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032 出航

 


「どこ行ってたんだ?」


 めんどくさそうな雰囲気に現実逃避して実家の事を考えていたら、ハルトが聞いてきた。


「まちなか散歩」


「それ大丈夫だったの?」


 何故がハルトとマモルが心配そうに声を掛けてきた。


「何が?」


「いや、なんともなかったんならそれでいいんだけどさ」


「だねー」


 あ、もしかして範囲回復魔法を掛けたことによる勧誘とかそんな感じの事だろうか?


 そう言えば全くと言っていいほど何事もなかったな。

 皆が心配するほどの事でもなかったということだろう。


「あぁ、それより、ほら、お土産」


 俺は早速スルメとイカの一夜干しを二人に見せた。


「「おぉぉ…!」」


「よくこんなん見つけたな!」


「珍しいものではないはずなのに、何故かこの場で見るとテンションあがるかも」


 喜んでくれたっぽい。


 早速マモルは野営の時預けっぱなしになっていた七輪と七輪用の網と炭とを出して準備。

 本格的にやるようだ。


 ハルトも2種類のイカを裂いて、自分の【アイテムボックス】にストックしていた七味と醤油とマヨを小皿に各種適量を入れ混ぜ用意し、炭に火が入った七輪の上の網にイカを並べていく。


「あぶったイカもおいしいから、シュラマル達も食べてみたら?」


 言うが早いか、シュラマルはもちろん、シロネもマーニもハーちゃんも早速七輪に集まった。


「なんだ。干しイカじゃねーか。つまんねーな」


「まぁ、アレだろ?海の無いとこから来たならめずらしいんじゃねーの?んあ?でもさっき魔術師くん『珍しいものではない』みたいなこと言った気が?」


「…にしても見慣れない食べ方だが…コイツら慣れてる感じだな」


「そういえば」


「うまそうだし」


「味知っててもうまそうだな。なんだよその白っぽい物体。俺にも寄こせよー」


「俺も!」


 おっさん騎士達も参加し始めた。


 その後、彼らはスルメに七味醤油マヨの虜になった。



 わいわい七輪を囲んでいるみんなを眺めながら、俺は1人、メイドさんが入れてくれたお紅茶をいただく。


 正直いつも飲んでいるテイクアウトの紅茶か黄色いパッケージのバッグ入り紅茶の方がおいしい気がするが、そこは気取って飲んでおく。


「あぁ、そうそう、明日なんだけど、ウチの船使うことになったからよろしくー」


 茶髪無精ヒゲのおっさん騎士コニーが、何のことでもないように、よくわからないことを言っている。


「どゆこと?」


 きちんと人とコミュニケーションを取れる勇者ハルトがしっかり聞き返してくれた。


 一昨日の話では「こっちで船を用意する」とは聞いていたが、「ウチの船」とは。


 このおっさん、実は超金持ちとか?


「実は俺、帝国の人間なんだわ」


 あぁ、帝国からここまで乗ってきた帝国の船ってことか?


「へー」


「おいおい、魔術師様は反応薄いな」


「…まぁ、ハーちゃん迎えに来たんなら居てもおかしくないかな、と」


「ま、そーなんだけどよ。で、バールはこの国の人間だが俺達は昔っからのダチでよ。嬢ちゃん迎えに行くの誘ってみたって感じなんだわ」


「ってことで、少々名残惜しいが俺はここでお別れだな」


 金髪顎ヒゲのバールが、ニカっと笑ってお別れ宣言をする。


 よかった。

 これで半分は静かになる。


「おい、そこ!少し嬉しそうにしない!」


 おっとぉ。顔に出てしまったようだ。


「まぁ、昨日から…ってかここ最近この国でも色々あったし、こんな俺みたいなおっさんでもここに残って少しでも仕事しといたほうがいいってわけよ」


「そんなわけだー。しかし心配はいらんぞ?一応ウチの船には帝国騎士や海兵が乗ってきてるからよ」


「物々しいね」


 マモルがジト目でコニーを見る。


「ははは、まぁ、な」


 コニーは苦笑いでそれを返した。


 おっさん騎士達の話はそれで終わったのか、あとはみんなで適当な話をしていた。


 そのなかで、おっさん達は、部下っぽい騎士を呼びつけ、用事を頼んだかと思うと、小壺や空の酒瓶を持ってこさせ、ハルトに頼んで、七味と醤油とマヨを分けてもらっていたのが印象的だった。


 ハルトはそんな入れ物は使わず、ボトルやパッケージのまま渡していたが…。



 ハーちゃんが飽きたのか、俺の所に来て、椅子によじ登って座り、じっと俺を見つめてくる。


「お茶?」


 と聞くと、首を横に振った。

 ごはんでも無さそうで、じっと俺を見つめるだけだ。


「どこか痛い?」


 と聞いても首を横に振り、涙目になっている。


 あぁ、アレか。

 妹も小さい時こんな感じだったな。


 と、俺は立ち上がり、ハーちゃんを抱っこした。


 するとハーちゃんはすぐにこてんと頭を俺の肩に預け、くすんくすんしているうちにすぐに眠った。


 おねむってやつだったらしい。


 ハーちゃんをベッドに寝かせ、戻ってくるとゾーロさんが来ていて、シロネと少し話してから二人で出掛けていった。


 きっとまた商売だろうな。


 ゾーロさんもなかなか儲けているようで、俺は既に【異世界ショップ】Lv.15までのレベル上げで散財した分をゾーロさんに卸した分で取り戻している。


 たぶん。

 シロネに預けたままになっている売上金は金貨100枚はとっくに超していると思うし。

 銅貨とか銀貨も多いから詳しくは数えてないけど。


 ハルト達も同じくらいか、もしかしたら冒険者ギルドのほうでも稼いでるっぽいからもっと持ってるかもな。




 なぞのイカ炙りパーティーがソファーセットの方で盛り上がっている中、俺はメイドさんに頼んで軽めの昼食を用意してもらう。


 あの濃すぎるメンツの中で交わされているっぽい濃い話にはついていけないし、怖いので、軽くランチ気取ることにした。


 この部屋付きのメイドさん、短い付き合いでわかったが、とても機械的過ぎるので、俺でも用事を頼みやすいってのが判明した。




 出された昼食は一口大に切られた白パンの上に総菜が乗った物がいくつか皿に盛られていた。


 一口サンドイッチのサンドされてないやつの、豪華な感じのヤツ、みたいな。


 丁度シロネも戻ってきたので半分食べてもらうことにした。


「高級宿の軽食、恐ろしく美味いッスね」


 一口食べたシロネが驚いていた。


 俺も食べたことない味だったがおいしいと感じられた。


 後にゾーロさんから聞いたところ、謎野菜と謎野菜の漬物に謎ソースとアンチョビを少し混ぜて和えたこの宿オリジナルの軽食らしい。


 隠れファンも多いらしく、この軽食だけを食べにこの宿に泊まる貴族も多いとか。


 謎野菜はもちろん謎だが、俺は日本でもアンチョビを食べたことはなかったので、まさか異世界でアンチョビ体験出来るとは思ってなかった。



 昼食をとり、ふとソファー側を見ればイカ炙りパーティーは他のものも炙って盛り上がっていたのでそっとしておくことにした。


 高級宿の一番高い部屋であんなことして大丈夫なのだろうか。

 部屋を出るときはしっかり【クリーン】掛けておこう。

 忘れないように。




 何もすることが無い事に気付いた。


 おっさん騎士達の手前、なんとなくスマホ出してゲームも出来ない。

 出したら興味を示されてうるさくされる未来が見える。


 後は…ゾーロさんに卸す商品をシロネに託すことも出来ないか。

 それにもおっさん達が興味示してうるさくされそうだし。


 ワンルームを使えばどちらも出来なくもないが、部屋に居るはずの俺達が急に居なくなれば不審に思われる。


 寝室に行ってからにしても、声を掛けられて反応出来なければやっぱり怪しまれる。


 おとなしくしておくか、それとも出かけるか。


 よし。寝るか。


 ということで、昼寝をすることにした。





 自分的には休日な感じもなく、結構いろいろあった感じに過ぎた3日間だったと思う。





 明けて早朝。

 俺達は港に来ていた。


 いよいよ出航である。


「思ってた船と違う」


「違う意味で心配になってきた」


「中途半端だねー」


 というのが俺達の感想である。


 そんな感想を俺達に出させた船は、商船に軍艦を合わせたような船だった。


 商船にしては物々しく、軍艦にしては頼りない、そんな船。


「わが国が誇る魔動船だ」


 とても誇らしそうにコニーが紹介してくれた。

 動力は水と風の大きな魔石でまかなわれ、物凄いスピードが出るらしい。

 そして魔力砲なる大砲っぽい物も装備しているらしいのだが…威力はあるが、アホみたいに魔力を食うので、切り札扱いらしい。


 俺達に荷物はほとんどないのでそのまま乗船。


 ゾーロさんも荷車1台積んで、後はほとんどハルトに頼んで【アイテムボックス】輸送にしたようだ。


 見送りなども特になく、船に乗った時、船員たちに俺達が少し紹介された程度で解散。

 すぐに船員兼兵士たちは持ち場に戻った。


 船は木造で、所々金属でコーティングされていたり、補強されているような感じ。


 内装は全てが木造りだ。

 ほとんどの家具は床に固定されていて、持ち込まれた荷物はロープで固定されるか、ハンモックっぽい物の上に置いとくかだ。


 部屋は客室と呼ばれるところに案内された。


 6畳くらいの部屋にベッドが2つと荷物入れっぽいキャビネットが1つ置かれている。

 それだけでかなり狭い。


 これでも広い部屋らしく、兵士らの部屋だと、同じ部屋の広さで2段ベッドが2つと鎧置きがあるので、ギュウギュウらしい。


 ゾーロさんは大きな船で、騎士や兵士、魔術師まで乗船していることに、とても感激していたし、部屋も個室が貰える事に喜んでいた。


 定期船や借りた船は何もない大きな部屋に数人で雑魚寝が基本らしい。


 俺は遊覧船や高速船、クルーズ船くらいしか乗ったことが無い。

 遊覧船や高速船は最長2時間程度の乗船だし、豪華な感じのクルーズ船は二週間、ホテルと変わらない部屋での寝泊まりだったので、この世界の船とは比較できそうにない。


 フェリーとかなら雑魚寝って聞いたことがあるような…?



 ハルトとマモルはコニーに呼ばれて何やら話し合いに。


 俺は自由行動となったので、速やかに用意された客室に入ったわけだが…


「最悪だ」


「どうかしたっスか?」


「既に酔ったかも」


 そうです。

 船酔いです。


 まだ船は動いてないのに、船酔いです。

 この船、物凄く揺れる。


 シロネもシュラマルもハーちゃんも今のところは問題なさそうだ。


 これはアレか。俺だけか。


 遊覧船でも高速船でも豪華客船でも特に船酔いとか無かったんだけどな。

 車酔いはするから少しは不安あったけど。


 俺は落ち着いて【異世界ショップ】Lv.18のドラッグストアで酔い止めを購入して飲む。

 すぐ効きそうな液体の酔い止めを買って飲んでみた。


 そして飲んでから気付いた。


 聖女スキルで治せたんじゃ…と。


 薬が効くまで寝ていようと思い、ベッドに寝転がったところで、部屋の扉がノックされた。


 シロネが対応すると、兵士がそろそろ出航だと知らせてくれた。


 そして程なくして、船が動き始めた。

 いよいよ帝国へ向けて、航海が始まった。




 船が動き始めて1時間。

 確かに船は速い感じがする。


 日本の高速船くらいかもしれない。


 でも揺れは別だ。

 とても酷い。


 ハルトが船酔いで撃沈したと報告が入った。

 自身やマモルの回復じゃダメだから俺に来てほしい旨をマーニが知らせてくれた。


 マモルやゾーロさん達は平気らしい。


 ちなみに、ハーちゃんは出発30分で船酔い状態になったのを、俺の聖女スキル【聖女の慈愛】で回復出来た。


 なのでハルトの所へ行って、同じように【聖女の慈愛】で治すことができた。


「いやー、助かったぜ!今から仕事あるのに、動けなくて参ったぜ」


 仕事?


 なんか嫌な予感。


 シロネも船の進路を不思議がってたんだよな。


 前に帝国まで行った時や、話に聞く限り、ナチュピケから帝国へ行くのは左に大きく取って大曲がりの航路で帝国へ向かう、と。


 じゃないと海の魔物の巣窟の上を突っ切ることになるって。


 なのに、この船はなんでナチュピケからまっすぐ進んでいるんだろう、的な事を言っていた。


 そして思い出される、ナチュピケに着いた時にコニーが言っていた事。


『ちょっと付き合ってほしい所がある』


 と。


 島でもダンジョンでもなく、海の魔物の巣窟に付き合ってほしかったようだ。


 船でそんなとこに突っ込んだら船やばくない?


 それに気付いて、俺は改めて【堅牢なる聖女の聖域】を強化する。

 それに気付いたっぽい、賢者マモルが、ハルトの部屋にいる俺のところまできて


「そのスキル、船に沿わせるようにしてくれるとありがたいんだけどできそー?」


 なんて聞きに来た。


 出来るかわからないので、やってみる事にしたら、意外と出来たので、報告。


「できたぞ」


「ありがと!僕の結界だと結界の内側から外へ攻撃出来ないみたいなんだよねー。それとイメージがなかなか出来なくて球状か立方体にしか出来なくてさ」


 それだけ出来れば充分ぽいけど、賢者の志は高いようだ。


 聖女スキルは俺の任意っぽいけど、自動でざっくり守ることができる。


 マモルの結界はプログラミングのような要素があるが、俺のはお守りみたいなざっくりした範囲と効果を持つ物らしい、とマモルが色々検証してみていた。


 それでも効果は充分だし、聖女スキルでMP消費が無いので結界は俺に任せてくれている。


 今回の航海でもメインの結界は俺の【堅牢なる聖女の聖域】だ。


 マモルの方からもコニーには俺が結界を張ると言ってある。


 回復術師の結界は珍しいらしく、色々聞かれたみたいだが、家系スキルということで通してくれたっぽい。


 ますます俺が謎の人物化してるんだけど大丈夫なんだろうか。


「そう言えばさっきハルトが、これから仕事があるって言ってたのって…」


 さっきまでの会話を思い出したのか、船酔いから回復したハルトが説明を始める。


 とても残念なことに、俺の予想通りだった。


 ハルトとマモルの戦闘能力を見込んで今回行ける範囲での掃討作戦見切り発車ということらしい。


 事前に相談を受けているようで、二人とも大丈夫だろうという見込みだ。


 二人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろうが、それを俺やハーちゃん、ゾーロさん達という戦闘能力のない者たちが乗っている時にしなくても。


「コニーって実は結構帝国でも強い人らしくてさ、こういうときでもないと船に乗って他国まで行くって滅多にないらしくてな」


「いちおう海域が荒れることはシャローロ・ラ・スヴィケ王国側にもきちんと話をつけたみたい。ホントは兵も出してくれるって話だったけど、今回の騒動の鎮圧や更なる脅威への警戒に取られてダメになっちゃったからさ。でも帝国側では計画や予算、戦力は出しちゃったしってことで、こっちに話が来たわけなんだよねー」


「ってことで、セージ達にはわりーとは思うけどさ、そゆことだ」


 そういうことらしい。

 物凄く不安なんですけど。


「こら!おい!まて!クソガキ!」


 部屋の外から男の声がした。

 言葉から察するに船員さんがクソガキを追い掛けているっぽい。


 俺達3人、顔を見合わせた結果、勇者ハルトが部屋の外の様子を見に行く。


 やっぱ勇者なので。


「あ!」


「あ…」


 扉をあけたハルトが丁度船員に呼ばれたクソガキと遭遇したらしく、反応され、ハルトも反応した。


 そして瞬間的に、小さな人影が部屋に飛び込んできた。


「「あぁー…」」


 俺とマモルもそういう反応しか出来なかった。

 その人物を見たらますます不安になったんですけど。



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