表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/154

030 旅路19 港町での休日4

 


「たっだいまー」


「ふぃー、つかれたー、めしー!あ?シロネ、セージは?」


 バールがポツポツと話す中、応接間の外では帰ってきたマモルとハルトが賑やかにしているのが聞こえる。


 出迎えたシロネが状況を説明し、それを聞いたハルト達が応接間に入ってきた。


「おい、おっさん。セージに何ちょっかい掛けてんだ?コイツはカンケーねーんだから余計な事しないでくれっかなー?」


 チンピラか!


 徹夜テンションのままでバールに絡むハルト。


 恥ずかしいからやめてほしい。


「あ、紅茶、僕にもちょーだい」


 マモルはどうでも良いようで、お茶をメイドに頼んでいた。


 こちらも徹夜で脳がほとんど機能してない感じだな。


 見た感じ二人とも返り血らしきものを浴びて埃っぽく、鉄さびと生臭さで酷い格好と匂いだ。


 つい顔をしかめ、吐きそうになってしまった。


 頑張った二人に対する態度ではないが、戦闘スキルの無い俺にはこういう耐性はほとんどなかった。


 そんな俺の顔色にハルトが気付いたようで、


「あー、俺達さ、バールのおっさんと少し話するから、セージは休んでていーぞ。ハーちゃんと散歩とかするのもいーかもな!」


 明るく接してくれるハルトだったが、俺は目をそらし、口元を押さえながら、頷き、黙って応接間を出るという、酷い態度でその場を離れた。


「セージ様…」


 シロネに声を掛けられたが、我慢できず、洗面台まで行ったところでそこで胃の中のものが出てしまった。


 紅茶しか飲んでなかったのは幸いか。


 出てきたのは液体のみ。

 後片付けに悩むことはないだろう。


 洗面台に排水機能こそついてはいるが、蛇口とかは無いので、備え付けの水瓶から水を掬って、使うんだろう。


 今まで全部【クリーン】で終わらせてきたから分からなかったな。


 結局今も全身に【クリーン】を掛けたから大丈夫なはずなのに、両掌に生活魔法で水を溜めて口をすすいだ。


【クリーン】で口の中もさっぱりしているが、気持ちの問題で。


 ついでにまた手のひらに水を貯めて顔も洗う。これも気持ち的なやつだな。



 それから俺は応接間にも寝室にも戻らず、この部屋のリビングっぽいところにあるソファーに腰掛け、気持ちを落ち着けることにした。


 頑張ったのはハルト達で、俺は何もしてない。

 何も知らない俺が、あんな態度はよくない。


 きちんと謝らなければならない。

 それにさっき、【クリーン】だけでもハルト達にかけとけばよかった。


 動揺しすぎだ、俺。


 そう言えばこの世界に来て、ハルト達の話で魔物がいるというのは聞いていたが、俺自身魔物を見てないことに気付いた。


 テンちゃんも一応魔物だし、店や市場にあった吊られた肉や毛皮は魔物のものかもしれないが、それは加工されているものだったからか、気にはならなかった。


 ほんと俺、この世界来てなんもしてねぇな。


 膝を抱え、頭も抱え、落ち込んでいると


「おい、なに項垂れてんだ?」


 とハルトから声がかかった。


 応接間での話し合いも終わったようで、みんな出てきていた。


「あぁ、うん。なんとなく?」


 とっさにそれしか返事は出来なかった。


 ハルト達に目を向けると既に汚れなどはなかった。


 たぶんマモルが【クリーン】をかけたんだろう。


 それを見て、ちょっとほっとしてしまった自分にまた反省する。


「まぁそんな時もあるよな」


 ハルトなりの励ましだろう。

 この世界に来てなんかちょっとワイルドになってしまったけど。


 前はもう少しあざとかったような…。


「その、ごめん。血とその匂いにビビって…」


 せっかくのフォローめいた励ましだったが、正直に言った。


 後々またこういう状況になった時、なんとなく遠まわしに気遣われるのも嫌だし。

 こういうことは早めに謝っておいた方がいいよな。


 昨日ギルドに運ばれた怪我人達の匂いとも違った、なんともいえない怖さがあったよなー。


 慣れはしないだろうけど、嫌な顔とかしないようにしないとな。


「いいって。僕らがちょっと慣れ過ぎちゃった感じだし。戦闘職じゃないセージからしたら怖いよね。ははは。こっちこそゴメン。変なテンションで考え無しだった。ハーちゃんもいたんだし、帰ってくる前に気付いて【クリーン】を掛けておくべきだった。ホントごめん」


 マモルの言葉に、ハルトも一緒に「ごめん」と頭を下げた。


 戦闘職じゃない、か。

 自覚はあったけど、改めて友達から言われると、ツライものがあるな。


 異世界に来て役立たず感満載だよな。


 気を抜いたら泣けてしまいそうだ。


 なんで俺だけ、戦闘スキルが無かったんだろう。

 1つでもあれば耐性付いてたかも。友人たちの助けになれたかもしれないのに。


 3人で頭を下げあったところで、気持ちを切り替え、話題も変わる。


「なんか今回の襲撃は仕組まれてたっぽい」


 ですよね。

 バールの話からするとそんな感じがする。


 冒険者ギルドのエライ人達との話から総合すると、俺達を召喚した国のやつらが嗾けてきた気がする。


 この国は商業や特産で潤ってるし、その分多額の聖女派遣費を支払ってまで回復術師を自国で賄っている。


 あの国の聖女派遣を盾にしてるやり方を考えると、当然周囲の国は自分達の言いなりだろうと思っていたところで、あの国に対してこの国が自国民の生活を守るために回復術師の運用に堂々と「許可を取る」やり方で国民を守っている。


 わざわざ許可を取りに来たものを拒否すれば、自分等の正当性が無くなるために仕方なくこの国の嘆願を「許可してやった」。


 それでうまくまわってしまっているこの国に対して、嫌がらせをし、回復術師の派遣やら、聖女の派遣を促し、金をさらにむしり取ろうとか、そういう感じなんだろうな。


 召喚から小一時間ほどで城から放逐された俺達では、あの国がどんな感じだったのか知らないが、かなり高圧的で、勝手な感じはしたな。


 あの数分でそれだけわかるって逆にすごいと思うけど。

 恩着せがましく、装備や当面の生活費を渡してくるあたり、プライドも高いだろう。


 あの日から毎日マモルが女子代表の周防と日報みたいな物をグループチャットに載せたり、気になる時はそのまま意見交換などをしている。


 それでも女子達が得られる情報は少なそうな印象を受けた。



「海の利権が欲しいサイネラかシーヴァルか…」


「え?」


 真剣な表情でバールとハルト達が考え、その二つの国の名前を出したのが意外すぎて、間抜けな声を出してしまった。


 確かこの国はその二つの国に囲まれた形をしているってゾーロさんから聞いたが…ハルトはともかく、この国の騎士であるおっさんが言うんだからきっとそうなんだろう。


 他にもそう考える俺の知らない要因あるんだろうし。


「セージは違うと思うの?」


「え、あぁ、うん」


 俺がふわっとした返事を返すと


「バールさん、ちょっと俺達で話してくるから、待っててくれませんか?」


「んあ?…あぁ。わかった」


 俺はマモルに促され、応接間へ入る。

 ハルトも一緒に付いてきて、扉を締めてからマモルが防音の魔法を掛けた。


「なんかあった?」


「あぁ。昨日さ…」


 俺は二人に昨日から今朝のことまで話した。

 そして、今朝、冒険者ギルドの人達から話を聞いた時に思ったことや、さっきバールとハルトが話していた、仕組んできたっぽい国が俺の予想と違ったこと、俺の予想も話した。


 話ベタの俺の話がうまく伝わったかは疑問だが、二人になら翻訳出来るだろう。


「そっかー。海の利権の話を聞いてなかったセージの方が余計な知識がなかった分、今回の黒幕がわかりやすかったのかもねー」


「だな。セージの話を聞くと、あの国の怪しさがすぐわかった」


「いや、偏見だけかもしれねーけど」


「それはそうだけど、たぶんセージの予想は合っていると思う。あのオークの湧き方や地竜の暴走状態は異常過ぎだよ」


「過去2件の魔物騒ぎとは今回明らかに規模も危険性も違う。そしてそれが出来そうなのって…」


 二人もそこに行きつくってことは、俺の予想はあってたってことでいいのかな?


「クラスの女子達の誰か、ってこと?」


 俺達が職業の他に職業と関係ないスキルを持ち合せているように、クラスの女子が聖女というスキルの他に特殊なスキルを持っていてもおかしくない。


 でも毎日のグループチャットでそんな話題は出なかったし、全員がまだあの国から出ていないはずだ。


 そしてこれも偏見かもしれないが、クラスの女子が、あの国のやつらに調子のいい事言われても乗せられるだろうか?


 かえって反発しそうな気がする。


「いや、あのプライドの高い女子たちがいいように使われてるってことはねーだろうな。それに時期もズレてる。関わりようがねぇよ」


 ですよねー。


「いいように使うことはあっても使われることは絶対ないんじゃない?」


 お、おう。


「ま、とりあえずあの国が怪しいってこと、俺とハルトからバールさんに話してみるよ」


「俺は?」


「休んでてくれて大丈夫だ。セージにも無理させたみたいで悪かったな。冒険者登録とか、人目があるところでエグイ回復力の範囲回復術使うとことか見られたり、さ」


「あー、それね。俺達も使えるけど、単体回復魔法ならまぁ、いなくもないみたいなんだけど、それでさえ珍しいのに、範囲回復魔法使ったら驚かれたよねー」


「そーそ。回復術師は教会所属の偉いジジイが範囲回復術使えるって話だったからな。それをセージが使えるって知られたら勧誘が恐ろしいな。精神的な防衛手段シロネだけだろ?」


「シュラマルもつけた方がいいかな?」


「かもな。マーニには悪いけどハーちゃんについてもらおう。オレらは自分の身は自分で守れるしな」


 えー…?


 そんな大事になる話だったの?!


 とりあえず話は以上なようで、応接間から出たマモル達は、早速バールにあの国の怪しさを伝えたところ、バールは驚いていた。


 多額の金を支払っているのに、そんな事をするとは思ってもみなかったらしい。


 その様子をみて、マモルは「どんだけ聖女派遣に金出してるの…」と呆れていた。


 それでも経済が破綻していないこの国はすごいんだろうな。


 あぁ、だからこんな目に合うのかもな、と納得してしまった。




 マモルから話を聞いたバールは、「少し考える」と言って、自室に戻っていった。


 マモル達はまた冒険者ギルドへ行って様子を見てくるような話をしている。


「寝なくて平気なのか?」


 普通に心配なるよね。

 徹夜で魔物討伐したみたいだし。


「あぁ、しっかり寝たし、休憩も取ってたから大丈夫かな」


「ん?」


 どゆこと?


「ほら、マモルの【ミニチュアガーデン】ってのあっただろ?あの中で快適に休めたぞ」


「あの中の時間の流れを変えて、外の時間の1分を、あの中では10時間ってね」


 いつものアレですか。


「そ、そうか。ならよかった、のか?」


 あ、そう言えばワンルームのやつマモルに冷凍してもらわないと、というのを思い出し、早速サクッと冷凍してもらった。


 瞬間冷凍ってすごいよね。それをガラガラとアイテムボックスに突っ込む。


「それにしても随分買い込んだね」


「え、なんか夢があるだろ?巨大エビでエビフライ。あとあの大きさの身のしっかりしたカニとかうまかったじゃん。ゾーロさんが商売考えているみたいだったから無くなる前に買っておこうという、変なテンションとケチな心理でつい…」


「そーかもね。バールもコニーも興味持ってたから安く買えるのは今のうちかもねー」


「そーかもなー。オレも買っとこうかな」


「じゃ僕も買った方がいいのかな?」


「皆で今の内買い占めとくか」


 なにその迷惑行為…。

 ほどほどにしてよね?!




 その後、ハルト達は冒険者ギルドへ出かけた。

 残ったのは俺とハーちゃんとシロネとシュラマルとマーニだ。


 さて、俺はどうするか。


「あのー…セージ様…」


 眉をへにょりと下げて、シロネが俺に声を掛ける。


「昨日は、済みませんでした。さっきマモル様達の話を聞いて、自分、とんでもない事して…」


「…とんでもない事?」


「昨日、その、自分がゾーロさんの所へ行っている間、セージ様がバール様に連れていかれて、無事にすぐ帰ってこられたんで気にしなかったッスけど、でも今日大変な事になってたみたいで……自分のせいで、セージ様が……。セージ様の護衛の自分が主を危険な目に遭わせて……」


 あぁ。あの時か。


「いや、それは違うんじゃ…?」


 あの時ゾーロさんの対応を頼んだのは俺だ。

 シロネにはどうする事も出来なかった。


「でも!自分がいれば、自分がすぐに商談を終わらせて引きあげていれば!」


「いやいや、結果は同じだった。気にしないでいいよ。それよりハーモニアの傍にいてくれたことが何より助かったし」


 自分の名前を呼ばれたことに気付いたハーちゃんがピクリと反応し、俺を見上げる。


 そんなハーちゃんの頭を俺はなんとなく撫でると、ハーちゃんは嬉しそうに、椅子に座っているので床についてない宙ぶらりんの脚をぷらぷらさせた。


「でも自分、セージ様にバール様が物凄い勢いで近づいていく気配、わかってたッス…」


「あー。でもシロネがいてもあの時のバールは止められなかったと思う。一緒について行くことになって、ハーモニアも連れて行っていたらもっと酷い事になっていたかも。あの光景は子供には見せられなかったと思う。だから、シロネには感謝かな。ありがとう」


「そんな…」


「いや、ほら、そんなに気にやまれると、今度からゾーロさんに商品を卸しに行くの、俺も一緒に行かなきゃなるしさ、ほんと、気にしないでください。これまで通りでお願いします」


「……はい」


 返事はしたものの、シロネは少し苦しそうな表情をしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ