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029 旅路18 港町での休日3

 


 俺が冒険者ギルドで【聖女の癒し】を使ったその日、俺が寝るまでハルト達は帰らなかった。


 俺もなんか疲れたので部屋でダラダラ過ごし、ハーちゃんとシロネだけで夕食を取った後に就寝となった。




「セージ様、セージ様っ!なんかエライ人来てんで出てくれないッスか?」


 シロネに起こされ、スマホを見ると朝の7時。


 こんな朝っぱらから来客?


 ゾーロさん…ではないよな。

 偉い人って言ってたし。


 起こされたからには仕方ないので、ぐだぐだと起きあがる。


 着替え、しっかりローブまで着こんでから【クリーン】を掛ければ完璧だろう。


 隣を見れば、ハーちゃんも起こされて、シロネに着替えさせられている。


 二人にもまとめて【クリーン】を掛けておいた。



 小ざっぱりしたところで、部屋に備え付けられている応接間まで行くと、そこにはおっさん騎士バールと知らないおっさんと美女がいた。


 知らないおっさんは筋肉質でデカイ。


 美女は10コ上くらいの色気担当秘書って感じ。


 どちらも騎士っぽくはないのでおっさん騎士の仲間ではないだろうな、くらいしかわからない。


「お待たせしました。おはようございます」


 無難な挨拶くらいは俺でも出来る。


「こちらこそ朝から押しかけて申し訳ない」


 おっさん騎士は昨日からこの通り、まともなおっさん騎士に生まれ変わっている。


 いったい彼に何が…俺が原因か?


 まさかな。


 俺がチラリと知らないおっさんと美女を見ると、それに気付いたおっさん騎士は紹介に入った。


「これはこの町の冒険者ギルドのギルドマスター、コヨート。その隣は副ギルドマスター、サリエラだ」


 おおぅ。

 シロネの言う通り、エライっぽいな。


 ギルマスとサブマスが同時にギルドから離れて大丈夫なのかと思うのは俺だけだろうか。


「お初にお目にかかります。ただいまバール様よりご紹介に与りました、シャローロ・ラ・スヴィケ王国、シャローロ・ラ・ナチュピケ支部冒険者ギルドマスターのコヨートでございます」


「お初にお目にかかります。同じくバール様よりご紹介いただきました、シャローロ・ラ・スヴィケ王国、シャローロ・ラ・ナチュピケ支部副冒険者ギルドマスターを務めさせていただいております、サリエラと申します」


 ど、どうすれば…。


 こんな真面目な自己紹介受けたことない。


 俺、なんて返せばいいんだ?!

 こんなとき、肩書欲しいよね。


 男子高校生の聖園清司です、か?


 …めちゃくちゃ弱そうだな。


 無難に名前だけ言っとこう。


「…ご丁寧にどうも。セージです」


 これでいいんだよな?!


 あと何が正解?!


 おとなってどんな挨拶返すの?!

 教えて!賢者!

 教えて!シロネ先生!


 スマホ持ってくればよかった…


「うむ。よし。では早速だが、セージ殿」


 あ、「よし」って言われた。

 よかったんだ。


「はい」


「今からここで冒険者ギルドに登録してもらえないだろうか」


「……はい?」


「昨日、セージ様の回復術のおかげで多くの冒険者、ならびに衛兵、兵士、騎士までもが傷を癒され、命を救われました。大変ありがとうございました」


 俺が疑問に思っていると、サリエラが急に礼を述べてくる。

 今の話の流れで急だなと思ったら、結構話は繋がっていたっぽい。


 コヨートが説明を繋げてくれた。


「バール様よりうかがいました。セージ様は教会にも冒険者ギルドにも属していない、と」


「はい」


「…この国では、どちらかに属していなければ回復術を他者に行使してはならないという決まりがありました。それをバール様の指示のもと、セージ様がどちらの証もなく行使したと言うのも」


「すみません」


「いえ、謝罪すべきは我々の方でございます。バール様のお話では、セージ様はきちんと証が無いのを報告の下、回復術を行使するのを断った、と」


「はい」


「そもそも、この国で回復術師が回復術を行使するのに証が必要な理由はご存じでしょうか」


「いえ。懇意にしている商人よりそのような話を聞いただけで、概要までは聞いていません」


「さようでしたか。…この国…いえ、この大陸では基本、回復術師は教会によって管理されております。そして教会に管理された回復術師は、教会に会費を払い、回復術を行使する許可を得るのです」


 なんか面倒そうな話が始まった。


 ようはたぶん俺達が召喚された国、聖ローザング聖王国が「神の名のもとにー」「聖女聖女」とかいう謎の大義名分のもとに回復術師を仕切っているらしい。


 で、その国は聖女を派遣することでこの大陸ではかなりの権力があるらしく、周辺国も強くは言えないので、おかしな体制がとられているらしい。


 …この先に破たんしか見えないのは俺だけだろうか?


 聖女の派遣の有無はこの大陸にとって結構なことらしく、ハブられるとかなりキツイらしい。


 聖女の作る【聖水】がないと、大地で作物が育たなくなり、さらには人の住む場所にも魔物があふれるようになるんだとか。


 それでこの大陸の国々はあのローザなんとかって国に頭が上がらないとかなんとか。


 授業みたいに淡々と話されるとこう…眠くなってきた。


 こういう「聞く」系のはマモルが適任なんだよなー。


 あんまり難しい事を言われても分からないし、話が長いとBGM化してしまう。

 ヤバいな…。


 で、あのローザなんとか国は聖女派遣を盾に、回復術師を管理するようになり、術費に高額請求するようになる。


 この大陸の他の国は言う通りにしたが、この国は聖女の派遣代を出す代わりに、この国の回復術スキルのある者は冒険者ギルドや、魔術師ギルド登録すれば教会の所属なしに術を行使する事が出来るようにしてくれと嘆願を出し、それが受理された。


 が、聖女の派遣はとても高額なものとなった。


 国の負担は大きなものとなったがこの国が、回復術師が必要な時の個人の負担は少なくなった。


 回復術師方も、冒険者ギルドや魔術師ギルドに所属するだけで、教会への会費等の支払いは無いので助かるっちゃ助かるらしい。


 教会の回復術師は教会の会費があるために高額だが、一応教会の回復術師としての教育があるため、腕はいい。


 しかし冒険者の回復術師は比較的リーズナブルだが、ほぼ独学のスキル行使のため、回復力は教会回復術師に比べると弱い。


 ってことぐらいは聞こえて頭に入ってきた。

 頑張れ、俺!


 ここにマモルがいればあとで俺やハルトにもわかるように簡単に要約してくれるんだけどなぁ。


「といういきさつがあり、国で取り決めた事を破ってまで術を行使させてしまったこと、申し訳ない。が、あの時より少し前、セージ殿は子供らと冒険者ギルドに行っていたはず。そこで登録していた、という事にすればいいのではと思ってな」


 いつの間にか話は結構進んでいたようで、バールがすごいこじつけてきた。


「そこで我々がバール様よりこの案件を預かり、こうして参った次第です」


「ギルマスと副マスの印が押されてたら大丈夫だろ?ってな。処理もこの二人に任せてある。登録したとしても、正規の冒険者のように召集掛けられたり、強制的に依頼受けさせたり、無理な事をさせたり、そんな事にはならないようにする」


 急にバールは表情を崩し、あの適当なおっさん騎士に戻る。


「セージ様の意思に反するようなこちらからの呼びかけは一切しないという、特殊なギルドカードになります」


「それは…大丈夫なのですか?」


「はい。貴族の子弟など、お忍びで登録される方のほとんどがこのような規約で登録して行かれます」


 それならいいのか?

 マモルに確認しないとわかんねぇな。


「後に登録を解除することも出来ますので」


 おぉ。

 ならいいな。たぶん。


「わかりました。ではそのように」


 後でマモルに確認してもらって、ヤバそうなら辞めればいっか。


 ってことで、早速魔道具を渡されて登録となった。


 タブレット端末みたいな魔道具に必要項目が出ている。それをタッチペンみたいなので記入していく。


 書き込んだものを返し、それをギルマスと副マスがチェックし、副マスの美女が何やら呟くと、タブレットっぽい魔道具から、魔法陣が浮かび、そこに金色のカードが。


 あの子供たちが持っていたカードは銅色だったけど、それと似たような物が浮かび上がってきた。


 それを美女が手に取り、俺に手渡し


「こちらに魔力を通してください」


 言われるがままに受け取り、魔力を通す。


 魔力を通すってどんな感じかわからなかったけど、なんとなくできた。


 また美女にそのカードを渡すと、美女とギルマスがタブレットを操作し、カードに何か魔法を掛けてから、また俺の手元にカードが来た。


「これで登録は完了です。セージ様は昨日の昼に冒険者となっております。その後数時間後に、指名依頼を受け、術を行使し、たまたま持ち合わせていた高価なMPポーションを使ってまで献身的に傷付いた者たちの回復を行った。という記録になります」


 ゾーロさんから聞いたことがある。

 MPポーションは貴重だと。


 MPを10パーセント回復出来るものでも銀貨50枚はするそうだ。


 50パーセント回復できるもので金貨3枚。全回復するものでは金貨10枚するらしい。


 

「わかりました」


 そこで話はおわり、冒険者ギルドの人達は帰っていったが、おっさん騎士だけは残った。


「この茶、うまいな。おかわりくれ」


 そう言えば俺の前には無かったが、出て行ったおっさん達と、バールの前には高級そうなカップ&ソーサーが。


 俺は持ってないので、この部屋の備え付けのものだろう。

 でもお茶の匂いは嗅いだことがあるものなので、シロネが出したものだろうな。


 おっさんと美女が出て行ったのと、バールが声を出しておかわりを要求したので、メイドが部屋に入ってもいい感じなんだろう。


 優秀っぽいこの部屋専属のメイドが、バールに紅茶のおかわりと、俺の前に新しく紅茶を出した。


 うん。

 たまにティーショップで嗅ぐ香りだな。


 この世界でここまでいい香りがする紅茶はまだ飲んだことが無い。

 あとなんかちょっとカビ臭かったりしたし。


 カップを持つと熱かったので、様子を見ながらゆっくりと紅茶を飲む。


 やっぱ熱かった。


 寝起きで喉が渇いているのでゴクゴク飲みたいところだが、我慢してちびちび飲む。


「…昨晩、この町の近くで地竜が出てな」


 俺の様子を見ていたバールが急に話し始めた。


 そう言えば、なんであんなに怪我人が出たのか聞いてなかったな。


「……」


 あれだけの怪我人が出ているので、なんて返事を返せばいいかわからなかった。


 へー、そうですか。ってのも、違う気がする。

 けど、俺はそれ以外どんな返事をしていいかわからないので黙るしかない。


「このあたりに…この国に出る魔物ではない。目撃情報もなく、急に出現した。それにかなり興奮している様子だった。昼間ではなく、夜に暴れて森から出た、というのもおかしい。…これで3度目だ」


 地竜とは俺の想像通りのドラゴンなのか、それ以上の恐ろしいものなのかは分からないが、バールの表情や声から言って、ヤバいやつなんだろうなというのは伝わる。


「はじめはサイネラ側の関所町。次はこの国の内陸部の森。そして今回、この町のすぐ近くだ」


 この王都はもちろん、国の要として、多くの騎士や兵がいる。

 しかし、ここは港町でもある。


 この町で一番に脅威になるのは海だ。

 その為海兵を中心とした海専門の兵が多い。


 普通の騎士や兵士もそれなりにいるが、彼らはこの町に多く集まる商人の取り締まりや、ここの町を経由する要人に対する為に配置さている程度で、他は王城を守るためにいる。


 はじめは海に魔物が現れ、漁船が沈没したという通報があり、海軍が動いた。


 それを見計らうようにして、地竜程の強さはないにしても脅威度の高い、オークの群れが森に現れた。


 それを討伐するのに、多くの冒険者や兵が出払ったらしい。


 オークというのは、ゴブリン並みに繁殖力が高く、ゴブリンの数倍は大きくて賢く、強い魔物らしい。


 しかし微妙に頭が悪く、人間と見ればとりあえず攫って繁殖行為を行う。

 男も女も区別がつかず、とりあえず繁殖可能な人間はそのまま繁殖用として生かすが、いつまでも子が出来ない者や活きが悪くなってしまった者は食い殺してしまうとか。


 そして戦闘になればその数を持って戦場を圧倒し、どこまでも追いかけ殺しに掛ってくるとかいう恐ろしい魔物だった。


 なもんで、冒険者ギルドでは速やかなる掃討作戦を実行した。


 どこに隠れていたかわからないほどの大群だったが、それでもじわじわと削ることが出来ていた。


 しかし、なかなかその数は減らなかった。

 倒しても倒してもどこからともなく湧いてきたらしい。


 途中参加となったが、昨日の朝からハルト達が参加したことで、劇的に数を減らすことが出来た。そんな時に地竜が現れ、その場は混乱。


 地竜から逃げ惑っているうちにオークが迫っているのに気付かず、殺されるという悲惨な現場となった。


 夜を徹して動ける者はとにかくオークを倒し、自信のある者は地竜を相手にすることで、明け方には全て倒すことが出来た。


 今はまだ動ける者たちが、生き残ったオークがいないか、更なる脅威が潜んでいないか見回りをしつつ、被害状況の確認もしているそうだ。


 ちなみに、俺が治した人達は、一昨日の夜から昨日の日中オークにボコボコにされた人達らしい。


 それ以降はハルトとマモルが回復魔法を行使しながら戦うという器用な事をしていたおかげで、死人や酷い怪我を負った者以外は助かったとか。


 酷い怪我を負ったとしても日常生活に支障は出るが、生きているので、バールとしては問題ないとしている。


 一応国に所属している者には国から年金を出すような事を言っているから大丈夫なんだろう。


「それにしてもお前達は変わってるな。属性魔法で回復魔法を扱える者達など魔法王国出身の……あぁ、そうか。いや、助かった。本当に。お前達がいなければこの王都はほぼ壊滅していた。まともに機能しなくなった国では同大陸の他国や海へのけん制も厳しく、早々に他国へ落とされていただろう」


 バールはなにか勘違いを始めたらしい。


 俺達が魔法王国というところから来たと思ってるっぽい。


 これは好都合、なのか?



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