、俺…っ」


「ごめんなさい」


 謎の素直さを見せて、要求もしてないのに子供二人は俺に謝った。


 きっとなにか後ろめたかったんだろう。


 そもそも密航などしていなければ、こんな目に遭わなかったと思うんだが。


 もしかしてその事を謝ったのかもしれない。


 まぁ、あれだ。

 今はたぶんそれどころじゃない。


「これからどうするか、だなぁ」


 そう呟くと、二人は改めて周囲の状況を確認したらしく、ビクついている。


 俺もビクつきたいが、年長者としての謎なプライドが働き、堂々と考えるフリをして内心だけでパニックを起こす。


 ノープランで飛び込んできたものの、これからどうするか。


「あ!」


 ティムトじゃない方なので、きっとこの子がシィナという子なんだろう。


 その子が俺の斜め上を指して声をあげた。


 つられて振り返り、指す方を見れば、シロネとシュラマルが海の中で魔物と戦っていた。


 一応彼らには出会った当初から【聖女の守護】はかかっている状態だが、見た目的にあれではひと飲みされたらすぐ終わりそうだ。


 俺は慌てて二人に向けて範囲結界の【堅牢なる聖女の聖域】を放ち、広い結界に包まれるようにした。


 結界の変化に気付いたらしき二人が、すぐに戦闘をやめ、こちらに向かい、合流。


 するとまた結界同士が融合し、一つの空間に全員が収まった感じになった。


「すみませんッス!ありがとうございました」


「ありがとうございます。そしてご無事で何よりでございます」


「こちらこそありがとう。そして無事でよかったよ」


 生身で海の魔物と戦って無事だったのはある意味すごい。


「マーニは?」


「船の方を任せたッス。船にはハーちゃん様もいるッスから」


 あの一瞬でそんなやり取りまで出来てしまったのか。

 すごいっすね!


「そうか…。じゃぁこっちはこれからどうするか、だなー」





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