003 のんきに駄弁る(ステータスとスキル)
アレだな。ハルトの未来の事はさておき、この世界に来たことで何らかの変化のある自分たちについて一応確認しておいた方がいいよな。
ってことで、俺達はアメリ少女がやっていたように、ステータスなるものを確認してみた。
結構簡単で、口頭で「ステータス」と言ってもいいし、心で念じてみれば、ポっと目の前に出たチョロさ。
微妙な気持ちになった。
「これは……アレだな。ダメなやつだな」
いち早く自らのステータスを確認したハルトが渋いものでも食べたような顔で言った。
「だねー。こりゃダメだー」
まいったまいったー、とかゆるくて雑に、マモルも自分のステータスに感想を漏らす。
そこで俺もまじまじと自分のステータスに目を向ければ……
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男子高校生 聖園 清司 Lv.1
HP 222
MP 366(※聖女スキル使用時のみ制限無し)
スキル 聖女 特殊魔法(※高校生仕様) 鑑定 異世界ショップLv.1
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「あー、こりゃたしかにダメだわ」
という感想が出てしまう。
ツッコミ待ちみたいな※印が二つある。
完全にダメなヤツだという確信がある。
「だよねー」
マモルの適当な相槌が今に限ってはとても心強い。
「っ、じゃねぇよ! みんな同じわけねぇだろ! 確認すんぞ!」
「えー、これ教え合って何かお互い不都合な事があって、僕らの中で殺し合いとかにならなーい? 大丈夫?」
え、ナニソレ、そんなに殺伐とした感じのステータスなの!?
俺だけネタ要員とかなの!?
「それもそうか……」
え!? お前もそこで引くの? 数秒前の意気込みどこ行ったよ!?
「お、お前らのステータスってそんなにアレな感じなのか? マジかよ……」
「ウソだよ?」
「え?」
「うそうそー」
「……ホントにウソか? 信じていいのか?」
「ウソを信じるって変だよね」
「言い得て妙ってやつだな」
「いや、それの使い方わかんねぇけど」
「まぁさ、あれだね。さっさとステータス晒し合おうよ。えーと、アメリは確か……あ、どう、見えてる?」
最初にゆるっと見せてくれたのはマモルだ。
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賢者 賢聖寺 真守 Lv.1
HP 589
MP 5890
スキル 魔法魔術理解、状態異常耐性、魔力強化、魔力操作、属性魔法、特殊魔法、連続魔法、魔法陣学、杖術、錬金術、薬学、鑑定、異世界ショップLv.1
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どこにどうツッコミ入れるのが正解なんだ?
もどかしさにチラリとハルトを見れば「ほほう」みたいな顔して見てるんですけど、それどんな感情だよ。
二人が、とりあえず皆のを見てみようという雰囲気出しているためにここで俺一人変にツッコミ入れてもアレだと思い、一応黙っておく。
内心めちゃめちゃ言いたいことあるんだけどね!
「マモルはそんな感じか。俺と相性いいかもな。俺のステータスはこんな感じだな」
なんだそのフリは!?
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勇者 勇希 悠聖 Lv.1
HP 1240
MP 132
スキル 状態異常無効、空間把握、身体強化、体術、剣術、槍術、弓術、盾術、連続攻撃、火魔法、光魔法、時空間魔法、異世界ショップLv.1
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お前もかよ!
二人してチートのオンパレードじゃねえか!
「へー、ハルトにもあるんだ、異世界ショップ。て事はセージもある感じ」
「え、あ、うん」
「こんな特殊っぽいスキルが3人ともあるとか、ありがたみに欠けるな」
スキル【異世界ショップ】を指してハルトは言う。
「そこはサラッと当然のようにあるのがいいんだって。標準装備ってやつ? あっちの世界と遜色ないモノが手に入るスキルだといーよねー」
まだスキルの検証はしてないからなんともいえないが、マモルの言う通り、日本にあったものがこの異世界でも手に入るならば、多少はこっちでも生きていけそうな気がする。
「で? セージはどんなの?」
うほ、やっぱ見せなきゃないか。
1人だけしょぼい上に怪しげなスキルがあるから見せづらいんだが……。
「あー、俺のは二人よりだいぶすっきりした構成になっているんで、期待はずれだぞ?」
「いいから見せろって」
「そーそ、みせろー」
「……」
で、仕方なく見せた訳だが。
「ブハッ! マジか!」
「シュールだねー」
「おい! 俺はお前らの肩書きには触れず黙って聞いてたんだぞ!?」
「しかたないよー、完全にネタ要員だし」
自分でもそうじゃないかと思いつつもそっとしておこうとしていた案件を口にしちゃうのかよ、このヒョロガリ賢者は!
クッソ、賢者だけあるわ。
クソ……クソぅ……。
自覚があるだけなんもいえねぇわ。
「くっ、殺せ!」
「いや、お前からは聞きたくなかったその言葉」
「テンションが腐るからやめてくれる?」
テンション腐るってなにさ。
「……すみません」
「で、この見るからに怪しいスキルは何なんだ?」
「それにそのスキルに連動しているらしきMPの注意書きについても詳しく」
「詳しくって言われてもなぁ……」
なんとなく自分の中ではこんな風に使えるんじゃないかと言うものはあるが、どう説明していいかはわからない。
ステータスを開いてスキルを認識した途端に何故か使い方がわかるような気がするのは異世界の不思議と言う言葉で片付けられそうだ。
「これね、詳しく知りたいステータスのところに集中すると、説明文出てくるみたいだよー」
賢者は既にステータスの小技を見つけたようだ。
教えられた通りにスキル【聖女】に集中すると、ズラズラと色々出てきた。
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【聖女】
聖女っぽい事はなんでも出来る。
聖女の癒し……………あらゆる怪我を癒し、HPを全回復させる
聖女の慈愛……………あらゆる病気やバッドステータスを癒す
聖女の慈雨……………対象者を任意の時間癒し続ける
聖女の祈り……………困った時、祈ってみると…
聖女の奇跡……………死んで1時間以内の死体、もしくは時間と関係なく死んだ毛根を蘇らせる。他あり得ないことが多々起きる
聖女の慈恵……………MP半回復
聖女の恩寵……………全ステータスを3割増しにする
聖女の輝導……………聖女が行くべき道や行きたい場所を光が示してくれる
聖女の願扉……………行った事がある場所へ瞬時に移動できる扉
聖女の輝き……………身体が淡く発光し、ちょっと浮く
聖女の微笑み…………親しみはあるがどこか近寄り難い、澄んだ微笑み。この状態でお願いすると大抵聞いてもらえる。威圧効果
聖女の瞳………………それはとても清んでいる
聖女の勘………………ときどき勘が冴えわたり鋭くなる。パッシブスキル
純真なる聖女…………「聖女ですよ」オーラを出す
高潔なる聖女…………あらゆる攻撃や害悪、悪環境から自身を守る、聖女の完全なる結界。発動者が苦手とするものは虫すら近づくことができない。半径3メートル範囲内微弱な聖女の慈雨効果あり。パッシブスキル
聖女の守護……………高潔なる聖女が他者へ掛ける事が出来る単体結界
堅牢なる聖女の聖域…高潔なる聖女の任意範囲結界。また、結界内を浄化する
聖女の呪い……………命に関わらない呪いを任意でかける事が出来る
聖女の慈悲……………聖女の呪いを解く事が出来る。また、この世に囚われた魂を解放する
聖女の封印……………邪なるものを封印する
聖女のお友達…………聖女による特殊テイムスキル。例外はあるが大抵の動植物や魔物を「お友達」と称したテイムをする
聖女の恩恵……………聖水作成。聖女のMPを聖水に変換する
聖女の知識……………聖女スキルを使いこなすことができる。歴代の聖女スキル所持者の知恵や知識が詰まっている、半パッシブスキル
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うわ……なんとなくこうなんじゃないかなと思った以上にひどい。
ひどいぐらいなんでもアリなスキルだな。
「うわー。実用性の高いスキルに紛れてネタスキルも入り混じるカオスだな」
二人にも見えるように表示されていたようだ。
とくに隠すようなものでもないからいいけどさ。
「ある意味3人の中で最強っぽいけど、攻撃力は皆無だねー」
「この【聖女の呪い】ってのがある意味攻撃スキルか?物理攻撃はできなそうだけど」
「だね。セージのスキルじゃ攻撃は無理そうだね。特殊魔法もただの便利魔法の詰め合わせみたいなものだし。ちなみにこっちの【特殊魔法】(※高校生仕様)っていうまたしてもネタ感のある特殊魔法は?」
なんか、そんな風に言われるととても恥ずかしいな、俺のスキルって。
出落ち感パない。
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【特殊魔法】(※高校生仕様)
アイテムボックス……いわゆるあのアイテムボックス。容量制限なし、時間経過なし
ワンルーム…………12畳程の何もない空間。人も入れる。使い方自由。魔力で拡張する事が出来る。魔力に余裕がある時拡張しておくことをおすすめする
無属性魔法…………超能力とかサイキックとか念動力とか神通力とか、それに類似する現象を起こすことが出来る。使い方によっては便利かも。イメージを要するため、現在まともな使い方は確立されていない
草木魔法……………草や木など、植物っぽいものに、成長促進や品種改良などといった影響を及ぼすことが出来る。極めれば植物と意思疎通をはかることができるとかできないとか。
生活魔法……………いわゆるあの生活魔法。攻撃には適さない生活密着型の魔法。あると便利だが、なくてもそれはそれで…な魔法。
クリーン……………清めの魔法。物や場所、体などを清らかで清潔な状態にする。
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「なるほど。僕の【特殊魔法】よりかなり使える魔法が少ない感じだし、内容も制限があるね。……ぷふっ、高校生仕様ってのがよくわかる内容だね。説明も雑すぎー。ツッコミ待ちみたいなのに触れちゃうのはやっぱしゃくだけど、じわるー」
「笑ってやるなよ。こういうのはそっとしておくのが友情と優しさだろうが……」
そう言ってアルカイックなスマイルを勇者が俺に向ける。
「そのあたたかい眼差しもそれはそれで傷付くんですけど!?」
「あはは、まぁまぁ。勇者も賢者も恥ずかしい事だし、痛み分けってことでさ」
「それにしても、勇者と賢者よりネタ感ある職業っての?まさかあるとは思わなかったぜ」
「だよねー。男子高校生ってのもアレだよね」
「もう俺のステータスの事はほっといてくれ」
「いやいや、オレ達のスキルはまぁ、なんとなく個人の用途だよな、で済むけど、お前のこの……ふ、ぶふっ、この【聖女】スキルはかなり使い勝手いいのが多いだろ。しかもそのスキル使用に限ってMP消費無しってのはデカイって」
あ、こいつ今笑った?
聖女スキルって口に出すのそんなにおかしい……おかしいよねー。
いいよもう、好きなだけ笑ってくれ。
「確かに。【聖女の守護】か【堅牢なる聖女の聖域】を常に僕たちにかけてくれれば無双出来そうじゃない?勇者と賢者なら高火力出せそうだし」
「MP少ない俺には【聖女の慈恵】はありがたいな。全体的にサポート要員としては最強なんじゃないか? しかもこの……このスキルに限ってはセージのMP気にせず使い放題だし、【異世界ショップ】と違ってレベル表記ないってことは、カンスト扱いなんだろうしさ」
こいつ……!
【聖女】スキルを口に出さない変な気の使い方をした、だと!?
「そーゆーことでとりあえず落ち着こうか。僕たちもセージの事ばかり言ってられないステータスには変わらないしね。ってことで、サクッとその【異世界ショップ】でも検証しとく?」
「だな」
自分等の事を流そうとしてる・…!?
けどせっかく矛先がかわったのでこれから掘り返して自分に帰ってくる可能性もなくもないので、流れに乗るか。
――――
【異世界ショップ】Lv.1
マッチ
水2L
おにぎり
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「必要最低限これだけあればしばらくは生きていけそうなラインナップだね」
「レベル1ってことはレベルを上げれば商品増えそうだな」
ってわけで、比較的とっつきやすそうなこの【異世界ショップ】をスキル発動の練習も兼ねてそれぞれ検証してみることになった。
まず、ショップというからには買うんだろうが、どうやってこのスキルを使って買うのか。
試しに水を買ってみようとしたところ、目の前に《銅貨1》という数字と、銅貨1枚を置けるような、魔法陣ぽいモノが描かれた円が現れた。
そこに書かれている通り銅貨一枚を乗せようとしたが、手持ちにないので金貨1枚乗せると、MPが10消費されあと、金貨がスッと魔法陣に沈むように消え、代わりにペットボトルに入った水が、金貨の消えた魔法陣から浮かび上がるように出てきた。
水の入ったペットボトルを取り出すと、魔法陣は消えずに文字が書かれる。
《つり/チャージ》
選択式なのだろう。チャージは釣銭をそのままチャージして次回、残った金額分使いまわすことができるようだ。ってことは、ここで《つり》を選択しておけば……
「うぉっ」
《つり》を選んだ途端、魔法陣からじゃらじゃらと釣銭があふれ出てきた。
「なにやってんだよー」
「なるほど、ここで《つり》を選んじゃうとこうなるんだー」
どうやらハルトとマモルはチャージを選んでいたようだ。
「いや、好奇心がこう、な」
ははは、と笑って誤魔化す。
「まぁ、わかるけどな。それに両替っぽいことができる事がわかったな」
「だね。じゃぁ僕もやっとこうかな。ハルトに宿代立て替えてもらったままだったし」
そう言えばそうだった。
てことで、俺もマモルに倣って早速ハルトに宿代を払った。
それからしばらくは今ある自分のスキルで出来そうな事を各自確認。
俺で言えば、【アイテムボックス】や【ワンルーム】、【聖女】スキルの中の、防御系のスキルと、外じゃ出来なそうなネタ系のスキルをコソコソと試してみたし、【異世界ショップ】もMP消費の影響や、【聖女】の中の“聖女の慈恵”でMPを回復しつつ、レベルを上げてみた。
【異世界ショップ】はアイテムを10個買ったところで、レベルが2に上がり、
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【異世界ショップ】Lv.2
マッチ
タオル
歯ブラシ
水2L
おにぎり(各種)
パン
棒付き飴
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となった。
スキルレベルが上がった事に少しテンションが高くなり、二人に教えようと周囲を見れば、二人とも自分のスキルとまだ向き合っているようで、こちらに意識はなかった。
少し寂しく思いつつも、俺だけ他に検証する物もなかったので、もう少し【異世界ショップ】のレベル上げをして時間を潰す。
【異世界ショップ】のレベル1から2になるにはMP100を消費。レベル2~3はMP200、3から4までは300、4から5までは500を消費し、そこまででまだどれも1アイテム銅貨1枚だった。
そしてレベル5になれば大方100均で買えそうな物はなんでも買えるようになった。
今のところ買った個数でレベルが上がるのか、使用したMPによるものなのか、使った金額なのかはまだ検証は必要だが、然程縛りもなく、使い勝手は良さそうなスキルだ。
「うし、大体わかった」
「同じく。ここじゃ試せないのは多かったけど、職業依存によるスキル補正がかなり重要ってのはわかって良かったかも。勇者や賢者、男子高校生ってのは、ゲームで言うところの職業に分類される物だね。僕で言えば、職業が賢者だから、保有スキルの魔力や魔法、魔術に関するもの、耐性ものはほぼカンスト状態だった。【異世界ショップ】は普通の魔法に分類されないのかレベル1スタートだけどね。それと、名前の後ろにあるレベルの他に、職業にもレベルがあったから、職業レベルを上げれば使えるスキルが増やせるかもね」
「なるほど、そういうことか。オレも賢者じゃねぇのに、魔法カンストしてたのは、職業が影響してたのか」
ん?職業レベル?
「俺の職業? はレベルないけど……」
何故俺だけないんだ?
もしやこれ、カンスト状態ってやつか?
…男子高校生カンストってなんだよ。
なんなんだよ!
「……そこはほら、ネタ要員だし」
「なぁ」
「くっ……!」
ちょっと涙が出た。