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031 旅路20 港町での休日5

 


 ナチュピケ滞在三日目の朝。

 二度寝する気分でもなかったので、なんとなく出かけることにした。


 冒険者ギルドでのこともあったので、一応変装って程じゃないが、いつもの白ローブから色付きのローブを着てみることにして。


 俺はカーキ色で、シロネはエンジ色、シュラマルがダークグレーのローブ、マーニは麻色のローブだ。ハーちゃんは着れるようなローブが無かったので、パステルイエローのフード付きのポンチョっていうか、ケープって言うかそんな感じのを着せた。


 テンちゃんは俺の後をちょこちょことついてくる。


 結局テンちゃんには何も装備させてない。


 首輪もドッグタグもハーネスもリードも何もないままだが、これがここでの普通らしいので、素のままの状態だ。


 ただ、毎日のように【クリーン】を掛けられ、タンポポの綿毛のようにフワモコなので、あまり犬には見られない。


 いや、犬ではなくフェンリルなのだが。


 他人にも不思議な綿毛のような小さな従魔として見られているっぽい。


 すれ違う子供に「けだまー」とか言われてるし。


 テンちゃんは他人にちょっかい掛けられない限りはとてもおとなしい犬だ。




 して、特に用もなく外出をしてしまったが。


 一応大通りに来て、店…というか屋台が多く立ち並ぶところまで来てみた。

 この辺はあまり来てなかったな。


 港沿いは一昨日と昨日見たから、街中に来てみたが。


「なにか気になるものとかある?」


「んー…あ!」


 ハーちゃんは少し考え、周囲を見渡して何かを見つけた。


 そこへ俺を引っ張るようにトテトテと歩き進む。


「お?嬢ちゃん、ウチで買ってくれんのかいの?」


 気のよさそうなジジイの屋台だった。

 見れば乾物を扱っている店っぽい。


「これ!」


「んー? おぉ! これは! さすが嬢ちゃん、お目が高いのぉ!」


「そーなのか?」


 つい聞いてしまった。


「いや、なんとなくじゃ!」


 子供相手だと思って適当なこと言ったらしい。


「…じゃあ、そうだな。これ全部。あと、あれとそれ、こっちのも全部」


「ぶふっ…! なんじゃい、冷やかしかと思うたら上客じゃったか」


 ジジイは驚き、文句を言いながら麻ひもで指定したものを結って持ちやすいようにし、もう一つは葉っぱに包んでその上から同じく麻ひもで縛って寄こしてくれた。

 お金はシロネに預けてある分でシロネが支払ってくれた。


「また贔屓にのー」


 屋台から出て、ジジイは俺達を見送ってくれた。そのついでに今日はもう店じまいするようで一年分の売り上げだとか言ってたからもうしばらく働きたくないのだろう。


 あんな働き方、俺も絶対するんだ。


 てくてく歩いていると、ハーちゃんが袖を引っ張ってくる。


「あしがいー」


 ここ数日でハーちゃんはすっかり食べ歩きを覚えてしまった。

 いいとこのお嬢様に余計な事を覚えさせてしまったかもしれない。


 ジジイの店でハーちゃんが欲したのはイカの干したやつだった。

 スルメってやつだ。


 ……イカは海虫に入らないのか?

 ハーちゃんもイカの事は知っているみたいだし…。


 という疑問が過るが、すぐに気にしないことにした。


 おいしそうな物の前では細かいことは気にしていられないのだ。


 で、俺がついでに買ってしまったのはイカの一夜干しっぽいのをメインにその他乾物。


 どれもウマそうだったし、値段も安かったので大人買いしてしまった。


 ハルトもマモルもスルメ好きだし、買っておいて損は無いだろう。


「はい」


 とハーちゃんにスルメの足を1本渡すと、すぐに口に咥え、しゃぶり始めた。


 幼女がおっさんのまねごとである。


「ハー様、これ、食べた事あるんスか?」


 子供の指ほど太いスルメの足。

 胴体の方も結構肉厚で食べ応えがありそうだ。


 手軽に俺でもちぎれる足を、シロネとシュラマル、マーニにも渡した。


 俺も一本口に含んでみたが、日本で食べるものと遜色ないほどおいしかった。


 かたいけど、その分長くかじってられる感じだな。


 俺は干し肉よりこっちの方が好きかもしれない。


「あ、これうまいっスね」


「うま味がギュッと詰まっててそれが噛めば噛むほど濃くなるような…」


「うむ。食べたことは無いが、ずっと食べていたい感じがなんともいえません」


 シロネもマーニもシュラマルも気に入ったようで何より。

 ハーちゃんも夢中でガジガジしている。


「メリサのおやつ」


 ガジガジしながら、ハーちゃんが思い出したように答えた。


「メリサ…様、ッスか?」


「ん、メリサ、ひみつねってたべる。ハーちゃんみて、メリサくれた。おいちーねって」


 くちゃくちゃしながら説明してくれるけど、よくわからん。


「なるほど。メリサさんがたまに隠れて食べていて、それをたまたま見つけたハー様に口止めとして仕方なしに分けてあげた、と」


 通じてる…!

 合ってるの!? それ!?


「ん」


 とハーちゃんは返事した。


 合ってんだ…。


 街なかの屋台には干物や乾物が多かった。

 それと日用品や魚以外の食料品や嗜好品なんかも売っている。

 この町に多い商人よりも地元の人が多いような感じがする。


 しばらく進むと大きな広場に出た。


 円状に広がる広場だが、縁にそって屋台と言うより、地べたに布を引いてその上に商品を置いて売っている様な店?がぐるりと囲っている感じだった。


 何件か屋台や台を置いて商売をしているところもあるが、敷物を敷いて商売している店が多い感じ。


 そして今まで通ってきた通りよりさらに人が多い感じがする。

 農家直営店みたいな。「片手間で商売してます」っぽい。


「あーーー! にーちゃんだ!」


 子供が大声をあげているのが聞こえた。

 そちらを向けば、昨日と一昨日に見た子供たちがこちらに駆けてくるのが見える。


「なー、なんでこんなとこにいんだー?」


 なんで変装してるのにバレたんだ?


 普通に声掛けられたんだが、この変装は意味無いのか!?


「海虫買いに来た?」


「今日は漁に出なかったから無いぞ」


「迷子か?」


「干しイカ食べてるー。オレらにもくれー」


 あっという間に囲まれ、絡まれた。


 恐ろしい子供たちめ。


「みんなで分けて食えよ」


 スルメの姿干しを2枚ほど子供たちに預ける。

 結構大きいので充分足りるだろう。


「あぁーっ! あなた達! 何してるの!? す、すみません! 子供たちが大変失礼いたしました! ほら、謝りなさい!」


 子供たちの後ろから走ってきた、俺と同い年くらいの少女が俺を取り囲んでいた子供達を叱り、そして俺に謝ってきた。


 なんか謝り慣れてる感があるんだが…。


「ねーちゃん! このにーちゃんだぜ! 俺らが話してたの!」


 ねーちゃん、と言うが全然似てない。


 たぶん俺に「にーちゃん」というような感じの「ねーちゃん」で、子供らの面倒を見ている感じなのか。

 託児所的な。


 もしくは異世界ラノベでよくある孤児院かどこかの。


 そうじゃなくても子供たちのまとめられてないまとめ役って感じっぽいな。


「ええ!? そ、そんな! …えええ!? す、すすすす済みませんでした! 子供たちに悪気はなかったんです!私が、子供たちの代わりに私が代わりに償いますので、なにとぞッ」


 土下座する勢いで物凄い謝ってくる少女に俺がドン引きしている様子を確認したシロネが、俺の前に出て少女をなだめる。


「我が主は子供たちに特に思うことはございません。ここへは町の見物がてらたまたま通りかかったにすぎません。なので落ち着いてください。注目を集めるのは我が主は望むところではありません」


「ッ!! し、失礼しました! あの、あのっ」


 どうしたものかと慌てる少女だが、こちらとしてもシロネの言う通りなので、これで「はい、さよなら」としたい。


「では、これで我々は失礼いたします」


 うむ。

 ナイスだシロネくん。


「えーーー、にーちゃん、あそぼーぜー」


 なんでだよ!?


 いまイイ感じに引けるとこだったろ!?


 何故ここで絡もうと思った!?


 子供たちがローブをグイグイ引っ張ってきた。


「ヒィィッ!? こ、こら! やめなさい! そのお方にだけはご迷惑をおかけしては!」


 そーだそーだ!

 ねーちゃんさんもっと言ってやれ!


 …ん? 他のヤツになら迷惑かけていいみたいな言い方に聞こえるのは気のせいだろうか。


「いーんだよ、俺達とにーちゃんの仲なんだし! なー!」


 なー、と言われても、俺とお前らの仲ってどんなよ。

 売った買ったの仲でしかないと思うのだが。


 恐ろしい子供達だ。


「…悪いけど遊ぶことは出来ない。もう一枚やるからこれでかんべんしてくれ」


 スルメをもう一枚差し出し、懐柔をはかる。


「お! さすがにーちゃん、わかってるねー」


 さすが子供。

 チョロいな。


 このくらいの低年齢くらいにしか通用しなそうだが。


 いや、集られて、うまい事ぶんどられた気がしなくもない。


「ヒェッ…わわわ! こんな、高級品! すみませんっ、すみませんすみません」


 少女はスルメを見て悲鳴を上げ、謝りまくる。


 いや、なんかもう、逃げよう。

 わけわからん。


「あー、気にしないでください。それではこれで」


 足早にその場を逃げるように離れると、後ろから少女が子供達を泣きながら怒っている声が聞こえた。


 苦労性なようだ。


 子供たちはなんのそのっぽく適当にあしらっている辺りが同情を誘う。

 はたから見てる分には。


 近くだと怖いけど。


「干しイカって、一枚銅貨3枚くらいだったけど…これ、高級?」


 ちょっと疑問に思ったことをシロネ達に聞いてみる。


 日本ならスーパー価格で一枚2000円くらいしそうな大きさのスルメだ。


「え…あー。そうッスね。平民でも下層寄りは1日あたり銅貨1枚あれば充分暮らせるッスからねー。最悪その半分でも充分腹は満たせること考えたら高級ッスね?」


 半分って鉄貨50枚、か?

 いったい何が買えるんだ?


「たとえばあそこに売っている芋は1つ鉄貨2枚ッス。昨日見た港の屋台にあった雑魚なんかも1匹鉄貨5枚くらい。果物なんかは高いッスけど、自分らで採りに行けばタダで手に入るし、野菜も野草が手に入るッスからね。パンだって日常で食べる黒パンなら安い物だと鉄貨10枚で買えるッスよ。さすがに肉は銅貨が必要ッスけど、この町なら魚があるッスからねー」


 過去を懐かしむような顔で、周囲を見渡しながら淡々とシロネは教えてくれた。


 海芋は銅貨じゃなきゃ買えないが、普通のジャガイモとかだとかなり安く手に入るようだ。


 魚も雑魚といってもメザシとかそんな大きさの普通の魚。


 黒パンは宿で食べるアレだろう。


 旅用の固いやつほどではないが、モサモサしてボテっとしたした感じの。


 安いものということは、宿で食べる物よりも食べづらいものなのかもしれない。


 それらがそんな値段で買えるとは初めて知った。


 でもそういうことか。

 自炊すればそれくらいで暮らしていくことも可能なんだな。


 主食問題もあるので俺には無理そうだが、パンが主食の人達は充分なのかもな。


 それもこの港町で安価に魚が手に入るからこそ出来る生活なのかもしれない。


 それにこういった農家直営店みたいなとこで買えば野菜も安く手に入るようだ。

 ほんとに1日銅貨1枚で一日暮らせていけそうな値段で売っている。


 北大陸の帝国も一応海町みたいだし、もし住むとしたら細々と雑貨なんて売って暮らしていけば一生食うに困らない生活はしていける気がしてきた。


「なーなー、にーちゃん」


「!?」


 振り切ったはずの子供がいつの間にか隣を歩いていた。


「なー、どこか行くのか?」


 子供はリーダー格っぽい少年1人。


「このあたりを見て回ったら宿に戻る予定だけど」


「そーじゃなくて! この町から出てくんだろ?どこに向かうんだってこと!」


「…向こうの大陸」


「 ! 帝国か!?」


「たぶんな」


「たぶんて何だよー」


「そっち方面には向かうが途中どこかに寄るかも知れないような事を聞いた」


「ふーん。旅人ってかんじだなー」


 俺の言葉のどのあたりで旅人感が出ていただろうか。


「旅人だからな」


「ふーん」


 それきり少年は絡んでこなかった。

 みれば立ち止り、何か考えている様子だった。


 彼の思考の邪魔をしてはならないな。


 俺達はそっとそのまま歩み進んだ。


 という体で、この隙に子供からさっさと距離を取り、宿に戻ることにした。


 帰りしな、魔道具店なる店にも寄ってみたが、用途不明のものが多く、かといって使い方を聞いても心惹かれる物は全くなかった。


 マモルもハルトもキャッキャしてたから面白いのかと思ったんだけどなー。


 これも職業が関係しているのかと思うと悲しくなるな。

 あの二人、ゲームアプリとか興味なくなったみたいだし。


 それもそうか。


 ゲームっぽい世界でゲームっぽいスキルがあって、それを行使出来るんならそっちを選ぶよなー。


 宿に戻るまでに幼女を含めた俺達5人で大判なスルメを1枚全て食べてしまった。

 食べすぎかもしれない。


 でもみんな止まらなかったからなー。


 特にシュラマルはすごく気に入ったようだった。

 半分以上はシュラマルが食べてた気がする。

 裂いてくれたのもシュラマルだからいいんだけどね。





 宿の部屋に戻ると、ハルトとマモルが帰ってきていた。


 一瞬ホッとしたのもつかの間、その奥の人達を見て、ちょっとがっかりだ。


「おいおい、あからさま過ぎんだろー」


 バールはあのダメな感じのおっさん騎士口調に戻っている。


「おい、これ、うまいな! 適度な甘さで固いわけじゃないのにサクサクしてうまい! あとこの茶! この菓子と合ってさらにうまい!」


 紅茶も茶菓子もシロネが部屋付きメイドに預けていたものだ。


 無難にアールグレイという茶葉とプレーンのバタークッキーだ。


 紅茶の種類は全く分からないので、適当に選んだ銅貨40枚くらいの缶入りのやつだ。


 実家で親が見ていない時だったらあの黄色いパッケージのパック入りのやつなんだけどな。


 母さん、紅茶にはうるさかった…いや、飲食全般にうるさい人だったからなー。


 今頃どうしているだろうか。


 ………普通に仕事していそうな気もしなくもない。



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